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第9章 王都の冬
第227話 湯船の中で
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結局その日、ルーナちゃんはわたし達の部屋に泊まっていくことになった。
夕食は、わたしとミーナちゃんの分から取り分けてあげたよ、本当はマナー違反なんだろうけど冬休みで寮の食堂を利用する人も少ないからね。誰もこちらを見ていないみたいだったよ。
そして、今はお風呂の湯船の中。
「ふうぅ…、温まる…。
これがお風呂なの?北部地方ではお風呂といったら蒸し風呂なんでお湯を張ったお風呂って初めてだよ。
お湯を張った中に浸かるのって気持ち良いね、体の芯から温まるよ。」
この部屋には浴室が設けられている。もっとも石造りの五人ほど浸かれる広さの湯船と洗い場があるだけで、お湯を張るのは魔法を使うか、自分で魔導具を持ち込まなければならないのだけど。
そもそも、この国ではお風呂といえば蒸し風呂で、湯船に浸かる習慣はないらしい。
この寮の建物は百年くらい前のものでこの寮が建てられた当時は大陸にもっとたくさんの国があり、その中には湯船に浸かる習慣のある国があったそうだ。
この部屋はもっぱら他国からの留学生が使用していたため湯船のある浴室が設けられているみたい。
このお風呂はフェイさんがお湯を張ってくれるんだよ。
ちなみに他の部屋の寮生には共同の蒸し風呂があり、そこで体を清めているの。
ルーナちゃんはお湯に浸かってご満悦だ、結構長い時間寒い廊下にいたみたいだから体が冷えていただろうしね。
「それで、何で今日はボクを無視してたの?
ボク、なんかターニャちゃんに嫌われるようなことしたかな?
あんなに部屋の扉を叩いたのだから聞こえたよね。
ボクはターニャちゃん達が留守なんだと思って、廊下で帰りを待っていたんだよ。」
嫌っていたらそもそも部屋に入れていないって…。
ルーナちゃんは、わたし達が留守だと思って廊下で待っていたのに部屋から出てきたので無視されたと思ったみたいだ。
いつものサロンのメンバーはみんな保護者のもとに行って不在なので、寮で頼れる知り合いはわたし達しかいなかったみたい。それなのに無視されたと思って落ち込んでいるようだね。
さて、実は出かけていたと言って良いものだろうか?
きっと羨ましがられるよね、でも連れて行くことは出来ないし…。
わたしがどう説明しようかと考えているとミーナちゃんが言った。
「ごめんなさいね。無視していた訳じゃないの。
今日は午後から出かけていて、ルーナちゃんを見つける少し前に帰ってきたのよ。」
「えっ、でも部屋から出てきたよ?」
「別に隠すつもりもないのだけど、精霊様の力を借りて部屋から直接目的の場所まで飛んでいるの。
だから、ルーナちゃんが来たときは部屋にいなかったの。」
「そうなの?ボクが嫌われていた訳じゃないんだね。よかった!
精霊様に力って凄いね、で、こんな大雪が降っているのにどこに行ってたの。」
結構簡単に信じたね…。でもまあ、信じたならそういう話題になるよね…。
「精霊様が住む森に行っていたの、そこはいつでも春の陽気だから。
いくら部屋の中が快適でもずっと部屋にいたら息が詰まるでしょう。
気分転換に精霊の森に行ってるの。」
ミーナちゃんは隠すことなくルーナちゃんに伝えてしまった。
大丈夫かな?ルーナちゃん絶対に行きたがるよね。
「えええっ!いいなー!精霊の森って冬でも暖かいの?
うらやましいなー!
