上 下
168 / 508
第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第167話 怒る支配人

しおりを挟む
 瘴気の森から戻った翌日、わたしはハイジさんとフローラちゃんに瘴気の森であったこと話した。

「やはり、シュバーツアポステル商会が関わっていましたか。隣国まで来て悪さをしているとは呆れてしまいます。
 しかし、『黒の使徒』と関係があるとは思っていましたが、まさかそのものだったとは驚きました。
 しかも、普段は表に出ないでダミーの商会を使っているのですか、私が知らなくて当然ですわね。」

 ハイジさんが心底呆れた声を出した。

「それで、あの施設の支配人のプッペと言う人、わたしになんで生きてるんだって言ったの。
 わたしが『黒の使徒』の暗殺者に殺されていると思ってたみたい。
 ということは、帝国にいたギリッグ支配人にわたし達のことを知られたのは拙かったかもしれない。
 『黒の使徒』にわたし達が生きていることが知られたらまた暗殺者を送ってくるかも。」

「そうね、注意が必要かも知れないわね。
 王都に戻ったらお母様にも言っておきませんと。」


     **********


 ここは領主館の地下にある犯罪者の収容施設、ぶっちゃけ地下牢だね。
 わたしはハイジさんと共にプッペ支配人を訪ねて来た。
 プッペ支配人は相変わらず黙秘しており取調べに応じていないそうだ。
 わたしとハイジさんの顔を見れば怒って何か口を滑らすかも知れないと思ってやってきた。
 小娘と侮って何か喋ってくれるかもしれないしね。

「こんにちわ、プッペさん。ご機嫌いかがですか?」

 わたしは鉄格子越しにプッペ支配人に声をかけた。

「この悪魔め、私に何の用だ!」

 あっ、魔力を奪われたことを根に持っているんだね。

「ターニャちゃんはわたしを案内してくれただけよ。プッペ支配人でよろしいかしら?」

「お、おまえは背信皇女、何でおまえまでここにいるんだ!」

「あら、自分の国の皇女に向かって、おまえとか背信皇女とか酷いことを言うのね。
 あなた、不敬罪って言う言葉知っている?
 私はターニャちゃんに付き添って帝国辺境部に視察に行った帰りにこの町に寄っただけよ。」

「また、その悪魔を帝国に連れて行っただと、おまえは皇女の癖に何故帝国の秩序を乱すのだ。」

 ハイジさんを前に怒りを露わにしたプッペ支配人が言うには、昨年わたし達が帝国の東部辺境の一部で行った活動(食糧支援、農地開墾、疾病治療)が東部辺境部に広く知れ渡ったらしい。
 『色なし』の子供二人で奇跡のような魔法を使い作付けが困難だと思われていた瘴気の濃い土地を青々とした農地に変えたという噂が、『白い聖女』という異名と共に広がったそうだ。

 それはとりもなおさず、魔法が使えない『色なし』は神に見放された忌むべき存在だと蔑む『黒の使徒』の教義に反することみたい。
 目の前で『色なし』が魔法を使って見せたものだから、辺境では『黒の使徒』の教義に従う人が激減しているらしい。

 『色なし』の子供二人が、民衆のために食べ物を分け与えたり農作物を作付けして歩けば、力で押さえつけることしかしない『黒の使徒』とどちらが民に支持されるかは明らかだよね。

 でも、それは帝国の偉い人には困ることみたい。
 魔法力の強い者を上の立場において畏怖で民を支配するのが帝国の統治の仕方だという。
 それを思想的に支えるのが、魔法は神からの恩寵で魔法力の強い黒髪・黒い瞳・褐色の肌の人は神に祝福された人達として民を導く立場なのだという教えを説く、『黒の使徒』なんだ。

 『色なし』が奇跡のような魔法を使って民を救済したら『黒の使徒』の立場がないよね。
 そういうことで、今、帝国の東部辺境では『黒の使徒』から離反する村が増えているんだって。
 それはもう、布教が困難なぐらいらしい。


    **********


 ハイジさんは怒りを露わにするプッペさんの様子を気にするでもなく話を続けた。

「そうそう、帝国で製材所の支配人のギリッグという方に会ったわ。
 そこでシュバーツアポステル商会って名前を聞いたのよ、まさか『黒の使徒』の別働隊だとは思わなかったわ。
 そこで製材所の様子を見たターニャちゃんが、ヴェストエンデにゴロツキが集まっていて魔晶石が不正に流通しているという話に似ていると言ったのよ。
 それで慌てて帰ってきたの、本当は夏休み中ずっと東部辺境に森を作る計画だったのにね。」

 ハイジさんの言葉を聞いていたプッペ支配人はワナワナと怒りに肩を震わせている。

「ギリッグの製材所を見て私の計画に感づくとは、なんという勘の良いやつだ。
 何でこんなに早く気付かれたのかと思ったらそういうことだったのか。
 数年がかりで計画したことが、小娘の勘一つで水泡に帰すとは思いもしなかった。
 やっと『黒の使徒』の本格的な王国進出の足がかりが出来たと思っていたのに。」

 そう呟くとプッペ支配人は項垂れてしまったが、ハッと何かに気付いたように顔を上げた。
 そして、今までよりも更に怒りを強めてハイジさんを罵った。

「おまえ、今、東部辺境に森を作る計画だと言ったか?
 なんと罰当たりなことを考えているのだ!先人の苦労をなんだと思っているのだ!
 おまえのような奴は皇族を名乗る資格がないぞ!」

 プッペ支配人、怒りに任せて色々喋ってくれたよ。
 『黒の使徒』の長年の経験の積み重ねから、瘴気の森の近くでは魔力が回復しやすく魔法の威力が増すことが分っているらしい。
 一方で、豊かな森の中では魔法の威力が著しく低下する上に魔力の回復が遅いと気付いたそうだ。
 それで、より強い魔法を使えるようにするために森を減らしてきたらしい。
 いろいろな理由で森を伐ることに反対する勢力も多いことから、それこそ長い時をかけて目立たないように少しずつ。

 それで、以前、ヴィクトーリアさんが気付かないうちに森がなくなっていたと言ってたんだね。
 ヴィクトーリアさんのような良識派に気取られないように本当に少しずつ減らしていったんだ。

 やっぱり、『黒の使徒』の企みだったんだね、このまえ、ミーナちゃんが言ってた通りだったよ。

 『黒の使徒』にとっては、森を増やすと言うのは許されざる大罪らしい。
 わたし、知らない間にまた恨みを買っていた?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。

大前野 誠也
ファンタジー
ー  子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。  しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。  異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。  そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。  追放された森で2人がであったのは――

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...