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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第153話 隠蔽された人達
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村長の話を聞いたわたしたちは製材所の事務所に向かうことにした。
「村長の言うことが本当であれば、かなりの人が亡くなっている恐れがあります。
それに、病気や怪我で放っておけば命に関わる人もまだいるのではないかと思います。
取り急ぎ支配人に話を聴く必要があります。」
そう言ってハイジさんは足早に歩いていく。
製材所の事務所についてソールさんが用事を告げようとすると再びハイジさんが前に出て言った。
「帝国の第一皇女アーデルハイトです。
ここの支配人に用があります。大至急面談で出来るように取り計らってください。」
ハイジさんが命じたことに事務所の人たちは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに一人の女性が慌てて事務所の奥に駆けて行った。
ほどなくして少し髪の毛の薄い中年男性が事務所の奥から出てきた。
そして、ハイジさんの前で恭しく頭を下げて言った。
「これはこれは、皇女殿下に御成りいただくとは光栄の至りでございます。
私めに何か御用の向きがあるとの事、高貴なお方をお通しするような場所がなくて恐縮ですがどうぞ奥の応接でお話をお聞かせください。」
応接室でソファーを勧められて着席したわたし達に男は言った。
「私めはここの支配人を任されておりますギリッグと申します。
皇女殿下に於かれましては御身自らこのような辺境まで御成りいただくとはどのようなご用件でございましょうか。」
「色々と話を聞きたいことはあります。
しかし、まずはここに高熱を発して昏睡している病人が多数いるはずです。
その者達のもとへ案内しなさい。」
ハイジさんが命じたことにギリッグさんは顔色一つ変えずに言った。
「さて、何のことでしょうか?」
「とぼけても無駄です。
村長から村人が多数原因不明の熱病に罹患したこと、この製材所に雇われた者にも多くの罹患者がいること、支配人のあなたが村長に国への報告をしないように依頼したこと、全て聞いております。」
ハイジさんにそういわれて、ギリッグさんは忌々しげな顔をして言った。
「何をおっしゃるかと思えばそんな事のためにわざわざこの辺境まで御成りになられたのですか?
皇女殿下のいう病人と言うのはみんなスラムで悪さばかりしているゴロツキですよ。
そのような者がどうなろうと皇女殿下には関係ないことでございましょう。」
「話を逸らすのではない。わたしは患者はどこにいるかと聞いているのです。」
ハイジさんが重ねて詰問するとギリッグさんは、
「病気で動けなくなった者はオストエンデの町に送り届けておりますのでここにはおりません。」
と言った。
「まだしらを切りますか、この町から運び出された患者がいないのは村長から聞いています。
それに、支配人が言うことが本当であればあなたは重罪人ですよ。
流行り病の恐れのある病人を隠して町に連れ込むのは赦されざる犯罪行為です。」
語調を強めたハイジさんにギリッグさんが何かを言おうとしていたが、そこにわたしが割り込んだ。
「ハイジさん、見つけました。
このままでは埒が明きません、勝手の患者のところに行かせて貰いましょう。」
そう、あらかじめ隠蔽されることを予想しておチビちゃん達に頼んで病人の居場所を探っていたんだ。
わたし達がソファーから立ち上がると、ギリッグさんが慌ててわたし達の前に立ち塞がった。
「ヴェストランテ帝国第一皇女アーデルハイトの名において命じます。
道を開けなさい。」
ハイジさんが皇族としての命を下したためギリッグさんは悔しげな顔をしつつも道を開けた。
**********
おチビちゃんの案内でわたしが先導して歩いていく、そして事務所の裏口を抜け製材所の敷地の片隅にある離れに辿り着いた。
わたしが勝手に開けてよいものかと迷っていると、
「この小屋の扉を開けなさい。」
とハイジさんがギリッグさんに命じた。
ギリッグさんが渋々小屋の扉を開くと、小屋の中から何日も体を洗っていない人のすえた匂いと腐臭が臭ってきた。思わず込み上げるくらいの悪臭だった…。
中を覗くと小屋にはそれこそ足の踏み場がないくらい多くの病人が寝かされていた。
病人に混じり怪我人もいるようで、腐臭は傷口の化膿によるものみたいだ。
「ミーナちゃん、この小屋一回『浄化』しないと悪臭で気分が悪くなる、手伝って。」
ミーナちゃんと協力して小屋の中全体に『浄化』を施す。悪臭だけでなく、小屋の汚れや患者の汚れも取り掃ってもらったら光のおチビちゃんにかなりのマナを持っていかれたよ。
足の踏み場がないので、出入り口に近い人から治療を施し、外へ出しては次の病人を診ていくと言う作業を延々と繰り返すことになった。
この小屋の中には虫の息の人はいたものの、亡くなった人はいなかった。
そのため、全員の命だけは救うことが出来た。だって腕とか足とかない人がいるんだもん、精霊さんでもなくなっちゃったものは元に戻せないよ…。
小屋の中に押し込められていた病人、怪我人の数は百人近くに上った。よくこの小屋に入ったものだと感心してしまった。
手足の欠損など今までに見たことがない酷い怪我人を見たミーナちゃんは治療が終わったあとでも青い顔をしている。
ハイジさんは遠巻きにわたし達の様子を見ていた製材所の事務員に向かって命じた。
「誰か、この病人達に何か食べるものを与えなさい、体が弱っているので消化の良い物を与えるのです。」
そう言った後、ハイジさんは支配人を睨みつけ、
「さて、一番急を要することは片付いたみたいなのでゆっくりと話を聞かせてもらいましょうか。」
と言った。
そういわれたギリッグさんには悪びれる様子が見られなかった。
「村長の言うことが本当であれば、かなりの人が亡くなっている恐れがあります。
それに、病気や怪我で放っておけば命に関わる人もまだいるのではないかと思います。
取り急ぎ支配人に話を聴く必要があります。」
そう言ってハイジさんは足早に歩いていく。
製材所の事務所についてソールさんが用事を告げようとすると再びハイジさんが前に出て言った。
「帝国の第一皇女アーデルハイトです。
ここの支配人に用があります。大至急面談で出来るように取り計らってください。」
ハイジさんが命じたことに事務所の人たちは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに一人の女性が慌てて事務所の奥に駆けて行った。
ほどなくして少し髪の毛の薄い中年男性が事務所の奥から出てきた。
そして、ハイジさんの前で恭しく頭を下げて言った。
「これはこれは、皇女殿下に御成りいただくとは光栄の至りでございます。
私めに何か御用の向きがあるとの事、高貴なお方をお通しするような場所がなくて恐縮ですがどうぞ奥の応接でお話をお聞かせください。」
応接室でソファーを勧められて着席したわたし達に男は言った。
「私めはここの支配人を任されておりますギリッグと申します。
皇女殿下に於かれましては御身自らこのような辺境まで御成りいただくとはどのようなご用件でございましょうか。」
「色々と話を聞きたいことはあります。
しかし、まずはここに高熱を発して昏睡している病人が多数いるはずです。
その者達のもとへ案内しなさい。」
ハイジさんが命じたことにギリッグさんは顔色一つ変えずに言った。
「さて、何のことでしょうか?」
「とぼけても無駄です。
村長から村人が多数原因不明の熱病に罹患したこと、この製材所に雇われた者にも多くの罹患者がいること、支配人のあなたが村長に国への報告をしないように依頼したこと、全て聞いております。」
ハイジさんにそういわれて、ギリッグさんは忌々しげな顔をして言った。
「何をおっしゃるかと思えばそんな事のためにわざわざこの辺境まで御成りになられたのですか?
皇女殿下のいう病人と言うのはみんなスラムで悪さばかりしているゴロツキですよ。
そのような者がどうなろうと皇女殿下には関係ないことでございましょう。」
「話を逸らすのではない。わたしは患者はどこにいるかと聞いているのです。」
ハイジさんが重ねて詰問するとギリッグさんは、
「病気で動けなくなった者はオストエンデの町に送り届けておりますのでここにはおりません。」
と言った。
「まだしらを切りますか、この町から運び出された患者がいないのは村長から聞いています。
それに、支配人が言うことが本当であればあなたは重罪人ですよ。
流行り病の恐れのある病人を隠して町に連れ込むのは赦されざる犯罪行為です。」
語調を強めたハイジさんにギリッグさんが何かを言おうとしていたが、そこにわたしが割り込んだ。
「ハイジさん、見つけました。
このままでは埒が明きません、勝手の患者のところに行かせて貰いましょう。」
そう、あらかじめ隠蔽されることを予想しておチビちゃん達に頼んで病人の居場所を探っていたんだ。
わたし達がソファーから立ち上がると、ギリッグさんが慌ててわたし達の前に立ち塞がった。
「ヴェストランテ帝国第一皇女アーデルハイトの名において命じます。
道を開けなさい。」
ハイジさんが皇族としての命を下したためギリッグさんは悔しげな顔をしつつも道を開けた。
**********
おチビちゃんの案内でわたしが先導して歩いていく、そして事務所の裏口を抜け製材所の敷地の片隅にある離れに辿り着いた。
わたしが勝手に開けてよいものかと迷っていると、
「この小屋の扉を開けなさい。」
とハイジさんがギリッグさんに命じた。
ギリッグさんが渋々小屋の扉を開くと、小屋の中から何日も体を洗っていない人のすえた匂いと腐臭が臭ってきた。思わず込み上げるくらいの悪臭だった…。
中を覗くと小屋にはそれこそ足の踏み場がないくらい多くの病人が寝かされていた。
病人に混じり怪我人もいるようで、腐臭は傷口の化膿によるものみたいだ。
「ミーナちゃん、この小屋一回『浄化』しないと悪臭で気分が悪くなる、手伝って。」
ミーナちゃんと協力して小屋の中全体に『浄化』を施す。悪臭だけでなく、小屋の汚れや患者の汚れも取り掃ってもらったら光のおチビちゃんにかなりのマナを持っていかれたよ。
足の踏み場がないので、出入り口に近い人から治療を施し、外へ出しては次の病人を診ていくと言う作業を延々と繰り返すことになった。
この小屋の中には虫の息の人はいたものの、亡くなった人はいなかった。
そのため、全員の命だけは救うことが出来た。だって腕とか足とかない人がいるんだもん、精霊さんでもなくなっちゃったものは元に戻せないよ…。
小屋の中に押し込められていた病人、怪我人の数は百人近くに上った。よくこの小屋に入ったものだと感心してしまった。
手足の欠損など今までに見たことがない酷い怪我人を見たミーナちゃんは治療が終わったあとでも青い顔をしている。
ハイジさんは遠巻きにわたし達の様子を見ていた製材所の事務員に向かって命じた。
「誰か、この病人達に何か食べるものを与えなさい、体が弱っているので消化の良い物を与えるのです。」
そう言った後、ハイジさんは支配人を睨みつけ、
「さて、一番急を要することは片付いたみたいなのでゆっくりと話を聞かせてもらいましょうか。」
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そういわれたギリッグさんには悪びれる様子が見られなかった。
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