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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第172話 北へ
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「アデル侯爵領にある別荘にいきましょう。」
クロノスさんにマナをごっそり持ってかれ、ぐったり疲れてミルトさんの私室に戻ると、フローラちゃんが唐突に言った。
「これからエルフリーデちゃんの領地まで行くの?もう十三日しか夏休みは残っていないよ。」
「いいえ、まだ十三日も残っているのです。
明日の早朝王都を出れば三日目の午前中にはアデル領に着きますわ。
七日くらい別荘でのんびりできるはずです。」
よくよく話を聞いてみるとアデル領にある湖畔の別荘はフローラちゃんのお気に入りの場所らしい。
昨年、今年と二年続けて別荘に行けなかったのが残念でならないみたい。
せっかく時間ができたので少しでもいいから別荘に行きたいと言ってるの。
ノイエシュタットにいた最後の方はミルトさんと侯爵が瘴気の森の件にかかりきりで、護衛が手薄になるからと侯爵館から出してもらえず退屈だったらしい。
でも、みんな長旅の後だし慌ただしく出かけるのは嫌なんじゃないかな?
わたしは特に疲れている訳じゃないからどちらでも良いけど…。
「フローラおねえちゃん、別荘に行くと何か美味しいものあるの?」
それまで黙って聞いていたハンナちゃんが尋ねた。
「ええ、別荘の前にある湖で獲れたマスを使った料理は美味しいですわ。
定番のソテーやムニエルは勿論のことスモークしたものも美味しいですし、なによりも生で食べるのが絶品なんですよ。」
フローラちゃんの話を聞いたハンナちゃんは涎を垂らしそうな表情で、
「ハンナ、別荘に行きたい!」
と言った。
決まりだった…、このメンバーでハンナちゃんのお願いに抗せる者はいない…。
残りの夏休みの日数が少ないため、明日は日の出と共に王都を出発することになった。
今回のメンバーは、フローラちゃん、ミーナちゃん、ハンナちゃんとわたしの四人。
ミルトさんは勿論仕事だし、ヴィクトーリアさんは瘴気の森の件でミルトさんやハイジさんと相談したいことがあるらしい。そして、ハイジさんは帝国でのこと、オストエンデでのことについての報告書を書くそうだ。
「私も瘴気の森で押収した証拠物件の精査がなければ付いて行くのに…。」
ミルトさんが残念がっていた。いや、あなた、その件がなければ今頃西部地区で慈善活動をしながら王都へ向かっているところだったでしょうに。
**********
朝四時、あたりがうっすらと明るくなり始めた頃、わたし達は王都を出発した。
今の時期、日の入りは十八時、今日一日で十五シュタット進むつもりでこんなに早く出たんだ。
ちなみに、今回の旅行を行きたいと強く主張したハンナちゃんはおねむのままでフェイさんに抱かかえられて魔導車に乗せられていた。
王都を出て少し西へ進みこの国を南北に貫く街道との交差点を今回は北へ向かう。
冬にポルトへ行ったときに南に向かった街道だよ。
この国一番の往来がある街道だけあってよく整備されており、凄い速度で進んだ。
そういえば、冬にポルトに行ったときも凄く速かったっけ。
そして、王都を出て二日目の夕方、わたし達はアデル侯爵領の領主館前にいた。
エルフリーデちゃんのおうちだね。
フローラさんが、門番に身分を明かしエルフリーデちゃんが在宅か尋ねると、幸いなことにまだ領主館に留まっておりすぐに会える事になった。
