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▶︎アン失踪事件
第11話 時空の扉と鍵
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◇
「なんとなくにゃすけの言ってることはわかったけど、でも、オレが望んでるのはオジョーを探すことなんだけどな。時空超えたところで……アッ、そうか!」
「気づいたか?」
「おう! この扉で過去に飛んで、オジョーに何があったのか見てくりゃいいってことだよな?」
「うぬ。人の子のトラブルに介入できない吾輩がしてやれるのは、今はこれぐらいしかないにゃ。あとは自分で考えて、自分で集めた神商品を使ってなんとかするにゃ」
「にゃすけ……」
言いながら顔をこするように撫でているにゃすけ。
なんだかんだいいつつも結局はこうやってオレを助けてくれるにゃすけに、オレは感極まって飛びついた。
「にゃすけーーーーーー!!」
「ぶにゃっっ」
「サンキューにゃすけ、マジでありがとう! マジで愛してるゥ! 無事オジョーが見つかったら好きなだけカルメ食わせてやっからな!」
「ぬぐぐ苦しいにゃ! ほれ、これやるから早く離すにゃ!」
頬擦りしながら感謝の気持ちを伝えると、にゃすけは顔を真っ赤にして短い腕をブンブンと振り、気恥ずかしそうに解放を要求してきた。
相変わらず恥ずかしがり屋だなあと思いながらもモフモフしたにゃすけの体を解放すると、ツイ、と、首にかけるだけの長さがある紐のついた、金色の古びたカギを渡された。
小さいけど割とずっしり重い。手のひらサイズのカギだ。
「カギきた!」
「うむ。認められた血筋のものにだけ渡すことが許されている、由緒正しき蔵のカギにゃ。今、そのカギを持っているのはおぬしとふしぎ堂の現店主、ミチだけにゃ。それがあればこの蔵の扉は全て開けられる」
「……!」
今、目の前に扉は一つしかないのに『全て』ってどういうことだ? この蔵の入り口の扉も含めてってことか? と、ささやかな疑問を抱きつつも、まあそんな細かいことはどうでもいっかと割り切って、「おう!」と、勢いよく頷いて見せる。
するとにゃすけは、小さく相槌を打ってボソボソと続けた。
「本当はおぬしが悪さをしない年齢まで隠しておきたいところにゃったが……おぬしはいつまで経っても変わらん気がするし、まあ、おぬしの祖父であり前店主・ガラクも十二で同じようにカギを受け継いでいるからの。今が頃合いってことにしといてやるにゃ」
じいちゃんの名前に反応するように顔をあげるオレ。
オレのじいちゃんであり、ばあちゃんの旦那でもあり、ふしぎ堂の元店主でもあるガラクじいちゃんは、オレが幼稚園の時に謎の失踪をして以来、今も足取りがつかめずにいる。
ミチばあちゃんやにゃすけはじいちゃんの帰りをずっと待っているし、オレの父ちゃんと母ちゃんも、そしてもちろん、じいちゃんが大好きだったオレも、ずっとずっとじいちゃんの帰りを待っている。
オレは、五歳の時にじいちゃんから譲り受けた『ヒミツのカバン』をギュッと握り締め、誓いを立てるように唇をキュッと引き結ぶ。そして気合いを入れるように、大切な鍵を首にかけた。
「大丈夫。オレ、絶対悪いことしない。誓うよ!」
「……ふふ。さあて、どうだかにゃ。まあ、吾輩は気まぐれな招き猫。たまにはおぬしの口八丁な信念を信じてやることにするにゃ」
そう言って近くにあった赤い座布団に飛び乗り、くるんと丸くなるにゃすけ。
どうやらそこで、オレの帰りを待っていてくれるつもりらしい。
気合を入れて扉前まで移動すると、にゃすけは念を押すように言う。
「南京錠の数字を回して行きたい時間に設定し、鍵を差し込んで開錠するにゃ。そうして扉を開けた先には、指定した日時の世界が広がっている。戻る時は飛んだ先の世界にある、この蔵の扉から戻ってくればそれでいい。鍵をなくすと元の世界に戻れなくなるから、くれぐれもそこだけは気をつけるんにゃぞ」
「わかった」
オレは今一度頷き、にゃすけの案内通りに時間を設定する。
いつの時間に飛べばいいかなんてわからないから、オレが指定したのは今日の下校時刻だった十五時半――今が十六時四十五分だから約一時間半前となる、十五時十五分をセットした。
カチっと音がしたのを確認してから、鍵を差し込んで回す。
ガチャりと錆びついた音と共に南京錠がパアッと光ったかと思えば、南京錠が消え、扉にオレが指定した日時の刻印がぼんやりと浮かび上がった。
時空を超える準備が整ったらしい。
「行ってこい」
「おう!」
にゃすけの声に背を押されるよう、オレは扉を開ける。