ボクも雪のせいで外に出られなくて退屈していたんだよ。
ボクも行きたい!」
まるで駄々っ子のようなルーナちゃんにミーナちゃんは申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい、精霊の森は精霊が認めた人しか入れないの。
具体的には精霊が見えて話が交わせる人でないと無理なのよ。」
「えっ、でも、ボク、ウンディーネ様が見えるし、話もしたよ。」
「ああ、あれはウンディーネ様の方から人に見えるようにしているからなの。
上位の精霊より上の力を持つ精霊は自らの存在を強めて、人の形で顕現することが出来るの。
湖でウンディーネ様にお目にかかったとき、最初、みんなは見えていなかったのにハンナちゃんはウンディーネ様のことが見えていたでしょう。
あのとき、私とターニャちゃんもウンディーネ様のことが見えていたの。
ルーナちゃんはここにいる精霊が見えないでしょう?」
そう言ってミーナちゃんは掌をルーナちゃんに差し出した。その掌には水のおチビちゃんが乗っている。
「今わたしの掌には水の中位精霊が乗っているの、とっても可愛い女の子よ。
おチビちゃん、申し訳ないけどルーナちゃんに存在を示して上げて。」
ミーナちゃんがそういうと掌の上にできた水の塊がフワフワと空中を漂ってルーナちゃんの頭の上で弾けた。
「冷た!ミーナちゃん、酷いよ!」
「ゴメンね、ルーナちゃん。でも、今のはわたしの掌の上にいるおチビちゃんのやったことなの。
どう、ルーナちゃんにはおチビちゃんが見えないでしょう?」
今のはどうだろう?
精霊が見えない人にとってはミーナちゃんが普通に魔法を使ったようにしか見えないよ。
そこにおチビちゃんがいる証明にはなっていないよね。
ミーナちゃんの掌を凝視していたルーナちゃんが言う。
「ダメだ、見えない。あーあ、残念だなー。
ミーナちゃん達と一緒に遊びに行ければ、この冬は退屈しないで済むと思ったのに。
明日からどうしよう、まだみんな帰ってこないし。」
あ、意外と簡単に信じた…。
それと、後先考えずに帰ってきたのだから自業自得だと思うよ。
「ホテルに戻ってお見合いする?それとも午前中わたし達と一緒に勉強しようか、フェイさんの監視付きで?」と言ったらルーナちゃんにイヤな顔をされた。
「じゃあ、一緒に精霊神殿に行く?ミルトさんが退屈する暇が無いくらいこき使ってくれるよ。」と言ったら、ますますイヤな顔をされた。
わがままだな、ルーナちゃんは…。
さてと、のぼせる前にそろそろ上がろうか。
夕食は、わたしとミーナちゃんの分から取り分けてあげたよ、本当はマナー違反なんだろうけど冬休みで寮の食堂を利用する人も少ないからね。誰もこちらを見ていないみたいだったよ。
そして、今はお風呂の湯船の中。
「ふうぅ…、温まる…。
これがお風呂なの?北部地方ではお風呂といったら蒸し風呂なんでお湯を張ったお風呂って初めてだよ。
お湯を張った中に浸かるのって気持ち良いね、体の芯から温まるよ。」
この部屋には浴室が設けられている。もっとも石造りの五人ほど浸かれる広さの湯船と洗い場があるだけで、お湯を張るのは魔法を使うか、自分で魔導具を持ち込まなければならないのだけど。
そもそも、この国ではお風呂といえば蒸し風呂で、湯船に浸かる習慣はないらしい。
この寮の建物は百年くらい前のものでこの寮が建てられた当時は大陸にもっとたくさんの国があり、その中には湯船に浸かる習慣のある国があったそうだ。
この部屋はもっぱら他国からの留学生が使用していたため湯船のある浴室が設けられているみたい。
このお風呂はフェイさんがお湯を張ってくれるんだよ。
ちなみに他の部屋の寮生には共同の蒸し風呂があり、そこで体を清めているの。
ルーナちゃんはお湯に浸かってご満悦だ、結構長い時間寒い廊下にいたみたいだから体が冷えていただろうしね。
「それで、何で今日はボクを無視してたの?
ボク、なんかターニャちゃんに嫌われるようなことしたかな?
あんなに部屋の扉を叩いたのだから聞こえたよね。
ボクはターニャちゃん達が留守なんだと思って、廊下で帰りを待っていたんだよ。」
嫌っていたらそもそも部屋に入れていないって…。
ルーナちゃんは、わたし達が留守だと思って廊下で待っていたのに部屋から出てきたので無視されたと思ったみたいだ。
いつものサロンのメンバーはみんな保護者のもとに行って不在なので、寮で頼れる知り合いはわたし達しかいなかったみたい。それなのに無視されたと思って落ち込んでいるようだね。
さて、実は出かけていたと言って良いものだろうか?
きっと羨ましがられるよね、でも連れて行くことは出来ないし…。
わたしがどう説明しようかと考えているとミーナちゃんが言った。
「ごめんなさいね。無視していた訳じゃないの。
今日は午後から出かけていて、ルーナちゃんを見つける少し前に帰ってきたのよ。」
「えっ、でも部屋から出てきたよ?」
「別に隠すつもりもないのだけど、精霊様の力を借りて部屋から直接目的の場所まで飛んでいるの。
だから、ルーナちゃんが来たときは部屋にいなかったの。」
「そうなの?ボクが嫌われていた訳じゃないんだね。よかった!
精霊様に力って凄いね、で、こんな大雪が降っているのにどこに行ってたの。」
結構簡単に信じたね…。でもまあ、信じたならそういう話題になるよね…。
「精霊様が住む森に行っていたの、そこはいつでも春の陽気だから。
いくら部屋の中が快適でもずっと部屋にいたら息が詰まるでしょう。
気分転換に精霊の森に行ってるの。」
ミーナちゃんは隠すことなくルーナちゃんに伝えてしまった。
大丈夫かな?ルーナちゃん絶対に行きたがるよね。
「えええっ!いいなー!精霊の森って冬でも暖かいの?
うらやましいなー!
ボクも雪のせいで外に出られなくて退屈していたんだよ。
ボクも行きたい!」
まるで駄々っ子のようなルーナちゃんにミーナちゃんは申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい、精霊の森は精霊が認めた人しか入れないの。
具体的には精霊が見えて話が交わせる人でないと無理なのよ。」
「えっ、でも、ボク、ウンディーネ様が見えるし、話もしたよ。」
「ああ、あれはウンディーネ様の方から人に見えるようにしているからなの。
上位の精霊より上の力を持つ精霊は自らの存在を強めて、人の形で顕現することが出来るの。
湖でウンディーネ様にお目にかかったとき、最初、みんなは見えていなかったのにハンナちゃんはウンディーネ様のことが見えていたでしょう。
あのとき、私とターニャちゃんもウンディーネ様のことが見えていたの。
ルーナちゃんはここにいる精霊が見えないでしょう?」
そう言ってミーナちゃんは掌をルーナちゃんに差し出した。その掌には水のおチビちゃんが乗っている。
「今わたしの掌には水の中位精霊が乗っているの、とっても可愛い女の子よ。
おチビちゃん、申し訳ないけどルーナちゃんに存在を示して上げて。」
ミーナちゃんがそういうと掌の上にできた水の塊がフワフワと空中を漂ってルーナちゃんの頭の上で弾けた。
「冷た!ミーナちゃん、酷いよ!」
「ゴメンね、ルーナちゃん。でも、今のはわたしの掌の上にいるおチビちゃんのやったことなの。
どう、ルーナちゃんにはおチビちゃんが見えないでしょう?」
今のはどうだろう?
精霊が見えない人にとってはミーナちゃんが普通に魔法を使ったようにしか見えないよ。
そこにおチビちゃんがいる証明にはなっていないよね。
ミーナちゃんの掌を凝視していたルーナちゃんが言う。
「ダメだ、見えない。あーあ、残念だなー。
ミーナちゃん達と一緒に遊びに行ければ、この冬は退屈しないで済むと思ったのに。
明日からどうしよう、まだみんな帰ってこないし。」
あ、意外と簡単に信じた…。
それと、後先考えずに帰ってきたのだから自業自得だと思うよ。
「ホテルに戻ってお見合いする?それとも午前中わたし達と一緒に勉強しようか、フェイさんの監視付きで?」と言ったらルーナちゃんにイヤな顔をされた。
「じゃあ、一緒に精霊神殿に行く?ミルトさんが退屈する暇が無いくらいこき使ってくれるよ。」と言ったら、ますますイヤな顔をされた。
わがままだな、ルーナちゃんは…。
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