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踊り子さんは自信がない②
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「自分で食べられますから、ありがとうございます」
「そう? 吐き気がないようなら、このお茶碗一膳分は胃に収めた方が良い。薬も強いだろうから胃を痛めるといけない」
「分かりました」
俺が食べ始めたのを確認すると、亮司さんは俺が気にしてることに気付いたのか、ベッドルームを出てリビングの窓を少しだけ開けて換気した。
「空気の入れ替えをするから、これを羽織っててね」
そう言って亮司さんが俺に羽織らせたニットのカーディガンから亮司さんの匂いがして、なんだか後ろ抱きにされているようでドキドキする。
ただでさえ、熱で頭がくらくらするのに、嬉しい気遣いだけどこんなのは慣れなくて困ってしまう。
「顔がだいぶ赤いな。また熱が上がるのかな」
「いえ、薬飲んで寝てれば大丈夫なんで」
「そうか」
亮司さんはにっこり微笑むと、風呂の支度をしてくるとバスルームに姿を消した。
そこでようやく緊張から解放された俺は、嬉しい反面、すごく情けなくて、お茶碗の中のお粥をぐるぐると掻き混ぜる。
朦朧として頭が働かなかったけど、意識の奥で、亮司さんにだけは迷惑を掛けちゃいけないと思って連絡するのを踏みとどまったはずだ。
もちろん、店に連絡すれば耳には入るだろうけど、看病しに来て欲しいなんてワガママを言えるはずがなかった。
だから個人的には連絡しなかったのにこのザマだ。
「勇樹、どう? 食べられそうかな」
バスルームから戻った亮司さんが、着替えを取りにベッドルームに来て、俺の手元のお粥を覗き込む。
「はい。昼までヨーグルトしか食べられなかったんで、お茶碗一杯なら、なんとかいけました」
「そうか。じゃあ、薬飲んどこうか」
甲斐甲斐しく俺の世話を焼く亮司さんを見てると、なんだかんだ面倒見がいいのはお兄ちゃんだからなのかなと、ふとどうでも良いことを思った。
「ありがとうございます。でも、ベッド占領しちゃってすみません」
「大丈夫だよ。ほら、あれソファーベッドになるんだよ。寝心地もそんなに悪くないから、気にしなくて良いよ」
視線を移せばテーブルが脇に避けてあって、引き出すタイプのソファーベッドは言うほど寝心地がいい物ではない気がするけど、ここはありがたく言葉に甘えておく。
「片付けまで、本当に色々ありがとうございます」
「良いんだよ。じゃあ俺は風呂に入るけど、気分が悪くなったらそこに袋置いてあるし、頑張ってトイレまで行かなくて大丈夫だからね」
言われた方を見ると、お手製なのか、紙袋の中に白いビニール袋を入れたエチケット袋が枕元に置かれている。
こんなに甘やかされてしまっては、この人と別れるようなことがあった時、俺は立ち直ることが出来るんだろうか。
声が届かなかった嫌な夢を思い出して、言いようのない喪失感に胸が締め付けられる。
「勇樹?」
泣いてる姿を見せる訳にはいかない。
「大丈夫です。お茶碗一杯でも、ちょっと多かったみたいです。横になっときますね」
「そうだね。ゆっくり体を休めるのが大事だからね」
布団に潜った俺の頭を優しく撫でると、亮司さんはそのままその場を離れてバスルームに移動したようだ。
愛してるって二人で思いを確かめ合ったけど、指輪なんかあったからって、壊れる時はきっと一瞬で脆く崩れ去ってしまう。
舞花が亡くなったのとはまた違う、手が届く距離なのに、触れることが許されなくなる恐怖。
亮司さんの立場を考えれば考えるほど、俺なんかじゃなくて、きっと美鶴さんみたいな人がそばに居ることが一番なんじゃないかと思えてくる。
