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第8章 夏休み明け

第202話 予想外の混雑

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 学園祭初日、わたし達は朝一番に来て迷路のコスモスを満開に咲かせた。迷路の五シュトラーセ四方の敷地が紫、ピンク、白の三色のコスモスでいっぱいに埋め尽くされた。

「うわぁ…、これがコスモスですか、きれいな花ですね。
 一本一本は繊細な感じですけど、これだけまとまって咲いていると見ごたえがありますね。」

 ミーナちゃんが自分が満開に咲かせたコスモスに圧倒されている。

「そうでしょう、きれいな花なの。
 荒地でも良く育つので観光でお金を稼いでいる北部地域では農耕に向かない土地にけっこう植えてるのよ。
 避暑の季節を過ぎるとお客さんがぐっと減るでしょう、少しでも北部地域に長く滞在してもらえるようにこういった花を植えて景観を良くしているのよ。」

 王都の周辺は肥沃な土地が多く、殆どが農地として利用されているためそんな風に花を植えている場所は見ないな。ミーナちゃんも初めて見たと言っているし。

 そして、今回に売りはブルーメン子爵領で品種改良されたレモンイエローのコスモスだそうだ。
 淡い色合いでイエローがきつ過ぎないところが良い感じだ。

「この色きれいでしょう。
 今回は迷路の正解の道順に沿ってこの花の種を少しずつ蒔いたの。
 この花に気が付いて、この花のある方向に辿っていけば出口に着けるようにしたのよ。」

 あからさまにこの花があるとすぐに正解がわかってつまらないため、ほんの少し混ぜるようにしてあるらしい。逆に間違った道に進むとレモンイエローの花は一つも植えてないそうだ。
 

 花の迷路はゆっくり回っても三十分ほどで出てこれるように考えられたらしい。
 入り口に受付を置いて、入場料を大銅貨一枚貰いことにした。
 子供でも気軽に入れるようにという設定で、北部地方でお祭りの出し物にするときもだいたい大銅貨一枚が相場なんだって。


 迷路を出たところには販売用の場所を設けたよ、各種球根と花の種を売るの。
 昨年みたいな球根を並べただけの殺風景な屋台ではなくて、球根ごとに一鉢見本として咲かせたものを置いたの。実際に咲いてる物を見た方が買いたいという気になるだろうからね。
 コスモスの種も切り花を花瓶に入れてどんな花が咲くかわかるようにしたよ。

 そして、目玉商品は昨年と同じ球根の鉢植え、わたし達がお客さんの目の前で咲かせて見せるの。昨年と同じ一鉢銀貨二枚で販売するよ。
 今回は学園祭の一日目と二日目に一日二回、時間を決めて販売をすることにしたよ。
 お店の前に告知看板を置いて何時から始めるのかをわかるようにしたの。
 その方がみんな集まってくれると思うから。


     **********


 そう思っていたわたし達は甘かった、大あまだった。
 外部からのお客さんがまだ疎らな学園祭開始早々、コスモスの迷路に生徒達が予想外に多く訪れ早速迷路の中で渋滞を起こしてしまった。

「あちゃー、地元のお祭りじゃあ、よくある催しのせいかこんなに混むことは無いんだけどね。
 物珍しさで集まって来ているのだからそのうちはけると思うわ。」

 ラインさんはそう言うけど…。
 これから外部の人が来るよ、そういう人も物珍しさで集まるんじゃないの?

