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41 こっちで正解
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だからノンケは好きにならないって決めてたんじゃん。
絶対に、最終的にはこうなるんだからさ。
まぁ、今回は最初からこうなってたんだけどさ。
好きな人がいるんだって。
ずっと、好きな人が、いるんだそうですよ。
「これ、色違いのもすっごいおすすめです。グリーンの今年の流行色で結構持ってる方多いんですけど、このニットは少しグリーンが暗めだから、どの服にも合わせやすいし、流行りの色よりも落ち着いてる感じで」
でも、思っちゃったんだもん。
旭輝に好きな人がいるって聞いた瞬間、旭輝に思われてるその人のことが羨ましいって、思っちゃった。
どうしようもなく悲しい気持ちになっちゃった。
気がつかないフリをしてた。スルーして、やり過ごして、そのうちあの部屋を出ていくと同時になかったことにできるって思ってた。きっと、あそこであの同僚の人にあんなこと聞かされなければ、うまくできてたはずなのに。
しょうがないじゃん。
「ありがとうございましたぁ」
悲しいのはごまかせなかったんだ。
「聡衣君」
「あ、はい!」
「そろそろお昼休憩していいよ?」
「はい。ありがとうございます。今、商品整理終えたら」
国見さんはありがとうと笑って、接客であっちこっちから服を出して広げていたカウンターを一緒に整理してくれる。
「昨日は夜遅くまでありがとう」
「えぇ? こちらこそです。ご馳走様です」
「美味しかった?」
「すっごく」
「そっか、それならよかった。遅くまで付き合わせたから疲れただろうと思って」
「全然ですよ~」
「そう?」
コクンと頷くと、隣に立っている国見さんが顔をこっちへ向けて、首を傾げた。いくらか俺の方が身長が低くて、そんなふうに屈まれると、少し高い位置にあるはずの視線がすぐ目の前でぶつかって、くすぐったい。
目を逸らしてしまいそうになる。
「今日は、少し元気がなかったから」
「…………」
顔に、出てた?
出してないって思ってたから驚いて、見つめ返しちゃった。
「あ、あは、そんなことないですっ、っていうか、お客さまにも楽しそうって」
国見さんのファンの方、かな。まだ働き出して間もないけど、顔を覚えちゃったくらい頻繁に来店してくれる人がいた。今日は、入荷したばかりのクリスマスグッズのチェックに来たんだって。もちろん、国見さんのお店のSNSアカウントもフォローしてるその人は、入荷情報だっていち早くゲットしてくれてて。その人が今日はとっても元気な接客をしてもらえたって笑ってくれたくらい。
「あの後……何か、あった?」
「……」
何も、ない……よ。
「相談、乗るよ? 話、いくらでも聞くから」
むしろ、何もない。
「だから、今日、夜、食事に誘ってもいいかな」
「…………ぇ」
国見さんは微笑みながら、カウンターの上をあっという間に整えてくれた。
「君と……」
そして、魔法みたいに服を綺麗に畳んでしまう長い指がそっと、遠慮がちに、俺の少し冷たくなってた指先に触れた。
「食事がしたい」
国見さんの指先はとてもあったかかった。
話を聞いてもらうことなんて、何もない。
「……今日は、帰りにちょっと外でご飯食べてきます……」
旭輝へのメッセージ、これだけでいいかな。何かもっと付け加えるべき? ほら、今日は旭輝は仕事休みだから、一緒にご飯をって用意してくれてるかもしれなくて、だから、ちゃんと食べませんって言っておかないと、でしょ? お昼休憩、コンビニで買ってきたお弁当を食べる手を止めて、少し考えてみる。
「……うーん」
どうだろ。理由なんて、そんなの別に旭輝にしてみたら関係のないことって感じ? だよね。
「……」
