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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第438話 使節団一行を見送って、わたし達は…

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 早朝、わたしは村長を始めとする村の人達と共に、帝都に向かう追悼使節団を見送った。
 わたし?一緒には行けないよ、王族を団長とする正式な使節団にわたしが紛れ込む理由がないもの。

 この村の村長達には、誰かに問われたら「使節団は瘴気の森を越えて来た。」と証言するように予め口裏を合わせてあるの。
 わたしがお願いに行ったら、「聖女様の願われることに否はありません。」と快く受け入れてくれたよ。何その、狂信者のような言葉……。チョッとだけ引いちゃったよ。

 これを徹底するため、早朝使節団が村に転移してきてから村を出発するまでの時間は、子供を家の中から出さないようにお願いしたの。
 子供は嘘をつけないから、子供の口から漏れると拙いと思い目撃されないようにしたんだ。
 これでアリバイ工作はバッチリだと思う。

 そうそう、転移の術のことが信じられなくて、皇帝崩御の知らせに半信半疑だった帝国の大使館の人達、実際にロッテちゃんの村に転移してやっと情報を信用する気になったみたい。

 大使が、

「ここ一、二年、皇后様が入手してくる帝国の情報が妙に早くて正確だったのはこれがあったからなのですね。」

と今更ながら納得していたの。

 以前から転移を利用してわたしやリタさんが頻繁に帝国と往来していること知っていた宰相も、

「こんな機動力を持っているとは……、これでは情報戦では誰も勝てませんな。」

と実際に転移を経験して感心していたよ。


     **********


 使節団を見送りロッテちゃんの村に残されたのは、わたし、ミーナちゃん、ハンナちゃん、リリちゃんの寮の同居人メンバーなんだけど、それに加えてウンディーネおかあさんと何故かネルちゃんまでいる。

 今回どうしても帝国に行くと主張したわたしにみんなが反対したの。
 わたしが一歩も引かないと、今度はミーナちゃんとハンナちゃんが学園を休んででもわたしと一緒に帝国に渡ると言い出した。
 わたしが無茶をしないように監視すると言うの。それで、この状況なの…、なんだかなぁ…。

 ウンディーネおかあさんはあれからずっと一緒にいる。
 寮でも毎晩ハンナちゃんとウンディーネおかあさんと三人一緒に同じベッドで寝ているの。
 いや、リリちゃんが羨ましそうにしていたので、リリちゃんとハンナちゃんは代わり番こか。
 ともかく、ウンディーネおかあさんは片時もわたしから目を離すまいとしているようだった。
 心配しすぎだと思うの……。


 そして、いつもとは違う顔ぶれのネルちゃん。

 あの日、ザイヒト皇子を王都へ連れ帰ろうとしたら、

「ネルもザイヒトお兄ちゃんと一緒に行く!」

と言い出した。

 公式行事に幼子、しかも平民のネルちゃんを連れて行くのはどうかなと思ったいたの。

 すると、母親の死に沈んでいたザイヒト皇子が言ったの。

「おお、ネル。そなた、一緒に来てくれるか。」

「うん、ザイヒトお兄ちゃん、ネルはいつも一緒にいるよ。
 だから、元気出して。」

 ザイヒト皇子の言葉に、皇子の手を取って返事をしたネルちゃんを誰も止めることは出来なかったの。

 結局、ネルちゃんを王都へ連れて戻ることになり、ネルちゃんはザイヒト皇子と共にヴィクトーリアさんとの許で数日過ごした。
 その間、元気の無いザイヒト皇子をかいがいしく世話していたらしいよ。

 そのネルちゃん、今は貴族のお嬢さんのような姿をしている。
 やっぱり、孤児院の服で王宮内をウロチョロさせる訳にはいかなかったから。
 慌ててハンナちゃんがネルちゃん位の頃に着ていた服を探し出して着せたの。
 他にも事情を聞いたミルトさんが、フローラちゃんの小さな頃の服を探し出してくれたよ。

 でも、流石に公式の使節団に同行させる訳にはいかない。
 ここからはわたし達と一緒に帝都近郊の精霊の森で待機してもらう。

 ネルちゃんはザイヒト皇子の事が心配なようで、一緒に行きたそうな顔をしていたの。
 それでも、本当に頭の良い子で、ここで別れて待機することに不満の一つも漏らさなかったよ。

「ザイヒトおにいちゃんが帝都に着いたら合流できるみたいだから元気出してね。
 皇后様たちも一緒だから平気だよね。」

 ザイヒト皇子を気遣う様子が印象的だったよ、どっちが年上なのよと突っ込んだらダメかな…。

 その後、わたし達は久し振りに再会したロッテちゃんも伴って、ウンディーネおかあさんの術で帝都近郊の屋敷に転移したの。
 フェイさん?いつもわたしの傍にいてくれる上位精霊のみんなは連絡要員と魔導車の運転手を兼ねて使節団と一緒に行ってもらった。
 その方が、不測の事態に対処できるからね。


     **********


 そして、帝都近郊の精霊の森、その中に設けた屋敷で寛いでいるとネルちゃんが不安げに言う。

「ねえ、ターニャお姉ちゃん、ザイヒトお兄ちゃん大丈夫かな。」

「心配要らないわ、ネルちゃん。
 使節団一行の状況は逐一把握できるようにしているし、最強の護衛も付いているわ。」

 そう、毎晩フェイさんがここに来てその日の出来事を報告してくれることになっている。
 また、不測の事態が生じたときは、ミルトさんかフローラちゃんが魔導通信機で連絡してくれることになっているんだ。

 それに、普段わたしを守ってくれている上位精霊が使節団についているんだ、万が一があろうはずがない。

 それを説明するとネルちゃんは納得したようだけど、ザイヒト皇子に目が届かないのが気が気でないらしい。まったく、この子は……。

 
 その晩、ネルちゃんに説明した通りフェイさんから一日の報告があった。

 ロッテちゃんの村からオストエンデまでは十シュタット弱、早朝の出発で時間に余裕があったことから、途中村々に立ち寄って皇帝の崩御と皇后の帰国を触れ回りながら進んだそうだ。

 帝都から三十シュタット以上離れていることから、皇帝崩御の知らせは東部辺境の村までは届いていないようだった。ロッテちゃんの村の村長も知らなかったしね。

 フェイさんの話ではオストエンデの町にもまだ情報が入っていなかったらしい。
 追悼使節団一行がオストエンデの領主館を訪れたら、対応に出た領主代理という人が驚いていたらしい。

 領主が不在なため、対応に出てきた領主代理は十二台もの魔導車を連ねてやってきた一行に驚いて何の集団かを尋ねてきたそうだ。

 事務方筆頭のリタさんが、自分達は崩御された皇帝の追悼のため国王から遣わされた使節団で、同時に王国で病気静養中だった皇后様を葬儀参列のためにお連れしたと返答したそうだ。
 それを聞いた領主代理は寝耳に水だったようで、目の玉が飛び出るほど驚いていたと言う。

 ただ、帝国でも帝室と一部の大貴族しか所有していない魔導車を多数連ねてきた一行を疑うことも出来ず、領主代理は慌てて一行を迎え入れたそうだ。
 そこには芝居をしている様子は見られず、本当に皇帝の崩御を知らなかったようだとのこと。

 この時、領主代理は魔導車から降りたヴィクトーリアさんを忌々しそうに見ていたという。

 その日の晩餐、案の定、領主代理はおイタをしたそうだ。
 だけど、予め一行が口にするものは全て浄化するように光のおチビちゃん達にお願いしておいたの。
 そのため、一行は誰もおイタに気付かず、見事にスルーしたそうだ。唯一人(?)、ヒカリを除いて。
 ヒカリはミルトさんに危害を加えようとしたことに怒りだしそうだったらしいけど、おチビちゃん達が事を荒立てないように宥めていたそうだ。

 そう、オストエンデの領主は敵であることが確定だね。
 今回のこの旅程は、旗色がはっきりしない領主が敵か見方かを見極める意味もあったの。
 だから、なるべく事を荒立てないようにやり過ごすことにしたんだ。

 領主代理は一行が平然としているものだから臍を噛む思いだったろうね。
 わたしはフェイさんに、不在だという領主がどんな人物か調べて欲しいとお願いしたの。

 こうして、皇帝崩御の情報は図らずも東部辺境からも帝国各地へ広がることになった。



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