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61.平等に

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「大丈夫だ。ちゃんと対策はとるし、今回の事でアキがΩだと裏稼業連中にも知れ渡っただろうから、もう誰も依頼を受けつけないし、アキを傷つけることも出来ない。だからアキは何も心配しなくてもいい」
「悠……」
 
 力強く断言された。
 不安要素が残っている場合は、絶対に確約じみた言葉を使わない奴だって知っている。
 だから悠が大丈夫だって言うなら、きっと本当に何か対策がされているんだろう。
 なら本当に、俺が心配する必要はねぇのかも。
 
「つーか、誰がΩだよ。俺はβだっつーの」
 
 思わず安心して、軽口まで叩いちまう。
 たまにエロ王子になるけど、こういう時の悠は信じてもいい。
 
「その方が守るには都合がいいんだ。しばらくは我慢してくれ」
「分かってるって。姉ちゃんを守るためにも、Ωか?って聞かれた時には否定しないでおく」
「あぁ。そうしてもらえるだけでいい。オレの庇護下に入っていれば安全だから」
「庇護下か……」
「──オレだと不満?」 
 
 俺の微妙な反応に、悠の瞳が陰りを帯びる。
 おっとまずい、と思って慌てて否定する。
 
「あ、違う違う。守ろうとしてくれてんのは分かってるし不満を言える立場じゃねえのは知ってんだけどさ、俺も男だしお前とタメじゃん。お前の事は純粋に友達として好きだし一方的に守られるよりも、もっと対等な関係でいたかったんだよ」
 
 ごめんごめんって感じで悠の真似をして、俺も悠のホッペを両手でスリスリと撫でとく。
 あ、ほっぺた柔らけ~。意外。
 軽くムニッと摘んでみたけど、結構のびる。
 
「何をしているんだ?」
 
 呆れたような声に『あ…』と夢中になっていた手を離そうとしたけど、その前に悠の手が上から被さってくる。
 目を瞑りながら俺の手の感触を確かめるように、悠の口元が緩んだ。
 
「庇護下とは言ったけど、むしろオレよりもアキの方に決定権があるってことを忘れるな。オレはただ、アキに選んでもらえるように──相応しい相手だって思ってもらえるように、必死で自分の価値を示そううとしているだけなんだし。だからアキが必要と思うなら、和南城の家の力だって遠慮なく使うといい」
 
 
 なんだそれ。
 
 
「俺はただ、対等な関係でいたいだけだよ。そんな相手を利用なんか、するわけねーだろ」
「うん、分かってる。ただオレはアキになら、利用されたって構わないんだ」
「誰がするか。遠慮なく使ってる間に、いつの間にか嫁って周知されてそうで怖ぇーよ」
 
 
 悠が笑ってるだけなのが、なお怖い。
 否定しないのかよ…!
 
 
 まぁコイツを見る限り、和南城家がただ利用されるだけで終わってくれるとは思えねーしな。
 あーやだやだ。
 絶対自分からは利用したくねぇ。
 
「利用してもらえないのは残念だけど、アキが平等でいたいと思うなら、それでもいい。おかげでこうしてアキに甘えることも出来るし」
 
 上から包むように重ねられていた悠の手が、滑るように下がって手首を掴んでくる。
 頬に触れていた俺の手を自分の口元に持っていくと、視線を伏せるようにしながら軽く口付けてきた。
 思わず心臓が跳ねる。
 
 
(くそ…っ。顔が良い分、タチが悪いな。ちょっとトキメキかけた自分が怖い……!!)
 
 
 咄嗟に引こうとした手首を、悠の手に引き止められた。
 唇は押し付けたまま、視線だけで俺を捉えてくる。
 
「平等なら…甘えてもいいんだろう?」
「……っ!!」
 
 
 なにその上目遣い。
 エロいくせに、ちょっと甘えたな感じの声が可愛いすぎる!
 
 
「……えろ抜きで甘えてくるなら、別にいいけど?」
 
 可愛いけど警戒は怠らねーぞって意味も込めてそう返したら、悠が嬉しそうに抱きついてきた。
 
「アキ、好きだよ。ありがとう」
 
 そう言いながら俺を潰さないようにか、伸し掛かっていた身体をベッドに横たえるようにズラすと、もう一度俺の背中に腕を回してくる。
 密着感が強まり、直接悠の肌が顔に当たるおかげで、濃厚な香りに包まれているみたいだ。
 はぁ…至福。
 メチャクチャいい匂いがする…!
 
 
 悠が着ていた服の匂いも好きだけど、生身の香りもこれまた素晴らしい。
 ただ普段の悠は匂いを嗅ぐだけで済ませてくれないから注意が必要だけど、今の悠はただ甘えたいって言うだけだし……まぁ大丈夫か。
 
 
「アキも…抱き返してくれると嬉しい」
 
 
 なんだこのバブちゃんみたいな悠は…!?
 可愛いじゃねーか!!
 抱きしめてほしいなんて仕方ねーな。
 ほら、アキ兄ちゃんに甘えなさい、と背中に腕を回してやる。
 
 
 はー、あったけぇ。
 悠の肌ってば、スベスベで気持ちいーな。
 なんかトロンとしてきた。ぬるま湯に浸かってるみてぇだ。
 触れる肌から甘い匂いが香ってくるせいで、よけいにうっとりした心地になるのかも。
 
 
(でも……あれ? 悠の匂いってこんなに甘かったっけ?)
 
 
 ちょっと違和感を感じたけど、まぁいいや。
 気持ちーし。
 
「アキも俺に甘えて。対等なんだろう?」
 
 耳に吹き込まれる声が甘い──…確かに平等なら俺も甘えたっていいよな。
 んじゃ遠慮なくと、悠の匂いを染み込ませるように、おでこをスリスリと擦り付けてやった。
 そんな俺の頭を悠が優しく指で梳いてくる。
 今の悠はどこまでも優しい。こんな悠は珍しいから、エロ王子が登場する前にしっかり甘えておかねば。


 あ、違う。対等だったな。
 それなら平等に、悠も甘やかしてやんねーと。
 

 背中に回していた腕を外して、悠の頭を抱えるように胸に抱き込んでやった。
 よしよし。甘える悠も可愛いぞ。
 存分に喉をゴロゴロ鳴らすが良いと思いながら、悠の頭やこめかみにキスをしてやる。
 唇を離しながら閉じていた瞼を開けると、何だか悠がビックリしたような目でこっちを見ていた。

「……なに? いやだった?」
「いや…。アキがオレにそんな事をしてくれるとは思わなかったから、ちょっと驚いただけだ」
 
 
 そっか、驚いたか。ふふふん。
 甘やかしてもらったことがなさそうだもんな、コイツ。
 しゃーねぇから俺がいっぱい甘やかしてやるよ。
 
 
「俺ばっかりだと平等になんねーからさ。ほら悠、今度は瞼にキスしてやるから目ぇ閉じろ」
「あぁ」

 
 素直に目を閉じる悠の瞼に、優しくキスをしてやる。
 何かフワフワして気分がいいな。いっぱい可愛がってやりたい気持ちだ。
 
 ゆっくり目を開けた悠が俺の顔を眩しそうに見つめた後に、はにかんだ笑顔を浮かべてくる。
 こんな笑顔が飛び出すなんて、そんなに嬉しかったのかよ?と思いつつも、つられたように俺の頬も緩んでしまう。
 はは、マジで今日の悠は可愛いかも。
 いつもこんな感じならいいのに。
 優しい時間に癒やされるように笑っていたら、悠の親指が唇を擽るようになぞってきた。 

「アキ……」

 悠の声に艶めいたものが混じっているのに気づいたけど、その場の雰囲気に流されるように、近づいてくる唇を素直に受け入れてしまった。

「……ん…っ」 
 
 合わさった唇が熱い。
 悠の唇が俺の唇を覆うように、やわやわと食んでくる。    
 ちゅっ、ちゅっ、と柔らかく唇を合わせるだけの優しいキスに意識が蕩けていく。
 どこまでも優しいキスは心地いいけど、何だかちょっと物足りねぇ。
 悠の唇は確かに気持ちいいけど、あの甘さに浸りたくなる。
 
 
 
(悠の舌が欲しい──…)
 
 
 
 うっとりするくらい、あの時の舌は甘かった。
 忘れられない甘さに惹かれるように、悠の唇の合わせに舌を這わせると、悠が小さく笑う気配を見せた後に、そっと合わせ目を開いてくれる。
 すかさず舌を差し入れると、悠の厚めの舌が俺の舌を掬うように絡めとってきた。       
 
 
 ……ん、やっぱり甘い──
 
 
 
 
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