409 / 508
第15章 四度目の夏、時は停まってくれない
第408話 報・連・相は大切です、ですが……
しおりを挟む
朝一番でヤスミンちゃんの村を発つ予定だったのに、果樹園造りをしたものだから出発がお昼になってしまった。
小一時間で、デニスさんをハンデルスハーフェンに送り届けたのだけど。
それから他の村に回るには如何にも中途半端な時間になってしまった。
出かけた先で夜になることを心配したデニスさんは、今日はこの商会の客室に泊まっていったらどうかと勧めてくれた。
この商会にある客室は以前職業体験の時に泊めてもらったけど、非常に立派な部屋で貴族を泊めても支障のない部屋だったはず。
わたしが思案しているとハイジさんが耳打ちをしてきた。
ハイジさんの言うことももっともなので、わたし達はデニスさんの申し出を丁重にお断りし、ここを辞すことになったの。
「ターニャちゃん、有り難うね。わたしの勝手な希望を聞いてもらえて。」
ハイジさんは申し訳なさそうに言うけど、空いてしまった時間だ、有効に利用した方が良いに決まっている。
わたし達はハンデルスハーフェンの町を出ると周囲に広がる森に沿って車を進め、人目が付かないところに隠れるように設けられた道を使って森に踏み入れた。
森を抜けると目の前に現れたのはお馴染みの形をした木造の館、ソールさん達がハンデルスハーフェンに設けてくれた拠点だ。
「なっ、こんな森の中に立派なお屋敷が……。」
屋敷を見て絶句するヤスミンちゃんにわたしは告げる。
「ようこそ!わたしの屋敷に。」
だけど、今日はこの屋敷に用があるわけではないんだ、わたし達は屋敷には入らずに、裏庭の精霊の泉へ直行したの。
状況が理解できていないヤスミンちゃんの手を引いて、わたし達はフェイさんの力で精霊の道を渡った。そして着いたのは帝都に最も近い精霊の森、目の前にはさっきの館を鏡に映したような館が建っている。
もしかしたら、ヤスミンちゃんは目の前の館がさっきのモノだと思っているかもしれない。
わたしは、ソールさんとフェイさんに連絡役を頼むと、呆けているヤスミンちゃんの手を引いたまま屋敷の中に入った。事情を説明しないとね。
ハイジさんにお願いされたこと、それはヤスミンちゃんの村のことをケントニスさんに報告したいということ。
西部地区にあれだけ大規模な農地を造ったのだ、一刻も早く報告したいだろう。「報・連・相」は大事だと言うものね。
その気持ちが理解できたので、わたしはみんなを帝都近郊へ連れて来たんだ。
まだ、帝都の大使館にはリタさんが駐在しているはずである。
というより、わたしが王都へ送っていないので帰る術を持たないはず。
リタさんはミルトさんから帝都の状況が落ち着くまでこちらで執務をするように言いつかっていた。
ぶっちゃけミルトさん達は北部へ診療活動に出ているはずなので、おいて行かれたのだ。
リタさんも、埃っぽい帝都よりも涼しい北国の方が良かったってこぼしていたもの。
ということで、今頃リタさんがケントニスさんと連絡を取りに走っているはずだ。
その間にわたしはヤスミンちゃんにここの説明をすることにした。
「今いるのは、さっきのハンデルスハーフェン近郊の屋敷ではないの。
ここは、目と鼻の先に帝都が望める場所にあるわたしの屋敷よ。
フェイさんの術で、ここまで転移して来たの。」
わたしは転移の術は秘中の秘だとして、ヤスミンちゃんがハイジさんに仕える以上知っておく必要があると考えて明かしたと伝えたの。
そして、帝国内で活動するためにここと同じような拠点を何ヶ所か設けてあり、転移を使って飛び回っていると話したの。
ヤスミンちゃんはにわかには信じられないと言う顔をしているが今はそれで良いと思う。
すぐに信用するような単純な子ではかえって心配だもの。
まあ、これから来る人を見たら嫌でも信用することになるだろうけどね。
**********
それから、二時間ほど待っただろうか、リタさんに伴われたケントニスさんがやってきた。
なんだ、ケントニスさんが抱えている荷物?ケントニスさんが荷物を持ちこむなんて珍しい…。
ケントニスさんが応接室に入ってくるやいなや、ハイジさんが言った。
「お兄様、喜んでください。
ターニャちゃんがハンデルスハーフェンの近郊の農村に小麦畑を甦らせてくれました。
農業のプロや穀物商が太鼓判を押していました、来年の夏前には多くの小麦が収穫できるって。
西部地区を再び穀倉地帯にする足掛かりができたのです、」
小麦畑がよみがえったのがよっぽど嬉しかったのだろう、挨拶も抜きで喜びを露わに報告するハイジさん。
その勢いにケントニスさんはタジタジだよ。
「わかったから、少し落ち着きなさい、アーデルハイト。
ターニャちゃん、今回も大変お世話になってしまったみたいだね。
心から感謝するよ。本当に君には返しきれない恩が貯まってしまった。」
そう言ってハイジさんを落ち着かせたケントニスさんは続けて尋ねたの。
「ところで、そちらのお嬢さんはどなたかね。
アーデルハイトがいきなり本題に入るものだから、置いてきぼりになっているのだが。」
ヤスミンちゃんの紹介を忘れていることに気付いたハイジさんは恥ずかしげにいった。
「申し訳ございません。
小麦の自給率が改善するかと思うと喜びを抑え切れなかったものですから。
こちらは、その村の村長の娘さんでヤスミンさんと申します。
わたしの侍女として採用しました。」
ヤスミンさんが誰に教えられるでなく自分で思いついて魔法を使って植林を行っていた発想力に感心したとハイジさんは言い。しかもこの歳で領主へ提出する書類仕事を一人でこなしていたとして、将来有望と見込んで採用したと説明していた。
「そうかい、アーデルハイトがそう言うのであれば、間違いないのだろう。
ヤスミンさんというのかい。
私はこの国の皇太子のケントニスだ、アーデルハイトの同母の兄に当たる。
アーデルハイトに仕えることになるなら、私と話すことも多いと思う。
これからよろしく頼むよ。」
目の前にいるケントニスさんを皇太子と知り、硬直してしまったヤスミンちゃん。
ヤスミンちゃんは皇太子などという雲の上の人から直接お声掛かりがあるなどとは思ってもいなかったようで、
「ヤスミンと申します。
精一杯お仕えしますので、よろしくお願い申し上げます。」
やや上ずった声で、それだけ言うのがやっとだった。
その後、ハイジさんはヤスミンちゃんの村の状況を事細かにケントニスさんに報告していた。
ハイジさんは、その村は小麦とリンゴを商品作物として何とか安定した農業経営が見込めそうだと話し、出稼ぎに行った男達も帰ってこれそうだと言っていたよ。
ケントニスさんは、ハイジさんの報告を非常に喜び尋ねてきたの。
「それは良かった。
それで、西部地区を穀倉地帯として復活させようという試みは大分進展しそうなのかい。」
ケントニスさんとハイジさんの期待に水を差すようで申し訳ないけど、ここは少し厳しいことを伝えないといけない。
「土地を復活させることは難しくないのです。
それよりも、再び農地を経営する人が残っている村を探すのが難しそうです。」
幸いにもヤスミンちゃんの村に人が残っていた。
ご婦人方だけだったけど人が村で生活を営み、男衆は単に出稼ぎに行っているだけなので、農地が復活すれば男衆が帰ってくるのが見込めたんだ。
わたしが精霊にお願いして実りをつけさせるのは、飢えを凌ぐ一時の対処法に過ぎない。
普通の人はわたしの真似はできないのだから。
農業は魔法を工夫して肉体的な重労働を減らしたとしても、人手がいるモノなの。
そう、西部地区を魔導車で走って気付いたこと、住民が村を捨てて廃村になってしまった場所があまりにも多いの。
人のいないところに農地は造れないからね。
わたしは、夏休みの残り一月弱をかけて人が残っている村を探して農地の復興を働きかけないといけない。
果たして、どの程度の村が残っているのだろうか。
わたしがそういうとハイジさんは消沈してしまったが、ケントニスさんはそうでもないようだ。
「まだ、始まったばかりじゃないか。
ヤスミンさんの村で小麦畑の復活が見込めそうなだけでも十分な収穫だよ。
その話がまた口コミに乗って伝われば、ヤスミンさんの村に新しく人が入ってくるかもしれない。
そしたら、ヤスミンさんの村が主体となって農地を広げることが出来るかもしれないではないか。
ターニャちゃんやアーデルハイトがこの夏に、そんな村をあと一つでも、二つでも見つけてくれれば、そこが核になって農地が広がっていくかもしれないだろう。
アーデルハイトよ、焦る気持ちは分かるが、もう少し長い目で見ようじゃないか。」
そう言ってケントニスさんはハイジさんを元気付けていたの。
やっぱり、ケントニスさんは良い皇帝になると思うよ。
わたしは、その時はそう思ったのでした……。
**********
ハイジさんの報告が一段落した後のこと。
ケントニスさんが、わたしの方を見て何か言いたそうにしている。
しかし、言い出し難い事なのか、煮え切らない態度なの。
「ケントニスさん、何か言いたいことがあるのではないですか?」
わたしがそう問い掛けるとケントニスさんは意を決したように言った。
「実は私は忙しくて休む間もなかったのだ。
今日、側近に言ってやっと三日ほどの休みを確保することが出来た。
ついては、色々と世話になっている身でこんなことを頼むのは気が引けるのだが…。
一つお願いできないだろうか?」
どうも、わたしに頼みがあるようだけど、色々こちらに恩があることを考えると言い出し難かったみたい。
わたしが続きを促すと、こう言ったの。
「私は帝国に孤児院を設けようと思うのだが、帝国には無いものなのでどのような施設なのかを実際に目にすることができない。
ついては、この休みを利用して孤児院の視察をして見たいのだが。
ポルトの孤児院に私を連れて行ってはくれないだろうか。」
なんだ、そんなことか。別に遠慮しなくてもそのくらいのことならお安い御用だよ。
わたしがそう答えようとすると、リタさんがケントニスさんを汚物を見るような目で見てポソッと呟いたの。もちろん、わたしにだけ聞こえるような小さな声で。
「視察にかこつけてソフィちゃんに会いに行こうと言うのですか。
二十歳の青年が十二歳の女の子に劣情を抱くなんて汚らわしい……。」
いや、さすがにそれは無いと思うよ……、たぶん。
そうじゃなければ、さっきのわたしの評価、ガタ落ちだよ。
小一時間で、デニスさんをハンデルスハーフェンに送り届けたのだけど。
それから他の村に回るには如何にも中途半端な時間になってしまった。
出かけた先で夜になることを心配したデニスさんは、今日はこの商会の客室に泊まっていったらどうかと勧めてくれた。
この商会にある客室は以前職業体験の時に泊めてもらったけど、非常に立派な部屋で貴族を泊めても支障のない部屋だったはず。
わたしが思案しているとハイジさんが耳打ちをしてきた。
ハイジさんの言うことももっともなので、わたし達はデニスさんの申し出を丁重にお断りし、ここを辞すことになったの。
「ターニャちゃん、有り難うね。わたしの勝手な希望を聞いてもらえて。」
ハイジさんは申し訳なさそうに言うけど、空いてしまった時間だ、有効に利用した方が良いに決まっている。
わたし達はハンデルスハーフェンの町を出ると周囲に広がる森に沿って車を進め、人目が付かないところに隠れるように設けられた道を使って森に踏み入れた。
森を抜けると目の前に現れたのはお馴染みの形をした木造の館、ソールさん達がハンデルスハーフェンに設けてくれた拠点だ。
「なっ、こんな森の中に立派なお屋敷が……。」
屋敷を見て絶句するヤスミンちゃんにわたしは告げる。
「ようこそ!わたしの屋敷に。」
だけど、今日はこの屋敷に用があるわけではないんだ、わたし達は屋敷には入らずに、裏庭の精霊の泉へ直行したの。
状況が理解できていないヤスミンちゃんの手を引いて、わたし達はフェイさんの力で精霊の道を渡った。そして着いたのは帝都に最も近い精霊の森、目の前にはさっきの館を鏡に映したような館が建っている。
もしかしたら、ヤスミンちゃんは目の前の館がさっきのモノだと思っているかもしれない。
わたしは、ソールさんとフェイさんに連絡役を頼むと、呆けているヤスミンちゃんの手を引いたまま屋敷の中に入った。事情を説明しないとね。
ハイジさんにお願いされたこと、それはヤスミンちゃんの村のことをケントニスさんに報告したいということ。
西部地区にあれだけ大規模な農地を造ったのだ、一刻も早く報告したいだろう。「報・連・相」は大事だと言うものね。
その気持ちが理解できたので、わたしはみんなを帝都近郊へ連れて来たんだ。
まだ、帝都の大使館にはリタさんが駐在しているはずである。
というより、わたしが王都へ送っていないので帰る術を持たないはず。
リタさんはミルトさんから帝都の状況が落ち着くまでこちらで執務をするように言いつかっていた。
ぶっちゃけミルトさん達は北部へ診療活動に出ているはずなので、おいて行かれたのだ。
リタさんも、埃っぽい帝都よりも涼しい北国の方が良かったってこぼしていたもの。
ということで、今頃リタさんがケントニスさんと連絡を取りに走っているはずだ。
その間にわたしはヤスミンちゃんにここの説明をすることにした。
「今いるのは、さっきのハンデルスハーフェン近郊の屋敷ではないの。
ここは、目と鼻の先に帝都が望める場所にあるわたしの屋敷よ。
フェイさんの術で、ここまで転移して来たの。」
わたしは転移の術は秘中の秘だとして、ヤスミンちゃんがハイジさんに仕える以上知っておく必要があると考えて明かしたと伝えたの。
そして、帝国内で活動するためにここと同じような拠点を何ヶ所か設けてあり、転移を使って飛び回っていると話したの。
ヤスミンちゃんはにわかには信じられないと言う顔をしているが今はそれで良いと思う。
すぐに信用するような単純な子ではかえって心配だもの。
まあ、これから来る人を見たら嫌でも信用することになるだろうけどね。
**********
それから、二時間ほど待っただろうか、リタさんに伴われたケントニスさんがやってきた。
なんだ、ケントニスさんが抱えている荷物?ケントニスさんが荷物を持ちこむなんて珍しい…。
ケントニスさんが応接室に入ってくるやいなや、ハイジさんが言った。
「お兄様、喜んでください。
ターニャちゃんがハンデルスハーフェンの近郊の農村に小麦畑を甦らせてくれました。
農業のプロや穀物商が太鼓判を押していました、来年の夏前には多くの小麦が収穫できるって。
西部地区を再び穀倉地帯にする足掛かりができたのです、」
小麦畑がよみがえったのがよっぽど嬉しかったのだろう、挨拶も抜きで喜びを露わに報告するハイジさん。
その勢いにケントニスさんはタジタジだよ。
「わかったから、少し落ち着きなさい、アーデルハイト。
ターニャちゃん、今回も大変お世話になってしまったみたいだね。
心から感謝するよ。本当に君には返しきれない恩が貯まってしまった。」
そう言ってハイジさんを落ち着かせたケントニスさんは続けて尋ねたの。
「ところで、そちらのお嬢さんはどなたかね。
アーデルハイトがいきなり本題に入るものだから、置いてきぼりになっているのだが。」
ヤスミンちゃんの紹介を忘れていることに気付いたハイジさんは恥ずかしげにいった。
「申し訳ございません。
小麦の自給率が改善するかと思うと喜びを抑え切れなかったものですから。
こちらは、その村の村長の娘さんでヤスミンさんと申します。
わたしの侍女として採用しました。」
ヤスミンさんが誰に教えられるでなく自分で思いついて魔法を使って植林を行っていた発想力に感心したとハイジさんは言い。しかもこの歳で領主へ提出する書類仕事を一人でこなしていたとして、将来有望と見込んで採用したと説明していた。
「そうかい、アーデルハイトがそう言うのであれば、間違いないのだろう。
ヤスミンさんというのかい。
私はこの国の皇太子のケントニスだ、アーデルハイトの同母の兄に当たる。
アーデルハイトに仕えることになるなら、私と話すことも多いと思う。
これからよろしく頼むよ。」
目の前にいるケントニスさんを皇太子と知り、硬直してしまったヤスミンちゃん。
ヤスミンちゃんは皇太子などという雲の上の人から直接お声掛かりがあるなどとは思ってもいなかったようで、
「ヤスミンと申します。
精一杯お仕えしますので、よろしくお願い申し上げます。」
やや上ずった声で、それだけ言うのがやっとだった。
その後、ハイジさんはヤスミンちゃんの村の状況を事細かにケントニスさんに報告していた。
ハイジさんは、その村は小麦とリンゴを商品作物として何とか安定した農業経営が見込めそうだと話し、出稼ぎに行った男達も帰ってこれそうだと言っていたよ。
ケントニスさんは、ハイジさんの報告を非常に喜び尋ねてきたの。
「それは良かった。
それで、西部地区を穀倉地帯として復活させようという試みは大分進展しそうなのかい。」
ケントニスさんとハイジさんの期待に水を差すようで申し訳ないけど、ここは少し厳しいことを伝えないといけない。
「土地を復活させることは難しくないのです。
それよりも、再び農地を経営する人が残っている村を探すのが難しそうです。」
幸いにもヤスミンちゃんの村に人が残っていた。
ご婦人方だけだったけど人が村で生活を営み、男衆は単に出稼ぎに行っているだけなので、農地が復活すれば男衆が帰ってくるのが見込めたんだ。
わたしが精霊にお願いして実りをつけさせるのは、飢えを凌ぐ一時の対処法に過ぎない。
普通の人はわたしの真似はできないのだから。
農業は魔法を工夫して肉体的な重労働を減らしたとしても、人手がいるモノなの。
そう、西部地区を魔導車で走って気付いたこと、住民が村を捨てて廃村になってしまった場所があまりにも多いの。
人のいないところに農地は造れないからね。
わたしは、夏休みの残り一月弱をかけて人が残っている村を探して農地の復興を働きかけないといけない。
果たして、どの程度の村が残っているのだろうか。
わたしがそういうとハイジさんは消沈してしまったが、ケントニスさんはそうでもないようだ。
「まだ、始まったばかりじゃないか。
ヤスミンさんの村で小麦畑の復活が見込めそうなだけでも十分な収穫だよ。
その話がまた口コミに乗って伝われば、ヤスミンさんの村に新しく人が入ってくるかもしれない。
そしたら、ヤスミンさんの村が主体となって農地を広げることが出来るかもしれないではないか。
ターニャちゃんやアーデルハイトがこの夏に、そんな村をあと一つでも、二つでも見つけてくれれば、そこが核になって農地が広がっていくかもしれないだろう。
アーデルハイトよ、焦る気持ちは分かるが、もう少し長い目で見ようじゃないか。」
そう言ってケントニスさんはハイジさんを元気付けていたの。
やっぱり、ケントニスさんは良い皇帝になると思うよ。
わたしは、その時はそう思ったのでした……。
**********
ハイジさんの報告が一段落した後のこと。
ケントニスさんが、わたしの方を見て何か言いたそうにしている。
しかし、言い出し難い事なのか、煮え切らない態度なの。
「ケントニスさん、何か言いたいことがあるのではないですか?」
わたしがそう問い掛けるとケントニスさんは意を決したように言った。
「実は私は忙しくて休む間もなかったのだ。
今日、側近に言ってやっと三日ほどの休みを確保することが出来た。
ついては、色々と世話になっている身でこんなことを頼むのは気が引けるのだが…。
一つお願いできないだろうか?」
どうも、わたしに頼みがあるようだけど、色々こちらに恩があることを考えると言い出し難かったみたい。
わたしが続きを促すと、こう言ったの。
「私は帝国に孤児院を設けようと思うのだが、帝国には無いものなのでどのような施設なのかを実際に目にすることができない。
ついては、この休みを利用して孤児院の視察をして見たいのだが。
ポルトの孤児院に私を連れて行ってはくれないだろうか。」
なんだ、そんなことか。別に遠慮しなくてもそのくらいのことならお安い御用だよ。
わたしがそう答えようとすると、リタさんがケントニスさんを汚物を見るような目で見てポソッと呟いたの。もちろん、わたしにだけ聞こえるような小さな声で。
「視察にかこつけてソフィちゃんに会いに行こうと言うのですか。
二十歳の青年が十二歳の女の子に劣情を抱くなんて汚らわしい……。」
いや、さすがにそれは無いと思うよ……、たぶん。
そうじゃなければ、さっきのわたしの評価、ガタ落ちだよ。
5
お気に入りに追加
2,274
あなたにおすすめの小説
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?
カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。
フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。
女神のチョンボで異世界に召喚されてしまった。どうしてくれるんだよ?
よっしぃ
ファンタジー
僕の名前は 口田 士門くちた しもん。31歳独身。
転勤の為、新たな赴任地へ車で荷物を積んで移動中、妙な光を通過したと思ったら、気絶してた。目が覚めると何かを刎ねたのかフロントガラスは割れ、血だらけに。
吐き気がして外に出て、嘔吐してると化け物に襲われる…が、武器で殴られたにもかかわらず、服が傷ついたけど、ダメージがない。怖くて化け物を突き飛ばすと何故かスプラッターに。
そして何か画面が出てくるけど、読めない。
さらに現地の人が現れるけど、言葉が理解できない。
何なんだ、ここは?そしてどうなってるんだ?
私は女神。
星系を管理しているんだけど、ちょっとしたミスで地球という星に居る勇者候補を召喚しようとしてミスっちゃって。
1人召喚するはずが、周りの建物ごと沢山の人を召喚しちゃってて。
さらに追い打ちをかけるように、取り消そうとしたら、召喚した場所が経験値100倍になっちゃってて、現地の魔物が召喚した人を殺しちゃって、あっという間に高レベルに。
これがさらに上司にばれちゃって大騒ぎに・・・・
これは女神のついうっかりから始まった、異世界召喚に巻き込まれた口田を中心とする物語。
旧題 女神のチョンボで大変な事に
誤字脱字等を修正、一部内容の変更及び加筆を行っています。また一度完結しましたが、完結前のはしょり過ぎた部分を新たに加え、執筆中です!
前回の作品は一度消しましたが、読みたいという要望が多いので、おさらいも含め、再び投稿します。
前回530話あたりまでで完結させていますが、8月6日現在約570話になってます。毎日1話執筆予定で、当面続きます。
アルファポリスで公開しなかった部分までは一気に公開していく予定です。
新たな部分は時間の都合で8月末あたりから公開できそうです。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
継母ができました。弟もできました。弟は父の子ではなくクズ国王の子らしいですが気にしないでください( ´_ゝ`)
てん
恋愛
タイトル詐欺になってしまっています。
転生・悪役令嬢・ざまぁ・婚約破棄すべてなしです。
起承転結すらありません。
普通ならシリアスになってしまうところですが、本作主人公エレン・テオドアールにかかればシリアスさんは長居できません。
☆顔文字が苦手な方には読みにくいと思います。
☆スマホで書いていて、作者が長文が読めないので変な改行があります。すみません。
☆若干無理やりの描写があります。
☆誤字脱字誤用などお見苦しい点もあると思いますがすみません。
☆投稿再開しましたが隔日亀更新です。生暖かい目で見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる