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第11章 王都、三度目の春
第286話 新たな道を歩き出すひとたち
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「えっ、使節団が送られてくる?わたしに会うために?」
わたし達がポルトへの一泊旅行から戻って程なくしてノルヌーヴォ王国から一通の親書が国王宛に届けられたそうなの。
親書には、まず最初にノルヌーヴォ王国の第三王子がわたしに会うためにこの国に入国している可能性が高いことと第三王子は言動に問題がある人物でこの国で迷惑行為に及んでいる恐れがあることが書かれていたみたい。
何が問題を起こしていれば誠心誠意対応すると記されていたとのこと。
そして最後に、魔導王国の王家の指輪を継承しているという少女に面会を望むのでの仲介の労をとって欲しいと書かれていたらしい。
「ええ、そうなの。
向こうが親書を送ったときには既にトレナール王子がこっちに来てしまっているのだけど、ノルヌーヴォ王国の人にはわからない事ですものね。
まさか、トレナール王子があんなに早くこの王都に着くとは思いもしないでしょうからね。
それで、使節団はこちらの返事を待たずに出立するらしいのよ。
トレナール王子の問題があるから急いでこちらに来るみたいなの、四の月の最初には着くそうよ。
で、向こうがきちんと形式を整えて仲介を依頼してきた以上無碍にはできないの。
ターニャちゃんには申し訳ないけど、同席してもらえるかな。」
ミルトさんは申し訳なさそうに言う。
「うん、了解だよ。
元々打ち合わせでは正式に面談を希望してきた場合にはミルトさん立会いのもとで会うことになっていたのだから気にしないで。」
わたしは快く引き受けた、ミルトさんが一緒なのだから問題は起こらないだろうしね。
しかし、本当に距離が離れているというのは情報の伝達が難しいね、今頃トレナール王子が来るかも知れないなどと書かれているのだから。
**********
そして、青葉が目に眩しい季節となった四の月の初め、王都にノルヌーヴォ王国に使節団がやってきた。
ポルト公爵家の馬車に先導されて、おびただしい数の馬車が護衛の騎士に守られて王都に入ってきた。すごっ、正規の使節団ってあんな人数になるんだ…。
使節団の通行を妨げないように事前にお触れが出され、王宮までの目抜き通りは通行が規制されている。
しかし、滅多にない外国からの使節団を見ようと沿道には黒山の人だかりができているの。
規制をしている衛兵はてんやわんやみたい。
使節団は公使と情報のすり合わせをするため、一旦王都にあるノルヌーヴォ王国の公使館に入り、それから王宮の敷地内にある迎賓館に移るそうだ。
で、公使館へ入った使節団だけど、どうやらそこでトレナール王子の所業を報告されたらしい、一行が迎賓館へ移るやいなや国王に謁見の申し入れがあったみたい。
本来は、国王への謁見は間をおくものだが、早急に謝罪の必要があると使節団は判断したみたいなんだって。
使節団の団長は平謝りだったとミルトさんは言っていた。
その後、歓迎パーティーなどを挟んで交易面の交渉も行われたらしい。
どうも、トレナール王子の無礼に関する謝罪とわたしへの面談の他に、この国が進めようとしている西大陸との交易拡大に一枚噛みたいと言う思惑もあったみたい。
**********
そして、使節団が王都にやってきてから一週間ほどたった今日、わたしは着慣れないドレスを着てミルトさんと共に王宮の廊下を歩いている。
王宮の賓客用の応接室で使節団の団長が待っているとのことだ。
扉の前に控えている侍従が恭しく扉を開けると部屋の中にはトレナール王子よりやや年上の美青年が立っていた。
トレナール王子そっくりな容貌で一目で兄弟だとわかる、王族がわざわざわたしに会いに来たんだ。ニセモノなのに申し訳ないよ…。
その青年はわたしが部屋に入ってきたことに気付くと、わたしの前に跪いて言った。
「お初にお目にかかります、正統なる王家の血を引く姫様。
こうしてお目にかかれて光栄でございます。
私は分家の末裔にして、ノルヌーヴォ王国の皇太子のサンセールと申します。
先日はわが愚弟が大変ご無礼を働いたことを心からお詫び申し上げます。」
この人、皇太子さんだったんだ。拙いって、ニセモノ姫が一国の皇太子を跪かせたら。
「サンセール様、お立ちください。
わたしは市井で育った者、今まで血筋のことなど気にすることなく過ごしてきたのです。
今更、姫などと呼ばれても困ります。
トレナール王子の件はもう過ぎたことですので、お気遣い無用です。」
「寛大なお言葉をいただき感謝いたします。
しかし、血筋を鼻にかけない謙虚な物言い、聡明な姫様であらせられる。」
いや、だから姫様は止めてちょうだい。
トレナール王子の謝罪は良いけど、今度は皇太子の妃になんてことはないよね。
どう見てもこの人ミルトさんくらいの歳だし、わたしのお父さんでもおかしくないよ。
そんな事を思っていると、サンセールさんは綺麗な装飾が施された小箱をわたしに差し出して言った。
「本日姫さまにお目通りを願ったのは、これを姫様にお返しするためでございます。」
良かった、わたしを嫁にという話ではないみたい。
えっ、何を返すって?わたし、返されるような物に心当たりないけど…。
「それは何でしょうか?」
「これは、西大陸の三ヶ国に伝わる王家の指輪です、三ヶ国を代表して私が返上に参りました。」
ええええ、そんな国宝、わたしが受け取れる訳ないじゃない。
「いけません、それは皆さんが先祖から受け継いできた国の宝。
わたしのような者が受け取るわけには参りません。」
「いいえ、姫様。これは誰のためでもなく、我々のためなのです。
どうかお聞きください。」
そう言ってサンセールさんは話し始めたの。
西大陸の三ヶ国の王家は魔導王国の王家と言っても分家である。
しかも、西大陸に渡った後、周辺諸国との融和のため西大陸との有力者と婚姻を結んできたためその血は薄まり、殆ど魔導王国の王家の血など流れていないに等しいと言う。
同様に国民も西大陸に元から住む人との混血が進み、自分たちを東の大陸から来た者だと意識する人はいないようだ。
第一、魔導王国の末裔と言っても、魔導具の生産はすっかり廃れてしまい、そう名乗るのもおこがましい状態だと言う。
魔導具の鍵となる魔晶石の生成技術が本家の秘中の秘であったため、持ち出せなかったのが主な原因らしい。
現在では三ヶ国の王族の中にも魔導王国の王族の末裔だと意識する者は少ないという。
トレナール王子のような人は少数派なんだね。
「この指輪があるからトレナールのように魔導王国の血筋に拘る者も出てくるし、この指輪を政争の具にしようとする輩も出てくるのです。
私達三ヶ国はこの指輪を姫様に返上することにより長きに渡る魔導王国のくびきから解き放たれるのです。
この指輪を姫様にお返しした時が、魔導王国と決別し真に西大陸に根を下ろした国として歩き出すときなのです。
どうか私達の未来を思っていただけるのなら、お受け取りください。」
なるほど、サンセールさん達なりのケジメなんだね。
指輪の返上は一種のセレモニーなんだから受け取らない訳にはいかないみたい。
わたしはフェイさんに指示して指輪を受け取ってもらった。
なら、たとえわたしがニセモノであっても、ここはこう言うべきなんだろう。
「今まで、長きに渡りこの指輪を守ってきていただき大儀でした。
これより一族から離れて新たな道を歩む皆さんを祝福すると共に皆さんの前途に幸多かれと願います。
ご足労をかけますが、他の二ヶ国の皆さんにもお伝え願えますか。」
「有り難きお言葉を頂戴し光栄に存じます。
他二カ国の者にも今のお言葉をしかとお伝えいたします。」
ニセモノのわたしがこんな偉そうな事を言って本当に申し訳ないと思ったが、わたしの言葉を聞いたサンセールさんはわだかまりが解けたような表情をしており、これで良かったのだと自分に言い聞かせることにした。
**********
サンセールさん達ノルヌーヴォ王国の使節団は、交易の交渉のためしばらく王都に留まるようだ。
しばらくはミルトさんも交渉に掛かりきりで、わたし達をかまっている時間はなさそうだ。
そして、サンセールさんとの面談から十日ほど経ったある日、サンセールさんから一通の知らせが届いた。
そこには、こう記されていた。
『本国へ護送中のトレナール王子が途中補給に寄った帝国の港で監視の目を盗んで行方をくらました。』
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ミルトさんは申し訳なさそうに言う。
「うん、了解だよ。
元々打ち合わせでは正式に面談を希望してきた場合にはミルトさん立会いのもとで会うことになっていたのだから気にしないで。」
わたしは快く引き受けた、ミルトさんが一緒なのだから問題は起こらないだろうしね。
しかし、本当に距離が離れているというのは情報の伝達が難しいね、今頃トレナール王子が来るかも知れないなどと書かれているのだから。
**********
そして、青葉が目に眩しい季節となった四の月の初め、王都にノルヌーヴォ王国に使節団がやってきた。
ポルト公爵家の馬車に先導されて、おびただしい数の馬車が護衛の騎士に守られて王都に入ってきた。すごっ、正規の使節団ってあんな人数になるんだ…。
使節団の通行を妨げないように事前にお触れが出され、王宮までの目抜き通りは通行が規制されている。
しかし、滅多にない外国からの使節団を見ようと沿道には黒山の人だかりができているの。
規制をしている衛兵はてんやわんやみたい。
使節団は公使と情報のすり合わせをするため、一旦王都にあるノルヌーヴォ王国の公使館に入り、それから王宮の敷地内にある迎賓館に移るそうだ。
で、公使館へ入った使節団だけど、どうやらそこでトレナール王子の所業を報告されたらしい、一行が迎賓館へ移るやいなや国王に謁見の申し入れがあったみたい。
本来は、国王への謁見は間をおくものだが、早急に謝罪の必要があると使節団は判断したみたいなんだって。
使節団の団長は平謝りだったとミルトさんは言っていた。
その後、歓迎パーティーなどを挟んで交易面の交渉も行われたらしい。
どうも、トレナール王子の無礼に関する謝罪とわたしへの面談の他に、この国が進めようとしている西大陸との交易拡大に一枚噛みたいと言う思惑もあったみたい。
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そして、使節団が王都にやってきてから一週間ほどたった今日、わたしは着慣れないドレスを着てミルトさんと共に王宮の廊下を歩いている。
王宮の賓客用の応接室で使節団の団長が待っているとのことだ。
扉の前に控えている侍従が恭しく扉を開けると部屋の中にはトレナール王子よりやや年上の美青年が立っていた。
トレナール王子そっくりな容貌で一目で兄弟だとわかる、王族がわざわざわたしに会いに来たんだ。ニセモノなのに申し訳ないよ…。
その青年はわたしが部屋に入ってきたことに気付くと、わたしの前に跪いて言った。
「お初にお目にかかります、正統なる王家の血を引く姫様。
こうしてお目にかかれて光栄でございます。
私は分家の末裔にして、ノルヌーヴォ王国の皇太子のサンセールと申します。
先日はわが愚弟が大変ご無礼を働いたことを心からお詫び申し上げます。」
この人、皇太子さんだったんだ。拙いって、ニセモノ姫が一国の皇太子を跪かせたら。
「サンセール様、お立ちください。
わたしは市井で育った者、今まで血筋のことなど気にすることなく過ごしてきたのです。
今更、姫などと呼ばれても困ります。
トレナール王子の件はもう過ぎたことですので、お気遣い無用です。」
「寛大なお言葉をいただき感謝いたします。
しかし、血筋を鼻にかけない謙虚な物言い、聡明な姫様であらせられる。」
いや、だから姫様は止めてちょうだい。
トレナール王子の謝罪は良いけど、今度は皇太子の妃になんてことはないよね。
どう見てもこの人ミルトさんくらいの歳だし、わたしのお父さんでもおかしくないよ。
そんな事を思っていると、サンセールさんは綺麗な装飾が施された小箱をわたしに差し出して言った。
「本日姫さまにお目通りを願ったのは、これを姫様にお返しするためでございます。」
良かった、わたしを嫁にという話ではないみたい。
えっ、何を返すって?わたし、返されるような物に心当たりないけど…。
「それは何でしょうか?」
「これは、西大陸の三ヶ国に伝わる王家の指輪です、三ヶ国を代表して私が返上に参りました。」
ええええ、そんな国宝、わたしが受け取れる訳ないじゃない。
「いけません、それは皆さんが先祖から受け継いできた国の宝。
わたしのような者が受け取るわけには参りません。」
「いいえ、姫様。これは誰のためでもなく、我々のためなのです。
どうかお聞きください。」
そう言ってサンセールさんは話し始めたの。
西大陸の三ヶ国の王家は魔導王国の王家と言っても分家である。
しかも、西大陸に渡った後、周辺諸国との融和のため西大陸との有力者と婚姻を結んできたためその血は薄まり、殆ど魔導王国の王家の血など流れていないに等しいと言う。
同様に国民も西大陸に元から住む人との混血が進み、自分たちを東の大陸から来た者だと意識する人はいないようだ。
第一、魔導王国の末裔と言っても、魔導具の生産はすっかり廃れてしまい、そう名乗るのもおこがましい状態だと言う。
魔導具の鍵となる魔晶石の生成技術が本家の秘中の秘であったため、持ち出せなかったのが主な原因らしい。
現在では三ヶ国の王族の中にも魔導王国の王族の末裔だと意識する者は少ないという。
トレナール王子のような人は少数派なんだね。
「この指輪があるからトレナールのように魔導王国の血筋に拘る者も出てくるし、この指輪を政争の具にしようとする輩も出てくるのです。
私達三ヶ国はこの指輪を姫様に返上することにより長きに渡る魔導王国のくびきから解き放たれるのです。
この指輪を姫様にお返しした時が、魔導王国と決別し真に西大陸に根を下ろした国として歩き出すときなのです。
どうか私達の未来を思っていただけるのなら、お受け取りください。」
なるほど、サンセールさん達なりのケジメなんだね。
指輪の返上は一種のセレモニーなんだから受け取らない訳にはいかないみたい。
わたしはフェイさんに指示して指輪を受け取ってもらった。
なら、たとえわたしがニセモノであっても、ここはこう言うべきなんだろう。
「今まで、長きに渡りこの指輪を守ってきていただき大儀でした。
これより一族から離れて新たな道を歩む皆さんを祝福すると共に皆さんの前途に幸多かれと願います。
ご足労をかけますが、他の二ヶ国の皆さんにもお伝え願えますか。」
「有り難きお言葉を頂戴し光栄に存じます。
他二カ国の者にも今のお言葉をしかとお伝えいたします。」
ニセモノのわたしがこんな偉そうな事を言って本当に申し訳ないと思ったが、わたしの言葉を聞いたサンセールさんはわだかまりが解けたような表情をしており、これで良かったのだと自分に言い聞かせることにした。
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サンセールさん達ノルヌーヴォ王国の使節団は、交易の交渉のためしばらく王都に留まるようだ。
しばらくはミルトさんも交渉に掛かりきりで、わたし達をかまっている時間はなさそうだ。
そして、サンセールさんとの面談から十日ほど経ったある日、サンセールさんから一通の知らせが届いた。
そこには、こう記されていた。
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