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28 なんか、なんだか
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あれ、ズルくない?
山ほどの女性から、山ほどのプレゼントもらってるでしょ?
あんなタイピンなんて、あんなって言ったら、海外から買い付けた国見さんに失礼だけど、でも、タイピンとかいくらだってもらったことあるでしょ?
――あ、ぁ……。
なのに、あそこでぶっきらぼうな返事も。頬赤くするのも。
「……ズル」
でしょ。
咄嗟に手で覆って隠すのとかも、すごいズル。
ギャップみたいなのは、反則だ。
エリートなのに。
モテるくせに。
女ったらしなくせに。
あそこで赤くなるのは反則。
「ズル、がどうかした?」
「! あ、いえっ」
びっくりした。
掃除をしていたら、隣に国見さんがやってきて、にっこりと笑いながら首を傾げた。
「なんでもないです」
「昨日は初出勤、疲れたでしょ?」
「え? あ、いえっ」
「そう?」
今、オープン前の清掃中。真っ赤なテーブルクロスの上、昨日まではそこに並んでいたタイピンの場所の陳列を直しながら、あの時の久我山さんを思い出してた。
少し不機嫌そうだったんだよね。
疲れてたんだと思う。仕事が仕事だから、色々あったんだろうなぁって。俺には到底思いもつかない色々な苦労があるんだろうし。
そんな久我山さんに英語を教えてもらえることになって、部屋だって作ってもらって、日々の食事、は最近俺が作ってるけど、その他諸々、たくさんお礼しないとじゃん。タイピン一つじゃ足りてないけど、でも、すごく素敵だったそのタイピンを渡したら、真っ赤な顔をした。
その真っ赤と、この真っ赤なテーブルクロスが重なったっていうか。
一瞬のことですぐに隠しちゃうし、すぐにビジネス英語のレッスン始まっちゃって、もうそれどころじゃなくなっちゃったけど。
でも、真っ赤な顔をされてさ。
「友達?」
「へ?」
「いや、昨日、タイピン買って行ったでしょ? ラッピングしていったし。少し、聡衣君っぽくないというか、失礼だけど、君なら、」
そう言って、国見さんがそばにあった、紫色の石が装飾されたタイピンを指差した。
確かに、自分がするためなら、昨日のじゃなくて、今、国見さんが指差してるそれにすると思う。素敵だし。色が綺麗だった。
「あぁ、まぁ、そう、かな。友達、です。色々、お世話になってて」
「そうなんだ」
「はい」
そう、お世話になってばっかりだから渡したの。ただそれだけ。お礼を兼ねて。
「いや、プライベートを訊いて失礼だったね」
「いえっ」
「すごく嬉しそうな顔で買っていったし、とても綺麗にラッピングしてたから、大事な人なんだろうなぁって」
「……」
嬉しそうな顔、してたかな。
大事そうに、ラッピングしてた、かな。
そう、かな。
でも、お礼するならちゃんとラッピングしてあげたいでしょ? ただそれだけ。どんな贈り物だって喜んでもらえたらなぁって思うものでしょ? ただ、それだけ。
ホント、ただ。
「あ、聡衣君、そろそろ、オープンだから」
「! あ、はい! 今、掃除終わります!」
ただ、それだけ……だよ。
「……げ……えぇ?」
まさかの英語レッスン、すでにスタートって感じですか?
「あ、アイルビー……ゼア……スーン? もう帰るってこと?」
お店から帰ってきて、夕飯作ってた。今日はパスタがいいなぁって思って。超簡単レトルト、けれど、レトルトだと侮るなかれトマトクリームソースって絶対に自分で作るよりも美味しいに決まってる! っていうのにした。それからサラダと。サラダにはモッツアレラチーズ入れて。
見た目もいい感じ!
そして何より美味しそう!
