275 / 508
第11章 王都、三度目の春
第274話 春風は色々なモノを運んでくる、ええ、変な人も…
しおりを挟む
春の麗らかな陽射しが心地よい三の月に入って最初の休日、今日は精霊神殿の奉仕活動もなく朝からのんびりと過ごしている。
この陽気ならば精霊の森の屋敷まで行かなくてもここで十分に寛げるしね。
部屋のみんなで昼食後のティータイムを和やかに過ごしていたのだけど…。
なにやら、さっきから廊下の方が騒がしい。
「この寮は許可のない部外者の立ち入りは禁止です。
即刻ここから退去してください。」
「ええい、うるさい。余が何処で何をしようと勝手であろう。
余に命令するではない、無礼者!」
「殿下、あまり無茶をするのは止めてください。
これでは国際問題になってしまいます。」
「いい加減にしないと衛兵を呼びますよ。」
嗚呼、うるさい。
部屋の中まではっきり聞こえる声で話しているって、どんだけ大声を出しているの。
いつまで経っても言い合いは終らないみたい、随分聞き分けの悪い侵入者だな…。
さすがに腹に据えかねたわたしはミーナちゃんが止めるのを聞かず廊下に苦情を言おうとして顔を出してしまった。
結果から言えばこれが失敗だった、ミーナちゃんの言うことを大人しく聞いておけば良かった…。
**********
扉を開けた先には見目麗しいお兄さんがいた。
輝く金色の髪にタンザナイトのような美しい青い瞳、整った鼻梁に卵形の輪郭、正に絵にかいたような美形のお兄さんだった。
それだけに珍妙な髪型なのが惜しいよ、全てを台無しにしている。
だって筒みたいに巻いた髪が縦に三本ずつ顔の両脇にぶら下がっているんだもの。
大昔の本の挿絵で見た事があるけど今でもこんな髪をしている人って初めて見たよ。
どっかの役者さんかな、古典物の演劇でもやっているのかな?それなら頷けるよ。
目の前のお兄さんの珍妙な髪型に気をとられていると、そのお兄さんが言った。
「おお、そなたが余の妃になる者か?」
「へっ?」
あ、おもわず間抜けな声を出してしまったよ。
この人、役者じゃなくて道化師だったみたい。わざわざ、わたしを笑わせに来たの?ここまで?
わたしが呆けていると目の前の残念なお兄さんは再び言った。
「そなたが余の妃になる者かと聞いておるのだ。」
そんなの答えは決まっているじゃない。
「いえ、違います。
人違いのようですので他を当たってください。
うるさいですから、ここで騒がないでください。」
そう言ってわたしは扉を閉めることにした。
どうやら、道化師でもないみたい目がマジなんだもの。
あれだ、陽気が良くなると現れるという少し頭の中が変な人、イヤだね自分の側にいるとは思わなかったよ。
わたしが扉を閉めようとすると扉と壁の間に足を差し入れた人がいた。
いま、『ガキ!』っていう音がしたよ、足の甲にひびが入ったんじゃない?大丈夫かな?
「閉めないでください!