 …そして1時間後。
 ミーナちゃんがコスモスを初めて見たと言っていたけど、王都でもあまり見ることが無い花だったようで外部からのお客さんもかなり増えてきた。
 いっこうにお客さんが減る様子が見られないのですが…。

「ごめんなさい、ターニャちゃん、ミーナちゃん。
 せっかく手伝ってもらったのに完全に失敗だわ、通路をもっと広く取らないといけなかったわ。」

 迷路だから道を間違えて行ったり来たりするものだよね。
 右往左往しながらゆっくりとコスモスを見て行ってもらおうという趣向なのだから。
 それが、予想外に人が多いものだからスムーズに行き違いが出来ず、そこかしこで渋滞を起こしている。
 もちろん、人が行き違いできるだけの道幅は取っているよ、入場した人数が多すぎたの。もっと通路の幅に遊びが必要だったってラインさんは反省している。

「困ったわ、これだと入場制限をしなくてはいけないわ。
 そうすると入り口に行列が出来て他のお店の迷惑になっちゃうし、待ち時間が長いと機嫌を悪くする人も出てきそうだわ。」

 学園祭でわたし達が借りたスペースは限られている。
 入り口で行列を作るとわたし達が借りたスペースをはみ出してしまい、他の出店者に迷惑をかけてしまう。

 ちょっと早いけどわたし達の出番かな、わたしがそう思っていたらミーナちゃんが言ったんだ。

「ラインさん、お客さんを分散させましょう。
 昨年、鉢植えに花を咲かせて売ったときにたくさん見物の人が来てくれました。
 今から鉢植えの販売を始めれば迷路に来た人の中にも鉢植えの販売の方へ足を向ける人が出てくると思います。」

 あっ、わたしが思っていたことを言ってくれた。

「そお?なんか申し訳ないけど、そうしてもらえると助かるわ。
 お願いできるかな、後で美味しいものご馳走するわ。」

 ラインさんが本当に申し訳なさそうにしている、だいぶ早い出番になったものね。


    **********


「大変申し訳ございません、迷路の中が混みあってきましたので一旦入場を打ち切らせていただきます。
 その間、あちらの屋台で鉢植えの球根をその場で咲かせて販売いたします。どれも一鉢銀貨二枚です。
 本来この時期には咲かない花を取り揃えておりますので是非見て行ってください。」 

 迷路への入場を待つお客さんの前でラインさんは大きな声でお客を屋台の方へ誘導した。


「あ、俺、去年見たぜ。ビックリしたな、いきなり鉢から芽が出てあっという間に花が咲くんだから。」

「私はそれを買いに来たんだよ、去年買いそびれたから。」

「おっ、今年もやるのか!」

 昨年も学園祭に来たと思われるお客さんの声が聞こえた。やっぱり覚えているよね。


 そして、こちらの思惑通りお客さんお客さんを屋台に誘導し、花の迷路の入場を一旦打ち切ることが出来た。

 今目の前では一番手のミーナちゃんが大輪の白百合を咲かせたところだ。

「すげええ!本当にユリの花を咲かせちまった…。」

「ブルーメン領の球根だといってたが、見事な大輪のユリだぜ。」

「「「「買った!」」」

 ミーナちゃんの術に店の前のお客さんの歓声が沸く、買いたいという声も多いね。
 購入希望者が多いときにはくじ引きにしたんだ、ラインさんが事前に用意していたよ。
 くじ引きの時間が程よい間になってくれるんだ。

 ミーナちゃんに続いて、わたしとハンナちゃんも次々に花を咲かせていく。
 学園の生徒ではないけどハンナちゃんにも手伝ってもらったよ、下町のお母さん方のアイドルだもん。案の定……。

「あっ、ハンナちゃんだ!」

「ハンナちゃん頑張って!」

「あら、ハンナちゃん、今日はお花屋さん?」

 お客さんの中でそんな声が上がっている。
 やっぱり、ハンナちゃんのファンがいたか…。
 ちっこいハンナちゃんが頑張って鉢植えの花を咲かせる姿は見ている人に凄く受けたよ。
 ハンナちゃんの咲かせたアネモネの寄せ植えは欲しいという人の倍率が一番高かったんだ。

 今年も、目の前で季節外れの花を咲かせて販売するという趣向は大人気のようだ。
 あっという間に一回目の予定数が売切れてしまった。

 その間に迷路の方も何とか人がはけたみたい。
 
 その後も迷路に渋滞が生じると鉢植えの販売を行い、わたし達は何とか初日を凌いだよ。
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