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第5章 冬休み、南部地方への旅
第75話 少し暖かくなりました
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「ターニャちゃん、ミーナちゃん、ほら起きて!」
昨日の疲れで泥のように眠っていたらミルトさんにいきなり起こされた。
もう次の宿泊地に着いたの?早すぎない?
「なに寝ぼけているの、まだ隣町よ。」
「「うん…?」」
何で隣町にいるの?ということは、まだ一時間もたっていないの?眠いはずだ…。
「今朝、昨日の町の領主から頼まれたのよ。
この町もあの領主の領地らしいのだけど、ここも風邪が流行っているので助けて欲しいのですって。」
別の魔導車に領主館の役人を乗せてきたらしい、その役人は代官屋敷に連絡に行ったそうだ。
まだ朝の八時、人影も疎らな中央広場に降り立つと既に天幕は張り終わっていた。
ちゃんと、『外から帰ったら必ず手を洗って、うがいをしましょう。』と書かれた看板も立てられていたよ。
今頃、代官所の役人が街中に触れ回っているだろうとミルトさんは言っている。
ほどなくして、患者さん第一号がやってきた。
それをかわきりに、昨日と同様に次から次へ風邪ひきさんがやって来たよ。
本当に流行ってるんだね。
ミルトさんの話だと、この町は昨日の町ほど大きくないので風邪をひく人が多いと言っても昨日ほどの人数ではないだろうとのことだ。
休むことなく治療を続けていると、ミルトさんの言葉通りお昼前には患者さんの足が途絶えた。
「この町はこれで引き上げましょう。隣の町が気になるわ」
そう言うとミルトさんは、サッサと天幕の撤去を指示していた。
早々に次の町に移動したわたし達だったが、幸いにしてその町では風邪が流行っているとは聞かなかった。
最悪その町で一泊かと思っていたが、まだお昼過ぎなのでこのまま当初目的地を目指すようだ。
**********
「何か陽射しが眩しくなってきましたね。」
外を見ていたハイジさんが呟いた。
みんなの視線が窓の外に集まる。
「雲がすっかりなくなりましたね。」
「陽射しが春のようですわ。」
みんなにも外の陽気の変化が感じられたようだね。
既に今日の旅程の半分くらいは過ぎているはずだ。
この街道は、王都からほば真南に大陸を貫いているんだ。
南にいけば暖かくなると聞いていたが、ここでだいたい十五シュタットくらい南に来ていると思う。
このくらいの距離を南下するとはっきり判るくらい気温が上がるんだね、初めて知った。
目的地のポルトまではまだ半分も来ていないのに目に見えて気温が上がるなら、ポルトは夏のような陽気じゃないのかな?
実質昼過ぎに出発したことになったため、かなりの速度で移動したが宿泊予定の町に着いたのは日没後になってしまった。
領主の館の車寄せで魔導車を降りると肌寒さを感じた。春の陽気とまではいかないらしい。
「王都の寒さに比べたらかなり暖かいですね。」
ミーナちゃんが呟いた。
言われてみれば、王都ではここ最近日が暮れると凄く冷え込んでいる。
このくらいの肌寒さって、王都じゃ学園祭の頃の感じだね。
夕食のときに領主さんが言っていたが、明け方はもう少し冷え込むらしい。
ただ、領主さんは生まれてから今までこの町で氷が張ったのを見たことがないとも言っていた。
領主さん、どうみても五十過ぎだ、この五十年間氷が張るほどの気温の低下はないらしい。
王都では先週から毎朝氷が張っている、というか学園の池の氷、ここ数日昼間でも解けていないよね。
ここの領主さんもオストマルク王立学園の卒業生で、初等部に入った年に初めて雪と氷を見て驚いたそうだ。
そう言えば領主さん、今の時期王都にいなくていいのだろうか?
疑問に思って聞いてみたら、ここ数年次期領主である息子さんが納税に赴き、王都で冬の社交界に出ているとのこと。
年寄りに長旅はきついと冗談めかして言っていた。
実際は、息子さんにバトンタッチするための準備期間として、社交界を経験させているそうだ。
本当に貴族って色々と気を使って大変なんだね。
翌朝、昨日は日没後に着いたから分らなかったけど領主館の二階の窓から見ると王都の方が小高い丘になっているのがわかった。
王都の辺りはまっ平らだから気付かなかったけど王都は台地の上にあるらしい。
王都のある台地は東西方向に広がっていて、南に向かって下がっていることがわかる。
領主さんに聞いたところでは、南に向かうと一層低地になるようで、湿地が多くなるそうだ。
そういうところを利用して、水田というものを作りイネを栽培しているらしい。
学園祭で食べたライスという穀物だね。
そうだ、南部地区はライスの産地だった、楽しみだね。
(設定注釈)
二十シュタット=約千キロメートル
王都ヴィーナヴァルトは北海道(札幌)くらいの気候
この話の最後の町は伊豆諸島(三宅島)くらいの気候
を想定しています。
*臨時に1話投稿しています。
いつも通り20時も投稿します。
よろしくお願いします。
昨日の疲れで泥のように眠っていたらミルトさんにいきなり起こされた。
もう次の宿泊地に着いたの?早すぎない?
「なに寝ぼけているの、まだ隣町よ。」
「「うん…?」」
何で隣町にいるの?ということは、まだ一時間もたっていないの?眠いはずだ…。
「今朝、昨日の町の領主から頼まれたのよ。
この町もあの領主の領地らしいのだけど、ここも風邪が流行っているので助けて欲しいのですって。」
別の魔導車に領主館の役人を乗せてきたらしい、その役人は代官屋敷に連絡に行ったそうだ。
まだ朝の八時、人影も疎らな中央広場に降り立つと既に天幕は張り終わっていた。
ちゃんと、『外から帰ったら必ず手を洗って、うがいをしましょう。』と書かれた看板も立てられていたよ。
今頃、代官所の役人が街中に触れ回っているだろうとミルトさんは言っている。
ほどなくして、患者さん第一号がやってきた。
それをかわきりに、昨日と同様に次から次へ風邪ひきさんがやって来たよ。
本当に流行ってるんだね。
ミルトさんの話だと、この町は昨日の町ほど大きくないので風邪をひく人が多いと言っても昨日ほどの人数ではないだろうとのことだ。
休むことなく治療を続けていると、ミルトさんの言葉通りお昼前には患者さんの足が途絶えた。
「この町はこれで引き上げましょう。隣の町が気になるわ」
そう言うとミルトさんは、サッサと天幕の撤去を指示していた。
早々に次の町に移動したわたし達だったが、幸いにしてその町では風邪が流行っているとは聞かなかった。
最悪その町で一泊かと思っていたが、まだお昼過ぎなのでこのまま当初目的地を目指すようだ。
**********
「何か陽射しが眩しくなってきましたね。」
外を見ていたハイジさんが呟いた。
みんなの視線が窓の外に集まる。
「雲がすっかりなくなりましたね。」
「陽射しが春のようですわ。」
みんなにも外の陽気の変化が感じられたようだね。
既に今日の旅程の半分くらいは過ぎているはずだ。
この街道は、王都からほば真南に大陸を貫いているんだ。
南にいけば暖かくなると聞いていたが、ここでだいたい十五シュタットくらい南に来ていると思う。
このくらいの距離を南下するとはっきり判るくらい気温が上がるんだね、初めて知った。
目的地のポルトまではまだ半分も来ていないのに目に見えて気温が上がるなら、ポルトは夏のような陽気じゃないのかな?
実質昼過ぎに出発したことになったため、かなりの速度で移動したが宿泊予定の町に着いたのは日没後になってしまった。
領主の館の車寄せで魔導車を降りると肌寒さを感じた。春の陽気とまではいかないらしい。
「王都の寒さに比べたらかなり暖かいですね。」
ミーナちゃんが呟いた。
言われてみれば、王都ではここ最近日が暮れると凄く冷え込んでいる。
このくらいの肌寒さって、王都じゃ学園祭の頃の感じだね。
夕食のときに領主さんが言っていたが、明け方はもう少し冷え込むらしい。
ただ、領主さんは生まれてから今までこの町で氷が張ったのを見たことがないとも言っていた。
領主さん、どうみても五十過ぎだ、この五十年間氷が張るほどの気温の低下はないらしい。
王都では先週から毎朝氷が張っている、というか学園の池の氷、ここ数日昼間でも解けていないよね。
ここの領主さんもオストマルク王立学園の卒業生で、初等部に入った年に初めて雪と氷を見て驚いたそうだ。
そう言えば領主さん、今の時期王都にいなくていいのだろうか?
疑問に思って聞いてみたら、ここ数年次期領主である息子さんが納税に赴き、王都で冬の社交界に出ているとのこと。
年寄りに長旅はきついと冗談めかして言っていた。
実際は、息子さんにバトンタッチするための準備期間として、社交界を経験させているそうだ。
本当に貴族って色々と気を使って大変なんだね。
翌朝、昨日は日没後に着いたから分らなかったけど領主館の二階の窓から見ると王都の方が小高い丘になっているのがわかった。
王都の辺りはまっ平らだから気付かなかったけど王都は台地の上にあるらしい。
王都のある台地は東西方向に広がっていて、南に向かって下がっていることがわかる。
領主さんに聞いたところでは、南に向かうと一層低地になるようで、湿地が多くなるそうだ。
そういうところを利用して、水田というものを作りイネを栽培しているらしい。
学園祭で食べたライスという穀物だね。
そうだ、南部地区はライスの産地だった、楽しみだね。
(設定注釈)
二十シュタット=約千キロメートル
王都ヴィーナヴァルトは北海道(札幌)くらいの気候
この話の最後の町は伊豆諸島(三宅島)くらいの気候
を想定しています。
*臨時に1話投稿しています。
いつも通り20時も投稿します。
よろしくお願いします。
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