精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
233 / 508
第9章 王都の冬

第232話 精霊の森へご招待 ②

しおりを挟む
 ミルトさんと別れて、先に森へ行ったみんなを追いかけた。
 森に入ってさほど歩かないうちにみんなに追いついた、どうやらフローラちゃん達と出会って歩みを止めていたらしい。

「あ、ターニャちゃん、ミルトさんの用事はもう済んだの?」

 わたしに気付いたミーナちゃんが声をかけてくれた。
 一番騒がしい子の声が聞こえないので、おやっと思ってルーナちゃんの様子を窺うとハンナちゃんと一緒になにやらモグモグと頬張っている。

「ターニャちゃん、見て!これ、ミドリさんからもらったの、この森で取れた果実なんだって。
 とっても美味しいの、ターニャちゃんの部屋で出してもらったジュースもこれが入ってたんだね。」

 そう言ってルーナちゃんは食べかけのモモをわたしに差し出して見せた。
 美味しいのは何よりだけど、口の回りベタベタだよ…。

「もう、ルーナちゃんたら、口の周りベタベタですよ。
 ハンナちゃんを見習ってもう少しきれいに食べてください。」

 ミーナちゃんが持っていたハンカチでルーナちゃんの口の周りを拭いながら窘める。
 その様子は、お姉さんが小さな妹を世話しているようだ。
 普段、ミーナちゃんがハンナちゃんを窘める時の様子を見ているみたい…。

「えへへ、ありがとう、ミーナちゃん。
 ごめんね、初めて食べた物だからつい夢中になっちゃって。」
 
 ルーナちゃんは赤面しながら言う。
 流石に三つも年下のハンナちゃんを見習えと言われて、ルーナちゃんも恥ずかしかったみたい。


     **********

 
「ごきげんよう、ターニャちゃん。また、凄いものを作りましたね。
 森そのものは王家の森と変わりませんが、あの屋敷が凄いです。
 ここに友人を招待するって素敵ですね。
 皆さんにも精霊の森の素晴らしさを知って頂いて、精霊に対する理解を深めて貰いたいです。」

 ミーナちゃん達と合流していたフローラちゃんが感心した様子で言った。
 フローラちゃんは、わたしがこの森に友達を招待することを前向きに捉えているみたいだね。

「今回みたいに雪でずっと外に出られない日が続くと気が滅入るでしょう。
 わたし達は王家の森に立ち入れるから気分転換できるけど他の人はそれが出来ないじゃない。
 かといって、立ち入り禁止の王家の森に友達を連れて行く訳にもいかないし。
 今回の場合、いつものメンバーが不在でわたし達しか遊び相手のいないルーナちゃんだけを寮に残して、わたし達だけ王家の森に行くのは気が引けたから。
 そう思っていたらソールさんがみんなを招待できる場所を作ってくれるって言ってくれたの。」

「ええ、お母様から聞いていますわ。
 優しい保護者がいて良かったですね。」

 本当だよ、ソールさんたちには凄く大切にされていると思う、感謝の気持ちを忘れないようにしないと。

「でもこれで、豪雪のときとか、夏場の暑いときとかにみんなを誘って逃げ込めるところが出来たね。
 フローラちゃんも一緒に来てくれるでしょう?」

「もちろんですわよ。むしろ、仲間外れにされたら泣いてしまいますわ。」

 みんなを誘ってあのお屋敷でお泊りするのは楽しそうだね、エルフリーデちゃん達が帰ってきたら早速誘ってみよう。


    **********


 わたし達はフローラちゃん達も交えて森の散策を続けることにした。
 
 森の景色は王家の森とさほど変わらない、色とりどりの花が咲いていてきれいだ。
 人とは違う精霊の感性で作られたものだが、全体としてみると咲き誇る花が描くグラデーションは調和の取れた美しいものだ。

 しかし、その中身をよく見ると調和など全く無視した凄いことになっている。
 なんと言っても、ヘレボルスのような真冬に咲く花もあると思えば、ポピーのような真夏の花まで咲いている。季節感無視もいいところだ。 

 しかも、本来はこの大陸にはない植物まであると言う。

「ターニャちゃん、さっき貰ったモモもそうだけど、ターニャちゃんの部屋で出してもらったフルーツジュースって精霊の森で採ってきたくだもので作っていたんだね。
 道理で飲んだことのない味がすると思っていたんだ。
 ここにある木に生っている果実って見たことのない物がたくさんあるんだね。」

 初めて見る花や木にルーナちゃんは目を輝かせていたが、一番関心があるのは食べられる果実だったようだ。
 でも、ダメだよ勝手に取ったら、精霊の機嫌を損ねるからね。

「そうそう、さっき驚いたんだけど、ミドリさんが何もないところに向かって話しかけたと思ったら、モモがミドリさんのところまで浮かんでくるの。森の精霊に採って来てもらったんだって。
 ミドリさんが、森の果実は勝手に採ったらダメだって、欲しい場合はそこにいる精霊にお願いするんだって。
 ボクは精霊が見えないから他の人に頼んでもらうしかないんだね。
 ボクの他はみんな精霊が見えているんだってね、どんな景色が見えているのか気になるな。」

 わたしが言わなくても既にミドリが注意をしていたらしい…。
 ルーナちゃんは精霊が見えないことを少し残念に感じているみたい。
 ルーナちゃんは、わたし達には見えていて、自分には見えない精霊たちに関心を持ったようだ。

 難しいよね、精霊がまだ人と共にあった昔でも精霊を見ることができ、言葉を交わせた人は極僅かな『色なし』だけだったらしいものね。

 でも、さっきフローラちゃんも言っていたけど、ここに招待することで今のルーナちゃんみたいに精霊に関心を持ってくれる人が増えるのは良いことかも知れない。

 そんな事を考えながら、わたしは森の散策を続けた。
 

 
 
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

処理中です...