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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない
第395話 そういえば、魔導中隊ってどうなったの?
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そうそう、公開の場で裁きがあった翌日、捕縛された魔導中隊の隊員に対する軍法会議が開かれたんだって。
もちろん、それは軍事情報にかかわることだから秘密事項だよ。でも、同席していたケントニスさんが特別にその概要を教えてくれたんだ。
『黒の使徒』達の翌日になったのは、魔導中隊の隊員が『黒の使徒』に一方的に加担したことに理があるかを確認するため。
もし、『黒の使徒』達が無罪になるようならば、魔導中隊のとった行動があながち間違っているとは言えなくなるから。
知っての通り『黒の使徒』達は全員有罪になった訳で、魔導中隊の隊員が状況を把握しないで無抵抗な一般市民に致死性の魔法を放ったことには、なんら正当性が見出せなくなったの。
それを踏まえて議長を務める将軍が中隊長に審問したんだって。
その中でこんなやり取りがあったらしい。
「貴官に対して皇帝陛下から下命があったのは『市中の騒動を収めろ』で間違いないか。」
「はっ、肯定です。」
「では聞くが、貴官が現場に着いた時点では民衆が暴れている訳でもなく特に騒動という程のことはなかったようではないか。何故貴官は民衆に対して致死性の極めて高い魔法を放ったのかね。」
「それはあの愚民共が司祭様に対して無礼な言葉を投げ掛けたからであります。」
「それで、余計に現場が混乱するとは思わなかったのか。民衆に死傷者が出ることで民衆の怒りが爆発し暴動になるとは考えなかったのか。」
「あんな愚民共、見せしめに二、三人焼き殺してやれば大人しくなるに決まっております。
もしそれで暴動になるようなら、全員を焼き殺せば良いのであります。
司祭様に逆らう身の程知らずは根絶やしにすれば良いのであります。」
この時点で将軍は頭を抱えてしまったそうだ。
しかし、審問をやめる訳にもいかず、気を取り直して審問を続けたらしい。
「何故貴官は、『黒の使徒』の連中を捕縛しようとしなかったのだ、陛下からのご下命は騒ぎを鎮めろであろう。
今回の騒ぎ、一方的に『黒の使徒』の方に非があったようであるぞ。
昨日正式に『黒の使徒』及びその関連の者に裁きが下されたのだ。」
「司祭様のやることに間違いはございません。
『黒の使徒』の方々の捕縛など、そんな恐れ多いこと出来る訳がありません。」
将軍は顔を真っ赤にして怒鳴ったんだって。
「何処の誰だ!こんな頭のおかしい狂信者を軍に採用したのは!」
しかし、将軍の問いに答えるものは無い。
それはそうだ、この会議で発言権があるのは議長を務める将軍の他は別の二名の将軍だけだそうだ。皇太子のケントニスさんすら傍聴者であり、発言権はないらしい。
沈黙が支配する中、発言の許可を受けた上で一人の事務官が恐れ恐れ言ったらしい。
「魔導部隊の隊員は全て皇帝陛下が自ら採用されています。
事務方には採用が決まってからそれが知らされるのです。」
それを聞いた将軍は呆れてモノが言えなくなってしまったらしい。
しばらくの沈黙の後に将軍が発した言葉は、
「貴官に重大な命令違反があったものと認め、貴官を縛り首にする。
下がってよいぞ。」
だったそうだ。
この日軍法会議に付された者達は全員がこのような態度であったらしく、等しく縛り首が言い渡されたのだって。
会議が終わったとき、議長を務めた将軍は疲れ切っていたそうだ。
それで、一言呟いたんだって。
「話の通じない人間と話すのはこんな疲れることだとは思わなかった……。」
軍法会議の後、ケントニスさんは三将軍から魔導部隊を解体できないだろうか相談を受けたらしい。
ここでも、ケントニスさんを後押ししてくれる人が出来たみたい。
**********
「あの日、ターニャちゃんは名乗りもしないで去って行っただろう。
伯爵が私に心当たりは無いか聞いてきたんだ、助けてくれたお礼がしたいらしい。
私はただの通りすがりの女性だろうといって惚けておいたよ。」
ケントニスさんの話では皇帝がわたしのことを忌々しそうに見ていたのだって。
伯爵から人伝にわたしの名が広がって皇帝の耳に入ったら大変だと気を使ってくれたそうだ。
どうやら、皇帝はあの状況に至っても、『黒の使徒』の放った魔法で伯爵が命を落とせば裁きがうやむやになると都合の良いことを考えていたようだ。そんなことをケントニスさんは言っていた。
皇太子であるケントニスさんが市井の者に面識がないのは不自然でないと思ったようで、伯爵は一応納得したそうだ。
しかし、帝都の民衆の間ではそう簡単には済まないらしい。
人々が見てる前で、強力な魔法から完璧に伯爵を守った者、しかもそれは背格好や話し声から少女と思われる。
それに、多くの人たちは目撃していた、その数日前に魔法中隊の放った魔法を同じ方法で軽くいなして民衆を守った存在を。
それから、ほどなくして帝都にこんな存在が噂されるようになる。
「聖女」
小さな体躯で奇跡のような魔法を使う少女、少女が願うと神様が裁きを下す、そんな存在は「聖女様」しか考えられない。そんな風に噂されたの。
しまった、浄化の術を隠すために神様の罰が中ったんだってごまかしたら大事になってしまった。
神様は『黒の使徒』の横暴を許さず、裁きを下すため『聖女』を帝都に遣わした。
そんな噂が帝都に広がっていく、それが東部辺境から伝わった『白い聖女』の噂と何の根拠もなく混ざり合ってしまうのも不思議ではない。
わたし達が意図して正確な情報を流した噂ではなく、自然発生的な噂なのだから。
元々が不正確なモノ、混ざり合ってしまうのも仕方がないことなんだ……。
ただそれが、……
『白い聖女』が『黒の使徒』を退治するために帝都までやってきた。
という、限りなく正解に近い噂にならなければ……。
これって、絶対に皇帝の勘気に触れているよね。
もちろん、それは軍事情報にかかわることだから秘密事項だよ。でも、同席していたケントニスさんが特別にその概要を教えてくれたんだ。
『黒の使徒』達の翌日になったのは、魔導中隊の隊員が『黒の使徒』に一方的に加担したことに理があるかを確認するため。
もし、『黒の使徒』達が無罪になるようならば、魔導中隊のとった行動があながち間違っているとは言えなくなるから。
知っての通り『黒の使徒』達は全員有罪になった訳で、魔導中隊の隊員が状況を把握しないで無抵抗な一般市民に致死性の魔法を放ったことには、なんら正当性が見出せなくなったの。
それを踏まえて議長を務める将軍が中隊長に審問したんだって。
その中でこんなやり取りがあったらしい。
「貴官に対して皇帝陛下から下命があったのは『市中の騒動を収めろ』で間違いないか。」
「はっ、肯定です。」
「では聞くが、貴官が現場に着いた時点では民衆が暴れている訳でもなく特に騒動という程のことはなかったようではないか。何故貴官は民衆に対して致死性の極めて高い魔法を放ったのかね。」
「それはあの愚民共が司祭様に対して無礼な言葉を投げ掛けたからであります。」
「それで、余計に現場が混乱するとは思わなかったのか。民衆に死傷者が出ることで民衆の怒りが爆発し暴動になるとは考えなかったのか。」
「あんな愚民共、見せしめに二、三人焼き殺してやれば大人しくなるに決まっております。
もしそれで暴動になるようなら、全員を焼き殺せば良いのであります。
司祭様に逆らう身の程知らずは根絶やしにすれば良いのであります。」
この時点で将軍は頭を抱えてしまったそうだ。
しかし、審問をやめる訳にもいかず、気を取り直して審問を続けたらしい。
「何故貴官は、『黒の使徒』の連中を捕縛しようとしなかったのだ、陛下からのご下命は騒ぎを鎮めろであろう。
今回の騒ぎ、一方的に『黒の使徒』の方に非があったようであるぞ。
昨日正式に『黒の使徒』及びその関連の者に裁きが下されたのだ。」
「司祭様のやることに間違いはございません。
『黒の使徒』の方々の捕縛など、そんな恐れ多いこと出来る訳がありません。」
将軍は顔を真っ赤にして怒鳴ったんだって。
「何処の誰だ!こんな頭のおかしい狂信者を軍に採用したのは!」
しかし、将軍の問いに答えるものは無い。
それはそうだ、この会議で発言権があるのは議長を務める将軍の他は別の二名の将軍だけだそうだ。皇太子のケントニスさんすら傍聴者であり、発言権はないらしい。
沈黙が支配する中、発言の許可を受けた上で一人の事務官が恐れ恐れ言ったらしい。
「魔導部隊の隊員は全て皇帝陛下が自ら採用されています。
事務方には採用が決まってからそれが知らされるのです。」
それを聞いた将軍は呆れてモノが言えなくなってしまったらしい。
しばらくの沈黙の後に将軍が発した言葉は、
「貴官に重大な命令違反があったものと認め、貴官を縛り首にする。
下がってよいぞ。」
だったそうだ。
この日軍法会議に付された者達は全員がこのような態度であったらしく、等しく縛り首が言い渡されたのだって。
会議が終わったとき、議長を務めた将軍は疲れ切っていたそうだ。
それで、一言呟いたんだって。
「話の通じない人間と話すのはこんな疲れることだとは思わなかった……。」
軍法会議の後、ケントニスさんは三将軍から魔導部隊を解体できないだろうか相談を受けたらしい。
ここでも、ケントニスさんを後押ししてくれる人が出来たみたい。
**********
「あの日、ターニャちゃんは名乗りもしないで去って行っただろう。
伯爵が私に心当たりは無いか聞いてきたんだ、助けてくれたお礼がしたいらしい。
私はただの通りすがりの女性だろうといって惚けておいたよ。」
ケントニスさんの話では皇帝がわたしのことを忌々しそうに見ていたのだって。
伯爵から人伝にわたしの名が広がって皇帝の耳に入ったら大変だと気を使ってくれたそうだ。
どうやら、皇帝はあの状況に至っても、『黒の使徒』の放った魔法で伯爵が命を落とせば裁きがうやむやになると都合の良いことを考えていたようだ。そんなことをケントニスさんは言っていた。
皇太子であるケントニスさんが市井の者に面識がないのは不自然でないと思ったようで、伯爵は一応納得したそうだ。
しかし、帝都の民衆の間ではそう簡単には済まないらしい。
人々が見てる前で、強力な魔法から完璧に伯爵を守った者、しかもそれは背格好や話し声から少女と思われる。
それに、多くの人たちは目撃していた、その数日前に魔法中隊の放った魔法を同じ方法で軽くいなして民衆を守った存在を。
それから、ほどなくして帝都にこんな存在が噂されるようになる。
「聖女」
小さな体躯で奇跡のような魔法を使う少女、少女が願うと神様が裁きを下す、そんな存在は「聖女様」しか考えられない。そんな風に噂されたの。
しまった、浄化の術を隠すために神様の罰が中ったんだってごまかしたら大事になってしまった。
神様は『黒の使徒』の横暴を許さず、裁きを下すため『聖女』を帝都に遣わした。
そんな噂が帝都に広がっていく、それが東部辺境から伝わった『白い聖女』の噂と何の根拠もなく混ざり合ってしまうのも不思議ではない。
わたし達が意図して正確な情報を流した噂ではなく、自然発生的な噂なのだから。
元々が不正確なモノ、混ざり合ってしまうのも仕方がないことなんだ……。
ただそれが、……
『白い聖女』が『黒の使徒』を退治するために帝都までやってきた。
という、限りなく正解に近い噂にならなければ……。
これって、絶対に皇帝の勘気に触れているよね。
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