204 / 508
第8章 夏休み明け
第203話 変なお客さん
しおりを挟む
学園祭初日は大盛況だったよ。初日分に予定していた鉢植えは全て売れてしまったし、球根や花のタネの売れ行きも好調だったの。
そしてなによりも、コスモスの迷路は終日お客さんが途切れることが無かったよ。
初日のお客さんが帰って近所の人にでも話したのだろう、口コミに乗って二日目は初日以上のお客さんが来てくれた。
盛況なのは有り難いけど…、お客さんが多いと変な人もいる訳で…。
**********
午前中最後の鉢植えに花を咲かせ終わって一息ついている時のことだった。
「ハンナちゃん凄いのね、怪我の治療だけでなく、花を咲かせることも出来るんだ。」
「本当よね、まるで天使のようだわ、こんな小さいのに。」
「ハンナちゃん、おばさんたち、出店でお菓子買ってきたから後で食べてね。」
わたしの目の前では、ハンナちゃんが、精霊神殿前の臨時診療所で馴染みになったおばさん達に囲まれて、お菓子や果物をもらっていた。
ハンナちゃんがここで鉢植えに花を咲かせて見せていると聞いてやって来たみたい。
相変わらず餌付けされているな…。
そんな微笑ましい光景を眺めていると、いかにも商人という身なりのおじさんが人ごみを掻き分けて姿を見せた。
「ちょっとごめんなさいね。お嬢ちゃん、ハンナちゃんって言うんだっけ。
噂で聞いたよ、ご両親がいないんだってね。まだ小さいのに、可哀想に。
どうだい、おじさんの娘にならないかい。」
ああ、欲に目が眩んだ人ね、こういう人は初めてだ。普段、人前で術を使うのは女性専用の天幕の中だけだからね。
あの診療所に来るご婦人達はみんなハンナちゃんのファンだから害になりそうな人は寄せ付けないものね。
「え、いやだよ。ハンナはターニャおねえちゃんやミーナおねえちゃんと一緒の方が楽しいもの。」
「なんだいそれは、孤児院のお姉ちゃんかな?
孤児院で慎ましい生活しなくても、おじさんのところに来ればうんと贅沢できるんだよ。」
「あんた、何を馬鹿な…。」
「うるさい、俺は今ハンナちゃんと大事な話ををしているんだ。口を挟まないでおくれ。」
おばさんの一人が注意しようとするが、おじさんはそれを聞こうとはしなかった。
うーん、何で人の噂ってこんな中途半端に伝わるのだろう…。ハンナちゃんが普段誰と一緒にいるかは聞いていないんだね。
「おじさん、ぜいたくってどんなこと?
ポルトの海で大きなお船に乗るようなこと?それとも湖畔の別荘で小さなお舟にのるの?」
ハンナちゃんって、本当に船に乗るのが好きだよね、ハンナちゃん基準では一番の贅沢がそれなのか…。
「ポルト?湖畔の別荘?それは流石に無理かな。」
「そうなの?でも、ポルトのおじいちゃんは養女になればいつでもお船に乗せてくれるって言ってたよ。ことわったけど。」
「ポルトのお爺ちゃん?誰だいそれ?」
まあ、普通の人はポルトのお爺ちゃんでポルト公爵だとは思わないよね。
「ポルトのおじいちゃんは、ミルトおばさんのお父さんだよ。」
すると会話を聞いていたおばさんの一人が言った。
「ミルト様のお父様と言ったらポルトの公爵様だっけ。」
「ああぁ?公爵様だって?馬鹿言ってんじゃないぞ、何で孤児が公爵様の養女になんて話になるんだ?」
この人、絶対に不正確な情報に踊らされて損をするタイプの人だよ、情報はもっと正確に掴もうよ。
「あんた、私達と同じ地区の平民街で流行らない雑貨屋をやっている旦那だろう。
ちゃったあ、ハンナちゃんの身なりをよく見たらどうなんだい。
