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マジックに滲む恋!の巻

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「おい、もう帰るぞ。
 いい加減、起きろ」
目を開けると、ヤスジの顔が見えた。


酒のピッチが上がったのは、
雪乃ちゃんが別のテーブルに移ってからだった。
呑むってことは、こういうことだと
言わんばかりに酔いつぶれた。


「俺、なんか変なこと言ってなかった?」
水を差し出してくれた羽鳥に聞いた。
「もう、全部が変なことだらけで
 どれがどうとか分かんねーよ。
 雪乃ちゃんは自分に気があるとか叫んだり。
 だけど口が裂けても言えない秘密があるとか
 言って急に泣き出したり。
 お前、本当に大丈夫か?
 ドラッグとかやってないよな」
いつの間に床に寝かされていたのか背中が痛む。



「それと、さっきは悪かったな、
 収入の話とかみんなの前で聞いてさ。
 なんか夢捨ててサラリーマンになったんだろって
 馬鹿にされたみたいで頭にきたんだ。
 うちの弟のユート覚えてるだろ。
 あいつも東京でミュージシャン目指してんだけど、
 前にさ、兄貴みたいに安定だけを
 目指す人生なんて格好悪いって言われたことあったんだ。
 その言葉を勝手に思い出してしまってさ。
 お前から言われたわけじゃないのにな」
伸ばされた手を握った。



「俺さ、たまに思うんだ。
 だいたいの人生のレールは決まったなって。
 結婚もしたし、子供もいるし家のローンもある。
 これからは挑戦するより
 失敗しない生き方しなくちゃなって。
 もちろん守るべきものが出来たっていうのは強いよ。
 ガキの顔見ると頑張ろうって思うしな。
 お前も色々あるだろうけどさ、
 もう32歳だろ、夢とか語ってられないのが現実なんだ。
 こないだ街で会ったらオカンも心配してたぞ。
 東京で何やってるか分からないって。
 もうキツイんやったら、こっち戻って来いよ。
 仕事だったら、うちらで頑張って探すからさ」
ヤスジも煙草をくわえながら頷いている。


「ほら、水飲め。
 それから服を着ろ」
ふと見ると、パンツ一枚になっていた。
体中にマジックペンで落書きがしてあった。
お腹の所にはロース、胸にはハツと書かれてある。
壁の鏡で見ると眉毛も黒い線で繋げてあった。
『また同窓会おいでね』
『目指せ再ブレイク』
体中に色んな人からの寄せ書きがしてあった。



「これ、やり過ぎやろ」と睨みつけると羽鳥が指差した。
右の太ももには赤いマジックで
『本格派女優・桃園雪乃 映画必ず見てね。
 来春全国ロードショー』と書かれてあった。



ヤスジが煙を吐き出しながら言った。
「一生の宝物やん」
シャツを渡しながら木下も言う。
「タトゥーにしてもらえ」


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