10 / 15
第9話 心理戦の幕開け②
しおりを挟む
陣野は自分の席に座ると、ドカッと椅子に深く座り、机の上に足を投げ出して座った。周りの生徒達は完全に引いている。
何度か鳴海先生が注意をすると、彼はやがて不本意そうに足をおろした。
「じゃあ連絡は以上! あっ、今週末にはロングホームルームで男女一人ずつ委員長を決めるから、立候補したい人は考えといてね」
そう言うと鳴海先生は教室を出ていった。
なんとなく、前の席に座る相羽さんの背中がしゅんとしているように見えた。
俺はカバンの中から銀の包装紙の包みを取り出すと、それでツンツンと彼女の肩をつついた。
「五十嵐くん……?」
「チョコ、苦手じゃないか?」
今朝、アパートを出る前に叔母の部屋に顔を出したら彼女がくれたものだ。
「うん……ありがと。さっきも助けてくれてありがとね」
相羽さんが言っているのは、俺が机を吹き飛ばしたことだろう。
「ふふっ、純二くん優しー」
「別に……もらい物をしたが俺は甘いものがあまり得意じゃないってだけだ。相羽さんが食べてくれたら俺も助かる」
後ろで海原さんがニヤニヤと笑みを浮かべているので、適当に言い訳を作って俺もひとつチョコを口に放り込んだ。……うまい。
「――てかさ……さっきの机の軌道、狙ってやったの?」
と、またしても海原さんは急に声のトーンを落として耳元で俺だけに聞こえるように囁いて来る。
昨日と同様、背筋がゾクッとするのを感じた。
「2つの机が衝突した後、綺麗に誰にもぶつからない方向に飛んで行った気がするんだけど」
「まさか……とっさに蹴飛ばしたら偶然うまく行っただけだ」
沈黙が流れる……やがて海原さんはまたいつもの声のトーンにもどって「だよねー」と無邪気に微笑んだ。
そしていつものように他愛のない会話を始める。
「週末は委員長決めかー。なんとなく、賀藤くんと凪川さんって感じがするなー」
海原さんが言うように、俺もそうなるだろうと踏んでいた。……このままならば。
だが、果たしてそれでいいのだろうか。
俺は考える。
このまま賀藤を中心とした陽キャグループが中心となって1年が進んでいくのはどうかと思う。
むろんクラスメイトの大半には、さっきのはちょっとした事故で、賀藤はそれを叱って被害を受けた相羽さんにも気を配るような優しい人間として映っていることだろう。
ただ、俺は彼の笑みには作り物めいたものを感じた。今まで人の顔色を伺い過ぎてきたからか、そう言った雰囲気を俺は表情から読み取ってしまうくせがある。そしてその直感は大抵当たる。
親睦会に参加せず、どちらかというとクラスに溶け込んでいない相羽さんは賀藤がクラスの中心となった場合、比較的クラスが居心地の悪いものとなってしまうのではないか。
海原さんは……まぁどう転んでも上手くやりそうな気がするけど。
それに、俺としても彼らが中心となったクラスで1年間過ごすと言うのは心地のいいものじゃない。
……少しだけ仕組んでおくか。
もちろん自分が目立つようなことは絶対にしない。平穏な高校生活を送ることが俺の目標なのだから。
「むぐ……五十嵐くんどこか行くの?」
俺が立ち上がると、チョコを夢中でもごもごと頬張っていた相羽さんが問いかけてくる。
「あぁ、ちょっとウーロン茶買ってくる。やっぱり朝から甘いものは胸焼けがする」
自動販売機に行くことを口実に教室を出ると、俺はポケットからスマートフォンを取り出した。
そしてメッセージアプリを開くと、ある人物に連絡を入れた。
◇
それから数日後――
「はいは~い! それじゃあ今から委員長を決めま~す。まずは女子から! 立候補したい人はいるかな~?」
学級委員決めのときがきた。俺、賀藤 勝司は愉悦に浸っていた。ふっ、委員長は俺と愛衣で決まりだな。
この1週間で作りあげてきた好感度が俺を裏切るわけがない。もうこのクラスは支配したも同然だ。
「は~い! それじゃあ女子の立候補者は凪川さんと海原さんね。いいね? 締め切るよ?」
心春が立候補して来た……?
まぁ、予想外だが多数決になれば選ばれるのは愛衣だろ。こいつはすでにこのクラスの女子の中心となってる。
「それじゃあ紙を配るから、書けた人からこのボックスの中に入れてね! どっちが選ばれても恨みっこなしだよ~」
やがて全員から紙が回収されると、担任の鳴海がカウントしていく。そして……。
「……ってことで、女子の学級委員長は海原 心春さんです。パチパチ~! 凪川さんも立候補してくれてありがとね!」
は?
