427 / 508
第15章 四度目の夏、時は停まってくれない
第426話 小さい頃はおかあさんと一緒に寝ていました
しおりを挟む泥酔していた男が立ち去った後。
「おかあさんはこれからどうするの?」
わたしはウンディーネおかあさんに今後の予定を聞いてみたの。
「特には決めていないわ。
帰ろうと思えばすぐにも帰れるし、私には宿も食事も要らないから適当にふらつくつもりよ。
この辺に立ち寄るのも二千年ぶりだし、ゆっくり見て回るのも良いわね。」
それを聞いたハンナちゃんがウンディーネおかあさんに抱きついたの。
そして、
「じゃあ、ウンディーネ様も一緒に行こうよ。
ハンナたちはしばらくこの近くでのんびり過ごすつもりなの。
みんな一緒の方が楽しいよ。
それでね…、夜はターニャお姉ちゃんとハンナと三人で一緒に寝るの。」
ウンディーネおかあさんも一緒に行こうと誘った。
ハンナちゃんの可愛いおねだりにウンディーネおかあさんは相好を崩して言ったの。
「ハンナちゃんは嬉しいことを言ってくれるのね。
そうだね、ターニャちゃんとも一緒に旅したことはなかったわね。
ターニャちゃんは森を離れるまで、森から一歩も出たことなかったから。
それも良いね。
ターニャちゃん、一緒に言ってもいいかしら。」
もちろん、わたしに否はない。ハイジさんも頷いているし、大丈夫だろう。
「もちろん、お母さんと一緒に旅が出来るなんて嬉しいな。」
こうして、ウンディーネおかあさんがしばらく一緒に旅することになったの。
**********
その晩、ホテルの寝室で。
「わーい、今日からウンディーネ様も一緒だ、嬉しいな!」
ハンナちゃんを中央にわたしとおかあさん、三人揃ってベッドに入るとハンナちゃんがはしゃいでいる。
こんな無邪気なハンナちゃんは久し振りに見た気がする。
「まあ、ハンナちゃんは可愛いわね、小さい頃のターニャちゃんを見ているようだわ。
ハンナちゃんよりまだ小さかった頃は、私達が交代でターニャちゃんと一緒に寝たのよ。」
わたしは小さな頃一人では寝付けずによくぐずったらしい。
そのため、五人のお母さんが交替で一緒に寝てくれたの。
それぞれ、寝物語に色々な話を聞かせてくれたのだけど…。
ウンディーネおかあさん以外はわたしを拾うまで積極的に人に関ろうとはしてこなかった。
それこそ、気まぐれに人の手助けをしたことがあるくらい…。
そんな中で、ウンディーネおかあさんだけは人の子供を育てた経験があり、その子の思い出を色々聞かせてもらったの。
その子供が今お世話になっている国の王祖だとは教えてくれなかったのだけど。
その子供と旅をした話は、ちょっとした冒険譚みたいでワクワクしながら聞いたっけ。
「ハンナも捨てられる前はお母さんと一緒に寝ていたの。
うんとね、ウンディーネ様と一緒にいるとお母さんといるみたいで安心するんだ。
今日は、お母さんとお姉ちゃんと一緒に眠れて凄くうれしいの。」
「そう言ってもらえると私も嬉しいわ。
本当のお母さんだと思って甘えていいのよ。」
ウンディーネおかあさんの言葉を聞いてハンナちゃんが尋ねた。
「でも、ウンディーネ様ってみんなのお母さんみたいな感じがする。
今日の酔っ払いにもあんな失礼なことを言われたのに優しい目で見ていた。
まるでお母さんが自分の子を見るような目をしていたよ。
あの時なんで怒らなかったの?」
「うん、昼間のことかい?
あんなの可愛い孫が駄々をこねているようなものよ。
ハンナちゃんは知っているよね、この国は私の娘が創った国だって。
私の娘が生涯をかけて築き上げた国だもの、愛おしいに決まっているでしょう。」
ウンディーネおかあさんは、ヴァイスハイトさんが国民一人一人をわが子のように慈しんでいたとして、その末裔達なのだから自分の孫のようなものだといった。
孫が癇癪を起こしているのだと思えば、それすら可愛く見えるというの。
それに、ラインさんのお父さんがあの商人に、森や泉が大切なものだから絶対に伐るのを許さないと言った事が凄く嬉しかったらしい。
今日実際に森と泉を見て、その言葉通りに大切に守られているのが分かったと言う。
「ハンナちゃん、あの酔っ払いの言葉くらいで一々腹を立てていてもキリがないわ。
それにね、自分と意見が違うからって、聞く耳を持たないのはダメよ。」
ウンディーネおかあさんは、色々な考え方の人がいるから、人って面白いのだと言った。
狭量な人になったらダメだよとわたし達を戒めたの。
ただ、人には自分で決める自由があるのだから、ある特定の考えを一方的に押し付けるのはダメと諭してくれたの。
あの酔っ払いは自分の考えを一方的に領主に押し付けようとしているところがダメだと言うの。
「それに、あの酔っ払い、結構良いことを言っていたわ。
やっぱり雪に閉ざされる冬場は人にとって辛いものなの。
あの酔っ払いが作りたいと言っていた施設みたいなモノがあれば喜ぶ人が多いと思うわよ。」
ヴァイスハイトさんが人の社会に出た頃は、今よりも文化も技術も遅れていて建物も粗末な掘っ立て小屋のような物だったという。
そんな社会では雪に閉ざされる冬は、人にとって恐怖でしかなかったと教えてくれたの。
ヴァイスハイトさんは冬を越えられなかった命を目にして何度も心を痛めたそうだ。
そんな様子を見ているので、ウンディーネおかあさんは人にとって冬は辛いものと認識しているみたい。
冬場の雪国に雪を気にせずに出かけられる所があれば喜ぶ人も多いだろうって、あの酔っ払いの言ったことに感心していた。
「ただ、別に他の人が大切にしているものを壊してまで作るものではないわね。
今日見て分かったと思うけど、この町の多くの人の憩いの場になっているの。
他所から来た人みたいだからそこが分かっていないのね。」
あの酔っ払いは自分の考えに凝り固まって視野が狭くなっているのだとウンディーネおかあさんは言うの。
別にあの森の拘らなくても他の場所でも良いだろうって。
最後にウンディーネおかあさんが、
「ターニャちゃんも、ハンナちゃんも、意見や立場が違う人の言葉をキチンと聞くことが出来るような度量の広い大人になってね。
色々な考え方の人がいるから人って面白いし、人の社会は進歩するのだから。」
と話を終える頃には、ハンナちゃんはウンディーネおかあさんに抱きついてスヤスヤと寝息を立てていた。
「あらら、寝ちゃったわ。
少し堅い話をしすぎたかしら?」
ウンディーネおかあさんが気に病んでいるけど、気にする必要はないと思う。
ハンナちゃんは、いつもこのくらいの時間にはお眠だから。
ほどなくして、わたしもウンディーネおかあさんに寄り添ったまま眠りに落ちたのでした。
5
お気に入りに追加
2,274
あなたにおすすめの小説
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる