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51.一人ぼっちの夜④

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 そのまま滑らせていった指の先が、軽く乳首に触れた途端、傍目にも分かるくらいに身体がビクンッと震えた。

「……ぁ…っ!」

 小さく飛び出た自分の声に、ギョッとなる。
 慌てて手の平で口を塞いだけど、少し遅かったかも。
 間違いなく聞かれたよな、今の声。うぁあ、恥ずぃ。
 
「あー…ははっ。今日のサービスはここまでな」

 ここは笑って誤魔化すしかねぇっ。
 画面から目を逸らすようにして、身体の下にあった悠のTシャツを引っ掴むと、急いで袖を通した。


(もうなんと言われようと隠す!)


 今の刺激で乳首がガン勃ちしちまった。
 くそ、悠には絶対バレたくねえ。
 コイツのことだ。見つかったら、絶対指摘してくるだろっ。
 バレる前に、何としてでもこの通話を切ってやる!!

「なぁ、もう胸も見せたし満足しただろ? そろそろ本気で寝かせてくれよ」

 悠に頼み込まないと、通話が切れないのが腹立たしい。
 なんでアプリの権限が、悠に行ってんだよ。
 切断ボタンを、こっちにも寄越してくれ!


『だから寝てもいいって言ってるだろう? 適当にこっちで切るよ』
「無理。もう十分、アホなことに付き合ってやっただろ。あのな、俺はバイトで疲れてんだよ。明日の為にも、いい加減寝かせてくれって」


 つーか、むしろ寝ろ! 寝てくれ!
 明日になったら自分の発言に、こっ恥ずかしくなってんのはお前の方だぞ!
 黒歴史をこれ以上残すな。大人しくそのまま寝ろよ!!


『アキのそんな姿を見て、眠れるわけがないだろう?』


「だろう?」って、俺に言われても知らんがな。
 お前が勝手にそんな姿にさせたんだろうが。
 なに俺のせいみたいに言ってんだよ。


「ならさっさと、溜まったモンでも抜いとけば。スッキリしたら、良く眠れるんじゃねーの?」

 適当に口から吐き出した言葉に、悠が一瞬黙りこくる。
 おろ?

『……そうだな。オレもこのままだと辛いし、アキが寝たいって言うなら、仕方がないか。分かった。5分だけ、待っててくれないか?』

 そう言い放つと、一方的に通話を切られた。
 呆気ないほどあっさり切られたスマホを前に、呆然としてしまう。


(5分? しかも待てって……何を待つんだよ?)


 待てと言う割に、通話は切れちゃってるし。
 そもそもこれ……俺が待つ必要ってあんの?

 あ! 実はちゃっかりこっちの映像が、向こうに行ってるとか?
 試しにスマホを手に取って、操作してみる。
 さっきはリモートか何かで、全く操作が出来なくなっていたけど、今はいつも通りに動く。
 アプリ自体、ちゃんと切れてるっぽい。

 だったら、あの5分って何なんだ……?
 と思った所でハッとなる。
 悠の言葉の意味が分かった。


(もしかして5分って……。悠が抜いてくるまでの時間のことかっ!?)


 思い至った途端、頬がカーッと熱くなってきた。
 まさか、マジで抜きに行くなんて思わないじゃん。
 オカズはやっぱ俺だよな。
 あのくそイケメンが俺で抜くの? 
 
(うわっ、マジだったらなんか気の毒……)

 アイツなら巨乳から綺麗系まで、選り取りみどりだろうに。何がよくてこんなペタンコ胸に執着してんだ?

 本当に俺の胸なんかに、興奮する要素があるのか?
 改めて見ても、ただの大平原が広がっているだけだぞ。
 そりゃまぁなんだ。す、好きとは言われてるけどさ。
 でもやっぱ、まじかって思うじゃん。
 トイレでは色々したけど、たまたま溜まっていた時期だったのかもしれねーし……俺の匂いにやたら固執してんのは分かってるけど。
 なんつーか、匂いがない状況でも俺に欲情するんだって思うと、こう……アレだ。
 落ち着かないと言うか、腹の底がムズムズしてくる。

「うあぁあああああ~~っっ」

 黙っていられない気分のまま、思わず叫んでしまう。
 なんかもう、思っくそ転げ回りたい。
 普通は同性にオカズにされたら気持ち悪いと思うはずなのに、気持ち悪いどころか、むしろ照れ臭いんだけど!?
 あの悠の綺麗すぎる顔が、俺の痴態を想像しながら、今頃快感に歪んでるのかと思うと……。

 やべぇ。

 不謹慎ながらちょっと、キた……。
 その際どい感覚に、我ながら頭を抱えてしまう。


「うっわ……。もしかして俺って、かなり悠に毒されてきてね?」


 いつの間にか男同士なのに、触れ合うことにそこまでの拒否感が、湧かなくなってきてんだけど。
 そう考えて。

 ……あれ? ちょっと待てよ。

 そもそも初めっから、そんなに嫌悪感ってあったかな?
 キスされた時は、確かにビックリしたけど。ただそれだけだ。
 近づかれてもアップに耐える顔のせいで見惚れちまってたし。
 ──うん。やっぱあの顔が悪ぃな。
 男でも構わねぇって気分にさせられちまう。


 ぼやーっと悠の顔を想像していたら、玄関から来客を告げる呼び出し音が響いてきた。
 静かな室内に響いたその音にビックリして、慌ててベッドの上から跳ね起きる。


(な……なんだ……?)


 心臓がバクバクしてくる。
 部屋の壁時計を見ると、夜の23時過ぎだ。
 こんな時間に尋ねてくる相手に心当たりはないし、ましてや今は1人だ。
 泥棒がわざわざ呼び出し音を鳴らしてくることはないだろうけど、用心するに越したことはない。
 とりあえず無視だ無視と息を潜めながら、玄関に居る人物が立ち去ることを願う。

「1人の時に限って誰か来るなよ。めっちゃ怖いじゃん。止めてくれよ……」

 外の気配に耳を済ませていると、今度は急かすように2度チャイムが鳴らされる。
 こんなに鳴らすって……もしかして姉ちゃんか?
 彼氏と喧嘩でもして、帰ってきたんだろうか。

 いや、姉ちゃんなら鍵を持っているはずだしな。
 ──と思うけど、喧嘩か何かで彼氏ん家を飛び出してきたなら、バッグを持っていないって可能性も……あるのか?

「うーんんんん……」

 もう分かんね。
 ただ家族以外で、うちに来る客なんてほぼ居ないんだよな。
 結局じっと待っていることも出来なかった俺は、慌てて玄関に向かった。
 さすがにすぐに開ける気にはなれないから、ドアに向かって小さく「姉ちゃん?」と呼びかけてはみたけど。

「…………」

 反応が返ってこない。
 でもドアの向こうには、しっかり人がいる気配を感じる。
 誰が居るのか確かめる為に、恐る恐るドアスコープに顔を近づけようとして、

「…………アキ」

 俺を呼ぶ低い美声が、扉の向こうから発せられた。


(───んんん? この声って……)


 

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