今ハンナちゃんが着ているワンピース一着であんたの稼ぎが何か月分とんでいくと思って。
そんな事もわからないから店が流行らないんだよ。」
「うるせいやい、余計なお世話だっての。
ハンナちゃんと組んでこれから一山当てようって思っているんだから、引っ込んでろ。」
文句を言いつつもおばさんの指摘を受けてまじまじとハンナちゃんを観察するおじさん。
今本音が駄々漏れだったよ…。
おじさんはハッとした表情を見せると、いきなりハンナちゃんのワンピースの裾をまくった。
わたしが慌ててハンナちゃんのもとへ行こうとしたら…。
「何してんだい!この変質者!」
あ、おばさんにどつかれた…。
「こ、このタグは…、王室御用達の…。」
ああ、ワンピースの裾の裏につけられたタグを確認したかったのね。
今ハンナちゃんが着ている服はフローラちゃんから紹介された仕立て屋さんで作ったものだ。
その仕立て屋さん、必ずスカート部分の裾の裏に自分のサインの刺繍を入れた小さなタグを縫い付けてある。品質に絶対の自信があるから出来るんだよね。
そのタグを確認したおじさんは言葉をなくしている。
「馬鹿だね、今頃気付いたのかい。商売人なんだからもっと相手を観察しなよ。
だいたい、街の噂だってもうちょっとよく聞けば、この子の後ろ盾に誰がいるかわかる筈だよ。」
おばさんの指摘に雑貨屋のおじさんは肩を落としている。
ちなみに、昨年の学園祭の打ち上げパーティでミルトさんがハンナちゃんを紹介しているので、王都の貴族や大商人でハンナちゃんにちょっかいを出す愚か者はいない。
商人の情報網は凄いので、目端の利く商人はパーティに出席していなくてもハンナちゃんの情報は把握しているみたい。
まあ、その情報網からもれていた時点で、この商人の程度は知れているということなのだろうね。
そしてなによりも、コスモスの迷路は終日お客さんが途切れることが無かったよ。
初日のお客さんが帰って近所の人にでも話したのだろう、口コミに乗って二日目は初日以上のお客さんが来てくれた。
盛況なのは有り難いけど…、お客さんが多いと変な人もいる訳で…。
**********
午前中最後の鉢植えに花を咲かせ終わって一息ついている時のことだった。
「ハンナちゃん凄いのね、怪我の治療だけでなく、花を咲かせることも出来るんだ。」
「本当よね、まるで天使のようだわ、こんな小さいのに。」
「ハンナちゃん、おばさんたち、出店でお菓子買ってきたから後で食べてね。」
わたしの目の前では、ハンナちゃんが、精霊神殿前の臨時診療所で馴染みになったおばさん達に囲まれて、お菓子や果物をもらっていた。
ハンナちゃんがここで鉢植えに花を咲かせて見せていると聞いてやって来たみたい。
相変わらず餌付けされているな…。
そんな微笑ましい光景を眺めていると、いかにも商人という身なりのおじさんが人ごみを掻き分けて姿を見せた。
「ちょっとごめんなさいね。お嬢ちゃん、ハンナちゃんって言うんだっけ。
噂で聞いたよ、ご両親がいないんだってね。まだ小さいのに、可哀想に。
どうだい、おじさんの娘にならないかい。」
ああ、欲に目が眩んだ人ね、こういう人は初めてだ。普段、人前で術を使うのは女性専用の天幕の中だけだからね。
あの診療所に来るご婦人達はみんなハンナちゃんのファンだから害になりそうな人は寄せ付けないものね。
「え、いやだよ。ハンナはターニャおねえちゃんやミーナおねえちゃんと一緒の方が楽しいもの。」
「なんだいそれは、孤児院のお姉ちゃんかな?
孤児院で慎ましい生活しなくても、おじさんのところに来ればうんと贅沢できるんだよ。」
「あんた、何を馬鹿な…。」
「うるさい、俺は今ハンナちゃんと大事な話ををしているんだ。口を挟まないでおくれ。」
おばさんの一人が注意しようとするが、おじさんはそれを聞こうとはしなかった。
うーん、何で人の噂ってこんな中途半端に伝わるのだろう…。ハンナちゃんが普段誰と一緒にいるかは聞いていないんだね。
「おじさん、ぜいたくってどんなこと?
ポルトの海で大きなお船に乗るようなこと?それとも湖畔の別荘で小さなお舟にのるの?」
ハンナちゃんって、本当に船に乗るのが好きだよね、ハンナちゃん基準では一番の贅沢がそれなのか…。
「ポルト?湖畔の別荘?それは流石に無理かな。」
「そうなの?でも、ポルトのおじいちゃんは養女になればいつでもお船に乗せてくれるって言ってたよ。ことわったけど。」
「ポルトのお爺ちゃん?誰だいそれ?」
まあ、普通の人はポルトのお爺ちゃんでポルト公爵だとは思わないよね。
「ポルトのおじいちゃんは、ミルトおばさんのお父さんだよ。」
すると会話を聞いていたおばさんの一人が言った。
「ミルト様のお父様と言ったらポルトの公爵様だっけ。」
「ああぁ?公爵様だって?馬鹿言ってんじゃないぞ、何で孤児が公爵様の養女になんて話になるんだ?」
この人、絶対に不正確な情報に踊らされて損をするタイプの人だよ、情報はもっと正確に掴もうよ。
「あんた、私達と同じ地区の平民街で流行らない雑貨屋をやっている旦那だろう。
ちゃったあ、ハンナちゃんの身なりをよく見たらどうなんだい。
今ハンナちゃんが着ているワンピース一着であんたの稼ぎが何か月分とんでいくと思って。
そんな事もわからないから店が流行らないんだよ。」
「うるせいやい、余計なお世話だっての。
ハンナちゃんと組んでこれから一山当てようって思っているんだから、引っ込んでろ。」
文句を言いつつもおばさんの指摘を受けてまじまじとハンナちゃんを観察するおじさん。
今本音が駄々漏れだったよ…。
おじさんはハッとした表情を見せると、いきなりハンナちゃんのワンピースの裾をまくった。
わたしが慌ててハンナちゃんのもとへ行こうとしたら…。
「何してんだい!この変質者!」
あ、おばさんにどつかれた…。
「こ、このタグは…、王室御用達の…。」
ああ、ワンピースの裾の裏につけられたタグを確認したかったのね。
今ハンナちゃんが着ている服はフローラちゃんから紹介された仕立て屋さんで作ったものだ。
その仕立て屋さん、必ずスカート部分の裾の裏に自分のサインの刺繍を入れた小さなタグを縫い付けてある。品質に絶対の自信があるから出来るんだよね。
そのタグを確認したおじさんは言葉をなくしている。
「馬鹿だね、今頃気付いたのかい。商売人なんだからもっと相手を観察しなよ。
だいたい、街の噂だってもうちょっとよく聞けば、この子の後ろ盾に誰がいるかわかる筈だよ。」
おばさんの指摘に雑貨屋のおじさんは肩を落としている。
ちなみに、昨年の学園祭の打ち上げパーティでミルトさんがハンナちゃんを紹介しているので、王都の貴族や大商人でハンナちゃんにちょっかいを出す愚か者はいない。
商人の情報網は凄いので、目端の利く商人はパーティに出席していなくてもハンナちゃんの情報は把握しているみたい。
まあ、その情報網からもれていた時点で、この商人の程度は知れているということなのだろうね。
4
お気に入りに追加
2,297
あなたにおすすめの小説
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する
覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。
三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。
三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。
目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。
それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。
この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。
同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王>
このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。
だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。
彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。
だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。
果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。
普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる