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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第183話 王都へ戻る車の中で

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 その後三日は王家の別荘でのんびりと過ごした、湖畔を散歩したり、みんなでお茶会をしたりして王家の別荘を満喫したよ。北部地区のみんなは王家の別荘に招かれたことを家族に自慢するんだと言っていた。

 カリーナちゃんの怪我は後遺症もなく快癒している。ここでゆっくり休んだこともあって体調は良好なようだ。
 フローラちゃんの思惑通りカリーナちゃんはすっかりハンナちゃんと仲良しになっていた。

 そして、今は王都へ帰る魔導車の中、ここにいるのはいつものメンバーに、カリーナちゃんと侍女のエラさんだ。
 カリーナちゃんとエラさんが加わったため、流石にわたしの魔導車一台にでは手狭になった。
 それで、魔導車二台に分乗することになったの。わたし達はフローラちゃんの魔導車に乗り、北部組はわたしの魔導車に乗ってもらった。
 もちろん乗り心地とかは変わらないよ、同型の魔導車だから。


「凄い早いです! 景色が後ろに飛んで行くように見えますよ。
 私、魔導車に乗るのは初めてなんです。
 こんなに速いのに全然揺れないのですね、それに凄い静か。
 驚きました、さすが、王家の所有物です!」

 知り合ったときから非常に行儀良く落ち着いた雰囲気だったカリーナちゃんが年相応にはしゃいでいる。それだけ、魔導車に驚いたのだろう、北部組のみんなもそうだったものね。

「私、一人でアデル領にある別荘に来て、一番不満に思ったことは馬車での旅だったのです。
 酷く揺れるので気分が悪くなるのです、慣れるまでは一日に何度も休んだものですから予定の街まで辿り着けず行きは三日も馬車の中で寝たのですよ。
 座席も板に毛足の長い毛皮を捲いただけの物で凄く硬いのです。それで揺れるものですからすぐに体が痛くなってしまいました。」

 カリーナちゃんは一人で別荘に来ること自体には不満がなかったらしい。両親がカリーナちゃんのことを思ってそう指示したのは分っていたから。
 ただ、馬車の旅には辟易としていたらしい、帰りも馬車で一月近くかかるのかと考えただけで憂鬱だったそうだ。
 フローラちゃんの提案は断れないから受けたのではなく、渡りに船だったようだ。

「馬車は揺れるし、座席は硬いしですぐにお尻が痛くなるよね。ハンナも馬車は嫌いだな…。」

 ハンナちゃんがそう相槌を打つと、フローラちゃんが言った。

「ハンナちゃんは、ターニャちゃんの魔導車しか乗ったことがないから知らないのでしょう。
 魔導車も普通のはもっと揺れるし、こんな柔らかいソファーの物はないのですよ。
 私が今まで使っていた魔導車は結構揺れたし、座席も硬くて腰が痛くなりました。
 だいたい速度だってこの半分くらいしか出ないのですよ。」

「そうなのですか?」

「ええ、そうなの。この魔導車はターニャちゃんのお母様から譲っていただいたもので王家にも二台しかないのよ。」

 カリーナちゃんが口にした疑問に答えたフローラちゃんの言葉を聞いて不思議そうな顔をした。

 そして、聞いていいのか迷ったような口ぶりで言った。


     **********


「あの、聞いていい事か分らないのですが、ハンナちゃん達三人はどのような方なのでしょうか?」

「どういうことからしら?」

 フローラちゃんはカリーナちゃんに質問の意図を尋ねた。

「初めてお会いした日の夕食の時にみなさんをご紹介いただきました。
 その時、別の魔導車にお乗りの皆さんは家名を教えていただきましたが、こちらの三人はそれがなかったのです。
 それに、本来ならアデル家のご息女がこちらに乗っていて然るべきかと思ったものですから。
 さっきのお話、この魔導車をターニャさんのお母様からいただいたと言うことも気になって。
 何か事情があるのかと思って、お聞きしていいものか迷っていたのですが…。」

「ええ、実は帰り道にそのことをお話しようと思っていたのです。
 こちらからもお願いしたいことがありますので。」


 そう言ってフローラちゃんはわたし達の素性について話し始めた。わたしやミーナちゃんと出会った時のことや精霊のこともちゃんと話していたよ。


「精霊ですか…。」

 全てを聞き終わったとき、カリーナちゃんは半信半疑で困惑気味に呟いた。

 そんなカリーナちゃんにわたしは

「そう精霊、わたしは精霊の森で精霊に育てられたの。
 人が一人もいない場所だったので人の世界を勉強してきなさいって言われてこの国に来たの。
 今は信じられないかもしれないけど、そのうち否が応にも信じることになると思うよ。
 わたし達と一緒にいればウンディーネおかあさんに会う機会があると思うから。
 この前、王家の別荘にも顔を見せたんだけど、カリーナちゃんとは入れ違いだったね。」

と言った。

 ウンディーネおかあさんを見るとみんな精霊の存在に納得するんだよね、一部では女神様と誤解されていたようだけど。やっぱり、強大な存在だと分るのだろうね…。


「なかなか信じられないようだけど、今は仕方がないかな。
 それでお願いがるのだけど、カリーナちゃんには将来私の側に仕えてもらうことを含みで行儀見習いに来て欲しいの。
 そうすれば、王家があなたをアロガンツ家から守ってあげられるわ。
 王族の側仕えに内定している者の縁談は王家の許可なしには進められないから。」

 フローラちゃんがそういうと、カリーナちゃんが信じられないという表情で言う。

「それこそ無理があるのではないですか?
 私はまだ六歳です、王族の側仕えは優秀な方がなると聞いています。
 私が将来どうなるかわからないではないですか。」

「六歳でそれだけわきまえていれば十分優秀だわ。
 でも、それは方便なの。
 実際にあなたにして欲しいのは、わたし達が学園で勉強している間ハンナちゃんの遊び相手になってもらうことなの。」

 そう言ってフローラちゃんは先日王家の別荘で話し合った通りの説明をカリーナちゃんにした。
 そして、わたし達はお姉ちゃんであって友達ではないため、同い年の友達が必要だと感じていることを伝えた。


「できれば、学園に入学するまで私の部屋に住んで昼間はハンナちゃんと遊んで欲しいの。
 それと二年後には学園にも一緒に通って欲しいと思っているの。
 ハンナちゃんはどうかしら、カリーナちゃんと仲良くなりたいって言っていたわよね。」

「うん、ハンナ、カリーナちゃんともっと仲良しになれたらうれしいな。」

 ハンナちゃんの無邪気な返事にカリーナちゃんが言った。

「私もハンナちゃんともっと遊びたいです。
 わかりましたお話をお受けしたいとお父様に相談してみます。」

「そう言ってもらえて嬉しいわ。
 お母様には報告してあるので、お母様から子爵に話が行っているかも知れないわね。
 お母様は凄く乗り気だったし。」

 そう言ってフローラちゃんは手許の鞄から魔導通信機を出した。
 あ、ちゃんと活用していたんだ…。



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