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第13章 何も知らない子供に救いの手を

第333話 侍女が色々やっていたらしい

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 さて、ザイヒト皇子を帝国へ連れ帰って皇太子に据えようとする動きは、今回は食い止めたと考えて大丈夫だろう。

 現在王都に潜伏していた『黒の使徒』は一網打尽にしたと思うし、寮への侵入を手引きしていた侍女は捕縛してしまった。
 大使館から新たにザイヒト皇子の侍女として送られてきたのは、ヴィクトーリアさんの派閥である穏健派貴族の娘さんらしい。

 『黒の使徒』の諜報員がザイヒト皇子の確保失敗の知らせを帝国にもたらすには早くて二ヶ月掛る。それに、もう一月もすれば王都は雪に閉ざされる、王都に入るのも、王都から出るのも事実上不可能だ。

 少なくとも次の雪解けまではザイヒト皇子を連れ出そうという動きはないと思うんだ。
 そういう意味では、ケントニス皇子も命を狙われることはないのじゃないかな。
 もちろん、『黒の使徒』が切羽詰って、ザイヒト皇子を確保しないままクーデターもどきをするのであれば話は別だけどね。

 ただ、解っているのかな、『黒の使徒』は?
 ケントニスさんには気の毒だけど、ケントニスさんがもし弑されたとしてもザイヒト皇子には皇太子の座は回ってこないって。
 確かに、帝国は男尊女卑の考えが強くて、同じ皇后の子であれば年齢に関係なく男子が女子より皇位継承権が高くなるらしい 。
 でも、皇后の子と側妃の子の場合だと、性別に関係なく皇后の子の方が皇位継承権が高いのだって。
 それだけ、皇后というのは特別な立場なんだね。これはちゃんと法に定められているみたいなの。
 もちろん、『黒の使徒』も知っているはずだと、ヴィクトーリアさんは言うのだけど。

 ということは、現在皇位継承権第二位はハイジさん、アーデルハイト第一皇女なんだよね。
 そして、ハイジさんの身はこちらにしっかりと護られている。どう見ても勝ち目がないじゃない。
 うーん、よくわからない。
 ただ、一つ言えるのは、正解はザイヒト皇子を絶対に『黒の使徒』の手に渡さないこと。
 それだけは確かみたいね。


     **********


「あの侍女だけど、再三『黒の使徒』の本部にザイヒト皇子の保護を要請していたらしいわ。
 それこそ、初等部に入学した当初から。」

 今、ミルトさんの部屋にヴィクトーリアさんとハイジさんが来て取り調べの中で明らかになったことの情報交換がされている。

 ザイヒト皇子の侍女だけど、『黒の使徒』の本部から派遣されてきた人で、幼少の頃からザイヒト皇子に洗脳教育を施した張本人みたい。
 それこそ、ザイヒト皇子が三歳くらいのときから常に側に控え、『黒の使徒』の教義に沿った教育を刷り込んできたそうだ。
 次代の『黒の使徒』の御輿になってもらうため彼女なりの愛情をザイヒト皇子に注いでいたらしい。
 それこそ、わが子のように。

 そんな、掌中の珠のように育てたザイヒト皇子が最下位クラスにいることが気に入らなかったようだ。
 学園内では中立派のケンフェンドさんが常に側にいるため、目だって学園を批判することはなかったが、頻繁に学園の批判を記した文を『黒の使徒』に送っていたそうだ。

 彼女の部屋からそれを示すいろいろなものが見つかったらしい。
 今回の『黒の使徒』による学園への侵入事件も、彼女が『黒の使徒』に手引きをしたみたい。
 学園内の警備状況、守衛の配置や巡回経路、交代時間などを事細かに記した書類や寮の見取り図にザイヒト皇子の部屋の位置を示したものなどが押収されたようだ。
 どうやら、何度でも送れるように原本は手許において写しを『黒の使徒』に送っていたみたいなの。 

 また、彼女の許にはいつザイヒト皇子を引き取りに行くという連絡が行っていたみたい。
 予定の日時に現われないものだから、彼女はやきもきしていたそうだ。
 まあ、全部捕まえちゃったからね。


     **********


「それで、捕縛した『黒の使徒』の者だけど、三十人以上いたのよ。
 どうやら、本気でザイヒト皇子を確保するつもりだったらしくて、殆どがザイヒト皇子を帝国へ連れて行くための護衛とお世話係だったの。」

 最初に侵入した三人の後にも、学園の周囲に増員した警備の衛兵が三回三人組の『黒の使徒』を学園に侵入しようとしたところを捕縛している。
 これで都合十二人、全部で五十人近い人員を今回の計画に充てていたみたい。
 また、すごい数の馬車と物資も用意していたみたい。
 ミルトさんが良く目立たないように揃えたものねと感心していたよ。

「馬車も、物資も帝国の民から『黒の使徒』が不当に巻き上げたお金で購入したもの。
 全て帝国大使館にお渡ししますわ。
 食料品などで日持ちのしない物があれば、王国政府が買い上げしてもいいです。
 何らかの形で帝国の民に還元してください。」

 ミルトさんがそういうと、ヴィクトーリアさんは本当に恐縮していた。

「本来であれば、全て王国に押収されてもなんら問題のないもの。
 それを民のために譲ってもらえるということには心から感謝いたします。
 必ず、民に還元するようにと大使館の者にはきつく申し付けます。
 決して、特権階級の者で止まってしまわないようにと。」

 ヴィクトーリアさんが言葉の最後の方で語気を強めて言った。
 たしかに、きっちりと釘を刺しておかないと、途中で横領されそうだよね。
 大使館の方はヴィクトーリアさんの派閥で心配ないかもしれないけど、帝国国内に入ってからどうなるか解らないものね。


 で、おおかたの情報交換が終ったときにヴィクトーリアさんが言った。

「ミルト様、それにターニャちゃん、折り入ってお願いがあるのですけれど。
 実は、ザイヒトのことなのですが、悪質な洗脳を行っていた侍女を排除したので再教育を施そうと思うのです。
 そのことで少し協力を仰ぎたいのですけれど。」

 ヴィクトーリアさんの依頼を聞いてわたしは協力しても良いと思ったのだけど、ミルトさんは少し思案している。
 どうやら、これから日程の都合が付くかと考えているらしい。


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