なぜだ……なんで急に出てきた心春が選ばれる?
まぁ、確かに心春は初日と比べてクラスメイトと絡むようになってる印象はあったが……愛衣が負けた理由がわからない。
……まぁいい、これで学級委員長は俺と心春の2人になる。
自分から寄ってきたんだからな? 入学式の日、親睦会に誘った俺をあしらったときのことは絶対忘れない。
あのすました表情を、俺がデレッデレに溶かしてやんよ。
そして男子の学級委員長決めのときが来た。
なんか八神 誠とかいういつもノリの悪いヤツが急に立候補してきたが……ぷっ、自分から負けに来てやがる。
お前みたいないつも1人で本読んでいるヤツが選ばれるわけねぇだろ。
そしてもちろん俺も立候補する。やがてカウントが終わり……。
「男子の学級委員長は八神 誠くんに決まりました~!」
は? ……はあぁぁ!?
俺は目の前で起こった出来事が信じられなかった。頭の中が真っ白になり、目の前の光景がボロボロと崩れ落ちていく。
◇
そんな、放心状態となった賀藤 勝司は知る由もなかった。
このとき五十嵐 純二が心の中でほくそ笑んでいることなど。
そして、この1週間に水面下で行われていた壮絶な心理戦のことなど。
学級委員長に選ばれたのが圧倒的だと思われていた賀藤と凪川ではなく、八神と海原になった理由……。
それを知るには、入学式の翌日……陽キャたちがプロレスごっこをして騒動が起こった、あの朝から彼らの動きを見て行く必要があるだろう――
何度か鳴海先生が注意をすると、彼はやがて不本意そうに足をおろした。
「じゃあ連絡は以上! あっ、今週末にはロングホームルームで男女一人ずつ委員長を決めるから、立候補したい人は考えといてね」
そう言うと鳴海先生は教室を出ていった。
なんとなく、前の席に座る相羽さんの背中がしゅんとしているように見えた。
俺はカバンの中から銀の包装紙の包みを取り出すと、それでツンツンと彼女の肩をつついた。
「五十嵐くん……?」
「チョコ、苦手じゃないか?」
今朝、アパートを出る前に叔母の部屋に顔を出したら彼女がくれたものだ。
「うん……ありがと。さっきも助けてくれてありがとね」
相羽さんが言っているのは、俺が机を吹き飛ばしたことだろう。
「ふふっ、純二くん優しー」
「別に……もらい物をしたが俺は甘いものがあまり得意じゃないってだけだ。相羽さんが食べてくれたら俺も助かる」
後ろで海原さんがニヤニヤと笑みを浮かべているので、適当に言い訳を作って俺もひとつチョコを口に放り込んだ。……うまい。
「――てかさ……さっきの机の軌道、狙ってやったの?」
と、またしても海原さんは急に声のトーンを落として耳元で俺だけに聞こえるように囁いて来る。
昨日と同様、背筋がゾクッとするのを感じた。
「2つの机が衝突した後、綺麗に誰にもぶつからない方向に飛んで行った気がするんだけど」
「まさか……とっさに蹴飛ばしたら偶然うまく行っただけだ」
沈黙が流れる……やがて海原さんはまたいつもの声のトーンにもどって「だよねー」と無邪気に微笑んだ。
そしていつものように他愛のない会話を始める。
「週末は委員長決めかー。なんとなく、賀藤くんと凪川さんって感じがするなー」
海原さんが言うように、俺もそうなるだろうと踏んでいた。……このままならば。
だが、果たしてそれでいいのだろうか。
俺は考える。
このまま賀藤を中心とした陽キャグループが中心となって1年が進んでいくのはどうかと思う。
むろんクラスメイトの大半には、さっきのはちょっとした事故で、賀藤はそれを叱って被害を受けた相羽さんにも気を配るような優しい人間として映っていることだろう。
ただ、俺は彼の笑みには作り物めいたものを感じた。今まで人の顔色を伺い過ぎてきたからか、そう言った雰囲気を俺は表情から読み取ってしまうくせがある。そしてその直感は大抵当たる。
親睦会に参加せず、どちらかというとクラスに溶け込んでいない相羽さんは賀藤がクラスの中心となった場合、比較的クラスが居心地の悪いものとなってしまうのではないか。
海原さんは……まぁどう転んでも上手くやりそうな気がするけど。
それに、俺としても彼らが中心となったクラスで1年間過ごすと言うのは心地のいいものじゃない。
……少しだけ仕組んでおくか。
もちろん自分が目立つようなことは絶対にしない。平穏な高校生活を送ることが俺の目標なのだから。
「むぐ……五十嵐くんどこか行くの?」
俺が立ち上がると、チョコを夢中でもごもごと頬張っていた相羽さんが問いかけてくる。
「あぁ、ちょっとウーロン茶買ってくる。やっぱり朝から甘いものは胸焼けがする」
自動販売機に行くことを口実に教室を出ると、俺はポケットからスマートフォンを取り出した。
そしてメッセージアプリを開くと、ある人物に連絡を入れた。
◇
それから数日後――
「はいは~い! それじゃあ今から委員長を決めま~す。まずは女子から! 立候補したい人はいるかな~?」
学級委員決めのときがきた。俺、賀藤 勝司は愉悦に浸っていた。ふっ、委員長は俺と愛衣で決まりだな。
この1週間で作りあげてきた好感度が俺を裏切るわけがない。もうこのクラスは支配したも同然だ。
「は~い! それじゃあ女子の立候補者は凪川さんと海原さんね。いいね? 締め切るよ?」
心春が立候補して来た……?
