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16.枯渇による暴走対策②
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「貴様、こんなところでやめろ」
「煽ったのはお前だろ」
「違う違う! 私の魔力で貴様の魔力を濁らせるのが目的だ」
「ああ? なんだよそれ」
ようやく依斗が身体を離すと、ジレーザは乱れた息を整えながら、分かったなら普通にキスをさせろと再び唇を塞いだ。
魔力を混ぜて濁らせることになんの意味があるのか分からないまま、依斗は体の中に流れ込んでくるジレーザの魔力を受け入れて、味気のないキスに顔を顰める。
「終わりだ」
一定量の魔力を流し込むと、ようやく唇を離したジレーザが手の甲で唇を拭き取る。
「なにがしたかったの、ジレちゃん」
「まだ分からんか」
「は?」
「貴様の中に不純物を入れ込むことで、完全な魔力の枯渇を回避させる」
「どういうことだよ」
天幕の中に据えられたテーブルを取り囲む椅子に座ると、分かるように説明してくれと、依斗は頭を掻く。
「聖剣は聖人の魔力を奪ってその力を発揮する。しかし聖剣を扱えるのは聖人だけだ。だから発想を変えてみたという訳だ」
「つまり不純物としてお前の魔力は弾かれて、枯渇に至らない?」
「あくまで仮定だがな。もちろんこの方法でもお前は魔力を吸い上げられて、枯渇による衝動は起こるだろうが、完全に意識まで飛ぶことは抑えられるかも知れない」
「賭みたいなもんだな」
「まあ確率的にそう言わざるを得ないが、試さない選択肢はない」
聖人である依斗はジレーザの魔力を受け付けるが、聖人にしか扱えない、聖人のための媒介である聖剣〈ネグロシス〉の性質を逆手に取った発想だ。
「よし。上手くいったら快楽堕ちさせるまでお前を抱く」
「喧しい。馬鹿か貴様は」
「つまんない反応だな。たまには俺の機嫌取れよ」
「私になんの得がある」
「損得じゃないだろ。モチベーションの問題だよ。可愛く抱いてって言ってみ?」
「……はぁ」
「こらそこ、頭を抱えるんじゃない」
不安や緊張から体を硬くしていたのが嘘のように、依斗はいつもの調子を取り戻して、ふざけたことを口走ってジレーザを揶揄う。
もちろん不安が完全に拭われた訳ではないが、ジレーザの配慮のおかげで依斗の心は奮い立った。
「よっしゃ。じゃあさっさと祓うか、瘴気」
「対策を立てたからといって、気を抜くなよ」
「分かってるって。こいつに魔力を吸い上げられることに変わりはないからな」
依斗は〈ネグロシス〉のグリップに触れると、小さく息を吐いて集中力を高めていく。
そして天幕の外に出ると、視界が開けた村の広場まで足を進め、鞘に収まった〈ネグロシス〉のグリップをしっかりと握り込んで、また深く呼吸を整える。
辺り一帯から人の気配が消えたことを確認すると、グリップを握り込んだ手に力を込め抜刀して一閃、虚空を刻んで辺りの空気を薙ぎ払った。
依斗の魔力を帯びた〈ネグロシス〉の刀身が、津波のように斬撃を放って澱んだ空気を祓い、小さな旋風が天を突くように空気を巻き上げ空に伸びると、巻き上げられた湿気が雨粒になって降り注ぐ。
「はあ、っ、なんとかなったか」
その場に崩れ落ちるように片膝をつくと、体を支えるために突き立てた〈ネグロシス〉が、いまだグリップを介して魔力を吸い出されて、貧血のように強い眩暈が依斗を襲う。
「ヨリト!」
駆け寄ってくるジレーザやリュミナスの姿が見えた時には、既に視界が霞んで、尚且つ体が言いようのない劣情から震え始める。
「……マズイな」
ジレーザの仮説は正しかった。
残った意識の中で〈ネグロシス〉を鞘に押し込めると、肩で息をしながら駆け付ける二人に笑顔を向ける。
