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第9章 王都の冬
第255話【閑話】虐め?苦行?拷問?
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私に指示を出した後憮然として目の前に座っている男は、もう何も説明してはくれないみたいです。
やむなく、私は目の前の紙の束を手に取り中身を確認することにしました。
なになに…。
『一から二百までの自然数のうち、整数Xで割り切れる数は六個あり、整数Yで割り切れる数は四個ある。このとき、Y-X の取り得る値として何通りか考えられるが、Y-X の最小値を求めよ。』
なにこれ算術の問題?答えは『八』か、なにこれ暗算力を試しているの?
この問題を始めとして用紙三枚にびっしりと算術の問題が書き込まれていた。
その数、百問、新手の拷問だろうか?
算術の問題は数が多いだけで大して難しいものではなく、延々とやらせるという忍耐力が試されるだけのモノだった。
それが終ると今度は、
『以下に記したのは我が国の一昨年度における三つの都市の平均気温、最多出荷生産物品目と出荷額、人口をまとめた一覧表である。それぞれに該当する都市名をあげよ。」
とあった。これは雑学?一般教養か?
これまた、そんな問題がずらっと百問並んでいた。大した問題でもないが百問って多すぎじゃない。これじゃ、本当に拷問ですよ…。
疲労しながらも何とか全問書き終えて、紙をめくると今度は問題数が減っていた。
やっと拷問から開放されたと安堵して、その紙を読むと、
『次の表は、国が発行する借入証券の残存期間ごとの会所に於けるある日の取引金利の一覧表である。この日発行した半年物の財務証券の利回りが年利一割であった。
この日、財務担当者が会所において、一年後に発行する半年物の財務証券の発行金利を予約しようとするとどの程度の金利であれば引き受けがあるか。
同様に、一年後に発行する二年物の借入証書の金利はいくらで予約できるか。』
とあった。財政?いや、経済の問題か?金利の期間構造ですか、簡単簡単。
そこから経済の問題が二十問続いていた、内容は大したことないが記述する量が多くて手が疲れてきた。
本当に何なんだこれは?
それが終ると今度は財政の問題だった。
『租税の求められる三つの原則を上げそれぞれについて解答欄に収まるように簡潔に説明せよ。』
租税の三原則ですか、基本ですね。やっぱり財政の問題も二十問あるのですか?
財政の問題を二十問解き終わった時点で私の手は疲れ切っていた。
経済、財政と記述量が多すぎですよ、これは本当の拷問なのですか…。
そして、次の紙に目を通し、私は目を疑った。
おびただしい帝国語の文章、実に用紙五枚、それが細かい文字でびっしりと埋め尽くされている。
そして、その文章の上にこう書かれていた。
『次の論文の要旨を簡潔にまとめ、それに対するあなたの見解を述べなさい。」
これ、全部読むんですか?これは、新手の虐めですか、やっぱり拷問なんですね。
まあ、やれと言うならやりますけど、こう見えても帝国語は得意なんです。
要は論旨をまとめて私の見解を書けば良いと、論旨が正しく掴めていて私の意見が的を得ていれば肯定的なものでも、否定的なものでもかまわないのですね。
目の前の紙の束は残り数枚まで減ってきた、こんどはちゃんと王国語で書かれている。
なにやら架空の外交文書のようだ。用紙三枚にびっしりと書かれている、その冒頭には。
『次の内容で外務卿が帝国の外務省に親書を送りたいという、帝国の親書の書式に従って、帝国語で親書の形に書き換えなさい。」
げっ、また厄介なことを…。この量の文章を帝国語に翻訳するのだって大変なのに、よりによって親書の形に文章を改めろですか?
たしか、親書って書式が決まっていて、しかも、王国と帝国では違うんでしたよね。…面倒くさい。
わたしは、恩師に習ったうろ覚えな記憶を頼りにせっせと帝国語に翻訳を行っていった。
それが終って一息ついていると目の前の不機嫌そうな男が言った。
「それで終わりか?もう見直さないでいいのか?」
「ええ、まあ、…」
そんな事を言われても、何で私がこんなことをさせられてるのかも知らないのに何と答えろと?
そもそもこれは何なんだろう、少なくとも犯罪の捜査ではないようだけど。
そろそろ、誰か説明してくれないだろうか。
私が曖昧な返事を返すと、彼は私から紙の束を取り上げ目を通し始めた。
彼は数枚紙をめくると、顔色を変えて、
「そんな馬鹿な…。」
と一言呟いた。そして、再び無言で続きに目を通し始めたのだった。
**********
どのくらい時間が経っただろう、沈黙が支配する閉ざされた空間の雰囲気に居た堪れなくなってきた頃、扉にノックの音が響いた。
「侯爵、もうそろそろいいかしら?」
そう言いながらミルト様が部屋に入ってきた。目の前の人、侯爵様だったんだ…。
それより、ミルト様助けてください、私は無実です。
「皇太子妃殿下、そう急かさないでください。終ったらこちらから連絡させていただくと申し上げたではありませんか。」
「だって、待ち遠しくて…。」
「だってではありません。そもそも、彼女は今日のことを承知しているのですか?
私が見る限り、彼女は自分が何をさせられているのかを理解していないように思えるのですが。」
「あらそうなの?
リタさん、あなた、何でここに呼ばれたか誰からも聞かされていないの?」
「はい、どなたも説明してくださらなくて。」
わたしは、今朝騎士さんがヴィーナヴァルトホテルを訪れてからのことをミルト様に説明した
「そうだったの、ごめんなさいね。気が利かない者ばかりで。
それじゃあ、さぞかし不安だったでしょうね。
安心して、あなたが何か犯罪に関わっているなんて思っていないから。
それで、侯爵、結果はどうなの?」
「一介の試験課長の私にそれを口にする権限はございません。
明日、人事局長から報告があると思いますのでお待ちください。」
「相変わらず堅物ですのね、伯父様。
それじゃあ、伯父様の私見を聞かせていただけますか。」
「これ、ここは王宮の中だ、公私をきちんと分けなさいといつも言っておるだろう、ミルト。」
「イヤだわ、伯父様。伯父様、公の立場では結果を教えてくださらないではないですか。」
目の前の侯爵様、ミルト様の伯父さんだったのですか。
巷で聖女と言われているミルト様のことだから艶本的な意味の『おじさま』ではなく、ちゃんと血の繋がりがある伯父様なんだろう。
ミルト様に伯父様と呼ばれた侯爵様は、苦言を呈しながらも表情を幾分和らげていますね。
あっ、この人も姪っ子に甘いタイプだわ…。
「しょうがないヤツだ。
私が今目を通した限りでは完璧だ、最後の二問詳しく見るともしかしたら誤字脱字があって減点があるやも知れないが、内容的には満点だな。
正規に試験を受ければトップ合格間違いなしだろう。
正直信じられない、中等国民学校しか出ていない娘がこの問題を半日も掛けずに解き終わり、しかも満点なんて。これ、本来なら一日かけて行う試験だぞ。
これから別の者にチェックさせるが、明日には合格証と同時に任官の辞令を交付できると思う。」
「そうですか、有り難うございます、伯父様。
ということで、リタさん、何も説明せずに王宮に呼んでごめんなさい。
さっきリタさんにやってもらったのは臨時の高等文官試験なの、おめでとう合格よ。
明日には合格通知が届くと思うわ。」
私はミルトさんが何を言っているのか分らなかった、いや言葉はわかりますよ。
どうしてそんな話しになったのですか?
そもそも、私、志願すらしていないですよ…。
やむなく、私は目の前の紙の束を手に取り中身を確認することにしました。
なになに…。
『一から二百までの自然数のうち、整数Xで割り切れる数は六個あり、整数Yで割り切れる数は四個ある。このとき、Y-X の取り得る値として何通りか考えられるが、Y-X の最小値を求めよ。』
なにこれ算術の問題?答えは『八』か、なにこれ暗算力を試しているの?
この問題を始めとして用紙三枚にびっしりと算術の問題が書き込まれていた。
その数、百問、新手の拷問だろうか?
算術の問題は数が多いだけで大して難しいものではなく、延々とやらせるという忍耐力が試されるだけのモノだった。
それが終ると今度は、
『以下に記したのは我が国の一昨年度における三つの都市の平均気温、最多出荷生産物品目と出荷額、人口をまとめた一覧表である。それぞれに該当する都市名をあげよ。」
とあった。これは雑学?一般教養か?
これまた、そんな問題がずらっと百問並んでいた。大した問題でもないが百問って多すぎじゃない。これじゃ、本当に拷問ですよ…。
疲労しながらも何とか全問書き終えて、紙をめくると今度は問題数が減っていた。
やっと拷問から開放されたと安堵して、その紙を読むと、
『次の表は、国が発行する借入証券の残存期間ごとの会所に於けるある日の取引金利の一覧表である。この日発行した半年物の財務証券の利回りが年利一割であった。
この日、財務担当者が会所において、一年後に発行する半年物の財務証券の発行金利を予約しようとするとどの程度の金利であれば引き受けがあるか。
同様に、一年後に発行する二年物の借入証書の金利はいくらで予約できるか。』
とあった。財政?いや、経済の問題か?金利の期間構造ですか、簡単簡単。
そこから経済の問題が二十問続いていた、内容は大したことないが記述する量が多くて手が疲れてきた。
本当に何なんだこれは?
それが終ると今度は財政の問題だった。
『租税の求められる三つの原則を上げそれぞれについて解答欄に収まるように簡潔に説明せよ。』
租税の三原則ですか、基本ですね。やっぱり財政の問題も二十問あるのですか?
財政の問題を二十問解き終わった時点で私の手は疲れ切っていた。
経済、財政と記述量が多すぎですよ、これは本当の拷問なのですか…。
そして、次の紙に目を通し、私は目を疑った。
おびただしい帝国語の文章、実に用紙五枚、それが細かい文字でびっしりと埋め尽くされている。
そして、その文章の上にこう書かれていた。
『次の論文の要旨を簡潔にまとめ、それに対するあなたの見解を述べなさい。」
これ、全部読むんですか?これは、新手の虐めですか、やっぱり拷問なんですね。
まあ、やれと言うならやりますけど、こう見えても帝国語は得意なんです。
要は論旨をまとめて私の見解を書けば良いと、論旨が正しく掴めていて私の意見が的を得ていれば肯定的なものでも、否定的なものでもかまわないのですね。
目の前の紙の束は残り数枚まで減ってきた、こんどはちゃんと王国語で書かれている。
なにやら架空の外交文書のようだ。用紙三枚にびっしりと書かれている、その冒頭には。
『次の内容で外務卿が帝国の外務省に親書を送りたいという、帝国の親書の書式に従って、帝国語で親書の形に書き換えなさい。」
げっ、また厄介なことを…。この量の文章を帝国語に翻訳するのだって大変なのに、よりによって親書の形に文章を改めろですか?
たしか、親書って書式が決まっていて、しかも、王国と帝国では違うんでしたよね。…面倒くさい。
わたしは、恩師に習ったうろ覚えな記憶を頼りにせっせと帝国語に翻訳を行っていった。
それが終って一息ついていると目の前の不機嫌そうな男が言った。
「それで終わりか?もう見直さないでいいのか?」
「ええ、まあ、…」
そんな事を言われても、何で私がこんなことをさせられてるのかも知らないのに何と答えろと?
そもそもこれは何なんだろう、少なくとも犯罪の捜査ではないようだけど。
そろそろ、誰か説明してくれないだろうか。
私が曖昧な返事を返すと、彼は私から紙の束を取り上げ目を通し始めた。
彼は数枚紙をめくると、顔色を変えて、
「そんな馬鹿な…。」
と一言呟いた。そして、再び無言で続きに目を通し始めたのだった。
**********
どのくらい時間が経っただろう、沈黙が支配する閉ざされた空間の雰囲気に居た堪れなくなってきた頃、扉にノックの音が響いた。
「侯爵、もうそろそろいいかしら?」
そう言いながらミルト様が部屋に入ってきた。目の前の人、侯爵様だったんだ…。
それより、ミルト様助けてください、私は無実です。
「皇太子妃殿下、そう急かさないでください。終ったらこちらから連絡させていただくと申し上げたではありませんか。」
「だって、待ち遠しくて…。」
「だってではありません。そもそも、彼女は今日のことを承知しているのですか?
私が見る限り、彼女は自分が何をさせられているのかを理解していないように思えるのですが。」
「あらそうなの?
リタさん、あなた、何でここに呼ばれたか誰からも聞かされていないの?」
「はい、どなたも説明してくださらなくて。」
わたしは、今朝騎士さんがヴィーナヴァルトホテルを訪れてからのことをミルト様に説明した
「そうだったの、ごめんなさいね。気が利かない者ばかりで。
それじゃあ、さぞかし不安だったでしょうね。
安心して、あなたが何か犯罪に関わっているなんて思っていないから。
それで、侯爵、結果はどうなの?」
「一介の試験課長の私にそれを口にする権限はございません。
明日、人事局長から報告があると思いますのでお待ちください。」
「相変わらず堅物ですのね、伯父様。
それじゃあ、伯父様の私見を聞かせていただけますか。」
「これ、ここは王宮の中だ、公私をきちんと分けなさいといつも言っておるだろう、ミルト。」
「イヤだわ、伯父様。伯父様、公の立場では結果を教えてくださらないではないですか。」
目の前の侯爵様、ミルト様の伯父さんだったのですか。
巷で聖女と言われているミルト様のことだから艶本的な意味の『おじさま』ではなく、ちゃんと血の繋がりがある伯父様なんだろう。
ミルト様に伯父様と呼ばれた侯爵様は、苦言を呈しながらも表情を幾分和らげていますね。
あっ、この人も姪っ子に甘いタイプだわ…。
「しょうがないヤツだ。
私が今目を通した限りでは完璧だ、最後の二問詳しく見るともしかしたら誤字脱字があって減点があるやも知れないが、内容的には満点だな。
正規に試験を受ければトップ合格間違いなしだろう。
正直信じられない、中等国民学校しか出ていない娘がこの問題を半日も掛けずに解き終わり、しかも満点なんて。これ、本来なら一日かけて行う試験だぞ。
これから別の者にチェックさせるが、明日には合格証と同時に任官の辞令を交付できると思う。」
「そうですか、有り難うございます、伯父様。
ということで、リタさん、何も説明せずに王宮に呼んでごめんなさい。
さっきリタさんにやってもらったのは臨時の高等文官試験なの、おめでとう合格よ。
明日には合格通知が届くと思うわ。」
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