37 / 508
第3章 夏休み、帝国への旅
第36話 帝国へ向けて
しおりを挟むあっという間に時間は過ぎ、今日は五の月の一日、今日から学園は夏休みだ。
わたしは今、初等部の寮のエントランスで、ハイジさん-アーデルハイト殿下-が来るの待っている。
ここ数日、ソールさんとシュケーさんに走り回ってもらって、欲しいものを揃えてもらった。
今回の帝国への旅は、魔導車三台で行く。
一台目が、応接セットが設置されている昼間の移動時に使う魔導車。
二台目が、わたしとミーナちゃんが使うベッドが設置されている魔導車。
三台目が、ハイジさんに使ってもらうベッドが設置されている魔導車。
うち二台目には、堅焼パン、干し肉、ジャガイモの種芋、アマ芋の種芋、大豆の種、ハリエンジュの苗を可能な限り詰め込んでいる。
ベッド以外に足の踏み場がない感じで、積み上げた木箱が崩れてきそうで怖いよ。
帝国へ行くには方法は二つあるそうだ。
一つはヴィーナヴァルトから南下して海に出て海路帝国領へ入り帝国の港町から北上して帝都へ入るルート。
もう一つは、陸路で帝国へ入るルート。大陸中央に広がる広大な瘴気の森の北の端と南の端に、帝国と王国を結ぶ交易路が作られており、北の街道を通るか南の街道を通るかを選ぶことになる。
普通の馬車を前提にすれば、海路なら二ヵ月半くらい、陸路だと三か月くらい掛かり、更に瘴気の森のすぐ脇を通る街道は魔獣と対峙する危険性もあることから、時間と安全性の両面から海路を選ぶ人が多いと教えてもらった。
でも今回は、わたし達の魔導車の速度を活かすため陸路を行くこととした。
暑い時期なので、涼しい北の街道を行きたいところだが、北の街道は冬場に雪に閉ざされることから、春から秋の間しか通行できないこともあって、道路の整備があまり良くないらしい。
一方の南の街道は、一年中通行出来ることから道路の手入れが行き届いているそうだ。
荒れた道を高速で走るのは体に負担が大きそうなので、暑いのを我慢して南の街道を行くことに決めた。
今回の旅はできる限り早くハイジさんのお母さんの治療がしたいので、王国内は街の宿に宿泊するけど、ノイエシュタットを出た後は帝国内の相当規模の街に着くまでは野営をすることにした。
***********
「おはようございます、ターニャちゃん、ミーナちゃん。今日からよろしくお願いします。」
エントランス前に停車した馬車から、護衛の女性騎士を伴ったハイジさんが降りてきた。
今日のハイジさんは、栗毛色の長い髪をハーフアップにして、涼しげなミントグリーンのワンピースを着ている。
半袖のワンピースは涼しげで、まるでこれから避暑に向かうようだ。
騎士さんの名前はトワイエさんと言う。
最初は、ベッドの用意ができないから、ハイジさん以外は連れて行けないと言ったのだが、ハイジさんと一緒に寝るというので同行してもらうことになった。
早速、二人にわたし達の魔導車に乗ってもらい、出発することにした。
わたし達を乗せた魔導車は、ゆっくりとヴィーナヴァルトの西門へ向かって進みだす。
まだ、早朝なので人通りは少なく、さしたる障害もなく魔導車は西門を通過し王都を囲む城壁の外へ出た。
そして、徐々に速度を上げ、魔導車は軽快な速度で街道を進んでいく。
「この魔導車の中は涼しくていいですわね。夏であることを忘れてしまいそうですわ。
陸路を強行軍で行くというので、苦行のような旅を想像していたのですが、全然違いますのね。」
「はい、この魔導車は空調機能が付いていて一年中快適な温度に設定できるのです。
これから先の旅路も、快適な旅をお約束できると思います。」
聞くところでは夏は海路の方が涼しいという面でも良いらしいが、これほど快適ではないと思う。
「ところで、この魔導車はえらく速いような気がするのだが、今日は何処まで進むつもりなのだ?」
護衛のトワイエさんが尋ねてきた。そういえば詳しい日程は伝えてなかったね。
「到着があまり遅くなると、ハイジさんにお泊りいだだけるグレードの宿の確保が難しくなるので、明るいうちに着ける街で宿泊します。
今考えているのは十シュタットほど先の町を予定しているのですが。」
「十シュタットですって?この魔導車は普通の馬車の十倍の速度で進んでいるのですか?
全然揺れないし、騒音もしないので、そんなに速いとは思いませんでした。」
ハイジさんも驚いたようだ。
「これ以上速度を上げると、揺れるし、騒音も出てくるので、快適に旅ができるのはこの速度が限界ですね。」
実際には、この倍以上の速度が出るらしいが、この国の石畳の路面ではこれ以上の速度で走ると振動の吸収が難しいとソールさんが言っていたんだ。
昔、魔導王国では、もっと平らで表面の凹凸が少ない道路が一般的だったので速度を上げられたらしい。
ちなみに、シュタットというのは、『町』という意味。
ヴァイスハイト女王が街道の整備をしたときに、馬車で無理なく一日に進める距離を決め、その距離ごとに等間隔に『町』を配置したから、シュタットが長さの単位になったんだって。
で、その十分の一がドルフっていう単位なの、これは『村』という意味なんだ。
これは、一時間に馬車が馬の休憩込みで進める距離で、『村』を配置して馬の水飲み場を作ったそうだ。
夏休みは、五の月一ヶ月間で四十五日だ。
この間に、ハイジさんのお母さんの治療をしてヴィーナヴァルトへ戻るためには、遅くとも十五日ぐらいで帝都まで着かないといけない。
だいたい、一日に十シュタットは進まないといけないんだ。
あ、お昼は途中の街で食べるよ。食べる街があるのに堅いパンや干し肉を食べる必要ないもん。
35
お気に入りに追加
2,297
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する
覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。
三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。
三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。
目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。
それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。
この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。
同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王>
このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。
だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。
彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。
だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。
果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。
普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理
SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。
低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。
恋愛×料理×調合
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる