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メープル王国立魔法学園に入学することになりました!

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「魔法学園前、魔法学園前でーす」

「あっ、降ります!」


車夫さんの声に気付いた私は、急いで馬車から降りた。


「うわあ……大きーい……」


メープル王国立魔法学園の前に立って、見上げると、本当にその大きさや豪華さに圧倒される。

校門をくぐることも忘れてボケ~っと見上げていると……。


「…あっ、見てあの子じゃない?」

「わー、ウワサは本当だったんだ~」

「でもやっぱ、場違いじゃね?」

「確かに。平民なんて入れて、この学園は何を考えてるんだ?」


…………。

これ、もしかしなくても私のことだよね。

ゲームをプレイしていた時もこの場面は見たけど、画面越しと、実際に言われてみるのとじゃ全然違うな……。

大荷物を抱えて突っ立っているのは、必然的にたくさんの人の目を引くので、意を決して豪華な装飾の施された校門をくぐった。


「あ、あいつだろ。平民のくせに魔法が使えるヤツって」

「本当にこの学園に入ったんだ」

「学園の評価が落ちないといいけどな」

「………………」


ーーヒソヒソ、ヒソヒソ

ーーヒソヒソ、ヒソヒソ


……もう、うるさいっ!!

さっきから一体何なの、この陰口の多さは!

言っとくけど、場違いなのも平民なのも、全部自覚してるよ!


「あの、私について文句があるなら直接……」

「「「「キャーーーーーー!!!」」」」

「!?」


こ、今度は何!?

突然、周りの生徒からものすごい大きさの悲鳴が上がった。

黄色い悲鳴の矛先を目線だけで探るっていくと……。


「……っ!!」


の姿を見つけた瞬間、吸い寄せられるように、 そちらに目が行った。

自分たちに視線が一気に集まっても、堂々としている……いや、むしろ気にしていない姿は、さすがとしか言いようがない。

リリス公爵家令嬢である、メアリー・リリス様。

メアリー様の婚約者で、この国の第2王子、
シェア・テイラー様。

幼い頃からメアリー様に仕えている、護衛のクレイ・ディアス様。

爵位は低いけれども、世界的に有名な大手企業の子息であるキアン・フォスター様。

そして、メアリー様と同じく公爵家で、ルイス公爵家子息のアーク・ルイス様。

この5人が、私が3年前に出会いイベントを発生させてしまった人たち。

乙女ゲームの悪役令嬢と攻略対象で、メインキャラクターだ。

私はカバンからいつものノートを取り出して顔と名前を確認する。

……やっぱり、ゲームとはかなり設定が違う。

ゲームでは、学園の中で、ヒロインは一人ひとりと、それぞれ別の場所で出会っていた。

でも、今回は出会いイベントがとっくに発生したからなのか、攻略対象と悪役令嬢が一緒に登場している。

最初からこんなに違うんじゃ、きっとこれからもゲームとはかなり違ったストーリーになっていくんだと思う。

すでに違っているのが、メアリー様と仲が良さそうに話している女の子がいること。

きっと友達か何かだと思う。

顔は覚えたけど、名前が分からないから、あとで詳しく調べなくちゃ。

また、いろいろな情報を書いていく。

小さい頃からできる限りの情報を集めていたから、もうノートは軽く10冊を越えている。

魔法で質量は変えてあるから、持ち運ぶ時も別に重くはないけど。

彼らが学園の中に入るのを、生徒と生徒の間から確認してから、私も学園の中へ入った。




「……えーっと、ここどこ…?」


教官室を探すこと早20分。

この学園はものすごく広い割に、同じような作りが続いていて、目印になるようなものがひとつもないので、私はすでに迷子になっていた。

寮用の荷物は受付の人に渡したから多少は軽くなったけど、それでもずっと歩き回っていると、少し疲れてくる。


「はあ~~~~っ……」


廊下にはいくつもの豪華なソファーが置いてあるので、そのうちの1つにボフンと座り込む。

位置魔法を使って現在地や目的地を割り出せたらいいんだけど、私の魔力だと、完璧にその場所の地理や地図などを覚えていないと使えない。

完璧に覚えた場所では、現在地や目的地を割り出す必要もないので、位置魔法は、私にはあまり必要のない魔法になっていた。

…入学式まで一応まだ時間があるし、10分だけ寝てようかな。

そんな甘い考えが頭の中をよぎると、一気に私を睡魔が襲ってきた。


「……こら、寝るな!」

「はい!?す、すみません!」


ってあれ、この声どこかで聞いたような…。

ゆっくり後ろを振り返ると…。


「ア、アーク・ルイス様!?」

「は?」


かわいい顔を歪ませて、若干不機嫌そうな表情で立っていたのは、公爵家子息のアーク様だった。

例の、ゲームでは、私が1番攻略するのが難しかったキャラだ。

ツンデレって言うんだっけ?

……いや、そんなことより、何でまた攻略対象と会っちゃうの!?

3年前の出会いイベントだけで十分なのに!


「俺は、転校してきた平民に対して名前を覚えられるようなことをした覚えがないけど。まさか、どこかで会ったとか?」


アーク様が眉間にシワを寄せながら聞いてくる。

……もしかして、覚えていないの?

それならありがたいです!


「ええと、アーク・ルイス様はとても有名な方ですので……」

「普通平民の前に顔は出さないけど。お前、ここからずいぶんと離れた村の出身だろ?俺は行ったことがないんだ。顔を知られるわけがない」

「うっ…」


私の出身地がバレている…。


「……あっ、思い出した!お前、3年前に俺たちをつけ回して情報を集めていたやつだろ?」

「え、えと、一体何のことでしょう…?私にはさっぱり…」

「ウソをつくな。お前は何が目的なんだ?どうして俺たちに近づくんだ?それに、どうやってこの学園に入った?」

「ーーっ…」


答える隙もないくらい矢継ぎ早に質問を投げかけてくるアーク様。

私を警戒してなのか、アーク様の方から数歩、私から離れた。


「…目的は言えないけれど、あなたたちに近づきたいわけではありません。そして、魔法学園には、正式な形で入学しました!」

「でも、怪しいものは怪しいんだよ。どうして俺たちの情報を集めるんだ」

「……………」

「………これも答えられないのかよ」

「すみません……」


気まずい空気が私たちの間を包む。


「……お前、3年前に言っていたよな?『私に関わるな』と」

「え、はい…」

「これからお前とは、『他人』として接する。3年前のことは全てなかったことにする、いいな?」

「は、い…」


自ら望んだことなのに、こうも激しく拒絶されると、少しだけ堪える。


「俺はお前と同じクラスの学級委員だから、お前の案内を頼まれたんだ。早く行くぞ」

「…はい」


…このままじゃ、危険だ。

こんな風に、疑われている怪しい存在、という認識のままだと、メアリー様に危険が及んだ時、私が疑われる可能性が増える。

それだと、『破滅』の道が近づいてきてしまう。

でも、3年前に『関わるな』と言った手前、どうしたらいいんだろう……。





ーー中等部1年C組の教室の前


後から来たこの組の担任教官だというスコット先生に、合図があるまで廊下で待っているように指示された。

見た感じチャラそうな先生だったな……。


「んじゃ、入っていいよー」

「はいっ!」


うわ、緊張するな…。

前世でも、転校なんて経験したことがないから、どうしたらいいのかよくわからない……。


ーーガラ


教室の扉を開けると、教室のみんなの視線が一気に私に集まった。

その中に、見知った顔がいくつも……。


(……って、メアリー様や攻略対象全員、さらにまだ名前は分からないけど、あの女の子も同じクラス!?)


驚きすぎて、思わず立ち止まってしまった。

ゲームとストーリーはかなり違っているのに、こういう所は、何故ゲームと一緒なんですか……?

しかし、驚いていたのは私だけではなくて、向こうもだった。

血の気の多いキアン様や、メアリー様の護衛のクレイ様は、私の顔を見るなり、立ち上がりかけていた。


「……おーい、エマ・マーフィー、どうした?気後れしたか?わかる、わかるぞその気持ち!ここは金持ち貴族の令嬢や子息ばっかりだもんなあ……」

「え、あ、はあ……」


スコット先生に同情の眼差しを向けられる。

……ここもゲームと一緒だ。


「大丈夫です」


私は一言そう答えると、黒板に名前を書いて、教壇に立った。


「初めまして、エマ・マーフィーと申します。身分は平民なので、中等部からの入学ですが、よろしくお願いします」


向けられたのは、敵意や困惑、嘲りあざけりの視線。

決して歓迎ムードではない視線に晒される。

ゲームでもこんな感じだったし、これは覚悟していたことだったけど、自分の存在が悪い空気を作ってしまうというのは、やっぱり慣れない。

ゲームではヒロインは攻略対象たちに助けられるけど、現実はそう甘くはない。

ここはゲームに似ている世界だけれど、ちゃんと現実だ。

私が助けられるわけがないんだ。


ーーパチパチパチパチ


……え?

突然聞こえた拍手の音。

驚いて、拍手の聞こえた方を見ると、メアリー様とアーク様だった。

……『他人』だと言っていたのに、なんでなんだろう。

それでも拍手の輪は広がっていって、ついには全員が拍手をしてくれた。


「よーし、ということで、異例の入学ではあるが、身分なんて関係なく、みんな仲良くしてやれよ」


平民に仲良くしてくれる人はいるのかな……。

いない気がする。


「じゃあ席は……うん、アークの隣がちょうど空いているな。学級委員だし、面倒見てやれよ」

「え!?」

「はい!?」


私は若干青ざめながらスコット先生を見る。

アーク様も抗議の視線を先生に向ける。

……全く悪気がなさそうに首を傾げる先生。

アーク様もそれに気づくと、「…わかりました」と、不服そうにしながらも返事をした。

……神様、いったい何故、このようなことになるのでしょうか…?

私は緊張しながらアーク様の隣の席に座った。


「………よ、よろしくお願いします…」

「………………………よろしく」


今、だいぶ間があったよね?

返事が帰ってきただけでもまだマシなのかな…?

カバンを机の脇にかけると、中から教科書やノート、筆箱を取り出す。

…ついでに、あの情報ノートも。

確かゲームでは、攻略対象の隣の席になるのは、『その攻略対象を落とすルートに入った合図』のはずだ。

私の隣の席は、攻略対象の1人であるアーク・ルイス様。

もしかして、そういうことなの?


「………いや、それはないか」


第一、この世界の設定はいろいろ変わってしまっているし、アーク様はメアリー様を好きになっている。

仮にアーク様ルートに入ってしまっているとしても、アーク様を落とそうなんていう考えは持っていない。

私の目的は、自身の破滅を回避することだから、そのためにもメアリー様やアーク様を初めとする攻略対象たちとの関わりは最小限にとどめなくてはならない。

それに、彼らにとっても私は、怪しい存在だ。

きっと彼らから私に関わってくることはないと思う。

でも、できれば関わらないまま、怪しい者というイメージを払拭できればいいんだけど……。


「……言っとくけど、お前の世話をする気はこれっぽっちもないからな」


…話しかけられるとは思わなかった。


「はい、分かってます。……でも、自己紹介の時は、助けてくださりありがとうございました」

「なっ…!べ、別に助けたわけではない!」

「そ、そうだったんですか?早とちりしてしまい、申し訳ありませんでしたっ!」

「…………」


アーク様は、耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

…そういえば、アーク様は感謝されたりすると、恥ずかしくなって赤面するんだった。

情報ノートを見て思い出した。

とにかく、アーク様は助けたつもりではなくても、私が助かったのは事実だから、お礼を言えてよかった。

ノートのアーク様の情報を書く欄に、助けてくれたことを追加する。

……そう言えば、メアリー様も拍手をして助けてくれたんだよね。

メアリー様に対しても、きちんとお礼の言葉を言わなければ。




そんなこんなで、私の魔法学園生活は、波乱な空気を含めながらも、ひとまずスタートした。
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