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93 ガールズトーク
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「あ、えーっと、じ、オーナーイズアウト……ヒーウィルコールユーバック」
やっぱりまだ緊張するなぁ。
「イエース、センキュー、バーイ」
海外からかかってくる電話。でも、まだ「ひゃああ、あ、あ、あ」みたいな慌て方はしなくなったけど。やっぱ旭輝の特訓してもらったからね。とりあえず、国見さんがいるときは電話取り次ぐだけで、いない時、つまりは今みたいな時はかけ直すのでもう一度お名前伺えますか? って、プリーズスローリーってお願いしてさ。
「ふぅ」
一番苦手な英語での電話を終えて、一つ深呼吸をして一生懸命メモした今の電話の相手の名前を見直した。合ってるのかな。とりあえず一語一句間違えることなくメモ、は無理だけど、なんとなくこんなこと言ってました、で、あとは国見さんが推測してくれるだろうし。
「ここのお店、すっごい可愛いんだよ」
扉のベルが鳴るのと同時に女の子、かな。大学生の二人組がお店に入ってきた。そして、お客さんの目を引くようにって、赤で統一されたディスプレイに目を輝かせてくれて。胸の内だけで俺は小さくガッツポーズをした。
「あ、この指輪、すっごい可愛い!」
「あ、ホントだ。いいなぁ。カレシに買ってもらおうかなぁ」
「いいかも、ちょうどバレンタインじゃん。お返しにって言ってさぁ」
「けど、それホワイトデーって一ヶ月先じゃん。その時まだ残ってるかなぁ」
そんなことを話しながら、並んでいる商品ひとつひとつに足を止めて眺めている。
「バレンタインどうしよっかなぁ」
ね、どうしよっかな。
「指輪いいなぁ」
指輪かぁ。
そう呟きながら女の子が何気なく一つの指輪を手に取った。
俺が並べたんだ。赤い石のついた指輪で、隣に同じ赤い石が埋め込まれたタイピンにバックチャームを並べた。彼氏彼女でお揃いの赤い石を――みたいなイメージで。
指輪、ってやっぱり恋人へのプレゼントとしては、なんか定番、だよね。
とりあえず、最初のプレゼントに一番向いてない? 雰囲気盛り上がるアイテムダントツ一位って感じ。
でも、俺は指輪ってしたことない。ファッションリングは、もし、万が一、商品の服に石とかシルバーの装飾とかが引っかかったりしたら大変だからしたことないし。そう言うシンプルなのは、ね。本気っていうかさ。だから、したことなくて。
男女なら定番だよね。
でも、旭輝はどうなんだろ。
あの時、二人ともクリスマスプレゼントとか用意してなかったけど。
旭輝は指輪とかするのかな。
「んーでも、私、ホワイトデーは旅行とかがいいかも」
「もうそれチョコレートとかの金額大幅に超えちゃってんじゃん」
「ダメ?」
「いや、いいんじゃん? 彼氏が大丈夫なら」
そこで彼女たちはバレンタインの話題を終えて、セール品の吟味を始めた。
「うちの彼氏、服ダサいんだよね。このシャツとか可愛いかも。値引きされてるし」
「あ、かわいいじゃん」
「でしょ?」
俺も、服にしようと思うんだよね。
スーツ。
国見さんのお店は、本人もあんまりスーツを着ないからか、スーツの種類はそんなに多くない。好みじゃないんだと思う。少しクセのあるファッショナブルなスーツがメイン。と言ってもそうたくさん揃えてあるわけじゃない。オーソドックスなスーツスタイルにいたっては数点って感じ。
カジュアルな服の方がやっぱり格段に多くて。
「あのぉ、すみません」
「はい」
そこでセール品のところにいた女の子二人に呼ばれて、俺はバレンタインのことを考えるのをやめて、接客モードに頭の中を切り替えた。