俺はそんな弱腰な自分が嫌で仕方ないのに、現実に屈しそうになるのを止めることが出来なくて、一人きりのベッドの中で静かに、だけど激しく嗚咽した。
「そう? 吐き気がないようなら、このお茶碗一膳分は胃に収めた方が良い。薬も強いだろうから胃を痛めるといけない」
「分かりました」
俺が食べ始めたのを確認すると、亮司さんは俺が気にしてることに気付いたのか、ベッドルームを出てリビングの窓を少しだけ開けて換気した。
「空気の入れ替えをするから、これを羽織っててね」
そう言って亮司さんが俺に羽織らせたニットのカーディガンから亮司さんの匂いがして、なんだか後ろ抱きにされているようでドキドキする。
ただでさえ、熱で頭がくらくらするのに、嬉しい気遣いだけどこんなのは慣れなくて困ってしまう。
「顔がだいぶ赤いな。また熱が上がるのかな」
「いえ、薬飲んで寝てれば大丈夫なんで」
「そうか」
亮司さんはにっこり微笑むと、風呂の支度をしてくるとバスルームに姿を消した。
そこでようやく緊張から解放された俺は、嬉しい反面、すごく情けなくて、お茶碗の中のお粥をぐるぐると掻き混ぜる。
朦朧として頭が働かなかったけど、意識の奥で、亮司さんにだけは迷惑を掛けちゃいけないと思って連絡するのを踏みとどまったはずだ。
もちろん、店に連絡すれば耳には入るだろうけど、看病しに来て欲しいなんてワガママを言えるはずがなかった。
だから個人的には連絡しなかったのにこのザマだ。
「勇樹、どう? 食べられそうかな」
バスルームから戻った亮司さんが、着替えを取りにベッドルームに来て、俺の手元のお粥を覗き込む。
「はい。昼までヨーグルトしか食べられなかったんで、お茶碗一杯なら、なんとかいけました」
「そうか。じゃあ、薬飲んどこうか」
甲斐甲斐しく俺の世話を焼く亮司さんを見てると、なんだかんだ面倒見がいいのはお兄ちゃんだからなのかなと、ふとどうでも良いことを思った。
「ありがとうございます。でも、ベッド占領しちゃってすみません」
「大丈夫だよ。ほら、あれソファーベッドになるんだよ。寝心地もそんなに悪くないから、気にしなくて良いよ」
視線を移せばテーブルが脇に避けてあって、引き出すタイプのソファーベッドは言うほど寝心地がいい物ではない気がするけど、ここはありがたく言葉に甘えておく。
「片付けまで、本当に色々ありがとうございます」
「良いんだよ。じゃあ俺は風呂に入るけど、気分が悪くなったらそこに袋置いてあるし、頑張ってトイレまで行かなくて大丈夫だからね」
言われた方を見ると、お手製なのか、紙袋の中に白いビニール袋を入れたエチケット袋が枕元に置かれている。
こんなに甘やかされてしまっては、この人と別れるようなことがあった時、俺は立ち直ることが出来るんだろうか。
声が届かなかった嫌な夢を思い出して、言いようのない喪失感に胸が締め付けられる。
「勇樹?」
泣いてる姿を見せる訳にはいかない。
「大丈夫です。お茶碗一杯でも、ちょっと多かったみたいです。横になっときますね」
「そうだね。ゆっくり体を休めるのが大事だからね」
布団に潜った俺の頭を優しく撫でると、亮司さんはそのままその場を離れてバスルームに移動したようだ。
愛してるって二人で思いを確かめ合ったけど、指輪なんかあったからって、壊れる時はきっと一瞬で脆く崩れ去ってしまう。
舞花が亡くなったのとはまた違う、手が届く距離なのに、触れることが許されなくなる恐怖。
亮司さんの立場を考えれば考えるほど、俺なんかじゃなくて、きっと美鶴さんみたいな人がそばに居ることが一番なんじゃないかと思えてくる。
俺はそんな弱腰な自分が嫌で仕方ないのに、現実に屈しそうになるのを止めることが出来なくて、一人きりのベッドの中で静かに、だけど激しく嗚咽した。
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