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8.瘴気発生
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依斗とジレーザが、聖人にまつわる禁書をおおまかに解読してから三日経った今日、それは突然起こった。
「おい、どうなってんだよ」
エントリノ騎士団の先発隊が、瘴気が確認された東の森に出向いた報せを受けたのは今朝。
「伝令によれば、騎士団の先発隊は東の森に現れた魔獣の群れによって壊滅状態、敗走に陥ったとのことです」
「魔獣の群れって、しかも先発隊が壊滅?」
真昼である十五時を過ぎ、昼食を取るのも気もそぞろな中、夕方になるにつれて依斗の周りがバタバタと慌ただしくなる。
そして二十時を回ったころになって、ようやくジレーザが部屋に顔を出し、事態のあらましを確認することが出来て今に至る。
「帰還した騎士団員は、現在治癒を施し医務棟にて待機しております」
「待機って、また出動させるのかよ」
「それが彼らの責務ですので」
「そりゃ仕事だろうけどさ。それより負傷者だけだったのか」
「はい、重症者は出ましたが死者は出ておりません。ヨリト様、これは明らかに厄災の始まりです」
「そうは言っても、俺まだ聖女が使う浄化魔法とか習ってないぞ。どうすんだよ」
淡々と答えるジレーザに、状況が分かってるのかと依斗は身を乗り出して興奮気味に声を荒げる。
「しかし直ちに、聖人であらせられるヨリト様のお力が必要です」
「ジレーザ。お前それ、分かって言ってるのか」
聖騎士リュミナスを擁するエントリノ騎士団の、剣技と魔法攻撃を以ってしても歯が立たない相手だ。
依斗が如何に膨大な魔力を有していても、肝心な浄化魔法についてはなんの知識もなく、ましてや扱えるかどうかも分からない。
そもそも魔獣が瘴気から生み出されるというのであれば、聖女の浄化で根源を叩くか、あるいは依斗が持つ聖人の力、聖剣〈ネグロシス〉で薙ぎ払うしかない。
つまりジレーザは先日の言い分を覆して、依斗に聖剣を振るえと言っているのだ。
「充分に心得ております」
「そうか。分かっててそれを望むんだな」
依斗は確認するように呟くと、ジレーザに話の続きを促す。
「それで、俺にどうしろって?」
「禁書によれば、聖剣〈ネグロシス〉を一度使用した程度では、あの未曾有の事態には陥らないはずです。かつての聖人様も、邪欲を抑え込まれたと記されておりました」
「邪欲って、ムラムラしただけだろ」
「邪欲だの発情だの、そのようなことは今はどうでも宜しい。問答をしている場合では御座いません」
「発情ってお前、相手は人間だぞ。ったく。お前が使えって言ったんだからな、なんかあれば責任取れよ、ジレーザ」
「心得ております」
喧嘩を買うような勢いで頷くジレーザに、依斗はひどく痛み始めた頭を抱えると、仕方がないと溜め息を吐く。
それから慌ただしく身支度を整えると、東の森の状況説明のために部屋を訪れた、聖騎士リュミナスと合流すると、被害状況を確認する。
秋成とは別人だと分かっているが、彼に似たリュミナスがそばに居るだけで、依斗の心は落ち着きを取り戻すほどの効果がある。
禁書によれば聖人の魔力を以て聖剣で一振り薙ぎ払うだけで、瘴気は祓われ混沌は鎮まると書かれていた。
どれだけの魔力を使い、それがどんな作用をもたらすか分からないが、今すぐにでも浄化と同等の効果をもたらさなければ被害が拡大してしまうだろう。
「んじゃ、行こうか」
慣れない鎧を身に纏い、ジレーザとリュミナスを交互に見つめると、依斗は大きく深呼吸して重たくなった足取りで、その一歩を踏み出した。
「おい、どうなってんだよ」
エントリノ騎士団の先発隊が、瘴気が確認された東の森に出向いた報せを受けたのは今朝。
「伝令によれば、騎士団の先発隊は東の森に現れた魔獣の群れによって壊滅状態、敗走に陥ったとのことです」
「魔獣の群れって、しかも先発隊が壊滅?」
真昼である十五時を過ぎ、昼食を取るのも気もそぞろな中、夕方になるにつれて依斗の周りがバタバタと慌ただしくなる。
そして二十時を回ったころになって、ようやくジレーザが部屋に顔を出し、事態のあらましを確認することが出来て今に至る。
「帰還した騎士団員は、現在治癒を施し医務棟にて待機しております」
「待機って、また出動させるのかよ」
「それが彼らの責務ですので」
「そりゃ仕事だろうけどさ。それより負傷者だけだったのか」
「はい、重症者は出ましたが死者は出ておりません。ヨリト様、これは明らかに厄災の始まりです」
「そうは言っても、俺まだ聖女が使う浄化魔法とか習ってないぞ。どうすんだよ」
淡々と答えるジレーザに、状況が分かってるのかと依斗は身を乗り出して興奮気味に声を荒げる。
「しかし直ちに、聖人であらせられるヨリト様のお力が必要です」
「ジレーザ。お前それ、分かって言ってるのか」
聖騎士リュミナスを擁するエントリノ騎士団の、剣技と魔法攻撃を以ってしても歯が立たない相手だ。
依斗が如何に膨大な魔力を有していても、肝心な浄化魔法についてはなんの知識もなく、ましてや扱えるかどうかも分からない。
そもそも魔獣が瘴気から生み出されるというのであれば、聖女の浄化で根源を叩くか、あるいは依斗が持つ聖人の力、聖剣〈ネグロシス〉で薙ぎ払うしかない。
つまりジレーザは先日の言い分を覆して、依斗に聖剣を振るえと言っているのだ。
「充分に心得ております」
「そうか。分かっててそれを望むんだな」
依斗は確認するように呟くと、ジレーザに話の続きを促す。
「それで、俺にどうしろって?」
「禁書によれば、聖剣〈ネグロシス〉を一度使用した程度では、あの未曾有の事態には陥らないはずです。かつての聖人様も、邪欲を抑え込まれたと記されておりました」
「邪欲って、ムラムラしただけだろ」
「邪欲だの発情だの、そのようなことは今はどうでも宜しい。問答をしている場合では御座いません」
「発情ってお前、相手は人間だぞ。ったく。お前が使えって言ったんだからな、なんかあれば責任取れよ、ジレーザ」
「心得ております」
喧嘩を買うような勢いで頷くジレーザに、依斗はひどく痛み始めた頭を抱えると、仕方がないと溜め息を吐く。
それから慌ただしく身支度を整えると、東の森の状況説明のために部屋を訪れた、聖騎士リュミナスと合流すると、被害状況を確認する。
秋成とは別人だと分かっているが、彼に似たリュミナスがそばに居るだけで、依斗の心は落ち着きを取り戻すほどの効果がある。
禁書によれば聖人の魔力を以て聖剣で一振り薙ぎ払うだけで、瘴気は祓われ混沌は鎮まると書かれていた。
どれだけの魔力を使い、それがどんな作用をもたらすか分からないが、今すぐにでも浄化と同等の効果をもたらさなければ被害が拡大してしまうだろう。
「んじゃ、行こうか」
慣れない鎧を身に纏い、ジレーザとリュミナスを交互に見つめると、依斗は大きく深呼吸して重たくなった足取りで、その一歩を踏み出した。
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