少し考えて、そのまま送信することにした。
だって、「職場のオーナーと食事してきます」なんて言われたって、そっか……って感じでしょ? 旭輝にしてみたら、食事の相手がオーナーの国見さんでも友達の陽介でもきっと何も変わらないから。
そこに何もないのに、わざわざ言う必要ないかなって。
お昼休憩の間、ずっと考えていた。ずっとずっと考えて結局それ以上は何も付け足さないことにした。
「さ、お昼休憩おわりー……」
ただの食事だし。
そう、話なんてすることひとつもない。相談したいこともない。
だってさ、何にもないもん。
始まってないし終わってないし。そもそもないし。
「……午後もお仕事、がんばろー……」
好きって気がついて、その好きはもうすでに「終わり」ってなっただけ。旭輝にはずっと好きな人がどこかにいるし、ノンケだし。だから、始まらずに終わっただけ。
国見さんに話を聞いてもらう必要なんて、ちっともない。だからただ、ただ、ご飯、美味しいといいなぁって思いながら、お仕事の笑顔を作ってみた。
「……よしっ」
そして、お店の方へと戻ると、店内は結構な混み具合で。
「わ……ぁ、いらっしゃいませ」
お昼ご飯食べ終わって、旭輝にメッセージ送って、でもまだ少しだけ休憩時間残ってたんだ。十分くらい。でも、一人休憩室にても旭輝からの返事をソワソワ待っちゃいそうだし。
「はい。こちらのサイズ違いですね」
その返事がどんなものか、ちょっとビビるっていうか、なんか……ね。
「りょーかい」ってだけだったら、なんかちょっとしょんぼりしそうで、だから、メッセージへの返信を待つことのないように自分からスマホをロッカーに押し込めて、その場を離れた。
「聡衣君」
「ハイっ」
「ありがとね」
ただ返信が気になりすぎるから休憩を十分早く切り上げただけだけれど、お店の中は混雑してて、国見さん一人だとちょっと大変そうだった。だから、これで正解だ。
ホッと微笑んでくれる国見さんに笑顔を向けながら、これが正解って、思った。
絶対に、最終的にはこうなるんだからさ。
まぁ、今回は最初からこうなってたんだけどさ。
好きな人がいるんだって。
ずっと、好きな人が、いるんだそうですよ。
「これ、色違いのもすっごいおすすめです。グリーンの今年の流行色で結構持ってる方多いんですけど、このニットは少しグリーンが暗めだから、どの服にも合わせやすいし、流行りの色よりも落ち着いてる感じで」
でも、思っちゃったんだもん。
旭輝に好きな人がいるって聞いた瞬間、旭輝に思われてるその人のことが羨ましいって、思っちゃった。
どうしようもなく悲しい気持ちになっちゃった。
気がつかないフリをしてた。スルーして、やり過ごして、そのうちあの部屋を出ていくと同時になかったことにできるって思ってた。きっと、あそこであの同僚の人にあんなこと聞かされなければ、うまくできてたはずなのに。
しょうがないじゃん。
「ありがとうございましたぁ」
悲しいのはごまかせなかったんだ。
「聡衣君」
「あ、はい!」
「そろそろお昼休憩していいよ?」
「はい。ありがとうございます。今、商品整理終えたら」
国見さんはありがとうと笑って、接客であっちこっちから服を出して広げていたカウンターを一緒に整理してくれる。
「昨日は夜遅くまでありがとう」
「えぇ? こちらこそです。ご馳走様です」
「美味しかった?」
「すっごく」
「そっか、それならよかった。遅くまで付き合わせたから疲れただろうと思って」
「全然ですよ~」
「そう?」
コクンと頷くと、隣に立っている国見さんが顔をこっちへ向けて、首を傾げた。いくらか俺の方が身長が低くて、そんなふうに屈まれると、少し高い位置にあるはずの視線がすぐ目の前でぶつかって、くすぐったい。
目を逸らしてしまいそうになる。
「今日は、少し元気がなかったから」
「…………」
顔に、出てた?
出してないって思ってたから驚いて、見つめ返しちゃった。
「あ、あは、そんなことないですっ、っていうか、お客さまにも楽しそうって」
国見さんのファンの方、かな。まだ働き出して間もないけど、顔を覚えちゃったくらい頻繁に来店してくれる人がいた。今日は、入荷したばかりのクリスマスグッズのチェックに来たんだって。もちろん、国見さんのお店のSNSアカウントもフォローしてるその人は、入荷情報だっていち早くゲットしてくれてて。その人が今日はとっても元気な接客をしてもらえたって笑ってくれたくらい。
「あの後……何か、あった?」
「……」
何も、ない……よ。
「相談、乗るよ? 話、いくらでも聞くから」
むしろ、何もない。
「だから、今日、夜、食事に誘ってもいいかな」
「…………ぇ」
国見さんは微笑みながら、カウンターの上をあっという間に整えてくれた。
「君と……」
そして、魔法みたいに服を綺麗に畳んでしまう長い指がそっと、遠慮がちに、俺の少し冷たくなってた指先に触れた。
「食事がしたい」
国見さんの指先はとてもあったかかった。
話を聞いてもらうことなんて、何もない。
「……今日は、帰りにちょっと外でご飯食べてきます……」
旭輝へのメッセージ、これだけでいいかな。何かもっと付け加えるべき? ほら、今日は旭輝は仕事休みだから、一緒にご飯をって用意してくれてるかもしれなくて、だから、ちゃんと食べませんって言っておかないと、でしょ? お昼休憩、コンビニで買ってきたお弁当を食べる手を止めて、少し考えてみる。
「……うーん」
どうだろ。理由なんて、そんなの別に旭輝にしてみたら関係のないことって感じ? だよね。
「……」
少し考えて、そのまま送信することにした。
だって、「職場のオーナーと食事してきます」なんて言われたって、そっか……って感じでしょ? 旭輝にしてみたら、食事の相手がオーナーの国見さんでも友達の陽介でもきっと何も変わらないから。
そこに何もないのに、わざわざ言う必要ないかなって。
お昼休憩の間、ずっと考えていた。ずっとずっと考えて結局それ以上は何も付け足さないことにした。
「さ、お昼休憩おわりー……」
ただの食事だし。
そう、話なんてすることひとつもない。相談したいこともない。
だってさ、何にもないもん。
始まってないし終わってないし。そもそもないし。
「……午後もお仕事、がんばろー……」
好きって気がついて、その好きはもうすでに「終わり」ってなっただけ。旭輝にはずっと好きな人がどこかにいるし、ノンケだし。だから、始まらずに終わっただけ。
国見さんに話を聞いてもらう必要なんて、ちっともない。だからただ、ただ、ご飯、美味しいといいなぁって思いながら、お仕事の笑顔を作ってみた。
「……よしっ」
そして、お店の方へと戻ると、店内は結構な混み具合で。
「わ……ぁ、いらっしゃいませ」
お昼ご飯食べ終わって、旭輝にメッセージ送って、でもまだ少しだけ休憩時間残ってたんだ。十分くらい。でも、一人休憩室にても旭輝からの返事をソワソワ待っちゃいそうだし。
「はい。こちらのサイズ違いですね」
その返事がどんなものか、ちょっとビビるっていうか、なんか……ね。
「りょーかい」ってだけだったら、なんかちょっとしょんぼりしそうで、だから、メッセージへの返信を待つことのないように自分からスマホをロッカーに押し込めて、その場を離れた。
「聡衣君」
「ハイっ」
「ありがとね」
ただ返信が気になりすぎるから休憩を十分早く切り上げただけだけれど、お店の中は混雑してて、国見さん一人だとちょっと大変そうだった。だから、これで正解だ。
ホッと微笑んでくれる国見さんに笑顔を向けながら、これが正解って、思った。
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