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7.聖人について④

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 しかし禁書になるだけあって、聖人を召喚すればそれなりの代償を払うことになるのは間違いない事実だ。
「じゃあ聖剣を使わない方法を調べるか」
 怒りで肩を震わせるジレーザに、少し落ち着くように声を掛けて、依斗は先に解読に取り掛かっていた二冊を手に取る。
「そもそも、聖女の力では防ぎようがない瘴気が溢れるか、もしくは祓うだけでは対抗し得ない魔物が呼び覚まされる。それが聖人が召喚される理由だろ?」
 依斗が本のページをめくりながら話し掛けると、ジレーザは隣で怒りで震える手を押さえ、ようやくなんとか呼吸を整えている。
「禁書に書かれていた内容をなぞりたくないなら、聖人の力を集約した聖剣を使わずに、魔法で魔物を倒せば性欲が爆発することもないだろ」
「理論上はそうなのかも知れませんが」
「魔物が呼び覚まされる可能性が高いから、聖人の俺が召喚されたんだ。だったら、代償となる被害者を出さないために、策は講じるべきだろ」
「ですが媒介もなく、そんなとてつもない相手と対峙するなど。救世主の召喚が行えるからといって、ヨリト様の御身はお一つなのですよ」
「だったら聖剣を使うか?」
「それは」
 聖剣を使えば、周りを巻き込んで大きな代償を払うことになり、聖剣を使わずに魔物と戦うことになれば、結果はどう転ぶか分からない。
 しかも禁書によると、魔物との戦闘が一度で終結したような文面は残されていない。
 ジレーザもそれは理解しているからこそ、倫理観と優先事項の狭間で心が揺れ動くのだろう。
「俺に負担が掛かるっていうなら、元の世界にも帰してもらえずに、魔術だ剣術だと既に聖人として重たいほどに押し付けられてるぞ」
「では魔力と剣技で魔物に立ち向かうと仰るのですか」
「お前なあ。聖剣を使うなって絶叫したのお前だろ」
「ならば聖剣を使うことで生まれる不道徳な行為を、受け入れて生け贄を差し出せと仰るのですか」
「いや、俺も聖人だけど、前に呼び出されたヤツとは同じじゃないし、結果はどう転ぶか分からないって話。ムラムラするだけで、何千もの女の子を喰い散らかさないかも知れない」
「喰い……」
「ああ、言葉が悪かったか」
 結局のところ、依斗が聖剣を使ってみなければ、同等のことが起こるかどうかの判断を下すのは難しい。
 それであれば、多少体に負担が掛かるとしても、聖剣を使わずに厄災と呼ばれる魔物を対峙する方法を検討する方が建設的だ。
「もちろん、魔法で対抗できなかったら、聖剣を使わないとダメだろうし、代償についてもっと調べる必要はあるだろうな」
「しかし現存する聖人についての書物はこの三つ。この中に答えがあるのでしょうか」
「さあな。まあでも、具体的な被害が出るまでまだ時間はありそうだし、徹底的に調べるしかないだろ」
 そうだ。
 禁書に書かれた聖人が、元々絶倫だった可能性だってあるはずだと依斗は前向きに考える。
 だがこの僅か数日後、依斗は聖剣を握らざる得なくなることを、今はまだ知る由もなかった。
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