上 下
69 / 508
第4章 学園祭

第68話 学園祭⑥ 石の的当てとお約束の人

しおりを挟む
 さて次は、ミーナちゃんが出場するストーンシューティングだ。まあ、石の的当てだね。

 全クラスの代表が横一列に並んで、自分の前にある的に魔法で石を飛ばして点数を競うんだね。
普通の人は、『ストーンバレット』という土魔法を使うんだよ。

 飛ばす石は、地面の土から自分で作っても良いし、あらかじめ先生が用意して足元の桶に入れてある石を使っても良い。
 的は、二シュトラーセ先に設置してあり、的の直径は十センチで直径を五十等分して其々それぞれの直径の同心円が描かれている。同心円上には点数が書かれているんだって。
 的の縁と一番外側の円の間に弾痕ができたら1点で、一番内側の円の中に弾痕が納まったら五十点、的を壊したり完全に破れた場合は失格で0点だ。
 弾痕の外側に破れが生じた場合、破れが達した一番外側の点数になる。
 的は壊れ易いように薄い紙でできていて、外枠も割れ易い木でできている。


 この競技のミソは、満点の五十点を取るためには弾痕を的の中心二ミリシュトラーセ以内に収めなくてはならないことなんだ。あ、ミリというのはセンチの十分の一ね。
 たとえ、正確に的の中心に石をあててたとしても、石の直径が二ミリ以上あったら満点にはならないってこと。しかも、的は薄い紙だから、石の直径以上の弾痕になるよね。


 ちなみに、足元の桶に入っている石は、わたし達子供の握りこぶしほどもあるし形もいびつだ。
この石をそのまま飛ばしたら、的が大きく破れちゃうよね。
だから事前に用意された石を使う場合にはこの石を土魔法で整形しないとね。
 自分で土を固めて石を作るか、用意された石を整形するかはどちらが得意かで選ぶんだ。


     ***********


 さて、競技が始まるみたい。

 最初の射手は五組の子だ、うん?なにやら見覚えのある顔が出てきたな。

 彼は、突き上げた掌の上に大きな石を作り出した。
あんな大きな石を圧縮するの?凄い魔力の無駄遣い…。
 これからドンだけ魔力をこめて石を圧縮するのかと思いきや、

「力ある石の弾丸よ!我前に立ちふさがるモノを粉砕せよ!」

そのまま的に向かって撃ち放った。

バシャ!

という気の抜けた破砕音を伴って、的が粉砕された。
だから、その的は華奢きゃしゃなんだって。

「五組、ザイヒト君失格、得点は零点です。」

 あいつ、ちゃんとルールを聞いていたのか?
というか、五組の生徒達は良くあいつを代表にしたよね。
 まあ、一国の王子が出たいといえば、止められないか。


「なんだと!われは見事に的を粉砕したではないか!失格とは何事だ!」

 ほら、ルールを聞いたなかった。本当に人の話を聞かない子だよね。

「担任の先生が事前にルールを説明したはずです。
的を壊したら失格というのは注意事項の一番最初に書いてあるでしょう。」

「そんな馬鹿なルールは認められんぞ!
あんな軟な的も壊せんようなストーンバレットに何の意味があるんだ!」

あ、五組の担任が出てきた、審判にペコペコ頭を下げている。
何かあの先生、前に見たときよりも髪の毛が薄くなっているような気がする……。


 ルールを把握していないのはザイヒト王子だけだったみたい。
他の子達はきちんと小さな石礫いしつぶてを作るように頑張っていた。
先生が用意した石を整形するのは難しいようで、みんな土を固めて作っていた。


 ただ、土を固めるのきちんとできなかったのか四組の子の石礫は的に届く前に崩れてしまって失格になっていた。
 また、三組の子は、石礫を飛ばすのに込めた魔力が少なかったらしく、石礫が的に届かなかった。

