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第2章 オストマルク王立学園

第33話 アーデルハイトの悩み ②

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「ハイジ様、その反乱の首謀者ってみなさん、黒い髪、黒い瞳、褐色の肌の方なのですか?」

「ええ、間違いなく。」

 それは変な話だね。確かに、黒い髪、黒い瞳、褐色の肌が揃っている人って、攻撃的な性格になるけど、一応理性があるんだよね。
 チンピラの喧嘩じゃないんだから、そう簡単に内乱を起こすほど攻撃的になれるものかな?

「ハイジ様、驚くかもしれませんが聞いてくださいますか。
私も、ターニャちゃんから最近教えていただいてばかりなのですけど、私達が『魔力』と呼んでいるものと『瘴気』と呼んでいるものは、同じものだそうです。
 魔獣が攻撃的なのはその身に宿す瘴気のせいだと言われてますよね。
また、魔獣が全身漆黒なのは、濃い瘴気の色だと言われてます。
 つまり、黒い髪、黒い瞳、褐色の肌の方が攻撃的なのは、身に宿す濃い瘴気によって戦闘本能が刺激されるからのようです。」


「その話は本当ですか?
ですが、黒髪黒目褐色肌の重用はずっと以前からでここ数年のものではありません。
最近内乱が増えた理由にはならないのでは?
いや、今までは西部の国を征服する戦争で、戦闘本能を満たしていたのかも。
三年ほど前に瘴気の森以西の統一が成って、戦争が無くなったので内に戦いを求めていると。」

 ハイジさんが、ぶつくさと独り言を言っている、思考に耽っているようだ。
国の上層部がそろってバトルジャンキーの国ってどうなの……
 わたしは、ちょっと気になることがあったので、話題を変えるべくハイジさんに尋ねた。


「帝国って森の保全はどうなっているのですか?」

「森ですか?わたくし、帝国内で平地にまとまった広さの森など見たことないです。
この国に留学して、森が多いので驚きました。
あれだけの森の土地を遊ばせておいて、この大国を維持できる食糧生産ができるのですね。」

「は?」

 わたしは、ハイジさんの返答に呆然としてしまった。

 ハイジさんの話では、帝国はこのところ凶作続きで、森を切り開いては農地を拡張しているらしい。
 帝国では、飢饉対策で森を切り開いた畑にジャガイモを植えるのだが、最初のうちは良いが数年で収穫量が大幅に減少し、時は疫病で全滅することもあるそうだ。
 そういう畑は耕作放棄され、また新たに森が切り開かれるようで、平地に森は殆ど無くなったとのこと。


 あ、これは、アカンやつだ。
精霊神殿では、二千五百年前から指導していることではないか。
帝国には伝わってないのか?

 わたしは、ハイジさんにジャガイモの連作障害と連作障害を起こした土地にはジャガイモの病気が起こりやすいことを説明した。

「そうでしたの?
ジャガイモは、冷夏、乾燥に強く多収穫で飢饉対策に良いと多くの土地に栽培されているのにそのような弱点があったのですか。」

「この国では、大分昔からの常識になっていますし、精霊神殿の教えにもありますのよ。」

 ハイジさんの驚きの声に、フローラちゃんが自慢げに言った。


 わたしは、それより帝国の森の減少が気になる。

「ハイジさん、精霊神殿の教えの中に森林保全のやり方があるのですが、何で森林保全を重視しているか分かりますか。」

 わたしは、ハイジさんに水源涵養や気候変動緩和などの森の役割から森林保全が必要なのことを説明した。
 更に、森が減れば新たに作られる清浄なマナが減ってくるし、吸収分解される瘴気も減ってくることも説明する。
 結果として帝国の人々が暮らす場所の瘴気が濃くなっているのではないかと、わたしが心配していることを告げた。


「そんな事全然知らなかったわ。森を切り過ぎてはいけなかったのですか。
 確かに、王都など殺伐とした雰囲気で、苛立っている人が増えたと聞いています。
 それに、兄上から聞いたことですがここ三十年くらいで、黒髪黒目褐色肌の子が生まれる割合が増えているそうですよ。」


 うーん、何かヤバイ気がする。一回帝国を見に行った方がいいかな?


     **********


「ところで、実は一つ相談があるのですがよろしいでしょうか?」

 ハイジさんが、まじめな表情で姿勢を正して言った。

「どのようなことでしょうか。」

「実は、わたくしの母が体調を崩しまして、医者も治癒術師もお手上げな状態なのです。
もし、ターニャちゃんくらいの治癒術師の方がいらしたら、帝国へ派遣していただけないかと。」

フローラちゃんの問いに、ハイジさんが要望を述べた。


「正直申し上げて、今この国にターニャちゃんとミーナちゃんより優秀な治癒術師はいないのです。
 おそらく、この二人の下は、帝国の治癒術師と水準は変わらないと思います。
ターニャちゃんとミーナちゃんは、まだ八歳ですし学園もあるので、帝国まで行くのは難しいと思います。」

「そうなんですか。非常に残念です。」

 フローラちゃんの返答にハイジさんは落胆した様子だ。

「ハイジさん、お母様の容態は急を要するものなのですか。
夏休みまで待てるのであれば、わたしが行ってもいいですよ。」

「ターニャちゃん、それは無理です。帝国の帝都まで馬車で三ヵ月近く掛かります。
夏休みは一ヶ月しかないのですよ。」

「うん、それは家の魔導車を使えば多分大丈夫だと思うよ。
 それより、ハイジさんのお母さんの容態だよね、夏休みでも大丈夫ですか?」

「ええ、早い方が良いのですが、すぐに命に関わるほど切迫しているようではないです。
 どのみち、今から出発すると到着するのは夏休みですし、ターニャちゃんが夏休み中に往復できるというのであれば結果は変わらないかと。」

 ちなみに一ヶ月は四十五日だ。
 一年は八ヶ月で三百六十日、冬至の翌日から新年で一の月が立春まで、二の月が春分まで、三の月が立夏まで、四の月が夏至まで、五の月が立秋まで、六の月が秋分まで、七の月が立冬まで、八の月が冬至までとなっている。
 今は、三の月の第三週の週末だ。夏休みは五の月一ヶ月で四十五日間。

 魔導車なら往復で四十日掛からないと思う。

 わたしは、帝都の瘴気の状態の確認を兼ねて、ハイジさんのお母さんの治療に赴くことになった。



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