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第11章 王都、三度目の春

第274話 春風は色々なモノを運んでくる、ええ、変な人も…

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 春の麗らかな陽射しが心地よい三の月に入って最初の休日、今日は精霊神殿の奉仕活動もなく朝からのんびりと過ごしている。

 この陽気ならば精霊の森の屋敷まで行かなくてもここで十分に寛げるしね。
 部屋のみんなで昼食後のティータイムを和やかに過ごしていたのだけど…。
 なにやら、さっきから廊下の方が騒がしい。

「この寮は許可のない部外者の立ち入りは禁止です。
 即刻ここから退去してください。」

「ええい、うるさい。余が何処で何をしようと勝手であろう。
 余に命令するではない、無礼者!」

「殿下、あまり無茶をするのは止めてください。
 これでは国際問題になってしまいます。」

「いい加減にしないと衛兵を呼びますよ。」


 嗚呼、うるさい。
 部屋の中まではっきり聞こえる声で話しているって、どんだけ大声を出しているの。

 いつまで経っても言い合いは終らないみたい、随分聞き分けの悪い侵入者だな…。
 さすがに腹に据えかねたわたしはミーナちゃんが止めるのを聞かず廊下に苦情を言おうとして顔を出してしまった。
 結果から言えばこれが失敗だった、ミーナちゃんの言うことを大人しく聞いておけば良かった…。


     **********


 扉を開けた先には見目麗しいお兄さんがいた。
 輝く金色の髪にタンザナイトのような美しい青い瞳、整った鼻梁に卵形の輪郭、正に絵にかいたような美形のお兄さんだった。
 それだけに珍妙な髪型なのが惜しいよ、全てを台無しにしている。
 だって筒みたいに巻いた髪が縦に三本ずつ顔の両脇にぶら下がっているんだもの。
 大昔の本の挿絵で見た事があるけど今でもこんな髪をしている人って初めて見たよ。
 どっかの役者さんかな、古典物の演劇でもやっているのかな?それなら頷けるよ。


 目の前のお兄さんの珍妙な髪型に気をとられていると、そのお兄さんが言った。

「おお、そなたが余の妃になる者か?」

「へっ?」

 あ、おもわず間抜けな声を出してしまったよ。
 この人、役者じゃなくて道化師だったみたい。わざわざ、わたしを笑わせに来たの?ここまで?

 わたしが呆けていると目の前の残念なお兄さんは再び言った。

「そなたが余の妃になる者かと聞いておるのだ。」

 そんなの答えは決まっているじゃない。

「いえ、違います。
 人違いのようですので他を当たってください。
 うるさいですから、ここで騒がないでください。」

 そう言ってわたしは扉を閉めることにした。
 どうやら、道化師でもないみたい目がマジなんだもの。
 あれだ、陽気が良くなると現れるという少し頭の中が変な人、イヤだね自分の側にいるとは思わなかったよ。

  わたしが扉を閉めようとすると扉と壁の間に足を差し入れた人がいた。
 いま、『ガキ!』っていう音がしたよ、足の甲にひびが入ったんじゃない?大丈夫かな?

「閉めないでください!
 お願いです、少しでいいから殿下の話しを聞いてください。
 そうでないと殿下がここから動いてくれないのです。」

 残念な美形お兄さんの横にいた平凡な容姿のお兄さんが必死になって扉を閉まらないようにしている。
 このままだとこのお兄さんの足が酷いことになると思い、わたしは扉を閉めるのを諦めたよ。

 どうやら、わたしはこの変な人たちの話を聞かなければならないようですね。
 わたしはソールさんへフローラちゃんとミルトさんに連絡して欲しいとお願いし、フェイさんを伴って寮の応接室へ向かうことにした。

 私の部屋の応接?使わないよ、不審者を部屋に入れるのはイヤだもの。
 もちろん、ミーナちゃんやハンナちゃんも連れて行かないよ、目を付けられると拙いし。


     **********


 寮の来客用応接室、わたしの隣には寮監の先生が、向かいには残念な美形と平凡な容姿のお兄さんが二人並んで座っている。

 平凡な容姿のお兄さんが最初に謝罪を兼ねて紹介を始めた。

「先程は数々のご無礼をいたしまして申し訳ございません。
 こちらにおわす方は、ノルヌーヴォ王国の第三王子トレナール殿下であらせられます。
 私は殿下のお守り役、いや失礼、側近を拝命しておりますエフォールと申します。」

 今この人、お守りって言いかけたよね、その一言でトレナール王子がどんな人か分かるよ。
 アロガンツの若様みたいに頭の残念な人なんだね、残念なのは髪型だけじゃなかったんだ。

「これ、エフォール、何を謝罪しておる。
 王族のすることに間違いはないのだ、勝手に謝るでない。」

 おお、凄い、これはアロガンツの若様以上の残念なオツムかも知れない…。

「殿下、何度言えば分かるのですか。ここはノルヌーヴォ王国ではないのですよ。
 殿下の威光はここでは通用しないし、殿下はこの国の法に従わなければならないのです。」

 うーん、このエフォールさんはザイヒト王子の側近に似た雰囲気だね、きっと苦労人なんだろう…。
 きれいな栗毛色の髪の毛は苦労のせいか艶がなくなっている、そのうち禿るんじゃないかな。

「なんで、正当なる魔導王国の血筋を引くこの余が、辺境の国に遠慮しなければならないんだ。
 全く訳のわからんことを言いおって。」

 あんたの方が訳が分からないよ、こんな人の面倒を見てるなんてエフォールさんが可哀想だよ。
 だいたい、さっきから一つも話が進んでいないじゃない。

「あら、辺境の国で悪かったわね。
 自称ノルヌーヴォ王国の王子さん、不法入国者が人の国に酷い言い方ね。」

 良かったフローラちゃんが早く来てくれて、トレナール王子の話を聞いているとこっちまで頭が変になるよ。
 ところで今なんて言いました?不法入国者?王子が?



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