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第5章 冬休み、南部地方への旅
第94話 情報をもたらしたのは
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*お昼に1話投稿しています。
お読みでない方は、お手数ですが1話戻ってお読みください。
************
「役場は表の建物ですよ。
この建物に市民の方の立ち入りは禁止されています。
あ、ダメです。お願いだから止まってください。」
「だから、ここにいる皇太子妃に大事な用があるといっているだろう。」
部屋の外が急に騒がしくなった。
ここの官吏と誰かが揉めているようだ、官吏の制止を無視してこの建物に入り込んだ人がいるみたいだ。
「なんだ騒がしい、会議中に廊下でうるさくするとは非常識な。」
情報不足で検討が進まず苛立っていたのだろう、公爵が不機嫌そうに声をあげた。
文官長が慌てて注意をするため廊下に出ようとしたとき、この部屋の扉が開かれた。
「なんだ、今はかいぎ・・・。」
「よう、ミルト、あたしの助言が必要なんじゃないかと思ってきてやったぞ。」
文官長の苦言を途中で遮り、ミルトさんに声がかけられた。
テーテュスさん…。
「テーテュス様、どうしてこちらに?」
「どうしても何も、あの船のことで対策会議をしているんだろう。
おまえ達あの船のことがわかるのかい?
あの船の素性とか性能とかがわからなければ対策の立てようがないだろう。」
はい、おっしゃるとおりです。
「ミルト、そちらの方はどなたかね。」
公爵の問いにミルトさんが答えようとしたときテーテュスさんが自ら名乗った。
「あたしはテーテュスと言って、今港に停泊している一番大きな船のオーナー船長だ。
あれ、鉄砲のことは聞いてないかい?
そこの二人が誘拐された時のこととかも。」
テーテュスさん、自分が精霊だとは言わないんだ。
たしか、鉄砲を手に入れた経緯を説明するときに公爵には話したよね。
「ああ、あなたがテーテュスさんでしたか。
うちの関係者が色々とお世話になったようで感謝いたします。
鉄砲の件も有り難うございました。
して、今回はあの船の情報を教えていただけるのですか?」
公爵もテーテュスさんの素性に深入りせず、船の情報に話を持っていった。
「あの船は、わたしの船が籍を置く国の隣国、コルテス王国の旗艦コンキスタドールだね。
全長九シュトラーセ、全幅二シュトラーセ、大砲を五十門積んだ最新艦だな。」
テーテュスさんの話では、コルテス王国は南大陸で軍事力を背景に最近勢力を伸ばしている国らしい。
元々は海に面した小国だったが、いち早く鉄砲と大砲を軍に導入し周りの小国を飲み込んだらしい。
艦砲射撃で街を破壊した後、船から鉄砲隊を送り出す戦術で海沿いの小国を征服したようだ。
相手に合わせて十五隻から三十隻ぐらいの艦隊を組んで攻め入るのが常套手段だって。
内陸の国には手を出さずに、海沿いにある程度国土を広げた後は周辺の島国に侵攻したそうだ。
周辺の島国を占領しては略奪と奴隷目的の拉致を繰り返しているそうだ、まるで海賊だね。
この大陸に来たのは、魔導具を奪うこと、魔導具職人を拉致すること、奴隷として魔法使いを拉致すること辺りが目的じゃないかと言っている。
もちろん普通に金銀財宝の略奪や魔法使い以外の拉致もするんだろうけど。
**********
「まあ、いきなり大砲を撃ち込んで来るんだから、友好的な関係を築きましょうということはないな。」
テーテュスさんは、そう結んで説明を終えた。
テーテュスさんの話を聞いた公爵は、腕組みをして悩ましげに言った。
「しかし、どうしたもんですかな。
あの鉄砲という武器、あれをたくさん備えているとなるとこちらは太刀打ちできませんぞ。
正直、わが国は千年単位で戦争がなかったこともあって、わが国の兵の仕事はせいぜいが野盗狩りくらいですので正規兵を相手取って戦に勝てる気がしないのです。」
「そう弱気になるな公爵。
さっきの艦砲射撃な、あたしは虚仮脅しだと思ってるんだ。」
弱気になる公爵を勇気付けるようにテーテュスさんは言った。
「そもそも、奴らはここが大陸だとわかって侵攻してきたんだ。
小島を攻めるわけじゃあるまいしわずか三隻で来るわけなかろうが。
コンキスタドールほどの最新鋭艦を護衛艦もつけずに送り出すと思うか?」
テーテュスさんが言うには、コルテス王国の通常の運用どおり最低十五隻の艦隊を組んでいたはずだという。仮に、様子見程度の派遣であれば、最新鋭艦を投入することはないそうだ。
テーテュスさんの見立てでは、あの三隻以外は沈んだか、合流の見込みがないのだろうとのこと。
合流が期待できるなら三隻しかいないタイミングで、いきなり発砲はしないだろうって。
まあ、普通なら全艦揃ってから行動に移すよね。
もしくは、病人が多発しているか、水や食料が不足しているかの理由で合流を待てないほど切羽詰っているかだという。
更に、テーテュスさんの話では、三隻とも船の損傷がひどいそうだ。
あんなに離れてるのによく見えるな…。まあ、大精霊だから人とは違うか。
元々、コンキスタドールは白く塗り上げれれた船なんだって。
威圧する意味もあって、大規模な艦隊行動をとる前には必ず塗りなおすらしい。
今は塗装がはげて木材の色が剥き出しで茶色っぽい船に見える。
また、テーテュスさんの話では、南大陸の船乗りに『船乗りの死病』の対策は知られていないらしい。
当然、コルテス王国の軍関係者も知らないはずだといっている。
そして、コルテス王国の艦隊が大陸間の航海をするのは初めてだろうという。
搭乗員の多くが『船乗りの死病』に罹ってもなんら不思議でないし、船が航海の難所を乗り切れず多数沈んでも不思議ではないとテーテュスさんは言う。
実際、テーテュスさんがこちらに来る前に、別の国が北大陸に艦隊を派遣したが難所を乗り越えられずに引き返してきたそうだ。
「とりあえず、向こうから接触してくるのを待て。
奴ら、こちらが大砲に怖気づいて接触してくることを期待してるのだろう。
向こうの状況が切迫しているなら早晩接触してくるだろうから、そのときは強気で交渉しろ。
いいな、弱腰な態度は絶対に見せるんじゃないぞ。」
最後に公爵にそう言うとテーテュスさんはわたしの傍まで来て小さな声で言った。
「すぐに、チビ共に船の中を探らせろ、それと一時も途切れることなく監視させるんだ。」
結局、向こうから接触してくることのを待つこととして、それまでは沖合いの船に対する監視と警戒を強めることになった。
特に、先方に戦える人が減っているなら夜間に攻めてくる恐れもあり、夜間の警戒も絶やさないこととなった。
わたしは、テーテュスさんに言われてすぐに、おチビちゃん達に船の様子を探りに行って貰った。
さてさて、どうなることやら…。
お読みでない方は、お手数ですが1話戻ってお読みください。
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「役場は表の建物ですよ。
この建物に市民の方の立ち入りは禁止されています。
あ、ダメです。お願いだから止まってください。」
「だから、ここにいる皇太子妃に大事な用があるといっているだろう。」
部屋の外が急に騒がしくなった。
ここの官吏と誰かが揉めているようだ、官吏の制止を無視してこの建物に入り込んだ人がいるみたいだ。
「なんだ騒がしい、会議中に廊下でうるさくするとは非常識な。」
情報不足で検討が進まず苛立っていたのだろう、公爵が不機嫌そうに声をあげた。
文官長が慌てて注意をするため廊下に出ようとしたとき、この部屋の扉が開かれた。
「なんだ、今はかいぎ・・・。」
「よう、ミルト、あたしの助言が必要なんじゃないかと思ってきてやったぞ。」
文官長の苦言を途中で遮り、ミルトさんに声がかけられた。
テーテュスさん…。
「テーテュス様、どうしてこちらに?」
「どうしても何も、あの船のことで対策会議をしているんだろう。
おまえ達あの船のことがわかるのかい?
あの船の素性とか性能とかがわからなければ対策の立てようがないだろう。」
はい、おっしゃるとおりです。
「ミルト、そちらの方はどなたかね。」
公爵の問いにミルトさんが答えようとしたときテーテュスさんが自ら名乗った。
「あたしはテーテュスと言って、今港に停泊している一番大きな船のオーナー船長だ。
あれ、鉄砲のことは聞いてないかい?
そこの二人が誘拐された時のこととかも。」
テーテュスさん、自分が精霊だとは言わないんだ。
たしか、鉄砲を手に入れた経緯を説明するときに公爵には話したよね。
「ああ、あなたがテーテュスさんでしたか。
うちの関係者が色々とお世話になったようで感謝いたします。
鉄砲の件も有り難うございました。
して、今回はあの船の情報を教えていただけるのですか?」
公爵もテーテュスさんの素性に深入りせず、船の情報に話を持っていった。
「あの船は、わたしの船が籍を置く国の隣国、コルテス王国の旗艦コンキスタドールだね。
全長九シュトラーセ、全幅二シュトラーセ、大砲を五十門積んだ最新艦だな。」
テーテュスさんの話では、コルテス王国は南大陸で軍事力を背景に最近勢力を伸ばしている国らしい。
元々は海に面した小国だったが、いち早く鉄砲と大砲を軍に導入し周りの小国を飲み込んだらしい。
艦砲射撃で街を破壊した後、船から鉄砲隊を送り出す戦術で海沿いの小国を征服したようだ。
相手に合わせて十五隻から三十隻ぐらいの艦隊を組んで攻め入るのが常套手段だって。
内陸の国には手を出さずに、海沿いにある程度国土を広げた後は周辺の島国に侵攻したそうだ。
周辺の島国を占領しては略奪と奴隷目的の拉致を繰り返しているそうだ、まるで海賊だね。
この大陸に来たのは、魔導具を奪うこと、魔導具職人を拉致すること、奴隷として魔法使いを拉致すること辺りが目的じゃないかと言っている。
もちろん普通に金銀財宝の略奪や魔法使い以外の拉致もするんだろうけど。
**********
「まあ、いきなり大砲を撃ち込んで来るんだから、友好的な関係を築きましょうということはないな。」
テーテュスさんは、そう結んで説明を終えた。
テーテュスさんの話を聞いた公爵は、腕組みをして悩ましげに言った。
「しかし、どうしたもんですかな。
あの鉄砲という武器、あれをたくさん備えているとなるとこちらは太刀打ちできませんぞ。
正直、わが国は千年単位で戦争がなかったこともあって、わが国の兵の仕事はせいぜいが野盗狩りくらいですので正規兵を相手取って戦に勝てる気がしないのです。」
「そう弱気になるな公爵。
さっきの艦砲射撃な、あたしは虚仮脅しだと思ってるんだ。」
弱気になる公爵を勇気付けるようにテーテュスさんは言った。
「そもそも、奴らはここが大陸だとわかって侵攻してきたんだ。
小島を攻めるわけじゃあるまいしわずか三隻で来るわけなかろうが。
コンキスタドールほどの最新鋭艦を護衛艦もつけずに送り出すと思うか?」
テーテュスさんが言うには、コルテス王国の通常の運用どおり最低十五隻の艦隊を組んでいたはずだという。仮に、様子見程度の派遣であれば、最新鋭艦を投入することはないそうだ。
テーテュスさんの見立てでは、あの三隻以外は沈んだか、合流の見込みがないのだろうとのこと。
合流が期待できるなら三隻しかいないタイミングで、いきなり発砲はしないだろうって。
まあ、普通なら全艦揃ってから行動に移すよね。
もしくは、病人が多発しているか、水や食料が不足しているかの理由で合流を待てないほど切羽詰っているかだという。
更に、テーテュスさんの話では、三隻とも船の損傷がひどいそうだ。
あんなに離れてるのによく見えるな…。まあ、大精霊だから人とは違うか。
元々、コンキスタドールは白く塗り上げれれた船なんだって。
威圧する意味もあって、大規模な艦隊行動をとる前には必ず塗りなおすらしい。
今は塗装がはげて木材の色が剥き出しで茶色っぽい船に見える。
また、テーテュスさんの話では、南大陸の船乗りに『船乗りの死病』の対策は知られていないらしい。
当然、コルテス王国の軍関係者も知らないはずだといっている。
そして、コルテス王国の艦隊が大陸間の航海をするのは初めてだろうという。
搭乗員の多くが『船乗りの死病』に罹ってもなんら不思議でないし、船が航海の難所を乗り切れず多数沈んでも不思議ではないとテーテュスさんは言う。
実際、テーテュスさんがこちらに来る前に、別の国が北大陸に艦隊を派遣したが難所を乗り越えられずに引き返してきたそうだ。
「とりあえず、向こうから接触してくるのを待て。
奴ら、こちらが大砲に怖気づいて接触してくることを期待してるのだろう。
向こうの状況が切迫しているなら早晩接触してくるだろうから、そのときは強気で交渉しろ。
いいな、弱腰な態度は絶対に見せるんじゃないぞ。」
最後に公爵にそう言うとテーテュスさんはわたしの傍まで来て小さな声で言った。
「すぐに、チビ共に船の中を探らせろ、それと一時も途切れることなく監視させるんだ。」
結局、向こうから接触してくることのを待つこととして、それまでは沖合いの船に対する監視と警戒を強めることになった。
特に、先方に戦える人が減っているなら夜間に攻めてくる恐れもあり、夜間の警戒も絶やさないこととなった。
わたしは、テーテュスさんに言われてすぐに、おチビちゃん達に船の様子を探りに行って貰った。
さてさて、どうなることやら…。
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