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第5章 冬休み、南部地方への旅
第108話【閑話】娘が増えた ①
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王都の冬は寒い、特に明け方はしびれるくらいに冷え込むのよ。
それは、王宮も例外ではないわ。確かに王族は、この国で最も恵まれた生活をしているわ。
寝室には夜通し暖炉の火が絶やされることはない。十分な薪を手当てできない民がいることを思えば贅沢なことはわかっているの。
しかし、王宮も本当に寒いのよ。なぜかというと、起きている間はこうこうと焚かれていた暖炉の火は、火災予防のため就寝時には炭火程度に落とされてしまうの。そして、暖炉の熱に対し寝室が広すぎるのよ。
皇太子妃である私の寝室は広い、どのくらい広いかと言えばフローラが学園で借りている寮の部屋全部より広いの。
しんしんと冷え込む明け方の冷気に暖炉の熱が抗しきれず、寝室はしびれる寒さとなるのよ。
私がウンディーネ様から下賜された空調の魔導具は悲しいことに王族の皆が利用するリビングルームに供出させられてしまったの。
フローラはそれを予想していたから、空調の魔導具を頂いた後王宮に戻らずに直接学園の寮に空調の魔導具を持っていったのよ、上手くやったわね。
結果として上質の羽毛で作られた布団の中だけが私の至福の空間なの。
**********
昨日ポルトへの旅から戻った私は、早々に休ませて貰うことにしたわ。
半分避寒を兼ねて計画したポルトへの旅は想定外の出来事が立て続けに起こり、王宮に帰り着いたときには正直疲れ果てていたもの。王都にいるときより働かされたからね。
そして、今日一日公務は免除してもらったのでゆっくり寝させてもらうつもりだったのだけど、明け方寝苦しさを感じて眠りが妨げられたの。
まだ、半分寝ぼけているようで、頭はぼーっとしていたわ。
「もー、フローラったらいくら寒いからってそんなにきつく抱きついたら苦しいわよ。
いくつになっても、甘えん坊なんだから…。」
私は、心地よい朝のまどろみの中で、急に抱きついてきたフローラを軽くたしなめる。
フローラ? そういえばもう何年もフローラと一緒に寝たことはない…。
はっと、目を覚まして私は布団の中を見たの。
娘がいた…、しかも三人…。
フローラよりも少し年上に見える女の子、アーデルハイト殿下と同じ位の年回りかな、が三人、寒さを避けるように私に抱きついて寝息を立てていた。
もちろん私はこの三人を知っているわ。
何事が起きたかを理解した私は、とりあえず二度寝することにしたの。
よく眠っている三人を起こすのはかわいそうだからね。
**********
「ママ起きて、お腹空いたの。」
その声に目を覚ますと目の前に限りなく透明に近い淡い緑の髪の少女の顔があり、私を見下ろしていた。
どのくらい惰眠をむさぼってしまったのかしら、もう日はかなり高いようだ。
私は指先に集めたマナを少女に与えながら尋ねた。
「おはよう、ミドリよね?」
「うん、ママ、ミドリだよ。」
指先からマナを吸い取る姿は私が知っている木(植物)の精霊ミドリのもので間違いないわ。
ただ、縮尺がだいぶ違っている。
「随分大きく育ったわね。」
「うん、ママにもらったマナで大きくなったの。」
うん、子供の反応だわね。
テーテュス様から、私に懐いている中位精霊が近々上位精霊に成り上がるかもしれないと聞かされていたわ。
私はてっきり上位精霊ってソールさんやフェイさんみたいに、外見や精神性が成人女性のようになるものと思っていたの。
まさか、中位精霊の姿のまま大きくなるとは思わなかったわ。精神的にも子供だし。
テーテュス様はその時言ってらしたわ。人のマナを与えられて成長した精霊は前代未聞で、どんな上位精霊になるか見当がつかないと。
この子たちが他の上位精霊と違うのかしら、それとも他の上位精霊たちも子供のような姿から成長したのかしら。
布団の中を見ると、光の精霊ヒカリと水の精霊スイが私に抱きついたまま、スヤスヤと眠っている。
この子たちよく眠っているわね…、私が動いても全然目を覚まさないのですもの。
あれ、そういえば以前、ソールさんが精霊は眠らないって言っていたわね。これも変わっているのかしら。
私は、ヒカリとスイも起こして、三人に尋ねた。
上位精霊はフェイさんやソールさんみたいに人間の姿に顕現したままでいることもできるし、顕現を解いて普通の人から見えなくなることもできる。
「ねえ、三人はこのまま人間の姿でいる?それとも普段は姿を消している?
