上 下
5 / 47

踊り子さんは恩人を偲ぶ①

しおりを挟む
 馴染みのない霊園で、舞花が好きだったトルコキキョウの花を墓前に飾ると、同じく底なしに好きだったウイスキーの封を開ける。
「二十年ものだぜ? 喉から手が出るだろ」
 持参したグラスに琥珀色のウイスキーを注ぎ入れると、墓前に置いたもう片方のグラスを見つめて献杯する。
 舞花がもうこの世に居ないというのは、正直なところまだ実感のない話で、いつかふらりと現れてバカやってんじゃないわよと頭でも叩かれそうな気さえする。
「勝手に死んでんじゃねえよ……」
 一気に飲み下したウイスキーのせいで、喉の奥からお腹の辺りがカッと熱くなった。
 俺は親も手の付けられないクズで、そんな俺をヒトの道に戻してくれた舞花は家族以上の存在だった。
 もちろん、どんなに愛しく大切だったからって、女性として愛していたワケじゃないし、歳はそう離れてないけど姉というより、母性に近い優しさを感じていたんだと思う。
『兄貴はイイ男でさ。アンタ、会ったら惚れちゃうよ』
 舞花が揶揄うように言っていたのを思い出す。
 実際に亮司さんを初めて見た時、舞花を思い起こさせる僅かな親近感と、大人の男性なのだと感じさせる包容力のようなものに、自分でも嘘だろと思うほど簡単に好意を抱いた。
(だけどさ、舞花。ありゃ完全にヘテロだろ)
 しかも亮司さんは、どうやら俺が舞花と付き合ってたと思ってる節がある。
 当然ながらそんな関係ではなかったし、否定もしたけど、それをどこまで受け入れてるか分からない。
「あれ? ジルか」
 敷石に座り込んで酒を呷ってると、花束を抱えた亮司さんの姿が目に入った。
「お疲れ様です」
「なんだ。舞花のお参りに来てくれてたのか」
「ええ、まあそんなところです」
 立ち上がってズボンを払うと、亮司さんは花が豪華になるなと言いながら、墓前にしゃがみ込んで花を生け直す。
 そして既に消えかけていた線香を手際良く処分すると、新しい線香に火をつけて墓前に備え直して手を合わせた。
「ジルは本当に舞花と仲が良かったんだな」
「どう、なんですかね。ずっと心配ばかり掛けてましたから」
「アイツが他人の面倒を見るなんてね」
「姉御肌で気さくな奴でしたからね」
「俺からすれば、いつまで経っても危なっかしくて頼りない妹だったよ」
 亮司さんはゆっくりと顔を上げて、線香から立ち昇る煙を追うように空を見上げる。
 それは色々なことを思い出してるようにも見えて、お節介だと分かっていても声を掛けずにはいられなかった。
「もしかして、後悔、してますか」
「どうかな。今だから、こうなって初めて生まれた感傷のようなところがあるかな」
「でも舞花は、よく亮司さんの話をしてましたよ」
「アイツが?」
「はい。褒めたり貶したり忙しかったですけど」
「ははは」
「けどそれって、結局のところ嫌いじゃないからなんだと俺は思ってます」
「そうか」
 呟くように答えた亮司さんの背中は、思わず抱きしめたくなるほど儚げで弱々しく見えて、届くことのない手を伸ばそうとして、俺の手は宙を彷徨った。
「ダメだな。湿っぽくなる」
「やっぱり仲が良かったんですね」
「どうだろうな」
 亮司さんは立ち上がると俺を振り返って、良い兄ではなかったかも知れないと困ったような顔をする。
「もっと話がしたかったのかも知れないな」
「手に入らないものは欲しくなりますからね」
「ああ、そうだね」
 それから二人で改めて墓前で手を合わせると、車で来たという亮司さんの好意に甘えて、帰りは車で送ってもらうことになった。
「今日はここまで電車で来たのか」
「そうですね。電車とバスを乗り継いで。俺そういうの好きなんで、街並みとか見てたらあっという間でしたよ」
「へえ。なんか意外だな」
「でしょ」
 どんな印象を持たれてるのか分からないが、しんみりした空気で会話がないよりは全然良い。
 だから多少空回りでも、俺は喋るのをやめずに、運転席で可笑しそうに肩を揺らす亮司さんにたわいない話をし続けて、狭い車内の空気を明るくするように努めた。
 そんな風に話し続けていると、情けないことに俺の腹が鳴った。
「なんだ。飯食べてなかったのか」
「起きて思い付きで墓参りに来たんで、食べるの忘れてました」
「はは、そんなに舞花に会いたかったのか」
「逆に呼ばれたような気がします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

ドMな二階堂先生は踏まれたい

朝陽ヨル
BL
ドS生徒会副会長×ドM教育実習生 R18/鬼畜/年下攻め/敬語攻め/ドM受け/モロ語/愛ある暴力/イラマ/失禁 等 ※エロ重視でほぼ物語性は無いです  ゲイでドMな二階堂は教育実習先で、生徒会副会長の吾妻という理想の塊を発見した。ある日その吾妻に呼ばれて生徒会室へ赴くとーー。  理想のご主人様とドキドキぞくぞくスクールライフ!  『99%興味』のスピンオフ作品です。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

監禁されて愛されて

カイン
BL
美影美羽(みかげみう)はヤクザのトップである美影雷(みかげらい)の恋人らしい、しかし誰も見た事がない。それには雷の監禁が原因だった…そんな2人の日常を覗いて見ましょう〜

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

身体検査が恥ずかしすぎる

Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。 しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。 ※注意:エロです

処理中です...