精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第5章 冬休み、南部地方への旅

第107話 冬の風物詩

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  よろしくお願いします。

     **********


 フェイさんが頑張って雪をどけてくれたおかげで、わたし達は学園が始まる前に無事王都へ帰り着くことができた。
 さすがに王都は除雪がされており、西門をくぐると建物の屋根や街路樹に雪が積もっているものの、道路の雪はきれいにどかされていた。

 王宮前の交差点でわたし達子供組は大人組と別れ学園に向かう。あれ、フローラちゃんは当たり前のようにこっちに乗っているけど、王宮に顔を出さなくていいのかな?

 ハイジさんを中等部の寮に送り届けた後でわたし達の寮へ向かうと、途中の初等部前の広場になにやらティーカップを伏せたような形をした大きな雪の塊がいくつもできていた。
 本当に大きいのよ、高さは大人の身長より遥かに高いし、直径は道幅の半分くらいあるの。

 「何だろう?」、ゆっくりと走る魔導車の車窓からそれを眺めていると、見知った顔が雪の塊から出てきた。
 あ、あれ、中に入れるんだ。

 わたしはエルフリーデちゃんが出てきた雪の塊の前で魔導車を止めてもらい、四人でエルフリーデちゃんに話を聞きに行くことにした。

「エルフリーデちゃん、久し振り!元気にしてた!」

「ターニャちゃん…。今年初めての挨拶なのですから、少しちゃんとしましょうよ。
 フローラ様、昨年は大変お世話になりました、今年もよろしくお願いいたします。」

「ええ、こちらこそ、今年もよろしくお願いしますわ、エルフリーデさん。
 ところで、この雪の山は何かしら?今あなたこの中から出てきたように見えましたが?」

 挨拶もそこそこにフローラちゃんが、雪の塊を指差して尋ねる。

「ああ、これですか?これは、北部地方の冬の風物詩で雪洞と言うモノです。
 この中に水の女神様を祀って、お参りに来た人を子供達が持て成すのですわ。
 王都でも思いのほか雪が積もったので北部地方の風習をみなさんに知っていただこうと思って、学園の許可をもらって作ってみましたの。」

 エルフリーデちゃんの説明では、雪の多い北部地方では年が明けて二週目くらいに雪洞を作る習慣があるらしい。
 子供達でグループを作って、自分達の雪洞をお参りに来た人に温かいワインと炙った魚の干物を振る舞うんだって。
 お参りに来た人は、雪洞を回って水の女神様にお賽銭と供物を備えるそうだ。
 実際はお参りに来た人が持ってきたお賽銭は子供のお小遣いになるので、子供達の冬の楽しみであり、宗教色は薄れているらしい。

「そういうことなので、夜が本番ですからよろしかったら遊びに来てください。
 ああ、お賽銭を忘れないでくださいね。」

「お賽銭って、金貨一枚くらい?」

「子供の遊びにいくらお金を使うつもりですか!
 一つの雪洞に銀貨一枚を置いて、回ってください。
 わたし達のところは最後にしてゆっくりしていってくださいね。
 ターニャちゃん達のお土産話を聞きたいですわ。」

 そう言われて、エルフリーデちゃんのもとを後にした。
 雪洞かあ、今晩が楽しみだよ!


     **********


 夕暮れを待ってわたし達は再び初等部前の広場を訪れた。

 十個以上ある雪洞は、それぞれに明かりが灯されて幻想的な光景を作り出していた。
 エルフリーデちゃんに言われたとおり、雪洞の中に入り一番奥に祀られている女神像の前に銀貨一枚とお菓子を一包み供える。
 そして水の女神に祈りを捧げようとして女神像を見ると、そこにはウンディーネおかあさんそっくりの石像が祀られていた。

 これは、後でエルフリーデちゃんに聞いてみないと…。

 そして、北の海特産の海産物の干物を炙ったものとホットワインを一つずつ貰った。
 ホットワインは、子供でも酔わないようにオレンジジュースでかなり薄めたものでとても体が温まった。
 干物は雪洞によって違うものを用意したそうで、雪洞を巡って楽しんでもらおうという趣向らしい。
 最初の雪洞はイカの干物だった。


 十個以上の雪洞を巡って、エルフリーデちゃん達の雪洞にたどり着いたときには結構お腹が膨れていた。


 エルフリーデちゃんに迎え入れらたわたし達は、雪洞の真ん中に置かれている二つの竈を囲んで腰を落ち着けた。
 竈は桶状の素焼きの陶器でできていて中で炭を燃やしているんだね。
雪洞の中は風が入ってこないので、竈の熱でかなり暖まっているよ。

 一つの竈の上には金網が載せられ、干し貝柱を水で戻したものを焼いている。
 もう一つの竈の上では大きな鍋でホットワインを作っていた。

「あら、このホットワインは他の雪洞とは少し違うのですね。」

 フローラちゃんが何かに気付いたみたいだ。

よく見ると、鍋の上に橋が渡されその上で何かが燃えている。
燃えているものは熱で溶けているようで、ホットワインに雫をたらしている。
少し暗くした雪洞の中に揺らめく青白い炎はとても幻想的だった。

「これは、固めた砂糖にラム酒を含ませた物ですわ。
 ラム酒の酒精に火が着いてその熱で砂糖が溶けてワインに甘みをつけるのです。
 ラム酒が燃える青白い炎がとってもきれいでしょう。」

 これは、エルフリーデちゃんの地方の新年を祝う飲み物だそうだ。
 この雪洞だけ少し手の込んだホットワインにしてみたそうだ。


「今年の冬の王都は、とても雪が多かったそうなんです。
 私たち北部地方の出身者はこのくらいの雪は慣れているのですが、王都以南の出身者の方は雪に閉じ込められてかなりストレスが溜まっているみたいですのよ。
 ですので、何か雪で楽しめないかと考え、これを思いついたのですわ。」

 エルフリーデちゃんが雪洞を作ることになった経緯を話してくれた。
北の地方でも、雪で閉じ込められると気鬱になる人が多いらしく、ストレスの発散が大切らしい。
 この催しは凄くいいと思うよ、わたし。

「ところで、この水の女神様の像はどうしたの?」

わたしはウンディーネおかあさんそっくりな石像の出所を聞いてみた。

「これは、北部地方ではとってもポピュラーな水の女神像でどこにでも安く売っているのですわ。
 何かの催しに使えればと思って持って来てみましたの。」

 この女神像のいわれはわかるかと聞くと、エルフリーデちゃんは知らないそうだ。
なんで、ウンディーネおかあさんが女神ということになったのかは謎のままだ…。


 わたし達は、竈を囲んでお互いの冬休みの話に花を咲かせた。

「このペンケース素敵ですわ。花模様が虹色に輝いてとてもきれい。」

 エルフリーデちゃん達にお土産のペンケースを配ったら凄く喜ばれた。
貝殻の破片で描かれたお花が凄くきれいだと好評だった。

 そして、船に乗って海に出たと言えば羨ましがられ、暗殺者に刃物で刺されたといえば怖がられ、誘拐されたといえば大丈夫だったのかと心配された。
 いろいろなことが起きたので、王都に残った人達にはわたし達の話を楽しんでもらえたようだ。

「いつかみんなで行って見たいね。」

 誰の呟きだったろうか、その呟きにみんなが答えた。

「「「「「そうだね…。」」」」」


 いつか本当にみんなで行ければいいね。



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