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第8章 夏休み明け
第190話 皇太子妃の私室で
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「やっぱりいけ好かない男だわ、自分の子供を治してもらってお礼の言葉もいえないとはね。
まあ、そのお金は貰っておきなさい、創世教の治癒術師ならそのくらい取るのでしょうから。
それで何か美味しいものでも食べれば腹の虫も収まるでしょう。」
ここは王宮の最奥ミルトさんの私室、アロガンツ家へ行って見聞きしたことを知らせに来たの。
そして今、あらましを話し終わったところ。目の前のローテーブルにはリタさんから受け取った金貨十枚が置いてある。
貰っておきなさいって、三人家族の二ヶ月分の生活費だよ、これ…。
貰っとけと言うのであれば、貰っとくけど…。
「それで、伯爵がミルトさんのことを最近何かとしゃしゃり出て来て煩わしいって言ってたけどなんか嫌われるようなことしたの?」
「恨まれるようなことをした覚えはないのですけどね。
最近までは私は殆ど奥の宮から出ませんでしたからね、確かに、精霊の力を借りられるようになってからは表の宮にも顔を出すようになりましたわ。それが気に障るのかしら?
ただ、私は政治には表立って口出ししては居ませんよ。
私が口を挟んだのは王宮内の目に余る行いだけですもの。
私が主導したのは出退勤時間の管理の厳格化と業務時間中の休憩室の閉鎖くらいですよ。」
魔法が使えないミルトさんは出来損ないの皇太子妃と蔑視されていて、仕事に口を挟んでも無視されるのが関の山だったため、行政機関である表の宮には殆ど出てこなかったそうだ。
精霊の力を借りられるようになり、表向き魔法が使えるように見えるようになってからは少しずつ表の宮にも顔を出すようにしているらしい。
ただ、政治は男の領分という風潮があるため、何かして欲しいことがある場合は皇太子を通しているそうだ。
表の宮に顔を出すようになって気付いたのは出退勤時間があまりにもいい加減であることだったらしい。ちょっと位の遅刻は可愛いもので、中にはお昼過ぎに堂々と出勤してくる者もいたそうだ。
退勤時間も同様で、まだ執務時間内に堂々と退勤している役人がいたみたい。
あまりにも酷いため出退勤時間の管理簿を作るとともに、遅刻者、無断早退者に罰金を課すことにしたそうだ。一月分を翌月の給金から天引きするんだって。
更に、執務時間中に休憩室で葉巻を燻らせながらのんびりと談笑する者やお酒を飲んでいる者がいたそうだ。
怒ったミルトさんはお昼時の二時間と午後のティータイム一時間以外は休憩室を施錠して閉鎖したそうだ。
「酷い人はお昼ごろ出勤してきて休憩室でずっと談笑しているんですよ。
そんな人を国民の血税で養うなんて我慢できませんもの。」
ミルトさんはそう言うけど、結構それって貴族連中に恨みを買っているんじゃ…。
貴族の中には仕事なんて下々のものにやらせておけと思っているような人がいそうだもの。
アロガンツ伯爵とか…。
**********
「それと、伯爵の三男の部屋にあった瘴気の森の木で作られた調度品、入手先は教えてもらえなかったんだけど…。
その調度品をこれは魔力を回復するという帝国で折り紙付きの調度品だと言ってたよ。
それから、さる高貴な方の関係者から譲っていただいたものだとも言っていた。
あの商人とか、神に選ばれたなんて言葉も出てきたので、プッペが関わっていると思うよ。
もしかしたら、もっと上の方かもしれないけど。」
わたしがアロガンツ家で見た調度品について補足を入れるとミルトさんは自分の持つ情報と照らし合わせながら言う。
「押収した帳簿からプッペが伯爵にお金を贈っていたことがわかっているので、その調度品もプッペから譲ってもらったのでしょうね。
誰が譲ったにしろ『神に選ばれた』なんて言葉が出てくるのなら『黒の使徒』の連中が絡んでいるのでしょうね。」
ミルトさんはそう言うと、ハタと何かを思い出したようだ。
「そうそう、押収した帳簿といえば、その中に気になる取引があったのよ。
ターニャちゃん、帝国に二回も行っているので気づいたと思うけど、帝国の平野部って木が全然生えていないみたいね。
それで、以前から帝国へ木材の輸出が多かったので気付かなかったのだけど、プッペの商会が扱っている木材って変なのよ。」
帝国は『黒の使徒』の企みもあって平野部の森林を切り尽してしまった。そのため砂漠化が進んで酷いことになっているのだけど…。
北部の山岳地帯にはまだ豊かな森が残っているらしいが、険しい山脈で木材の輸送は厳しいらしい。
このため、以前から建材用の木材は王国から帝国への主要輸出品となっているそうだ。
ミルトさんが指摘する変だという点は、プッペ以外の輸出商は国内の木材問屋から木材を仕入れて輸出しているらしい。
法律ではないが、昔からの言い伝えでこの国では木の伐採は森を端から全部伐るのではなく、透かすように伐っていく。例の精霊神殿の教えだね。
そうすると一ヶ所で伐採できる木材が限られてくるので専門の木材問屋が全国から木材を集めているのだそうだ。
当然輸出商にはそういつツテがないので、専門の木材問屋から仕入れて帝国へ輸出するのが普通らしい。
しかし、プッペの商会は特定の貴族から大量の木材を仕入れていたらしい。
ああ、ヴェストエンデ伯爵がそうだったね、それ以外の貴族からも仕入れていたんだ…。
ヴェストエンデ伯爵領では森が一つ丸々買収され全て伐採されていた。
ミルトさんは、帳簿に出てくるヴェストエンデ伯爵以外の貴族の領地でも森が丸ごと伐採されているのではないかと懸念しているそうだ。
既に確認に向かわせているそうで、急を要するため王家にある魔導車を総動員しているみたい。
「ここで気が付かなかったら、帝国と同様、気付いたら森が無くなっていたと言う事になっていたかも知れません。
プッペを捕らえられたのは本当にお手柄ですよターニャちゃん。」
ミルトさんに話では北部地区の領主は森林の大切さを理解している人が多いのに対し、西部地区の領主は森林は金にならない無駄なものと思っている人が多いらしい。
プッペが良い条件を持ちかければあっさりと森全体の伐採を許してしまう領主もいるのではないかとミルトさんは考えているようだ。
そこには歴史的な理由もあり、中々意識を変えさせるのは難しいとミルトさんはぼやいていた。
まあ、そのお金は貰っておきなさい、創世教の治癒術師ならそのくらい取るのでしょうから。
それで何か美味しいものでも食べれば腹の虫も収まるでしょう。」
ここは王宮の最奥ミルトさんの私室、アロガンツ家へ行って見聞きしたことを知らせに来たの。
そして今、あらましを話し終わったところ。目の前のローテーブルにはリタさんから受け取った金貨十枚が置いてある。
貰っておきなさいって、三人家族の二ヶ月分の生活費だよ、これ…。
貰っとけと言うのであれば、貰っとくけど…。
「それで、伯爵がミルトさんのことを最近何かとしゃしゃり出て来て煩わしいって言ってたけどなんか嫌われるようなことしたの?」
「恨まれるようなことをした覚えはないのですけどね。
最近までは私は殆ど奥の宮から出ませんでしたからね、確かに、精霊の力を借りられるようになってからは表の宮にも顔を出すようになりましたわ。それが気に障るのかしら?
ただ、私は政治には表立って口出ししては居ませんよ。
私が口を挟んだのは王宮内の目に余る行いだけですもの。
私が主導したのは出退勤時間の管理の厳格化と業務時間中の休憩室の閉鎖くらいですよ。」
魔法が使えないミルトさんは出来損ないの皇太子妃と蔑視されていて、仕事に口を挟んでも無視されるのが関の山だったため、行政機関である表の宮には殆ど出てこなかったそうだ。
精霊の力を借りられるようになり、表向き魔法が使えるように見えるようになってからは少しずつ表の宮にも顔を出すようにしているらしい。
ただ、政治は男の領分という風潮があるため、何かして欲しいことがある場合は皇太子を通しているそうだ。
表の宮に顔を出すようになって気付いたのは出退勤時間があまりにもいい加減であることだったらしい。ちょっと位の遅刻は可愛いもので、中にはお昼過ぎに堂々と出勤してくる者もいたそうだ。
退勤時間も同様で、まだ執務時間内に堂々と退勤している役人がいたみたい。
あまりにも酷いため出退勤時間の管理簿を作るとともに、遅刻者、無断早退者に罰金を課すことにしたそうだ。一月分を翌月の給金から天引きするんだって。
更に、執務時間中に休憩室で葉巻を燻らせながらのんびりと談笑する者やお酒を飲んでいる者がいたそうだ。
怒ったミルトさんはお昼時の二時間と午後のティータイム一時間以外は休憩室を施錠して閉鎖したそうだ。
「酷い人はお昼ごろ出勤してきて休憩室でずっと談笑しているんですよ。
そんな人を国民の血税で養うなんて我慢できませんもの。」
ミルトさんはそう言うけど、結構それって貴族連中に恨みを買っているんじゃ…。
貴族の中には仕事なんて下々のものにやらせておけと思っているような人がいそうだもの。
アロガンツ伯爵とか…。
**********
「それと、伯爵の三男の部屋にあった瘴気の森の木で作られた調度品、入手先は教えてもらえなかったんだけど…。
その調度品をこれは魔力を回復するという帝国で折り紙付きの調度品だと言ってたよ。
それから、さる高貴な方の関係者から譲っていただいたものだとも言っていた。
あの商人とか、神に選ばれたなんて言葉も出てきたので、プッペが関わっていると思うよ。
もしかしたら、もっと上の方かもしれないけど。」
わたしがアロガンツ家で見た調度品について補足を入れるとミルトさんは自分の持つ情報と照らし合わせながら言う。
「押収した帳簿からプッペが伯爵にお金を贈っていたことがわかっているので、その調度品もプッペから譲ってもらったのでしょうね。
誰が譲ったにしろ『神に選ばれた』なんて言葉が出てくるのなら『黒の使徒』の連中が絡んでいるのでしょうね。」
ミルトさんはそう言うと、ハタと何かを思い出したようだ。
「そうそう、押収した帳簿といえば、その中に気になる取引があったのよ。
ターニャちゃん、帝国に二回も行っているので気づいたと思うけど、帝国の平野部って木が全然生えていないみたいね。
それで、以前から帝国へ木材の輸出が多かったので気付かなかったのだけど、プッペの商会が扱っている木材って変なのよ。」
帝国は『黒の使徒』の企みもあって平野部の森林を切り尽してしまった。そのため砂漠化が進んで酷いことになっているのだけど…。
北部の山岳地帯にはまだ豊かな森が残っているらしいが、険しい山脈で木材の輸送は厳しいらしい。
このため、以前から建材用の木材は王国から帝国への主要輸出品となっているそうだ。
ミルトさんが指摘する変だという点は、プッペ以外の輸出商は国内の木材問屋から木材を仕入れて輸出しているらしい。
法律ではないが、昔からの言い伝えでこの国では木の伐採は森を端から全部伐るのではなく、透かすように伐っていく。例の精霊神殿の教えだね。
そうすると一ヶ所で伐採できる木材が限られてくるので専門の木材問屋が全国から木材を集めているのだそうだ。
当然輸出商にはそういつツテがないので、専門の木材問屋から仕入れて帝国へ輸出するのが普通らしい。
しかし、プッペの商会は特定の貴族から大量の木材を仕入れていたらしい。
ああ、ヴェストエンデ伯爵がそうだったね、それ以外の貴族からも仕入れていたんだ…。
ヴェストエンデ伯爵領では森が一つ丸々買収され全て伐採されていた。
ミルトさんは、帳簿に出てくるヴェストエンデ伯爵以外の貴族の領地でも森が丸ごと伐採されているのではないかと懸念しているそうだ。
既に確認に向かわせているそうで、急を要するため王家にある魔導車を総動員しているみたい。
「ここで気が付かなかったら、帝国と同様、気付いたら森が無くなっていたと言う事になっていたかも知れません。
プッペを捕らえられたのは本当にお手柄ですよターニャちゃん。」
ミルトさんに話では北部地区の領主は森林の大切さを理解している人が多いのに対し、西部地区の領主は森林は金にならない無駄なものと思っている人が多いらしい。
プッペが良い条件を持ちかければあっさりと森全体の伐採を許してしまう領主もいるのではないかとミルトさんは考えているようだ。
そこには歴史的な理由もあり、中々意識を変えさせるのは難しいとミルトさんはぼやいていた。
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