スーツ、旭輝に似合いそうなスーツブランドっていったらどこかなぁ。
もちろんハイブランドのスーツならどれだって似合うに決まってる。決まってるんだけど、お金がね……いかんせん、お金がね。
そこまでじゃなくてもいいのってたくさんあって、ちゃんと選べばハイブランドのトップデザインとかじゃなくたって、洗練された感じに見えるわけで。
じゃあどこのスーツがいいかなぁ……って。
「スーツをお探しですか?」
「!」
閉店後の掃除の最中だった。
お店にあったオーソドックスなスーツをじっと見つめてたら、やっぱり接客業の人だよね。国見さんが、まるで店員さんみたいに声をかけてきた。
「うち、スーツは品揃え少ないからね。でも、聡衣君は紳士服でバリバリやってた人だから」
履歴書って国見さんが呟いてにっこりと笑った。
確かに履歴書には今まで自分が勤めたアパレルメーカーとかショップの名前、わかる人にはきっとわかっちゃうと思う。
「バレンタインに旭輝へスーツをコーディネートしてあげたいなぁって思ったんです。それが、まぁきっかけでこうなれたっていうのもあって」
「へぇ」
国見さんは少し驚いてた。蒲田さんから言われている俺たちの出会いってきっとあのレストランでの「お芝居」のところからだろうから。
「で、どこのスーツがいいかなぁって。あ、でも! 国見さんの選んだスーツ、すごく素敵です! ファッショナブルだし。ドレッシーっていうか。けど、旭輝って官僚なので、そのもう少し真面目っていうか、その中でもちょっとスタイリッシュなのがいいっていうか……なので、その」
「じゃあ、聡衣君がバイヤーやってみる?」
「その国見さんのお店がどうこうってわけじゃなくて……って…………ぇ?」
今、なんて?
「バイヤー」
バイ…………ヤ…………ぁ?
「そ。バイヤー」
国見さんはにっこりと笑いながら首を傾げて、手に持っていた羽根つきのはたきを、まるで魔法の杖みたいに二回振ってみせた。
やっぱりまだ緊張するなぁ。
「イエース、センキュー、バーイ」
海外からかかってくる電話。でも、まだ「ひゃああ、あ、あ、あ」みたいな慌て方はしなくなったけど。やっぱ旭輝の特訓してもらったからね。とりあえず、国見さんがいるときは電話取り次ぐだけで、いない時、つまりは今みたいな時はかけ直すのでもう一度お名前伺えますか? って、プリーズスローリーってお願いしてさ。
「ふぅ」
一番苦手な英語での電話を終えて、一つ深呼吸をして一生懸命メモした今の電話の相手の名前を見直した。合ってるのかな。とりあえず一語一句間違えることなくメモ、は無理だけど、なんとなくこんなこと言ってました、で、あとは国見さんが推測してくれるだろうし。
「ここのお店、すっごい可愛いんだよ」
扉のベルが鳴るのと同時に女の子、かな。大学生の二人組がお店に入ってきた。そして、お客さんの目を引くようにって、赤で統一されたディスプレイに目を輝かせてくれて。胸の内だけで俺は小さくガッツポーズをした。
「あ、この指輪、すっごい可愛い!」
「あ、ホントだ。いいなぁ。カレシに買ってもらおうかなぁ」
「いいかも、ちょうどバレンタインじゃん。お返しにって言ってさぁ」
「けど、それホワイトデーって一ヶ月先じゃん。その時まだ残ってるかなぁ」
そんなことを話しながら、並んでいる商品ひとつひとつに足を止めて眺めている。
「バレンタインどうしよっかなぁ」
ね、どうしよっかな。
「指輪いいなぁ」
指輪かぁ。
そう呟きながら女の子が何気なく一つの指輪を手に取った。
俺が並べたんだ。赤い石のついた指輪で、隣に同じ赤い石が埋め込まれたタイピンにバックチャームを並べた。彼氏彼女でお揃いの赤い石を――みたいなイメージで。
指輪、ってやっぱり恋人へのプレゼントとしては、なんか定番、だよね。
とりあえず、最初のプレゼントに一番向いてない? 雰囲気盛り上がるアイテムダントツ一位って感じ。
でも、俺は指輪ってしたことない。ファッションリングは、もし、万が一、商品の服に石とかシルバーの装飾とかが引っかかったりしたら大変だからしたことないし。そう言うシンプルなのは、ね。本気っていうかさ。だから、したことなくて。
男女なら定番だよね。
でも、旭輝はどうなんだろ。
あの時、二人ともクリスマスプレゼントとか用意してなかったけど。
旭輝は指輪とかするのかな。
「んーでも、私、ホワイトデーは旅行とかがいいかも」
「もうそれチョコレートとかの金額大幅に超えちゃってんじゃん」
「ダメ?」
「いや、いいんじゃん? 彼氏が大丈夫なら」
そこで彼女たちはバレンタインの話題を終えて、セール品の吟味を始めた。
「うちの彼氏、服ダサいんだよね。このシャツとか可愛いかも。値引きされてるし」
「あ、かわいいじゃん」
「でしょ?」
俺も、服にしようと思うんだよね。
スーツ。
国見さんのお店は、本人もあんまりスーツを着ないからか、スーツの種類はそんなに多くない。好みじゃないんだと思う。少しクセのあるファッショナブルなスーツがメイン。と言ってもそうたくさん揃えてあるわけじゃない。オーソドックスなスーツスタイルにいたっては数点って感じ。
カジュアルな服の方がやっぱり格段に多くて。
「あのぉ、すみません」
「はい」
そこでセール品のところにいた女の子二人に呼ばれて、俺はバレンタインのことを考えるのをやめて、接客モードに頭の中を切り替えた。
スーツ、旭輝に似合いそうなスーツブランドっていったらどこかなぁ。
もちろんハイブランドのスーツならどれだって似合うに決まってる。決まってるんだけど、お金がね……いかんせん、お金がね。
そこまでじゃなくてもいいのってたくさんあって、ちゃんと選べばハイブランドのトップデザインとかじゃなくたって、洗練された感じに見えるわけで。
じゃあどこのスーツがいいかなぁ……って。
「スーツをお探しですか?」
「!」
閉店後の掃除の最中だった。
お店にあったオーソドックスなスーツをじっと見つめてたら、やっぱり接客業の人だよね。国見さんが、まるで店員さんみたいに声をかけてきた。
「うち、スーツは品揃え少ないからね。でも、聡衣君は紳士服でバリバリやってた人だから」
履歴書って国見さんが呟いてにっこりと笑った。
確かに履歴書には今まで自分が勤めたアパレルメーカーとかショップの名前、わかる人にはきっとわかっちゃうと思う。
「バレンタインに旭輝へスーツをコーディネートしてあげたいなぁって思ったんです。それが、まぁきっかけでこうなれたっていうのもあって」
「へぇ」
国見さんは少し驚いてた。蒲田さんから言われている俺たちの出会いってきっとあのレストランでの「お芝居」のところからだろうから。
「で、どこのスーツがいいかなぁって。あ、でも! 国見さんの選んだスーツ、すごく素敵です! ファッショナブルだし。ドレッシーっていうか。けど、旭輝って官僚なので、そのもう少し真面目っていうか、その中でもちょっとスタイリッシュなのがいいっていうか……なので、その」
「じゃあ、聡衣君がバイヤーやってみる?」
「その国見さんのお店がどうこうってわけじゃなくて……って…………ぇ?」
今、なんて?
「バイヤー」
バイ…………ヤ…………ぁ?
「そ。バイヤー」
国見さんはにっこりと笑いながら首を傾げて、手に持っていた羽根つきのはたきを、まるで魔法の杖みたいに二回振ってみせた。
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