上 下
12 / 26
▶︎アン失踪事件

第11話 時空の扉と鍵

しおりを挟む
 ◇


「なんとなくにゃすけの言ってることはわかったけど、でも、オレが望んでるのはオジョーを探すことなんだけどな。時空超えたところで……アッ、そうか!」

「気づいたか?」

「おう! この扉で過去に飛んで、オジョーに何があったのか見てくりゃいいってことだよな?」

「うぬ。人の子のトラブルに介入できない吾輩がしてやれるのは、今はこれぐらいしかないにゃ。あとは自分で考えて、自分で集めた神商品を使ってなんとかするにゃ」

「にゃすけ……」

 言いながら顔をこするように撫でているにゃすけ。

 なんだかんだいいつつも結局はこうやってオレを助けてくれるにゃすけに、オレは感極まって飛びついた。

「にゃすけーーーーーー!!」

「ぶにゃっっ」

「サンキューにゃすけ、マジでありがとう! マジで愛してるゥ! 無事オジョーが見つかったら好きなだけカルメ食わせてやっからな!」

「ぬぐぐ苦しいにゃ! ほれ、これやるから早く離すにゃ!」

 頬擦りしながら感謝の気持ちを伝えると、にゃすけは顔を真っ赤にして短い腕をブンブンと振り、気恥ずかしそうに解放を要求してきた。

 相変わらず恥ずかしがり屋だなあと思いながらもモフモフしたにゃすけの体を解放すると、ツイ、と、首にかけるだけの長さがある紐のついた、金色の古びたカギを渡された。

 小さいけど割とずっしり重い。手のひらサイズのカギだ。

「カギきた!」

「うむ。認められた血筋のものにだけ渡すことが許されている、由緒正しき蔵のカギにゃ。今、そのカギを持っているのはおぬしとふしぎ堂の現店主、ミチだけにゃ。それがあればこの蔵の扉は全て・・開けられる」

「……!」

 今、目の前に扉は一つしかないのに『全て』ってどういうことだ? この蔵の入り口の扉も含めてってことか? と、ささやかな疑問を抱きつつも、まあそんな細かいことはどうでもいっかと割り切って、「おう!」と、勢いよく頷いて見せる。

 するとにゃすけは、小さく相槌を打ってボソボソと続けた。

「本当はおぬしが悪さをしない年齢まで隠しておきたいところにゃったが……おぬしはいつまで経っても変わらん気がするし、まあ、おぬしの祖父であり前店主・ガラクも十二で同じようにカギを受け継いでいるからの。今が頃合いってことにしといてやるにゃ」

 じいちゃんの名前に反応するように顔をあげるオレ。

 オレのじいちゃんであり、ばあちゃんの旦那でもあり、ふしぎ堂の元店主でもあるガラクじいちゃんは、オレが幼稚園の時に謎の失踪をして以来、今も足取りがつかめずにいる。

 ミチばあちゃんやにゃすけはじいちゃんの帰りをずっと待っているし、オレの父ちゃんと母ちゃんも、そしてもちろん、じいちゃんが大好きだったオレも、ずっとずっとじいちゃんの帰りを待っている。

 オレは、五歳の時にじいちゃんから譲り受けた『ヒミツのカバン』をギュッと握り締め、誓いを立てるように唇をキュッと引き結ぶ。そして気合いを入れるように、大切な鍵を首にかけた。

「大丈夫。オレ、絶対悪いことしない。誓うよ!」

「……ふふ。さあて、どうだかにゃ。まあ、吾輩は気まぐれな招き猫。たまにはおぬしの口八丁な信念を信じてやることにするにゃ」

 そう言って近くにあった赤い座布団に飛び乗り、くるんと丸くなるにゃすけ。

 どうやらそこで、オレの帰りを待っていてくれるつもりらしい。

 気合を入れて扉前まで移動すると、にゃすけは念を押すように言う。

「南京錠の数字を回して行きたい時間に設定し、鍵を差し込んで開錠するにゃ。そうして扉を開けた先には、指定した日時の世界が広がっている。戻る時は飛んだ先の世界にある、この蔵の扉から戻ってくればそれでいい。鍵をなくすと元の世界に戻れなくなるから、くれぐれもそこだけは気をつけるんにゃぞ」

「わかった」

 オレは今一度頷き、にゃすけの案内通りに時間を設定する。

 いつの時間に飛べばいいかなんてわからないから、オレが指定したのは今日の下校時刻だった十五時半――今が十六時四十五分だから約一時間半前となる、十五時十五分をセットした。

 カチっと音がしたのを確認してから、鍵を差し込んで回す。

 ガチャりと錆びついた音と共に南京錠がパアッと光ったかと思えば、南京錠が消え、扉にオレが指定した日時の刻印がぼんやりと浮かび上がった。

 時空を超える準備が整ったらしい。

「行ってこい」

「おう!」

 にゃすけの声に背を押されるよう、オレは扉を開ける。

 そして……一時間半前の蔵へ、オレは足を踏み入れたのだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

ゆめじゃないゆめ [連載版]

itaeya
児童書・童話
夢か幻か-大人も子供も引き込まれる、不思議な森へようこそ。 主人公のさとちゃんが歩き進む森。 そこで待ち受けていたのは、友達のまこちゃんや大好きなお母さんとの出会い。 そして、最後に待ち受けていたのは…。 さとちゃんが居る世界は一体、夢なのか現実なのか。 それぞれがさとちゃんに伝えるメッセージは、大人にも子供にもきっと大切なもの。 温かなものが心に残る一冊です。 ★絵本ひろばにて公開中の絵本"ゆめじゃないゆめ"の連載版です。 https://ehon.alphapolis.co.jp/content/detail/345

首を切り落とせ

大門美博
経済・企業
日本一のメガバンクで世界でも有数の銀行である川菱東海銀行に勤める山本優輝が、派閥争いや個々の役員たちの思惑、旧財閥の闇に立ち向かう! 第一章から第七章まで書く予定です。 惨虐描写はございません 基本的に一週間に一回ほどの投稿をします。 この小説に登場する人物、団体は現実のものとは関係ありません。

人食い神社と新聞部

西羽咲 花月
児童書・童話
これは新聞部にいた女子生徒が残した記録をまとめたものである 我々はまだ彼女の行方を探している。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

処理中です...