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第13章 何も知らない子供に救いの手を
第346話 いつもながらこの人達と話すと頭が痛くなる……
しおりを挟む何はともあれ情報収集が大事ということで、わたしは三隻の船におチビちゃん達を送り込んだ。
おチビちゃん達によると各船に二十人程度の『黒の使徒』の連中が残っているとのこと。
どの船も船乗りから『黒の使徒』の者らしい。
すごいね、『黒の使徒』って自前の船や船乗りまで抱えているんだ。手広くやりすぎだろう……。
そして、こんな情報を得ることが出来たの。
**********
「船団長、町でザイヒト殿下が目撃されました。」
船乗りが一人、船団長と呼ばれる人の船室に駆け込んできて、ザイヒト皇子がポルトにいることを報告したんだって。この船団長という人が居残り組みで一番上の人みたい。
「王都に送り込んだ者がやっと戻ってきたか。
随分時間が掛かったが、御輿が確保できたのであれば何よりだ。」
船団長が船乗りの報告に安堵の表情を見せたため、船乗りは言い難そうに報告を続けたそうだ。
「それが、ザイヒト殿下と一緒にいたのは我々の手の者ではなく、皇后と第一皇女それに『白い悪魔』らしいのです。
今日の昼間、ザイヒト皇子が自分達の掌中にあることをひけらかす様に、我々の船の前に姿を見せたそうです。」
「なんだと、あの裏切り者の皇后と第一皇女と一緒だと?
じゃあ、王都に送り込んだ連中は失敗したと言うのか?
そんな馬鹿な、戦える連中だけでも二十人は送ったはずだぞ。
では、五十人近い者が一人も戻ってこないのは全て捕まったとでもいうのか。」
船乗りの報告を聞いた船団長は束の間言葉を失ったそうだけど、次の瞬間には怒りを露わにしたそうなの。
「あの裏切り者どもめ、我々をおちょくろうと言うのか、馬鹿にしおって。
おい、皇后達の行動は探ったのだろうな?」
「はい、皇后はザイヒト殿下を連れて数日前から、丘の上にある王家の別荘に滞在してるようです。
町で探ったところ、皇后たちはこの国の王族が民衆への人気取りに行っている無料診療所を見学したり、孤児院の慰問をしたりして過ごしているとのことです。」
船団長はヴィクトーリアさんたちの行動を聴いて苦々しい顔をしたそうだ。
「皇后の奴、日頃民衆に慈悲をなんて戯けたことを言っているが、それを実践しているこの国の王族の行いを見せてザイヒト殿下に慈悲の気持ちを学ばせようってか。
全く余計なことをしてくれる、ザイヒト殿下が民に施しをなんてほざく頭の中お花畑のような人間になったらどうしてくれるのだ。
おい、皇后の今後の予定を探るんだ、これ以上殿下を裏切り共に洗脳させるわけには行かない。
一刻も早くお迎えに上がるぞ。」
こんな会話がされていたそうだ。
自分達のやっていることを棚に上げて随分な言い草ね、この国の王族のことを頭の中がお花畑だなんて失礼しちゃうわ。
おチビちゃん達から船内の会話の様子を聞いたわたしは、みんなに相談して連中を釣り上げる段取りを整えたの。
向こうが探りを入れてくるならと、わたしはテーテュスさんにお願いしてわたし達のスケジュールを連中の耳に入るように流してもらったの。
案の定、連中はわたし達が孤児院を慰問しているときに襲撃してくるみたい。
その日は警備が手薄になるという情報を混ぜて流したんだよね。
「良いのですか?
孤児院の子供の中には今でも、『色の黒い人』がさらいに来る夢を見て夜眠れなくなる子がいるそうですよ。
孤児院を襲撃されたらトラウマが刺激されるんじゃないですか。」
わたしの計画を聞いたリタさんが心配そうに尋ねてきたの。
「だからだよ。
わたし達が『色の黒い人』を完膚なきまでに撃退して、奴らが襲ってきてもちゃんと守ってあげるからと安心させてあげるの。
『色の黒い人』に怯えなくて良い事を教えて上げるのがトラウマ克服に一番良いかなと思って。」
わたしがそう言うと、リタさんは
「奴らをダシに使うのですか…。自業自得とはいえ、奴らも哀れですね」
と呆れた様に言っていたよ。
**********
そして、襲撃の日、わたし達は護衛の騎士を連れずに孤児院を訪れた。
でも、精霊神殿って公爵の領館の横にあって、領館から入る裏口があるんだよね。
わたしが一網打尽にした『黒の使徒』を連行するための騎士を二十人程裏口から忍ばせてあるんだ。今は隠れてもらっているけど。
騎士は港にも配置してもらったの、連中がここを襲撃したら直ちに船を接収するために。
そのための連絡要因としてフローラちゃんには公爵と共に港に行ってもらった。
こちらが襲撃されたら魔導通信機でフローラちゃんに知らせることになっているの。
わたし達が孤児院に入ってしばらくして、『黒の使徒』の連中はやってきた。
勿論、おチビちゃん達に警戒してもらっていたから連中の動きは手を取るように分かっているよ。
連中は失敗するとは露ほども思っていないらしく、ザイヒト皇子を確保したらすぐに出航できるように三十人ほどを船に残して出港準備をさせている。
こちらに向かってくるのは荒事に長けた三十人ほどで、船団長自ら率いてくるらしい。
そして、連中が精霊神殿の敷地に入り、神殿の参拝経路を外れ部外者立ち入り禁止区域に入ったところでわたしとミルトさんが出迎えた。
ちなみに、この位置は孤児院の二階のテラスから良く見えるの。孤児達にはテラスでこの様子を見せているの。
「ここは、私達この国王族が所有する施設です。
精霊神殿の参拝経路以外は立ち入り禁止です。
即刻立ち去りなさい。」
ミルトさんが形ばかりの警告を告げると船団長らしき人が答えた。
「ここに、帝国のザイヒト殿下がいらっしゃることは分かっている。
即刻こちらに引き渡してもらおうか。」
おいおい、名乗りもしないのね。それで、国の重要人物を引き渡せってどんな無茶振りだよ…。
「あなたねえ、帝国政府からお預かりしている大事な方を名乗りもしない人に引き渡せる訳無いでしょう。常識的に考えてよ。
そもそも、あなた方は何者なの?」
ミルトさんが至極当たり前のことを言うが、それが船団長(?)の気に障ったようだ。
いきなり声を荒げて言ったの、この男沸点低いな……。
「こんな片田舎の王族風情が、我らの素性を問うだと、何という身の程知らずな。
田舎者にはわからないなら教えてやる。
我らは『黒の使徒』に所属する者、教皇様の命によりザイヒト殿下をお迎えに上がった。
つべこべ言わずに、さっさと引き渡してもらおうか。」
一国の王族に対してなんて事を言うんだろうか。
こいつらどこまで思い上がっているんだ、自分達が一番偉いと思っているのかな?
「一宗教団体の者が一国の王族に向かってその口の聞き方とは礼儀というものを知らないようね。
何の権限があって皇子の引渡しを求めているのかしら。
わたし達は国家間の取り決めで皇子をお預かりしているのよ、帝国政府の要請なしに皇子を引き渡せる訳無いでしょう。」
「おまえも訳の解らぬ女だな、帝国政府など我らが『黒の使徒』の手足に過ぎんのだ。
帝国政府との取り決めなどより我らが教皇の指示が優先するに決まっておろう。」
「それは不敬な言葉ですね。帝国では不敬罪という罪があるんでしょう。
あの短気な皇帝の耳に入ったらあなたの首が危ないのでなくて?」
「皇帝なんぞ、所詮は『黒の使徒』の操り人形、何が怖いものか。
帝室なんてものは帝国成立時から、『黒の使徒』の傀儡に過ぎぬわ。
それを、穏健派貴族の連中が小賢しい小娘を皇后などに据えるから話がおかしくなる。
今の皇太子は穏健派貴族と民衆を味方に付けて『黒の使徒』の排除なんて言い出しおった。
人形が自分の意思を持つなんて本当に悪い冗談だ、サッサと排除するに限る。
皇帝なんて、自分でモノを考えられないボンクラで丁度いいんだ。
その点、ザイヒト殿下はモノを考える頭がなくて、我々の言うことを鵜呑みにしてくれる。
皇帝にふさわしい資質をお持ちだ、少し時期が早まったが殿下に皇太子になって頂くことにした。
だから、さっさと殿下をこちらに引き渡してもらおうか。
こちらは随分と計画より遅れているんだ、一日でも早く殿下を教皇様の許へお連れしなくては。」
何が、『だから』だよ、全然引き渡す正当な理由になってないじゃない。
でも、相手が馬鹿だと尋問する手間が省けて助かるよ。
『黒の使徒』の連中って何でこんなに自信過剰なんだろう。
自分達が絶対に負けないと思っているから悪巧みをベラベラと話してくれる。
おかげでザイヒト王子も目が覚めたんじゃないかな。
一方のミルトさんは、『黒の使徒』の言うことが滅茶苦茶なので頭を抱えている。
「あなたねえ、謀反の計画を聞かされて『はいそうですか』と皇子を引き渡すはずないでしょう。
あなた方の様な無法者の集まりに力を貸した形になればそれこそ国際問題だわ。」
ミルトさんは心底呆れた様子で返答したの。
はい、至極もっともです。でも、それが通じないのが、この連中なんなんだな……。
「もう十分ですわ、ミルト様。これでザイヒトも目が覚めたと思いますわ。」
その時、わたし達の少し後方建物の影からヴィクトーリアさんの声がした。
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