「えぇ? これ、返事を英語で打つ感じ? OKです、とかじゃダメなんだよね」
お店とかで使えるようにって教えてもらってるわけだし。
もう料理なんて呼べないけど、サラダを俺と久我山さんの席の間において、あとは、パスタを茹でながら、隣のお鍋でレトルトのソースを温めるだけで大丈夫。
返事をなんて打とうって考えながらソファに膝を抱えて座って。
「えーと……」
スマホに入れた翻訳アプリを使いながら返事を打って。
「あ……」
そっか。このアプリ、使えばいいんじゃん。
何も忙しい久我山さんに頼まなくても、これで使えそうなフレーズいくつかピックアップして丸暗記しておけばさ。本当に交渉とか、応対とかは国見さんがするんだし。俺は電話の取り継ぎ係なだけなんだから。そしたら、久我山さんだって、楽――。
「……」
「ただいま」
「!」
玄関からパタンと音がして、久我山さんが部屋に。
「おかえりなさい」
入ってきた。
「返事、OKとかじゃなく、ちゃんと打てたんだな」
「あ……うん」
翻訳アプリ丸写しの返答だけどね。
これがあれば電話の取り継ぎくらいなら楽にこなせそうだよ? 日本語の文章打って、変換、英語ってすればいいんだもん。暮らすのは無理でも、このアプリあれば旅行くらい行けちゃいそう、かも。
「もう少し早く帰る予定だったんだ。聡衣だって仕事で疲れてるだろうし。俺も料理しようと思ったんだが」
大丈夫だよ。今日は超手抜きのレトルトですから。
「帰り際に電話が入って」
「……うん」
「食べ終わったらレッスンするか」
「あ、あのっ」
朝は会わないから。久我山さん、出勤するの早いし。俺はオープン一時間前に出勤すればいいわけで、しかも歩いて数分のところだし。だから朝、会わなくて。
だから、久我山さんに会ってなくて。
見てなかった。
ネクタイのとこ。
「ありがと……使ってくれて」
タイピン、してくれてる。
「あぁ、礼をいうのは俺だろ。ありがとう。気に入った」
「……」
目を細めて笑ってくれた久我山さんが大事そうにそのタイピンを外して、ネクタイを緩める。
それを見ながら、言わなかった。
「ご飯、食べよっ! もうあっためるだけだからっ!」
翻訳アプリあるんだよって、言わなかった。
翻訳アプリがあるからレッスンなくても平気だよって。
なんか……言わなかった。
山ほどの女性から、山ほどのプレゼントもらってるでしょ?
あんなタイピンなんて、あんなって言ったら、海外から買い付けた国見さんに失礼だけど、でも、タイピンとかいくらだってもらったことあるでしょ?
――あ、ぁ……。
なのに、あそこでぶっきらぼうな返事も。頬赤くするのも。
「……ズル」
でしょ。
咄嗟に手で覆って隠すのとかも、すごいズル。
ギャップみたいなのは、反則だ。
エリートなのに。
モテるくせに。
女ったらしなくせに。
あそこで赤くなるのは反則。
「ズル、がどうかした?」
「! あ、いえっ」
びっくりした。
掃除をしていたら、隣に国見さんがやってきて、にっこりと笑いながら首を傾げた。
「なんでもないです」
「昨日は初出勤、疲れたでしょ?」
「え? あ、いえっ」
「そう?」
今、オープン前の清掃中。真っ赤なテーブルクロスの上、昨日まではそこに並んでいたタイピンの場所の陳列を直しながら、あの時の久我山さんを思い出してた。
少し不機嫌そうだったんだよね。
疲れてたんだと思う。仕事が仕事だから、色々あったんだろうなぁって。俺には到底思いもつかない色々な苦労があるんだろうし。
そんな久我山さんに英語を教えてもらえることになって、部屋だって作ってもらって、日々の食事、は最近俺が作ってるけど、その他諸々、たくさんお礼しないとじゃん。タイピン一つじゃ足りてないけど、でも、すごく素敵だったそのタイピンを渡したら、真っ赤な顔をした。
その真っ赤と、この真っ赤なテーブルクロスが重なったっていうか。
一瞬のことですぐに隠しちゃうし、すぐにビジネス英語のレッスン始まっちゃって、もうそれどころじゃなくなっちゃったけど。
でも、真っ赤な顔をされてさ。
「友達?」
「へ?」
「いや、昨日、タイピン買って行ったでしょ? ラッピングしていったし。少し、聡衣君っぽくないというか、失礼だけど、君なら、」
そう言って、国見さんがそばにあった、紫色の石が装飾されたタイピンを指差した。
確かに、自分がするためなら、昨日のじゃなくて、今、国見さんが指差してるそれにすると思う。素敵だし。色が綺麗だった。
「あぁ、まぁ、そう、かな。友達、です。色々、お世話になってて」
「そうなんだ」
「はい」
そう、お世話になってばっかりだから渡したの。ただそれだけ。お礼を兼ねて。
「いや、プライベートを訊いて失礼だったね」
「いえっ」
「すごく嬉しそうな顔で買っていったし、とても綺麗にラッピングしてたから、大事な人なんだろうなぁって」
「……」
嬉しそうな顔、してたかな。
大事そうに、ラッピングしてた、かな。
そう、かな。
でも、お礼するならちゃんとラッピングしてあげたいでしょ? ただそれだけ。どんな贈り物だって喜んでもらえたらなぁって思うものでしょ? ただ、それだけ。
ホント、ただ。
「あ、聡衣君、そろそろ、オープンだから」
「! あ、はい! 今、掃除終わります!」
ただ、それだけ……だよ。
「……げ……えぇ?」
まさかの英語レッスン、すでにスタートって感じですか?
「あ、アイルビー……ゼア……スーン? もう帰るってこと?」
お店から帰ってきて、夕飯作ってた。今日はパスタがいいなぁって思って。超簡単レトルト、けれど、レトルトだと侮るなかれトマトクリームソースって絶対に自分で作るよりも美味しいに決まってる! っていうのにした。それからサラダと。サラダにはモッツアレラチーズ入れて。
見た目もいい感じ!
そして何より美味しそう!
「えぇ? これ、返事を英語で打つ感じ? OKです、とかじゃダメなんだよね」
お店とかで使えるようにって教えてもらってるわけだし。
もう料理なんて呼べないけど、サラダを俺と久我山さんの席の間において、あとは、パスタを茹でながら、隣のお鍋でレトルトのソースを温めるだけで大丈夫。
返事をなんて打とうって考えながらソファに膝を抱えて座って。
「えーと……」
スマホに入れた翻訳アプリを使いながら返事を打って。
「あ……」
そっか。このアプリ、使えばいいんじゃん。
何も忙しい久我山さんに頼まなくても、これで使えそうなフレーズいくつかピックアップして丸暗記しておけばさ。本当に交渉とか、応対とかは国見さんがするんだし。俺は電話の取り継ぎ係なだけなんだから。そしたら、久我山さんだって、楽――。
「……」
「ただいま」
「!」
玄関からパタンと音がして、久我山さんが部屋に。
「おかえりなさい」
入ってきた。
「返事、OKとかじゃなく、ちゃんと打てたんだな」
「あ……うん」
翻訳アプリ丸写しの返答だけどね。
これがあれば電話の取り継ぎくらいなら楽にこなせそうだよ? 日本語の文章打って、変換、英語ってすればいいんだもん。暮らすのは無理でも、このアプリあれば旅行くらい行けちゃいそう、かも。
「もう少し早く帰る予定だったんだ。聡衣だって仕事で疲れてるだろうし。俺も料理しようと思ったんだが」
大丈夫だよ。今日は超手抜きのレトルトですから。
「帰り際に電話が入って」
「……うん」
「食べ終わったらレッスンするか」
「あ、あのっ」
朝は会わないから。久我山さん、出勤するの早いし。俺はオープン一時間前に出勤すればいいわけで、しかも歩いて数分のところだし。だから朝、会わなくて。
だから、久我山さんに会ってなくて。
見てなかった。
ネクタイのとこ。
「ありがと……使ってくれて」
タイピン、してくれてる。
「あぁ、礼をいうのは俺だろ。ありがとう。気に入った」
「……」
目を細めて笑ってくれた久我山さんが大事そうにそのタイピンを外して、ネクタイを緩める。
それを見ながら、言わなかった。
「ご飯、食べよっ! もうあっためるだけだからっ!」
翻訳アプリあるんだよって、言わなかった。
翻訳アプリがあるからレッスンなくても平気だよって。
なんか……言わなかった。
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