まぁ、予想外だが多数決になれば選ばれるのは愛衣だろ。こいつはすでにこのクラスの女子の中心となってる。
「それじゃあ紙を配るから、書けた人からこのボックスの中に入れてね! どっちが選ばれても恨みっこなしだよ~」
やがて全員から紙が回収されると、担任の鳴海がカウントしていく。そして……。
「……ってことで、女子の学級委員長は海原 心春さんです。パチパチ~! 凪川さんも立候補してくれてありがとね!」
は?
なぜだ……なんで急に出てきた心春が選ばれる?
まぁ、確かに心春は初日と比べてクラスメイトと絡むようになってる印象はあったが……愛衣が負けた理由がわからない。
……まぁいい、これで学級委員長は俺と心春の2人になる。
自分から寄ってきたんだからな? 入学式の日、親睦会に誘った俺をあしらったときのことは絶対忘れない。
あのすました表情を、俺がデレッデレに溶かしてやんよ。
そして男子の学級委員長決めのときが来た。
なんか八神 誠とかいういつもノリの悪いヤツが急に立候補してきたが……ぷっ、自分から負けに来てやがる。
お前みたいないつも1人で本読んでいるヤツが選ばれるわけねぇだろ。
そしてもちろん俺も立候補する。やがてカウントが終わり……。
「男子の学級委員長は八神 誠くんに決まりました~!」
は? ……はあぁぁ!?
俺は目の前で起こった出来事が信じられなかった。頭の中が真っ白になり、目の前の光景がボロボロと崩れ落ちていく。
◇
そんな、放心状態となった賀藤 勝司は知る由もなかった。
このとき五十嵐 純二が心の中でほくそ笑んでいることなど。
そして、この1週間に水面下で行われていた壮絶な心理戦のことなど。
学級委員長に選ばれたのが圧倒的だと思われていた賀藤と凪川ではなく、八神と海原になった理由……。
それを知るには、入学式の翌日……陽キャたちがプロレスごっこをして騒動が起こった、あの朝から彼らの動きを見て行く必要があるだろう――
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
セフレが義妹になった話
オリウス
恋愛
安城穂高と和泉結菜はセフレだった。そんな二人が親の再婚で一緒に暮らすことに。親に関係がバレないように関係を解消しようと提案した穂高に対し、結菜は積極的に誘惑してくる。果たして、穂高はこの誘惑に耐えられるのか。
貴重な男の中で一番優しいのは俺らしい
クローバー
恋愛
男女比率の違っているお話。
だが、その要素は多すぎず、普通の恋愛話が多目である。
主人公、心優しい25歳、松本修史は訳あって流れ星にお願い事をする。
願いは叶ったが、自分の想像とは斜め上を行った願いの叶い方だった。
かっこよくなって高校生に戻ったかと思いきや、妹がいたり世界の男女比がおかしくなっていた。
修史は時にあざとく、時に鈍感に楽しく学園生活を生きる。
時々下ネタぶっこみますが、許してください。
性的描写がいつしか出てきたとしても許してください。
少しシリアスからのハッピーエンドがあります。
一夫多妻の世界なので、恋人は7人ほど出来る予定です。
もしかしたら14人になるかもしれません。
作者の我慢の限界が来たら…R18的な行為もしてしまうかもしれません。←冗談です。
作者の休日は月曜日なので、月曜日更新が多くなります。
作者は貧乳とロリが好物なため、多少キャラに偏りがありますがご了承ください。
ひんぬー教、万歳!
Twitterで更新するとき言うので、フォローお願いいたします。
@clober0412
クローバー うたっこ
恋する乙女と守護の楯という神ゲーの穂村有里がトプ画です。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる