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第10章 王都に春はまだ遠く

第262話 お婆ちゃんの心配

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 フィナントロープさんは、この雪の中わざわざわたし達に注意を促すために精霊神殿まで足を運んでくれたみたいね。

「フィナントロープさん、心配してくれて有り難う。
 帝国の方ではそんな風に噂になっているんだね。
 でも少し内容が間違って伝わっているね、森を作ったのはわたしやミーナちゃんじゃないよ。」

 だって、森を作ったのはフェイさん達だもの、わたしにはそんな力はないよ。

「ほお、そうかい。でもその言い方だと、あながち無関係という訳でもなさそうだね。
 実際にはどういう話しなんだい。」

「帝国の東の辺境に作った森は、この三人が作ってくれたんだよ。
 わたしの従者を装っているけど、本当はわたしの保護者で三人とも上位の精霊なんだよ。」

 わたしは、後ろに控えるソールさんたち三人をフィナントロープさんに紹介した。
 すると、フィナントロープさんは少し驚いたようだが、すぐに穏やかな表情を取り戻して言った。

「精霊とか言われても今までだったら信用しなかったのだけど、お嬢ちゃん達の治癒術の話を聞いているからね。
 まあ、信じておくさ、そのお三方が精霊さんかい人間と全く見分けが付かないじゃないかい。
 人間長生きするもんだね、伝承の中の存在だと思っていた精霊に会えるなんて思いもしなかったよ。
 じゃあ、三人の精霊が森を作った現場にお嬢ちゃん達もいた訳だ。
 それなら、お嬢ちゃん達が奴らに恨まれるのもあながち筋違いと言う訳でもなさそうだね。」

 目の敵にされているのは一昨年からだし、今更だね。

「一昨年の夏に帝国の皇后様の病気を治すために帝国まで行ったの。
 帝国の食料事情がひどく悪いと聞いたので食糧支援をしながら帝都まで行ったんだ。
 その時、帝国の辺境に術を用いて畑や林を作ったの。
 だけど、『黒の使徒』には『色なし』がそういうことをしたのが気に入らなかったようなの。
 既に去年の冬には暗殺者を送って来たよ、捕まえちゃったけど。」

 そう言ってから、わたしは一昨年の夏から去年の夏までのことを順を追って詳しく説明した。
 プッペたちの事件からこっちのことは言わなかったよ。まだ捜査中だし、政治の問題が絡んでいるので子供のわたしが言って良いことではないから。

「そうかい、お嬢ちゃんも厄介な連中に目をつけられたもんだね。
 あの連中は宗教団体の名を借りたヤクザ者の集まりみたいなものだからね。 
 すぐに力にモノを言わすし、話す内容が恫喝みたいだものね。
 自分達の教義の邪魔になるものは、力で排除するか、脅して黙らせるかだからね。」

 確かにあいつら無茶苦茶だよね、いきなり辺境の村に押しかけてせっかく植えた木を伐り払うって、何を考えているのかと思ったよ。そうそう、その話もしておこうか。


「お嬢ちゃん達もやるねぇ、前年に植えた木を伐られた腹いせに伐り払うことが出来ない森を作ったってか。
 そうかい、精霊の森っていうものなんだ。
 精霊が人の立ち入りを拒んだり、樹木の伐採を妨害したりしているなんて思いもしなかった。
 私は書簡を見たとき随分と荒唐無稽な噂が流れているものだと思っていたんだけど、本当のことだったのかい。
 しかし、なんだい森を無くした方が強い魔法が使えるってのは、やつら、また随分と妙なことを言っているもんだね。
 まあ、狂信的な連中の言うことだから、やつらなりの理屈があるんだろうね。
 だったら、そんなものを置き土産にされた日には、連中が怒るのも無理もないか。
 お嬢ちゃん達のやったことは見事に奴らの神経を逆なでした訳だ。
 教会の情報網にまで引っかかるということは、奴ら本腰を入れてお嬢ちゃん達の排除を画策しているのかもしれないね。
 言うまでもないが、奴ら蛇のようにしつこいし、狡猾だから十分に気をつけるんだよ。」

 実は『黒の使徒』の連中の森を無くすというのは、彼ら『色の黒い』連中にとっては、ある意味理にかなっているんだけどね。
 ただ、一般には瘴気と魔力が同じモノだというのは知られていないようだから、黙っていよう。

 しかし、わたし達を目の敵にしているということが噂で流れるくらいなら、本当に注意する必要がありそうだね。
 おチビちゃん達に学園の周囲に『色の黒い』人がいたら、警戒して欲しいとお願いしているけど警戒レベルを引き上げたほうがいいかな。
 あとでみんなと相談してみよう。

「ええ、わかっていますわ。
 この子たちには、指一本触れさせるつもりはございませんわ。
 『黒の使徒』の連中には、この国の中でこそこそと悪さをされて腹を立てていますの。
 こちらも、喧嘩を売られて黙っているわけには参りませんわ。」

 ミルトさん、頼りにしていますよ。がんばって守ってくださいね。
 去年の冬みたいに刃物で刺されるのはもう勘弁してください、あれ凄く痛かったです。

「まあ、ミルト様がそう言うのであれば、これ以上私が言うことはないよ。
 そうそう、私の方は本部に『何与太話を真に受けているんだい』って、返事を返しておくよ。
 創世教は『色なし』が魔法を使ったからと言って、殺し屋を送るような偏狭な考えではないけどね。
 やっぱり、『色なし』に対して差別的な考えを持っているから、『色なし』が大魔法を使えるなんて聞いたら絡んでくる愚か者がいるかも知れないしね。」

 フィナントロープさんは、教会本部からの照会を与太話として、そんな事実はないと返答してくれるらしい。
 まあ、教会としても、そのような返答があった方が余計なことに気をもむ必要がなくて良いだろうとフィナントロープさんは言う。

 フィナントロープさんがわたし達に協力的で本当に助かるよ。
 

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