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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第407話 ターニャちゃんのいない夏休み、旅は道連れと言いますが…

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 ノイエシュタットまで両親のお墓まいりに行って寮へ戻ってくると部屋の扉の前に蹲っている人がいる。その横には大きな荷物、なんかこんな光景以前にも見たような気が……。

 近付くと予想通りの人が顔をあげ、泣き付いて来ました。

「ミーナちゃん、助けて、みんな酷いんだよ。
 一寸寝過ごして約束の時間に遅れたら、ボクのことをおいて行っちゃったんだ。 
 ミーナちゃん、今年の夏休みはボクの領地まで行くって言ってたよね。
 お願い!ボクも連れて行って!」

 同じクラスのルーナちゃん、この国の最北に領地を持つ貴族のご令嬢です。
 長い歴史を持つ名門貴族のご令嬢なのですが、私の様な平民にも偉ぶらず気さくに接してくださる気の良い方です。

 竹を割ったような性格で、裏表がなく基本的には誰からも好かれる人柄なんですけど…。

 この子には貴族のご令嬢としてはいささか問題があるようです。
 大らかと言えば聞こえがいいですが、細かい礼儀作法を苦手とし、貴族同士の会合とかは逃げ回っています。
 前回この扉の前で蹲っていたのも見合いの席から逃亡した時でした。
 また、朝がとても苦手で学園を遅刻しそうになるのはしょっちゅうです。
 今回も寝坊して置いてきぼりを食らったようです。

 その他、私は見た事がないのですが、この子は整理整頓が苦手で部屋が凄く散らかっているそうです。仲の良い子は、この子の部屋を『汚部屋』と呼んでいるそうです。

 こういう子こそ侍女が必要なのではないかと思うのですが…。
 「うち、ボク専属に侍女を雇うほどお金持ちじゃないもの。」とか言ってごまかします。
 嘘です、この子の家、爵位こそ男爵ですが、それは領地が狭いからで、実際は北部地区有数のお金持ちだそうです。

 てんさいから採れる砂糖の国内シェアのかなりの部分をこの子の領地が占めているそうですから。
 この子が侍女を付けないのは、お金がないからではなく、堅苦しい生活を強いられるのを避けるためだと言われています。

 でも変ですね、この子のグループのリーダーのエルフリーデ様はそんな薄情な人ではないはず。
 置き去りにするなんてにわかには信じ難いのですが。

 私が、ルーナちゃんにその点を尋ねると一枚の紙切れを差し出しポツリと言ったのです。

「起きたら、扉にこの紙が挟んであったの。凄く怒っていたみたい……。」

 差し出された紙にはこう書かれていました。

『一時間待ちました。三度起こしに伺いました。
 今日という、今日は許しません。昨日、何度も念押ししましたよね、遅れるなと。
 この夏は寮で反省しなさい。』

 
 ああ、堪忍袋の緒が切れましたか……。

 しかし、今回の北部地区への旅は、ミルトさん達王族と一緒だから私の一存でルーナちゃんを一行に加える訳には行かない。

 私はミルトさんに相談するため王宮へ向かったの。

 そして、……。

 ミツハさんの術で渡った精霊の泉の前、好々爺とした男性がわたし達を出迎えに来てくれた。

「これはこれは、精霊様、この度は足をお運び頂き有り難うございます。
 お目にかかかれて光栄です。
 ミーナちゃんも良く来たね、今日はミルトに用事かな?
 どうれ、私がミルトのところまで案内してあげよう。」

 この腰が低くて、フットワークの軽いお爺ちゃん、誰あろうこの国の王様なの。
 泉が国王様の書斎の正面にあるので、書斎にいる時は王様が出迎えてくれる。

 熱心な精霊の信奉者で、上位精霊のみんなが来ると凄く喜ぶの。
 私やターニャちゃんも必ず精霊を伴って来るのでとても歓待される。
 この方に初めてお目にかかってから三年経つけど、国の最高権力者が私の様な平民に丁重に対応してくださるのは本当に恐縮してしまう。
 極自然に振る舞えるターニャちゃんの図太さが羨ましい。

 王様は、私をミルト様のところへ案内する少しの時間でも精霊と話ができるのが嬉しいらしい。
 今日もしきりとミツハさんに話を聞いていた。


 王様に導かれてミルトさんの許に行き、事情を説明したところ…。

「ははは、今度は置き去りにされたですって。
 あの子、いつもながら笑わせてくれるわね。
 お見合いの席を逃げ出したり、他国まで行って誘拐されてみたり、話題に事欠かない子ね。
 いいわよ、知らない子でもないし。あの子がいると面白そうだわ。
 付いてくるからには、仕事を手伝ってもらうわよって言っておいてね。」

 ミルトさんはおかしそうに笑いながら、ルーナちゃんの同行を許可してくれた。
 今のリアクションでミルトさんがルーナちゃんをどう思っているか良く分かりました。

 こうして、ルーナちゃんが一緒に行くことになったのだけど、なんかイヤな予感がしたので今夜は私の部屋に泊まってもらうことにした。


     **********


 イヤな予感的中……。この子は学習すると言うことを知らないのだろうか?

 良く寝ている、揺すっても、叩いても、起きようとしない。
 なるほど…、エルフリーデ様がさじを投げたのも頷ける寝起きの悪さだ。

 ミルトさん達との約束の時間に遅れる訳には行かないので、寝たままホアカリさんに魔導車まで運んでもらった。もちろん、着替えなんてしていない、夜着のままだ。

 王宮の内宮、王家の住まう宮殿の正面の車寄せに魔導車を着けた。
 そして、乗り込んできたミルトさんがルーナちゃんの寝顔をみて、

「呆れた…、この子本当に寝起きが悪いのね。
 普通、人に運ばれる段階で目を覚ますと思うのだけど……。」

と心の底から呆れたと言う声をもらした。私もそう思います。

 結局、ルーナちゃんが目を覚ましたのは、魔導車が王都を出てしばらく経ってからでした。

 ターニャちゃんがいない夏休み、北へ向かう旅がこうして始まりました。
 ルーナちゃんと一緒なのが少し不安です……。 


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