どちらでもいいのよ。」
「「「私たち、ママと一緒にいる!」」」
それはどういう意味だろう。普通の人から姿を消していても私には見えるし、今まで通り一緒にいることに違いはないのだけど。
そう説明すると、
「「「ママと一緒に色々なことをするの!」」」
と言う。このまま、顕現を続けるということね。
「じゃあ、人の世界に紛れるために仮の立場を作らないとね…。」
私がどうしたものかと思案しながら呟くと、
「「「ママの娘!」」」
と言う言葉が返ってきた。いや、今の独り言だったのだけど…。
そうね、少し考えさせてね…。
それは、王宮も例外ではないわ。確かに王族は、この国で最も恵まれた生活をしているわ。
寝室には夜通し暖炉の火が絶やされることはない。十分な薪を手当てできない民がいることを思えば贅沢なことはわかっているの。
しかし、王宮も本当に寒いのよ。なぜかというと、起きている間はこうこうと焚かれていた暖炉の火は、火災予防のため就寝時には炭火程度に落とされてしまうの。そして、暖炉の熱に対し寝室が広すぎるのよ。
皇太子妃である私の寝室は広い、どのくらい広いかと言えばフローラが学園で借りている寮の部屋全部より広いの。
しんしんと冷え込む明け方の冷気に暖炉の熱が抗しきれず、寝室はしびれる寒さとなるのよ。
私がウンディーネ様から下賜された空調の魔導具は悲しいことに王族の皆が利用するリビングルームに供出させられてしまったの。
フローラはそれを予想していたから、空調の魔導具を頂いた後王宮に戻らずに直接学園の寮に空調の魔導具を持っていったのよ、上手くやったわね。
結果として上質の羽毛で作られた布団の中だけが私の至福の空間なの。
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昨日ポルトへの旅から戻った私は、早々に休ませて貰うことにしたわ。
半分避寒を兼ねて計画したポルトへの旅は想定外の出来事が立て続けに起こり、王宮に帰り着いたときには正直疲れ果てていたもの。王都にいるときより働かされたからね。
そして、今日一日公務は免除してもらったのでゆっくり寝させてもらうつもりだったのだけど、明け方寝苦しさを感じて眠りが妨げられたの。
まだ、半分寝ぼけているようで、頭はぼーっとしていたわ。
「もー、フローラったらいくら寒いからってそんなにきつく抱きついたら苦しいわよ。
いくつになっても、甘えん坊なんだから…。」
私は、心地よい朝のまどろみの中で、急に抱きついてきたフローラを軽くたしなめる。
フローラ? そういえばもう何年もフローラと一緒に寝たことはない…。
はっと、目を覚まして私は布団の中を見たの。
娘がいた…、しかも三人…。
フローラよりも少し年上に見える女の子、アーデルハイト殿下と同じ位の年回りかな、が三人、寒さを避けるように私に抱きついて寝息を立てていた。
もちろん私はこの三人を知っているわ。
何事が起きたかを理解した私は、とりあえず二度寝することにしたの。
よく眠っている三人を起こすのはかわいそうだからね。
**********
「ママ起きて、お腹空いたの。」
その声に目を覚ますと目の前に限りなく透明に近い淡い緑の髪の少女の顔があり、私を見下ろしていた。
どのくらい惰眠をむさぼってしまったのかしら、もう日はかなり高いようだ。
私は指先に集めたマナを少女に与えながら尋ねた。
「おはよう、ミドリよね?」
「うん、ママ、ミドリだよ。」
指先からマナを吸い取る姿は私が知っている木(植物)の精霊ミドリのもので間違いないわ。
ただ、縮尺がだいぶ違っている。
「随分大きく育ったわね。」
「うん、ママにもらったマナで大きくなったの。」
うん、子供の反応だわね。
テーテュス様から、私に懐いている中位精霊が近々上位精霊に成り上がるかもしれないと聞かされていたわ。
私はてっきり上位精霊ってソールさんやフェイさんみたいに、外見や精神性が成人女性のようになるものと思っていたの。
まさか、中位精霊の姿のまま大きくなるとは思わなかったわ。精神的にも子供だし。
テーテュス様はその時言ってらしたわ。人のマナを与えられて成長した精霊は前代未聞で、どんな上位精霊になるか見当がつかないと。
この子たちが他の上位精霊と違うのかしら、それとも他の上位精霊たちも子供のような姿から成長したのかしら。
布団の中を見ると、光の精霊ヒカリと水の精霊スイが私に抱きついたまま、スヤスヤと眠っている。
この子たちよく眠っているわね…、私が動いても全然目を覚まさないのですもの。
あれ、そういえば以前、ソールさんが精霊は眠らないって言っていたわね。これも変わっているのかしら。
私は、ヒカリとスイも起こして、三人に尋ねた。
上位精霊はフェイさんやソールさんみたいに人間の姿に顕現したままでいることもできるし、顕現を解いて普通の人から見えなくなることもできる。
「ねえ、三人はこのまま人間の姿でいる?それとも普段は姿を消している?
どちらでもいいのよ。」
「「「私たち、ママと一緒にいる!」」」
それはどういう意味だろう。普通の人から姿を消していても私には見えるし、今まで通り一緒にいることに違いはないのだけど。
そう説明すると、
「「「ママと一緒に色々なことをするの!」」」
と言う。このまま、顕現を続けるということね。
「じゃあ、人の世界に紛れるために仮の立場を作らないとね…。」
私がどうしたものかと思案しながら呟くと、
「「「ママの娘!」」」
と言う言葉が返ってきた。いや、今の独り言だったのだけど…。
そうね、少し考えさせてね…。
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