正面の車寄せに魔導車を停め正面の入り口に控えていた侍従さんの案内でホールへ入ると、エルフリーデちゃんが迎えてくれた。
「エルフリーデちゃん、遊びに来たよー!ひさしぶり!」
わたしが声をかけると
「まったく、あなたという人は…。
市井の子供が隣の家に遊びに来た訳ではないんですから。
というより、あなた、分かっててやっているでしょう。」
とエルフリーデちゃんが呆れた声で返してきた。
「先触れも立てずに突然お邪魔してごめんなさいね、今この町に着いたばかりなものですから。
エルフリーデさんが王都に出発した後になるといけないのですぐに来てみましたの。」
そこにフローラちゃんがフォローを入れてくれた。
「とんでもございません、フローラ様に足を運んでいただけるとは恐縮です。
しかし、夏休みも終わりが近付いた今日こちらにいらしたのですか?」
「そうなんですの。
それで、よろしければ王家の別荘にエルフリーデさんをお招きしたいと思いまして。」
「あの、明後日には王都へ向けて出発する予定で、サロンのメンバーが我が家に集まっているのですが…。」
聞けば明後日の朝、ここを出発して王都へ戻る予定になっていたそうで、サロンのメンバーをアデル侯爵が持つ魔導車で一緒に乗せていくことになっていたそうだ。
去年もそう言っていたね。みんなの領地はこの町まで馬車で数日かかる所にあるので余裕を持って数日前からここに集まって来たみたい。
「ええ、それも予想していましたわ。みなさんをお招きしたいと思いますの。
どうせならみんな揃った方が楽しいでしょう。
いっぱいお喋りしましょう。」
そう誘ったフローラちゃんの言葉にわたしが付け加えて言う。
「それで、よかったらわたし達の魔導車で一緒に王都へ帰りませんか?
急げば王都まで二日で着くので、わたし達はフローラちゃんの別荘に七日ほど滞在する予定なのですけど。」
それを聞いたエルフリーデちゃんが嬉しそうに言った。
「まあ、それは素敵なお誘いですこと。
是非、お言葉に甘えさせていただきたいですわ。
では、私は滞在中、みなさんをこのあたりの素敵な場所へご案内しましょうか。
それと、これから別荘の準備は大変でしょうから今晩は我が家に泊まってください。
サロンのみんなと一緒に食事をしましょう。」
エルフリーデちゃんはわたし達の魔導車の乗り心地を気に入っているし、王都まで七日かかって長旅で疲れるって言っていたものね。
この日は、エルフリーデちゃんの家にお世話になり、明日サロンのみんなも加えてフローラちゃんの別荘に行くことになりました。
クロノスさんにマナをごっそり持ってかれ、ぐったり疲れてミルトさんの私室に戻ると、フローラちゃんが唐突に言った。
「これからエルフリーデちゃんの領地まで行くの?もう十三日しか夏休みは残っていないよ。」
「いいえ、まだ十三日も残っているのです。
明日の早朝王都を出れば三日目の午前中にはアデル領に着きますわ。
七日くらい別荘でのんびりできるはずです。」
よくよく話を聞いてみるとアデル領にある湖畔の別荘はフローラちゃんのお気に入りの場所らしい。
昨年、今年と二年続けて別荘に行けなかったのが残念でならないみたい。
せっかく時間ができたので少しでもいいから別荘に行きたいと言ってるの。
ノイエシュタットにいた最後の方はミルトさんと侯爵が瘴気の森の件にかかりきりで、護衛が手薄になるからと侯爵館から出してもらえず退屈だったらしい。
でも、みんな長旅の後だし慌ただしく出かけるのは嫌なんじゃないかな?
わたしは特に疲れている訳じゃないからどちらでも良いけど…。
「フローラおねえちゃん、別荘に行くと何か美味しいものあるの?」
それまで黙って聞いていたハンナちゃんが尋ねた。
「ええ、別荘の前にある湖で獲れたマスを使った料理は美味しいですわ。
定番のソテーやムニエルは勿論のことスモークしたものも美味しいですし、なによりも生で食べるのが絶品なんですよ。」
フローラちゃんの話を聞いたハンナちゃんは涎を垂らしそうな表情で、
「ハンナ、別荘に行きたい!」
と言った。
決まりだった…、このメンバーでハンナちゃんのお願いに抗せる者はいない…。
残りの夏休みの日数が少ないため、明日は日の出と共に王都を出発することになった。
今回のメンバーは、フローラちゃん、ミーナちゃん、ハンナちゃんとわたしの四人。
ミルトさんは勿論仕事だし、ヴィクトーリアさんは瘴気の森の件でミルトさんやハイジさんと相談したいことがあるらしい。そして、ハイジさんは帝国でのこと、オストエンデでのことについての報告書を書くそうだ。
「私も瘴気の森で押収した証拠物件の精査がなければ付いて行くのに…。」
ミルトさんが残念がっていた。いや、あなた、その件がなければ今頃西部地区で慈善活動をしながら王都へ向かっているところだったでしょうに。
**********
朝四時、あたりがうっすらと明るくなり始めた頃、わたし達は王都を出発した。
今の時期、日の入りは十八時、今日一日で十五シュタット進むつもりでこんなに早く出たんだ。
ちなみに、今回の旅行を行きたいと強く主張したハンナちゃんはおねむのままでフェイさんに抱かかえられて魔導車に乗せられていた。
王都を出て少し西へ進みこの国を南北に貫く街道との交差点を今回は北へ向かう。
冬にポルトへ行ったときに南に向かった街道だよ。
この国一番の往来がある街道だけあってよく整備されており、凄い速度で進んだ。
そういえば、冬にポルトに行ったときも凄く速かったっけ。
そして、王都を出て二日目の夕方、わたし達はアデル侯爵領の領主館前にいた。
エルフリーデちゃんのおうちだね。
フローラさんが、門番に身分を明かしエルフリーデちゃんが在宅か尋ねると、幸いなことにまだ領主館に留まっておりすぐに会える事になった。
正面の車寄せに魔導車を停め正面の入り口に控えていた侍従さんの案内でホールへ入ると、エルフリーデちゃんが迎えてくれた。
「エルフリーデちゃん、遊びに来たよー!ひさしぶり!」
わたしが声をかけると
「まったく、あなたという人は…。
市井の子供が隣の家に遊びに来た訳ではないんですから。
というより、あなた、分かっててやっているでしょう。」
とエルフリーデちゃんが呆れた声で返してきた。
「先触れも立てずに突然お邪魔してごめんなさいね、今この町に着いたばかりなものですから。
エルフリーデさんが王都に出発した後になるといけないのですぐに来てみましたの。」
そこにフローラちゃんがフォローを入れてくれた。
「とんでもございません、フローラ様に足を運んでいただけるとは恐縮です。
しかし、夏休みも終わりが近付いた今日こちらにいらしたのですか?」
「そうなんですの。
それで、よろしければ王家の別荘にエルフリーデさんをお招きしたいと思いまして。」
「あの、明後日には王都へ向けて出発する予定で、サロンのメンバーが我が家に集まっているのですが…。」
聞けば明後日の朝、ここを出発して王都へ戻る予定になっていたそうで、サロンのメンバーをアデル侯爵が持つ魔導車で一緒に乗せていくことになっていたそうだ。
去年もそう言っていたね。みんなの領地はこの町まで馬車で数日かかる所にあるので余裕を持って数日前からここに集まって来たみたい。
「ええ、それも予想していましたわ。みなさんをお招きしたいと思いますの。
どうせならみんな揃った方が楽しいでしょう。
いっぱいお喋りしましょう。」
そう誘ったフローラちゃんの言葉にわたしが付け加えて言う。
「それで、よかったらわたし達の魔導車で一緒に王都へ帰りませんか?
急げば王都まで二日で着くので、わたし達はフローラちゃんの別荘に七日ほど滞在する予定なのですけど。」
それを聞いたエルフリーデちゃんが嬉しそうに言った。
「まあ、それは素敵なお誘いですこと。
是非、お言葉に甘えさせていただきたいですわ。
では、私は滞在中、みなさんをこのあたりの素敵な場所へご案内しましょうか。
それと、これから別荘の準備は大変でしょうから今晩は我が家に泊まってください。
サロンのみんなと一緒に食事をしましょう。」
エルフリーデちゃんはわたし達の魔導車の乗り心地を気に入っているし、王都まで七日かかって長旅で疲れるって言っていたものね。
この日は、エルフリーデちゃんの家にお世話になり、明日サロンのみんなも加えてフローラちゃんの別荘に行くことになりました。
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