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13、うちの天使と家族
しおりを挟む目覚めると、見慣れた自分の部屋で横になっていた。
朝日の差し込む感じからすると、かなり寝過ごしてしまってるっぽい。
……何で誰も起こしてくれなかったんだろう。
普段なら嫌でも起こしにくるのに、と不思議に思いながらも、モゾモゾと布団から上半身を起こす。
そのまま眠い目を擦ると、改めて部屋の中を見回した。
(──…あれって、夢だったのかな?)
神様とのやり取りは、しっかりと記憶に残っている。
だけど神様の箱庭に連れて行かれる前の自分は、村の外れにある大きな木の袂にいたはず。
その木から落ちたせいで、前世の記憶を思い出したはずなんだけど……。
いつそこから帰ってきたんだろう? それともあのまま、家のベッドに転送してくれたんだろうか?
(……それともやっぱり、あれはリアルな夢だったのかな? ちょっと記憶に自信がなくなってきた)
とりあえず夢では無かったことだけでも確かめようと、薄い布団を捲って寝台から床へと降り立つ。
確か起動の言葉は──
「ゲームモード・オン」
俺がその言葉を唱えた途端、ヴンッと言う電子音とともに、あの時神様の元で見た『インターフェイス』が視界に浮かび上がった。
うん……やっぱり夢じゃなかったよ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「母さん、おはよー」
身支度を整えて下の階に降りると、糸巻き機の前で作業をしている母さんがいたので声をかける。
「おはよう。具合は大丈夫?」
「具合って?」
食卓の上には、一人分の食事だけが乗っていた。母さん以外の姿は見当たらないから、すでに仕事に向かったのだろう。
時計がないから正確には分からないけど、かなり寝坊してしまったようだ。
俺も急いで朝ごはんを食べて、家の手伝いをするべきなんだろうけど、その前に窓際の揺り籠へとトテトテ歩く。
揺り籠の中を覗き込むと、この世の可愛さを全て集めたような妹が、指を加えながら横になっていた。
くりんとしたお目々でこっちを見ている姿が、何とも愛らしい。
そのプニプニのほっぺにキスをすると、俺は妹にも朝の挨拶をする。
「おはよう、俺の天使」
「プッ。天使ってなーに? ほら、早くごはん食べちゃいなさい。体が大丈夫そうなら、今日は洗濯物を洗ってくれる?」
母さんが苦笑しながら、俺に朝ごはんを促す。最後にもう一度妹の頬にキスをすると、慌てて食卓につく。
硬い黒パンを千切ってスープに浸すと、パンが柔らかくなるまでりんごを齧りながら、そういえばと気になっていたことを母さんに聞いてみる。
「ねぇ、母さん。何でさっきから体のことばっかり聞くの?」
「何でってあなた……昨日帰ってからずっと無言で元気がなかったし、すぐに寝てしまったでしょう? 体調が悪かったんじゃないの?」
……記憶にない。どういうことだ?
けど、そのせいで寝坊したというのに、誰も起こしに来なかったのか。
一つ分かったことがあっただけでも良かった。
「ううん、もう大丈夫。父さんは今日も山?」
「山だけど、今日は村の人と一緒に、狩りに行ってるわ」
そうなんだと頷きながら、スープを吸って柔らかくなったパンを口に入れる。
ウチの家は、この村ではかなり変わっている。
この村で獣人はうちの一家だけだし、ダークエルフがいるのも、うちだけだ。
父さんの一族はかなり特殊な家系らしく、ダークエルフ同士の婚姻でないと、真正のダークエルフは生まれないって言っていた。
他の種族と交わると、相手の遺伝子の方に強く引っ張られるらしく、ダークエルフとしての血はほとんど受け継がれないらしい。
だから俺も初めは自分がハーフエルフだと思っていたけど、それは違うと父に否定されてしまった。
違うなら、父と俺たちとでは寿命が違う。俺たちは間違いなく、父よりも先に死んでしまうだろう。
残された父が寂しくないように、孫をいっぱい作ってあげたかったのだが、そもそも俺の顔で結婚が出来るとは思えない。
可愛らしい妹なら──いや、だめだっ。
誰だか分からん奴の所にお嫁に行くなんて、お兄ちゃんが許さない。
話が脱線してしまった。
そういう変わった一族の出身だったらしく、自分達の子孫を残すために、村では生まれてまもなく親同士が決めた許嫁が充てがわれるそうだ。
大体は年の近い子供を充てがうらしいけど、頃合いの子供がいなければ年上でも既婚者でも、子を成せれば何でも許されてしまうそうな。
父はそんな村の因習にどうしても馴染めず、村を捨てて旅をしている時に、母に出会ったようだ。
婆ちゃんと爺ちゃんは羊飼いだけど、父さんはエルフの血を引いているせいか、狩りの腕がすごく立つ。
本業は木こりなんだけど、村で狩りをする際は、大抵父も呼ばれているので、今日もそんな感じなんだろう。
俺は遺伝子的に、母の血を色濃く受け継いでるせいか、耳も尻尾もある獣人だけど、髪や肌の色、体型は父に似ていると思う。
対して母や婆ちゃん達は、小柄で可愛らしい感じだ。
他の獣人を見たいことがないけど、きっと他の獣人も似たような感じなんだろうと、勝手に思っている。
父さんも母さんも整った顔立ちをしているので、神様の横槍さえなければ俺もきっと、今頃は美形に生まれついていたんだろうなって考えると……いや。神様はちゃんとお詫びのアイテムもくれたんだ。これ以上恨むのは止めよう。
気持ちを切り替えるように、目の前にある皿に集中する。
木のコップに注がれた牛乳を一気飲みすると、食べ終わった食器を持って台所に向かった。
食器を洗うために、隅に置いてある俺専用の踏み台を持ってこようとした所で、後ろから母に声をかけられる。
「そこは母さんがやっておくから、リシェルは洗濯物をお願い」
母の言葉にうんと返事をして裏口に回ると、裸足のまま外に出る。
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