 結局、一射目はミーナちゃんの前に得点できたのは二組の生徒ただ一人だった。


 そして、一射目の最後はミーナちゃんだ。

 ミーナちゃんは、一掴みの土をじっくりと固めると同時に針のように細く整形していく。

そして、

「シュート!」

という掛け声と共に石の針を撃ち出した。

 ああ、本当は掛け声は要らないんだよ、でも無言だと周りの人が気付いてくれないから合図を入れることにしたんだ。
 

 審判は、ミーナちゃんが飛ばした石の針が見えていなかったようで何も言わない。

「あの、終りました。的を確認してください。」

ミーナちゃんに言われて慌てて的を見に行く審判の先生、そして宣言する。

「ただいまのミーナさんの得点、五十点です。」

周りから驚きの声が上がった、他の審判の先生がミーナちゃんの的を見に集まっている。


「今まで、満点の五十点は出たことがないそうです。
円の中心に直径二ミリに満たない石礫を中てるのは不可能だと言われていたのです。」

 わたしの横にいたエルフリーデちゃんが教えてくれた。
 少なくともこの運動会では上級生でも五十点を出した人はいないらしい。


 この種目は、一人三射して合計点で順位を決める。

 二射目、第一射手のザイヒト王子は相変わらず力加減ができず大ぶりの石を作っては的を粉砕していた。
 小さい石が作れないなら、せめて先生が用意してくれた石を『破砕クラッシュ』で砕いて小さくして撃てばいいのに…。

 学習できないザイヒト王子は論外として、普通の子は失敗から学ぶよね。
 四組の子は土の圧縮度を高めてちゃんと石礫にしたし、三組の子も飛ばすときの魔力を少し多くして的まで石礫が届いたし、二人ともちゃんと得点していた。

 そして、ミーナちゃんはまたしても満点の五十点だった。


 結局三射目を終えて、大方の予想通り順位はクラスの並び順であった。
 もちろん優勝は、特別クラスのミーナちゃん、先生方も驚愕の合計百五十点だった。
そして最下位は、三連続無得点で合計得点零のザイヒト王子、これも前代未聞のことらしい。


 どうも三連続満点という結果を信じられない先生がいたみたい。
 審判に加わっていない先生から、ミーナちゃんの的を見せろを要望があったそうだ。
ミーナちゃんの的を審判をした先生が手分けをして、先生、生徒、父兄の席に見せて回った。

 わたしも見たよ驚いた、針みたいに細い石の棒が的の中央に突き刺さって止まっているんだもん。

 みんな、実物の的を見てミーナちゃんの優勝を納得したようだった。

 ただ一人を除いて。

「あれが優勝だと、ふざけるな!
紙の的一枚貫けないストーンバレットなんて何の意味があるんだ。
あんなのいくさでは何の役にも立たないではないか。
こんな温いルールを作ってわれが最下位だと、いい加減にしろ!」

 案の定、ミーナちゃんの的を見たザイヒト王子が審判に絡んでいる。

 すると観客席から少女が一人こちらに走ってきて、いきなりザイヒト王子の頭を殴った。


「いい加減にするのはあなたの方です、見苦しい。
これは、戦ではなく競技です。競技はルールに従うのは当たり前です。
なんで、あなたはルールに従えないのですか。
文句を言うなら始めから出なければ良かったのです。
まったく、父兄が見ている前で恥ずかしい、あなたこそ帝国の恥さらしです。」

「しかし、姉上、こんな『色なし』が優勝するようなルールはそもそもおかしいのです。」

「まだ言いますか……。
何度も言いますが、その『色なし』というのは不適切な発言です。
この国では、『色なし』と言われる方への差別は認めてないのですよ。
ここは帝国ではないのです、何度言えばわかるのですか。」

 ハイジさんはザイヒト王子を黙らせて、審判の方々にひたすら謝っている。
ここまでできの悪い弟がいると大変だよね。

 しかし、五組の担任、ちゃんとルールの説明したんだよね?



(設定注釈)
 二シュトラーセ=十メートル
 十センチシュトラーセ=五十センチメートル
 二ミリシュトラーセ=一センチメートル

 と思ってください。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。

大前野 誠也
ファンタジー
ー  子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。  しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。  異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。  そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。  追放された森で2人がであったのは――

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...