そして……一時間半前の蔵へ、オレは足を踏み入れたのだった。
「なんとなくにゃすけの言ってることはわかったけど、でも、オレが望んでるのはオジョーを探すことなんだけどな。時空超えたところで……アッ、そうか!」
「気づいたか?」
「おう! この扉で過去に飛んで、オジョーに何があったのか見てくりゃいいってことだよな?」
「うぬ。人の子のトラブルに介入できない吾輩がしてやれるのは、今はこれぐらいしかないにゃ。あとは自分で考えて、自分で集めた神商品を使ってなんとかするにゃ」
「にゃすけ……」
言いながら顔をこするように撫でているにゃすけ。
なんだかんだいいつつも結局はこうやってオレを助けてくれるにゃすけに、オレは感極まって飛びついた。
「にゃすけーーーーーー!!」
「ぶにゃっっ」
「サンキューにゃすけ、マジでありがとう! マジで愛してるゥ! 無事オジョーが見つかったら好きなだけカルメ食わせてやっからな!」
「ぬぐぐ苦しいにゃ! ほれ、これやるから早く離すにゃ!」
頬擦りしながら感謝の気持ちを伝えると、にゃすけは顔を真っ赤にして短い腕をブンブンと振り、気恥ずかしそうに解放を要求してきた。
相変わらず恥ずかしがり屋だなあと思いながらもモフモフしたにゃすけの体を解放すると、ツイ、と、首にかけるだけの長さがある紐のついた、金色の古びたカギを渡された。
小さいけど割とずっしり重い。手のひらサイズのカギだ。
「カギきた!」
「うむ。認められた血筋のものにだけ渡すことが許されている、由緒正しき蔵のカギにゃ。今、そのカギを持っているのはおぬしとふしぎ堂の現店主、ミチだけにゃ。それがあればこの蔵の扉は全て開けられる」
「……!」
今、目の前に扉は一つしかないのに『全て』ってどういうことだ? この蔵の入り口の扉も含めてってことか? と、ささやかな疑問を抱きつつも、まあそんな細かいことはどうでもいっかと割り切って、「おう!」と、勢いよく頷いて見せる。
するとにゃすけは、小さく相槌を打ってボソボソと続けた。
「本当はおぬしが悪さをしない年齢まで隠しておきたいところにゃったが……おぬしはいつまで経っても変わらん気がするし、まあ、おぬしの祖父であり前店主・ガラクも十二で同じようにカギを受け継いでいるからの。今が頃合いってことにしといてやるにゃ」
じいちゃんの名前に反応するように顔をあげるオレ。
オレのじいちゃんであり、ばあちゃんの旦那でもあり、ふしぎ堂の元店主でもあるガラクじいちゃんは、オレが幼稚園の時に謎の失踪をして以来、今も足取りがつかめずにいる。
ミチばあちゃんやにゃすけはじいちゃんの帰りをずっと待っているし、オレの父ちゃんと母ちゃんも、そしてもちろん、じいちゃんが大好きだったオレも、ずっとずっとじいちゃんの帰りを待っている。
オレは、五歳の時にじいちゃんから譲り受けた『ヒミツのカバン』をギュッと握り締め、誓いを立てるように唇をキュッと引き結ぶ。そして気合いを入れるように、大切な鍵を首にかけた。
「大丈夫。オレ、絶対悪いことしない。誓うよ!」
「……ふふ。さあて、どうだかにゃ。まあ、吾輩は気まぐれな招き猫。たまにはおぬしの口八丁な信念を信じてやることにするにゃ」
そう言って近くにあった赤い座布団に飛び乗り、くるんと丸くなるにゃすけ。
どうやらそこで、オレの帰りを待っていてくれるつもりらしい。
気合を入れて扉前まで移動すると、にゃすけは念を押すように言う。
「南京錠の数字を回して行きたい時間に設定し、鍵を差し込んで開錠するにゃ。そうして扉を開けた先には、指定した日時の世界が広がっている。戻る時は飛んだ先の世界にある、この蔵の扉から戻ってくればそれでいい。鍵をなくすと元の世界に戻れなくなるから、くれぐれもそこだけは気をつけるんにゃぞ」
「わかった」
オレは今一度頷き、にゃすけの案内通りに時間を設定する。
いつの時間に飛べばいいかなんてわからないから、オレが指定したのは今日の下校時刻だった十五時半――今が十六時四十五分だから約一時間半前となる、十五時十五分をセットした。
カチっと音がしたのを確認してから、鍵を差し込んで回す。
ガチャりと錆びついた音と共に南京錠がパアッと光ったかと思えば、南京錠が消え、扉にオレが指定した日時の刻印がぼんやりと浮かび上がった。
時空を超える準備が整ったらしい。
「行ってこい」
「おう!」
にゃすけの声に背を押されるよう、オレは扉を開ける。
そして……一時間半前の蔵へ、オレは足を踏み入れたのだった。
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