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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第169話 ヴェストエンデ伯爵 ②
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ミルトさんが伯爵にプッペ支配人たちを捕縛したことを伝えてこれで終わりかと思っていたら、今度は伯爵からミルトさんへ問い掛けがなされた。
「皇太子妃殿下、瘴気の森を開発できるように法を改めようとする動きは本当にないのですか?
帝国では瘴気の森を貴重な資源の産地として積極的に活用していると聞いたのですが。」
伯爵は、瘴気の森の開発を国に働きかけている勢力があるとまだ信じているようだ。
「伯爵、あなたはなぜ国が瘴気の森の開発を禁止しているか、なぜ魔獣狩りの期間制限しているかご存知ですよね。」
「瘴気の森が発する瘴気が人の体に害を与えるからという理由ですね。
しかし、それは本当のことなのですか?
瘴気の森の近くでは魔法の威力は増すし、魔力の回復力も上がると聞いています。
それを聞くと、瘴気の森を開発しても健康に害などないと思うのですが。」
この人も『黒の使徒』の考えを刷り込まれちゃっている。何でこう簡単に騙されるかな?
「伯爵、あなたの家は元々ここより西にあった小国の王家の血筋と言うことはご存知ですよね。」
「もちろん、自分の家の事ですので当然知っておりますが。」
「では、あなたの先祖が治めていた国は何故無くなっしまったのかを思い出してください。
そうすれば、何が正しいかは明らかでしょう。」
ミルトさんの言葉に伯爵はハッとした顔をして呟いた。
「言われて見れば…。なんで、私はそのことを忘れていたんだ…。」
そう、魔導王国の引き起こした瘴気汚染で一夜にして魔導王国は滅び、瘴気の被害は周辺諸国にも及びたくさんの人が亡くなった。これは史実としてちゃんと各地の記録に残されている。
にもかかわらず『黒の使徒』の言うことに感化されてしまう人が多いのが不思議だよね。
よっぽど話術の巧みな人がいるのか、それとも本当に洗脳できる人がいるのか…。
「それに、伯爵、あなたは話をすり替えられていますよ。
瘴気が人の体に悪影響を与えるから瘴気の森の開発や立ち入りを規制しているのであって、魔法がどうだとは一切関係ないのですよ。
魔法の威力や回復力が増そうが関係ないのです。」
「しかし、魔晶石など貴重な資源が取れることも確かなのです。
もう少し規制を緩めても良いのではないですか。帝国産の家具、あれは本当に良かったのです。
部屋に置いておくだけで魔力が回復していくのが実感できる素晴らしいものですよ。」
ああ、伯爵は黒髪・黒い瞳だね。瘴気に対する耐性の強い人で蓄積量の多い人なんだろうね。
「わたしは、それと同じような調度品を使っていて体を壊した人を知っています。
瘴気の森の木で作られた家具は濃い瘴気を発するので普通の人には有害なのです。」
「なんだね、子供は口を挟むんじゃない。私は皇太子妃様と話をしているんだ。」
わたしが口を挟んだことに伯爵は不機嫌な声を上げるが、ミルトさんがフォローを入れた。
「ああ、紹介しないでごめんなさいね。
この子が今回の事件の摘発に活躍してくれたのよ。
この子、こんなに小さな子供なのに優秀な治癒術師なの。
今回の事件の背景なんかも一番詳しいので連れてきたのよ。」
ミルトさんに促されてわたしは帝国の皇后様のヴィクトーリアさんが瘴気の森で作られた調度品を部屋に置いてからすぐに瘴気中毒に罹ったことを話した。
他の治癒術師では瘴気中毒は治せなかったため、わたしが帝国まで行って治療してきたこともついでに話したよ。
そして、帝国では瘴気の森の伐採現場を守るために魔獣狩りをしていた若者が多数瘴気中毒に倒れ、なくなった人もたくさんいたことも教えた。
わたしは帝国の瘴気の森に作られた製材所の様子を見て、ヴェストエンデでも同じようなことが起こっているのではないかと思い、ミルトさんに相談したことを伯爵に伝えた。
わたしは、
「伯爵の馬車で瘴気の森に運んだ若者の中にも四十人近い人が瘴気中毒で動けなくなっていましたよ。
幸い、亡くなった方はいないようなので全員わたし達が治しましたけど、わたし達以外に瘴気中毒を治せる人はいないので発見が遅ければ亡くなる方が居たかも知れないですね。」
と、プッペ支配人が作っている施設でも帝国の製材所同様に瘴気中毒に罹った人がたくさんいたことを付け加えた。
「プッペ支配人の商会は帝国にあるシュバーツアポステル商会が支配しています。
シュバーツアポステル商会というのは帝国の国教である『黒の使徒』という宗教団体の別働隊のようです。
『黒の使徒』という団体は魔法至上主義を掲げていて、魔力の強い黒髪・黒い瞳・褐色の肌の人を神に選ばれた人として崇めているんです。
『黒の使徒』の人達は黒髪・黒い瞳・褐色の肌の人の都合を優先して、民衆に対して酷い仕打ちをしています。
その『黒の使徒』が本格的に王国へ進出しようと狙っているようです。
王国へ進出する足がかりとして黒髪・黒い瞳の伯爵を仲間にしかったのではないですか。」
わたしがそう言って話を終えると、伯爵は言った。
「たしかに、プッペはこの国は魔力の強い人間に対する待遇が悪る過ぎるとよく言っていた。
魔力の強い人間はもっと尊敬されるべきだし、地位的にも優遇されて然るべきだと。
魔力の無い『色なし』と同等に扱われるなどけしからんことだも言っていたな。」
黒髪で黒い瞳を持つ伯爵はもっと高い地位を得るべきだとおだてられてプッペ支配人の話に引き込まれていったらしい。
ミルトさんはあまりに簡単にプッペ支配人に乗せられた伯爵に呆れていたが、『黒の使徒』が伯爵以外にも接触している可能性があるので注意が必要ねと言っていた。
「皇太子妃殿下、瘴気の森を開発できるように法を改めようとする動きは本当にないのですか?
帝国では瘴気の森を貴重な資源の産地として積極的に活用していると聞いたのですが。」
伯爵は、瘴気の森の開発を国に働きかけている勢力があるとまだ信じているようだ。
「伯爵、あなたはなぜ国が瘴気の森の開発を禁止しているか、なぜ魔獣狩りの期間制限しているかご存知ですよね。」
「瘴気の森が発する瘴気が人の体に害を与えるからという理由ですね。
しかし、それは本当のことなのですか?
瘴気の森の近くでは魔法の威力は増すし、魔力の回復力も上がると聞いています。
それを聞くと、瘴気の森を開発しても健康に害などないと思うのですが。」
この人も『黒の使徒』の考えを刷り込まれちゃっている。何でこう簡単に騙されるかな?
「伯爵、あなたの家は元々ここより西にあった小国の王家の血筋と言うことはご存知ですよね。」
「もちろん、自分の家の事ですので当然知っておりますが。」
「では、あなたの先祖が治めていた国は何故無くなっしまったのかを思い出してください。
そうすれば、何が正しいかは明らかでしょう。」
ミルトさんの言葉に伯爵はハッとした顔をして呟いた。
「言われて見れば…。なんで、私はそのことを忘れていたんだ…。」
そう、魔導王国の引き起こした瘴気汚染で一夜にして魔導王国は滅び、瘴気の被害は周辺諸国にも及びたくさんの人が亡くなった。これは史実としてちゃんと各地の記録に残されている。
にもかかわらず『黒の使徒』の言うことに感化されてしまう人が多いのが不思議だよね。
よっぽど話術の巧みな人がいるのか、それとも本当に洗脳できる人がいるのか…。
「それに、伯爵、あなたは話をすり替えられていますよ。
瘴気が人の体に悪影響を与えるから瘴気の森の開発や立ち入りを規制しているのであって、魔法がどうだとは一切関係ないのですよ。
魔法の威力や回復力が増そうが関係ないのです。」
「しかし、魔晶石など貴重な資源が取れることも確かなのです。
もう少し規制を緩めても良いのではないですか。帝国産の家具、あれは本当に良かったのです。
部屋に置いておくだけで魔力が回復していくのが実感できる素晴らしいものですよ。」
ああ、伯爵は黒髪・黒い瞳だね。瘴気に対する耐性の強い人で蓄積量の多い人なんだろうね。
「わたしは、それと同じような調度品を使っていて体を壊した人を知っています。
瘴気の森の木で作られた家具は濃い瘴気を発するので普通の人には有害なのです。」
「なんだね、子供は口を挟むんじゃない。私は皇太子妃様と話をしているんだ。」
わたしが口を挟んだことに伯爵は不機嫌な声を上げるが、ミルトさんがフォローを入れた。
「ああ、紹介しないでごめんなさいね。
この子が今回の事件の摘発に活躍してくれたのよ。
この子、こんなに小さな子供なのに優秀な治癒術師なの。
今回の事件の背景なんかも一番詳しいので連れてきたのよ。」
ミルトさんに促されてわたしは帝国の皇后様のヴィクトーリアさんが瘴気の森で作られた調度品を部屋に置いてからすぐに瘴気中毒に罹ったことを話した。
他の治癒術師では瘴気中毒は治せなかったため、わたしが帝国まで行って治療してきたこともついでに話したよ。
そして、帝国では瘴気の森の伐採現場を守るために魔獣狩りをしていた若者が多数瘴気中毒に倒れ、なくなった人もたくさんいたことも教えた。
わたしは帝国の瘴気の森に作られた製材所の様子を見て、ヴェストエンデでも同じようなことが起こっているのではないかと思い、ミルトさんに相談したことを伯爵に伝えた。
わたしは、
「伯爵の馬車で瘴気の森に運んだ若者の中にも四十人近い人が瘴気中毒で動けなくなっていましたよ。
幸い、亡くなった方はいないようなので全員わたし達が治しましたけど、わたし達以外に瘴気中毒を治せる人はいないので発見が遅ければ亡くなる方が居たかも知れないですね。」
と、プッペ支配人が作っている施設でも帝国の製材所同様に瘴気中毒に罹った人がたくさんいたことを付け加えた。
「プッペ支配人の商会は帝国にあるシュバーツアポステル商会が支配しています。
シュバーツアポステル商会というのは帝国の国教である『黒の使徒』という宗教団体の別働隊のようです。
『黒の使徒』という団体は魔法至上主義を掲げていて、魔力の強い黒髪・黒い瞳・褐色の肌の人を神に選ばれた人として崇めているんです。
『黒の使徒』の人達は黒髪・黒い瞳・褐色の肌の人の都合を優先して、民衆に対して酷い仕打ちをしています。
その『黒の使徒』が本格的に王国へ進出しようと狙っているようです。
王国へ進出する足がかりとして黒髪・黒い瞳の伯爵を仲間にしかったのではないですか。」
わたしがそう言って話を終えると、伯爵は言った。
「たしかに、プッペはこの国は魔力の強い人間に対する待遇が悪る過ぎるとよく言っていた。
魔力の強い人間はもっと尊敬されるべきだし、地位的にも優遇されて然るべきだと。
魔力の無い『色なし』と同等に扱われるなどけしからんことだも言っていたな。」
黒髪で黒い瞳を持つ伯爵はもっと高い地位を得るべきだとおだてられてプッペ支配人の話に引き込まれていったらしい。
ミルトさんはあまりに簡単にプッペ支配人に乗せられた伯爵に呆れていたが、『黒の使徒』が伯爵以外にも接触している可能性があるので注意が必要ねと言っていた。
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