恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅

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80 くっつくとしたくなる感

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 謎だと、思うわけ。
 いつも君、そんなんじゃないじゃん。
 ねぇ、もう少し手の届くところにいなかった?
 お手軽な感じだったじゃん。
 ねぇねぇ、なんでそんな急に高飛車なわけ?
 ねぇってば――。
 三つ葉クン。

「あり得なくない? 三つ葉! 百九十八円もしたんだけど! 三つ葉!」

 そう、急に年末だからと倍の値段になった三つ葉を冷蔵庫にしまいながらぼやくと、アイランドキッチンのカウンターで買ってきた食材を並べていた旭輝が顔を上げて「あぁ」って呟いた。
 あぁ、じゃないよ!
 あぁ、じゃ!
 もう少しお手頃価格だったじゃん。俺、結構好きなんだけど。三つ葉。風味が。三つ葉のお浸しとか結構好きなんだけど、でも茹でたらすぐにちっちゃくなっちゃうじゃん。あっという間に縮小しちゃうじゃん。それなのにあんなお正月だけ二倍に価格がなっちゃうのって、どうなっちゃってるわけ?

「年末価格だからな」
「それ! 服はさぁ、むしろお手頃価格にするのに、食材は値上がりするもんね。っていうか、服なんてそうそう値上げできないんだけど」
「物が違うだろ」
「そうですけど……も」

 旭輝はカウンターテーブルのとこ。
 俺はシンクのところで買ってきた食材たちを詰め込んでた。明日は大晦日。そんなわけで、二人して買い物へ出かけ、近所のスーパーで、「あれ? 君らそんなお高かったっけ?」っていう年末価格に驚いてた。いつものスーパー……なんだけど。

「あ、りがと」

 俺が担当していた仕舞い込む食材達。エコバックの中に入っていたストックとして買ってきたコーヒー豆とか缶詰とか。
 それは棚の高いところにあるストックゾーンにしまうんだけど、ちょっと、いや、けっこう手をいっぱいに伸ばさないと届かないところで。
 そこに手を伸ばして指先でどうにか棚に押し込もうとしてたら、もう一段階高いところから手が出てきて、俺の代わりにコーヒー豆をしまってくれた。

「これ、別の棚におこう」

 旭輝の手。

「ここじゃ、聡衣が取りにくいだろ」

 背、俺より高いんだよね。
 女の子じゃあるまいし、このくらいのことでドキドキすんなよって感じ。ただ、自分よりも背が高く、自分よりも骨っぽい、男っぽい腕とかさ。そういうのに、喉奥のところがキュッとなるなんて。

「こっちに置くか。ここなら聡衣も取りやすいだろ?」

 それにね。

「聡衣?」
「……ぁ、うん」

 旭輝ってさ、そう、背が高いから、ストックとかさ。頻繁に取り出したりしないものは邪魔にならない高いところに全部しまってるんだよね。他に洗剤とかもそう。全部高いところ。
 全部、旭輝には難なく届く高い棚。
 けど、俺には少し高すぎる棚。
 それで、女の人にはちょっと脚立持ってきてーっていう高い棚。

「……聡衣? どうした?」

 女の人には高さすぎる棚にストックがあるのって、さ。考えすぎ? 女の人はここに、生活感のあるここにはあんまり招いたことないのかなぁなんて。

「……顔、赤いぞ」
「っ」

 それから、そんな高いところにしまっていたストックを俺の手の届く高さに置いてくれるのって、さ。

「聡衣?」

 俺はここにこれからもいていいって意味なのかなぁ、なんて。
 考えて、赤くなった俺に、旭輝が笑ってる。
 絶対に、ねぇ、わかってるでしょ? エリートで超頭いいもん。今、俺が何を考えて赤くなってたかなんて知ってるくせに。それなのに、どうした? なんて意地悪で訊いてくるの。

「外、寒かったからな」
「っ」

 唇の端だけで笑って、その唇で。

「……」

 そっとキスをする。シンクのところにいた俺を閉じ込めるように旭輝のあの男っぽい腕で、そのシンクに俺を押し付けるようにしながら、唇がそっと触れて。

「……ン」

 そっと、舌が入ってくる。

「んっ」

 絡め取られるとゾクゾクする。

「あっ……」

 ほら、また。

「ん、あっ……」

 くっつくとしたくなっちゃう感。

「もう早く冷蔵庫にしまわないといけない食材しまったか?」
「ぁ、まだお肉」

 しまってないって言ったら、耳にキスしながら「リョーカイ」って囁いて、俺の首筋にそのまま唇で触れながら、片手で器用にエコバックの中のものを冷蔵庫にしまっていく。
 手際、良すぎでしょ。

「ん、あっ……ン」

 キスしながら、片手でお買い物の片付けして、もう片方の手で俺に触れて。

「あっ、ン」

 ホント、手、早い。

「ン」
「片付け完了……」
「ん、あ、でもっ」

 指は絡め取られて、そのまま抱きしめられる。ぐっと密着したら、ほら。

「……ぁ」

 旭輝の、硬いし。

「そんな顔した聡衣が悪い」

 してないし、そんな顔。っていうか、そんな顔ってどんな顔、だし。

「……まだ、夕方なんですけど」
「あぁ、俺がちゃんと作るから」
「あっ、ン」

 途端に溢れる甘い甘い自分の声と、触れられただけで、期待に躍りだす胸と、もう始まってる愛撫に悦び始める指先。

「夕食のことは気にしなくていい」

 それらが「そうじゃなくて、まだ夕方なのに」って問いただそうとする理性を蹴散らして。

「旭輝……」

 ぎゅっと抱きしめて、自分からもキス欲しさに首を傾げて首に腕を絡めた。


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