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第5章 冬休み、南部地方への旅

第83話 鉄砲は危ないと思った

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 *お昼に1話投稿しています。
  お手数ですが、お読みでない方は1話戻ってお読みください。

     **********


 ポルト滞在初日に南大陸の大精霊テーテュスさんと出会い、きな臭い話を聞かされてしまった。
そのため滞在二日目は港町を散策する予定を変更し、大人二人は公爵のもとへ報告に行っちゃったよ。

 わたし達子供組はここまでの旅の疲れを取るためこの日は別荘でのんびり過ごすことになった。


 そして、三日目、わたし達はポルトの街の外にある領兵の訓練所に来ている。
昨日、ミルトさんが公爵に報告に行ったら実際に鉄砲を使ってみようという事になったらしい。
子供わたし達まで見る必要があるのか疑問だが、テーテュスさんから貰ったのがわたし達なので一応見せておこうとなったようだ。

 正直人殺しの道具はあんまり見たくないのだけど…。


 ミルトさんがテーテュスさんから教えてもらった手順を説明し兵士がその通りに鉄砲に火薬と玉を込めていく。
 準備が終わったのか、ミルトさんがわたし達のところに戻って来た。


 みんなの注目が集まる中、兵士が引き金を引いた。

パーン!

「「きゃっ!」」

 耳をつんざくような音と共に鉄砲から白煙が上がった。
フローラちゃんとミーナちゃんが思わず声を上げ、耳を塞いでいた。


 次の瞬間、弓の訓練の際の位置に設置された木の的に何かが当たる音がした。
的を見に行った兵士が驚いたようなリアクションを見せると木の的をもって戻って来た。

 的を見た公爵も驚いている。
兵士は、的をミルトさんにも見せにきた。
当然わたし達にも見えたよ。結構厚い木の板に穴が開いて向こう側が見えていた。
矢ではとても貫けるものではないそうだ。

 今度は最初と同じ位置にプレートメイルといわれる金属の鎧を置いて的にした。
これも貫通していた。矢だと弾かれるんだって。

 最後に弓の的の倍の距離に最初と同じ木の的を置いて撃ってみた。
今度は貫通はしなかったけど、的の中に深くめり込んでいた。


 弓矢とは比較にならない玉の威力に公爵は驚いていたが、それ以上に初めて鉄砲を扱った兵士が三発とも的に当てていたことに公爵は愕然としていた。

 確かに、これなら一般市民を兵に仕立てられるよね。

 ただ、公爵の言うところでは、鉄砲は矢に比べて一発撃ってから次に撃つまで準備に時間が掛かるのが救いだと感じたらしい。

 でも、テーテュスさんの話だと、鉄砲を大量に投入して兵を数組に分けて一組が撃っている間に他の組は準備をする形で順繰りに撃てば連発が可能なようだよ。
 昨日ミルトさんも公爵に説明したはずだよね。
 問題はそれだけの兵隊さんを北大陸まで連れてこれるかってことかな。


 しかし、なんていうものを発明してくれたんだ南大陸の人は、こんな危ないもの。


   **********


 鉄砲の実射を見学したわたし達は、明日から臨時診療所を置く精霊神殿に挨拶してから別荘に戻ることにした。

 わたし達が精霊神殿の扉をくぐると、訪問者に気付いた神官さんが出迎えてくれた。

「これはこれは、たくさんの人が連れ添ってこの神殿に詣でていただけるとは珍しい。
 ようこそ、精霊神殿にお越しくださいました、ごゆっくり参拝していってください。」

 そういう女性神官の後ろには、やはり上位精霊が一体、神官を見守るように佇んでいた。

「あ、せいれ…(むぐむぐ)」

 ハンナちゃんが上位精霊を指差し何か言おうとしたので、わたしは慌てて口を塞いだ。

 神官さんにはたぶん精霊が見えていない。
 毎日神殿に奉仕している神官が見えていない精霊をわたし達が見えると知ったらきっと気落ちするに違いない。

(こんにちわ、小さい子よ。私は水の精霊セノーテ、ここにいる神官は誰も私のことが見えていないので内緒にしてちょうだいね。)

 セノーテさんがわたし達の意識にそう語りかけてきた。

(うん、わかった。わたし、ハンナ、セノーテさんよろしくお願いします。)

(そう、ハンナちゃんっていうお名前なの。きちんと挨拶できて偉いわね。)

 ハンナちゃんがセノーテさんに挨拶を交わしたのに続きわたし達もセノーテさんに挨拶をする。


 その間にミルトさんが、神官さんに来訪の目的を説明してくれるようだ。


「初めまして、わたくしは皇太子妃のミルトです。
 公爵から連絡が来ていると思いますが、明日からこの神殿の前庭を借りて精霊神殿の活動として臨時診療所を設けます。
 今日は、その挨拶に伺いました。」

 ミルトさんがそう告げると神官さんが慌てだした。
まさか、皇太子妃が直々に挨拶に訪れるなんて夢にも思っていなかっただろう。

 神官さんがいきなり跪こうとしたため、ミルトさんがそれを止めた。

「今日は、皇太子妃としてではなく、一人の精霊を信奉する者としてまいりました。
 ここではあなたもわたくしも等しく精霊を祀る立場です。
 ここでわたくしに跪く必要はありません。」

ミルトさんにそう言われた神官さんは、姿勢を正して話し始めた。

「お気遣い感謝します。私はこの精霊神殿に仕えておりますアンネリーと申します。
 日頃王家の方には精霊神殿にご支援いただき有り難うございます。
 公爵様から話は伺っております。
 明日から神殿の活動として民の傷病を癒していただけるとのことで感謝の念に堪えません。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。」

 聞けば、王都の精霊神殿同様にここに詣でる人はほとんどなく、定期的に参拝に来るのは公爵夫妻と隠居している先代公爵夫妻くらいしかいないらしい。
 明日からの活動で少しは精霊神殿を見直してもらえるといいね。
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