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7.聖人について①

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 禁書庫での禁書の閲覧許可が下りて十日、つまり一節が経過したが、魔力や魔法理解と剣術の合間での禁書の解読にはやはり莫大な時間を要し、いまだ有益な情報は掴めていない。
 この禁書庫に聖人に関する禁書は三冊あり、そのうち二冊は聖人の功績に触れており、どうやら聖女とは別の目的のために召喚されたことは間違いないらしい。
「瘴気に関する記述がどこにも出てこないな」
「そうですね。残りの一冊にあるいは記述があるかも知れません」
「まあ、そう考えるのが妥当だよな。だけどこんな程度の内容なのに、なんで禁書扱いになってんだよ」
 依斗は走り書きで残したメモを手に取ると、聖人が成した偉業を目で追うが、これらのなにが、一体どういう理由で禁書扱いに至るのかまでは把握できずき頭を抱える。
 古語で書かれている書物の解読ともなればそれなりに時間を要したが、いまだこの二冊が禁書たる所以にまでは至らずに、依斗だけでなくジレーザも頭を抱えていた。
「この二冊の解読も全部とはいかないけど、とりあえず三冊目に取り掛かった方が早いな」
 依斗はジレーザに解読の進んでいる二冊を任せると、残りの一冊に目を向けた。
「申し訳御座いません。本来であれば私共で解読作業を進め、補助を担っていただくはずでしたところ、ヨリト様に率先して取り組んでいただくことになってしまい」
「今更だろ。お前が想定してたより、古代語の文体が厄介だし。まあ、俺はこういうの嫌いじゃないし、俺自身に関わることだから気を遣ってもらうことじゃないよ」
「ヨリト様、お心遣い痛み入ります」
「固いな。相変わらず」
 依斗は苦笑すると手元の本を広げて文字を追い始めた。
 ジレーザとこれまでに解読してきた二冊と異なり、やはりこの本が当たりだったのだろう。
 冒頭から聖人がなんのために召喚され、なにをするべき存在なのか、そして聖剣がどのように使われるべく作られたのかが記されている。
「古典は苦手だったんだよな」
 依斗は人知れず愚痴をこぼすと、ジレーザが持ち込んだ辞典で意味を拾い上げ、用意した紙に訳した文面を書き込みながら古びた本を読み進めていく。
 時は千年以上前に遡り、最古にして最初の聖人が召喚されたのは、瘴気と考えられる恐怖から禍いを祓うために、救世主を召喚したのが始まりと書かれている。
 剣、抑え込む、力と続く単語から、聖人は人智を超えた力を持つが、その膨大な力を意のままに制御するために、聖剣〈ネグロシス〉が媒介として作られた背景があるようだ。
「ん? これどういう意味だ」
 依斗は読み進めていた手を止めて、そこに書き記された文章を見つめて首を捻る。
 対価、乙女、純潔。
 唐突に現れたこの単語が前後の文章と噛み合わずに、依斗は辞典と本を見比べて、誤訳をしていないか何度も確認する。
「ジレーザ、ちょっとこっち手伝えるか」
「如何なさいましたか」
「聖人専用の媒介が聖剣らしいんだけどさ、その後突然この単語が並んでて」
「交換、女、最初の、でしょうか。これは一体」
「そうだろ? 前後の文面から、対価とか純潔の乙女って解釈してみたんだけど、お前はその意味ならどういう文面だと思う」
「そうですね、聖人や聖剣にまつわることですので、対価と捉えるなら、力の制御にそれらが関わるということでしょうか」
「剣、抑え込む、力。交換、女、最初。うぅん、ちょっと行き詰まってきたな」
「今日のところはここまでに致しますか」
「急いで解読したいけど、ちょっと頭が凝り固まってきた感じはするかな。このままいくと、間違った解釈しそうで。お前の方はなにか目ぼしい情報はあったか」
「これといった記述は見当たりませんでしたが、数箇所意味合いが分かりかねる部分が御座いました」
「そっちもか」
 ジレーザはしおりを挟んだページを開くと、ここですと文字を指でなぞる。
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