だが、憂いた表情で駆け付けた愛しい存在を視界に収めた瞬間、劣情が暴走して依斗はジレーザに襲い掛かるように飛び掛かった。
「煽ったのはお前だろ」
「違う違う! 私の魔力で貴様の魔力を濁らせるのが目的だ」
「ああ? なんだよそれ」
ようやく依斗が身体を離すと、ジレーザは乱れた息を整えながら、分かったなら普通にキスをさせろと再び唇を塞いだ。
魔力を混ぜて濁らせることになんの意味があるのか分からないまま、依斗は体の中に流れ込んでくるジレーザの魔力を受け入れて、味気のないキスに顔を顰める。
「終わりだ」
一定量の魔力を流し込むと、ようやく唇を離したジレーザが手の甲で唇を拭き取る。
「なにがしたかったの、ジレちゃん」
「まだ分からんか」
「は?」
「貴様の中に不純物を入れ込むことで、完全な魔力の枯渇を回避させる」
「どういうことだよ」
天幕の中に据えられたテーブルを取り囲む椅子に座ると、分かるように説明してくれと、依斗は頭を掻く。
「聖剣は聖人の魔力を奪ってその力を発揮する。しかし聖剣を扱えるのは聖人だけだ。だから発想を変えてみたという訳だ」
「つまり不純物としてお前の魔力は弾かれて、枯渇に至らない?」
「あくまで仮定だがな。もちろんこの方法でもお前は魔力を吸い上げられて、枯渇による衝動は起こるだろうが、完全に意識まで飛ぶことは抑えられるかも知れない」
「賭みたいなもんだな」
「まあ確率的にそう言わざるを得ないが、試さない選択肢はない」
聖人である依斗はジレーザの魔力を受け付けるが、聖人にしか扱えない、聖人のための媒介である聖剣〈ネグロシス〉の性質を逆手に取った発想だ。
「よし。上手くいったら快楽堕ちさせるまでお前を抱く」
「喧しい。馬鹿か貴様は」
「つまんない反応だな。たまには俺の機嫌取れよ」
「私になんの得がある」
「損得じゃないだろ。モチベーションの問題だよ。可愛く抱いてって言ってみ?」
「……はぁ」
「こらそこ、頭を抱えるんじゃない」
不安や緊張から体を硬くしていたのが嘘のように、依斗はいつもの調子を取り戻して、ふざけたことを口走ってジレーザを揶揄う。
もちろん不安が完全に拭われた訳ではないが、ジレーザの配慮のおかげで依斗の心は奮い立った。
「よっしゃ。じゃあさっさと祓うか、瘴気」
「対策を立てたからといって、気を抜くなよ」
「分かってるって。こいつに魔力を吸い上げられることに変わりはないからな」
依斗は〈ネグロシス〉のグリップに触れると、小さく息を吐いて集中力を高めていく。
そして天幕の外に出ると、視界が開けた村の広場まで足を進め、鞘に収まった〈ネグロシス〉のグリップをしっかりと握り込んで、また深く呼吸を整える。
辺り一帯から人の気配が消えたことを確認すると、グリップを握り込んだ手に力を込め抜刀して一閃、虚空を刻んで辺りの空気を薙ぎ払った。
依斗の魔力を帯びた〈ネグロシス〉の刀身が、津波のように斬撃を放って澱んだ空気を祓い、小さな旋風が天を突くように空気を巻き上げ空に伸びると、巻き上げられた湿気が雨粒になって降り注ぐ。
「はあ、っ、なんとかなったか」
その場に崩れ落ちるように片膝をつくと、体を支えるために突き立てた〈ネグロシス〉が、いまだグリップを介して魔力を吸い出されて、貧血のように強い眩暈が依斗を襲う。
「ヨリト!」
駆け寄ってくるジレーザやリュミナスの姿が見えた時には、既に視界が霞んで、尚且つ体が言いようのない劣情から震え始める。
「……マズイな」
ジレーザの仮説は正しかった。
残った意識の中で〈ネグロシス〉を鞘に押し込めると、肩で息をしながら駆け付ける二人に笑顔を向ける。
だが、憂いた表情で駆け付けた愛しい存在を視界に収めた瞬間、劣情が暴走して依斗はジレーザに襲い掛かるように飛び掛かった。
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