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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第139話 三度目の辺境の村

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 わたし達を乗せた魔導車は予定通りの日程で進みノイエシュタットを発って六日目には瘴気の森を抜けて帝国の東部辺境へ出ることができた。

「昨年も思ったのですが本当に速いですね。
 ヴィーナヴァルトから十日やそこらで帝国まで来てしまうとは信じられませんわ。
 でも不思議ですわね、瘴気の森の南回廊は魔獣の遭遇することが多くてそれで日程に齟齬が生じることが多いと聞いていたのですが一度も魔獣に遭遇しませんでしたわね。」

 ハイジさんが首を傾げている。
 魔獣に遭遇しない訳じゃないんだよ、昨年もそうだけど予め光のおチビちゃんに周囲の魔獣を駆除して貰っているんだ。魔獣は『浄化』で倒すのが一番手っ取り早いからね。
 おかげで、わたしはずっと光のおチビちゃんにマナを吸われている状態だよ…。


     **********


 そして、七日目の午前中には瘴気の森に一番近い村に着いた。
 この村は昨年食料が底をついて餓死寸前だった女の子を助けた村だ。
 あの女の子は元気だろうか?飢えずに済むだけの作物の作付けはしておいたのだけど。

 近付くにつれ村の様子が明らかになってくる、わたしは村の光景を見て唖然としてしまった。

「ひどい……。」

 村を取り囲むように植えたハリエンジュの木が伐り倒され、荒地の一角を開墾して作ったハリエンジュの小さな林が焼き払われていた。

 あれほど村の人にこの木は伐らないように説明したのに……。
 このくらいじゃたいした効果は期待できないかもしれないけど、少しでも瘴気を浄化するように、少しでも清浄なマナを生み出すようにと思って植えたのに……。
 少しでも村の人の健康のためにと思ったのに……。


 わたしは約束を守ってくれなかった村人に軽く失望を覚えながら、村へ入って行った。

「あっ、聖女のお姉ちゃんだ!また来てくれたの?」

 一年前助けた女の子がわたしに気付いて駆け寄ってきた。この村って小さな女の子はこの子しかいないみたいで凄く懐かれているんだよね。
 女の子は顔色が良く、肉つきも少し良くなっているね。食べ物は足りているようでよかったよ。

「こんにちは、久し振りだね。村長さんはいるかな?」

 わたしが尋ねると女の子は「こっち!」と言って私の手を引いて歩き出した。
 どうやら村長さんのところへ案内してくれるみたいね。


「そんちょー!聖女のお姉ちゃんがきてくれたよ!」

 一件の家の前で、女の子はあらん限りの力を込めて叫んだ。そんな大きな声出さなくても…。

 家の中からドタドタという早足の足音が聞こえてきて、乱暴に扉が開いた。

そして、

「……聖女様、良くぞご無事で!心配しておりましたぞ!」

村長は感極まった声を上げた。

 なにこの大げさなお出迎え……。


    **********


 村長の家の土間、粗末なテーブルを囲んでわたし達は村長の話を聞いている。

「聖女様がこの村を発たれてしばらくして、『黒の使徒』の連中がやって来て聖女様は異端者なので見かけたら『黒の使徒』に差し出すようにと言って帰ったのです。
 聞くと辺境中に触れて回っているみたいなので心配しておったのです。
 やつらのことですから聖女様にどんな乱暴な振る舞いをするかわかりませんので。」

 そうですか、わたし達、辺境中のお尋ねものになりましたか。

 ハリエンジュの木を伐採し、森を燃やしたのも『黒の使徒』の連中らしい。

 『黒の使徒』の連中が木を切り倒そうとしているのを見た村長が、「この木は少しでも瘴気を掃ってくれるかも知れないと聖女様が植えてくださったもので、村人の健康を守るため絶対伐るなと言われているのです。」と木の伐採を止めたそうだ。

 『黒の使徒』の連中は、「異端者の言うことを真に受けるかこの痴れ者が!」と言って止める村長を足蹴にして、容赦なく木を伐採したらしい。そして、林も火の魔法で焼いたそうだ。
 「異端者の植えた木など汚らわしい」と言っていたらしい。
 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってか、それは随分と極端な……。


「昨年私達が作った畑はどうなっていますか?」

 沈黙を破るようにミーナちゃんが村長に問いかけた。

「ええ、おかげさまで秋にはソバや大豆それに二回目に植えたアマ芋も豊作で冬場の食料に窮さずに済みました。
 ソバと大豆は今でも乾燥させて備蓄しているくらいの豊作でしたので本当に助かりました。
 今年の春に作付けしたジャガイモも先日村人が食べるのに十分な収穫が出来ました。
 今は、ソバ、大豆、アマ芋が青々と葉を茂らせていますよ。」

 よかった、無事収穫できたんだ。それに今年もまだ大丈夫そうだね。
 わたしは畑が瘴気に負けず無事であることを喜んでいたんだけど……。

 ミーナちゃんは村長の返答に首をかしげている。

「なんか変じゃありませんか?」

「何が?」

 わたしは思わず問い返してしまった。

「なんで、私達異端者が植えた汚らわしい農作物は焼き払われなかったんですか?
 『黒の使徒』の人たちが、村の方の食糧事情に配慮して農作物は見逃したとは思えないんです。
 去年あの食糧不足の中でさえ、わたし達の配給した食糧を取り上げようとした人達なんですよ。」

 言われてみればそうかも知れない。
 あの連中が村の人の食糧事情に配慮して畑を見逃したとは思えないね。

 ミーナちゃんは更に続ける。

「それに、さっきの村長さんの話ではあの木を植えたのが私達だと知らないうちから木を伐ろうとしていたように聞こえるんです。」

「そう言えば、奴らが木を伐ろうとした時には、未だあの木を植えたのが聖女様だとは誰も言っていなかったはずです。」

 ちょっと待って、ミーナちゃんは何が言いたいの?


 


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