お願いです、少しでいいから殿下の話しを聞いてください。
そうでないと殿下がここから動いてくれないのです。」
残念な美形お兄さんの横にいた平凡な容姿のお兄さんが必死になって扉を閉まらないようにしている。
このままだとこのお兄さんの足が酷いことになると思い、わたしは扉を閉めるのを諦めたよ。
どうやら、わたしはこの変な人たちの話を聞かなければならないようですね。
わたしはソールさんへフローラちゃんとミルトさんに連絡して欲しいとお願いし、フェイさんを伴って寮の応接室へ向かうことにした。
私の部屋の応接?使わないよ、不審者を部屋に入れるのはイヤだもの。
もちろん、ミーナちゃんやハンナちゃんも連れて行かないよ、目を付けられると拙いし。
**********
寮の来客用応接室、わたしの隣には寮監の先生が、向かいには残念な美形と平凡な容姿のお兄さんが二人並んで座っている。
平凡な容姿のお兄さんが最初に謝罪を兼ねて紹介を始めた。
「先程は数々のご無礼をいたしまして申し訳ございません。
こちらにおわす方は、ノルヌーヴォ王国の第三王子トレナール殿下であらせられます。
私は殿下のお守り役、いや失礼、側近を拝命しておりますエフォールと申します。」
今この人、お守りって言いかけたよね、その一言でトレナール王子がどんな人か分かるよ。
アロガンツの若様みたいに頭の残念な人なんだね、残念なのは髪型だけじゃなかったんだ。
「これ、エフォール、何を謝罪しておる。
王族のすることに間違いはないのだ、勝手に謝るでない。」
おお、凄い、これはアロガンツの若様以上の残念なオツムかも知れない…。
「殿下、何度言えば分かるのですか。ここはノルヌーヴォ王国ではないのですよ。
殿下の威光はここでは通用しないし、殿下はこの国の法に従わなければならないのです。」
うーん、このエフォールさんはザイヒト王子の側近に似た雰囲気だね、きっと苦労人なんだろう…。
きれいな栗毛色の髪の毛は苦労のせいか艶がなくなっている、そのうち禿るんじゃないかな。
「なんで、正当なる魔導王国の血筋を引くこの余が、辺境の国に遠慮しなければならないんだ。
全く訳のわからんことを言いおって。」
あんたの方が訳が分からないよ、こんな人の面倒を見てるなんてエフォールさんが可哀想だよ。
だいたい、さっきから一つも話が進んでいないじゃない。
「あら、辺境の国で悪かったわね。
自称ノルヌーヴォ王国の王子さん、不法入国者が人の国に酷い言い方ね。」
良かったフローラちゃんが早く来てくれて、トレナール王子の話を聞いているとこっちまで頭が変になるよ。
ところで今なんて言いました?不法入国者?王子が?
この陽気ならば精霊の森の屋敷まで行かなくてもここで十分に寛げるしね。
部屋のみんなで昼食後のティータイムを和やかに過ごしていたのだけど…。
なにやら、さっきから廊下の方が騒がしい。
「この寮は許可のない部外者の立ち入りは禁止です。
即刻ここから退去してください。」
「ええい、うるさい。余が何処で何をしようと勝手であろう。
余に命令するではない、無礼者!」
「殿下、あまり無茶をするのは止めてください。
これでは国際問題になってしまいます。」
「いい加減にしないと衛兵を呼びますよ。」
嗚呼、うるさい。
部屋の中まではっきり聞こえる声で話しているって、どんだけ大声を出しているの。
いつまで経っても言い合いは終らないみたい、随分聞き分けの悪い侵入者だな…。
さすがに腹に据えかねたわたしはミーナちゃんが止めるのを聞かず廊下に苦情を言おうとして顔を出してしまった。
結果から言えばこれが失敗だった、ミーナちゃんの言うことを大人しく聞いておけば良かった…。
**********
扉を開けた先には見目麗しいお兄さんがいた。
輝く金色の髪にタンザナイトのような美しい青い瞳、整った鼻梁に卵形の輪郭、正に絵にかいたような美形のお兄さんだった。
それだけに珍妙な髪型なのが惜しいよ、全てを台無しにしている。
だって筒みたいに巻いた髪が縦に三本ずつ顔の両脇にぶら下がっているんだもの。
大昔の本の挿絵で見た事があるけど今でもこんな髪をしている人って初めて見たよ。
どっかの役者さんかな、古典物の演劇でもやっているのかな?それなら頷けるよ。
目の前のお兄さんの珍妙な髪型に気をとられていると、そのお兄さんが言った。
「おお、そなたが余の妃になる者か?」
「へっ?」
あ、おもわず間抜けな声を出してしまったよ。
この人、役者じゃなくて道化師だったみたい。わざわざ、わたしを笑わせに来たの?ここまで?
わたしが呆けていると目の前の残念なお兄さんは再び言った。
「そなたが余の妃になる者かと聞いておるのだ。」
そんなの答えは決まっているじゃない。
「いえ、違います。
人違いのようですので他を当たってください。
うるさいですから、ここで騒がないでください。」
そう言ってわたしは扉を閉めることにした。
どうやら、道化師でもないみたい目がマジなんだもの。
あれだ、陽気が良くなると現れるという少し頭の中が変な人、イヤだね自分の側にいるとは思わなかったよ。
わたしが扉を閉めようとすると扉と壁の間に足を差し入れた人がいた。
いま、『ガキ!』っていう音がしたよ、足の甲にひびが入ったんじゃない?大丈夫かな?
「閉めないでください!
お願いです、少しでいいから殿下の話しを聞いてください。
そうでないと殿下がここから動いてくれないのです。」
残念な美形お兄さんの横にいた平凡な容姿のお兄さんが必死になって扉を閉まらないようにしている。
このままだとこのお兄さんの足が酷いことになると思い、わたしは扉を閉めるのを諦めたよ。
どうやら、わたしはこの変な人たちの話を聞かなければならないようですね。
わたしはソールさんへフローラちゃんとミルトさんに連絡して欲しいとお願いし、フェイさんを伴って寮の応接室へ向かうことにした。
私の部屋の応接?使わないよ、不審者を部屋に入れるのはイヤだもの。
もちろん、ミーナちゃんやハンナちゃんも連れて行かないよ、目を付けられると拙いし。
**********
寮の来客用応接室、わたしの隣には寮監の先生が、向かいには残念な美形と平凡な容姿のお兄さんが二人並んで座っている。
平凡な容姿のお兄さんが最初に謝罪を兼ねて紹介を始めた。
「先程は数々のご無礼をいたしまして申し訳ございません。
こちらにおわす方は、ノルヌーヴォ王国の第三王子トレナール殿下であらせられます。
私は殿下のお守り役、いや失礼、側近を拝命しておりますエフォールと申します。」
今この人、お守りって言いかけたよね、その一言でトレナール王子がどんな人か分かるよ。
アロガンツの若様みたいに頭の残念な人なんだね、残念なのは髪型だけじゃなかったんだ。
「これ、エフォール、何を謝罪しておる。
王族のすることに間違いはないのだ、勝手に謝るでない。」
おお、凄い、これはアロガンツの若様以上の残念なオツムかも知れない…。
「殿下、何度言えば分かるのですか。ここはノルヌーヴォ王国ではないのですよ。
殿下の威光はここでは通用しないし、殿下はこの国の法に従わなければならないのです。」
うーん、このエフォールさんはザイヒト王子の側近に似た雰囲気だね、きっと苦労人なんだろう…。
きれいな栗毛色の髪の毛は苦労のせいか艶がなくなっている、そのうち禿るんじゃないかな。
「なんで、正当なる魔導王国の血筋を引くこの余が、辺境の国に遠慮しなければならないんだ。
全く訳のわからんことを言いおって。」
あんたの方が訳が分からないよ、こんな人の面倒を見てるなんてエフォールさんが可哀想だよ。
だいたい、さっきから一つも話が進んでいないじゃない。
「あら、辺境の国で悪かったわね。
自称ノルヌーヴォ王国の王子さん、不法入国者が人の国に酷い言い方ね。」
良かったフローラちゃんが早く来てくれて、トレナール王子の話を聞いているとこっちまで頭が変になるよ。
ところで今なんて言いました?不法入国者?王子が?
15
お気に入りに追加
2,297
あなたにおすすめの小説
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する
覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。
三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。
三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。
目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。
それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。
この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。
同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王>
このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。
だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。
彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。
だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。
果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。
普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理
SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。
低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。
恋愛×料理×調合
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる