10 / 508
第1章 人間の街へ
第9話 王都へ着いた
しおりを挟む野盗の掘っ立て小屋から出てきたアロガンツ家のガキとお供の女性二人は、荷車に積み重ねられた野盗を見て目を丸くしていた。
「皆さんがこの野盗を捕縛したんですか?他に護衛の方がいらっしゃるのでしょうか?
成人してらっしゃる方は、女性四名しかいないように見受けられるのですが?」
お供の女性の問いかけに、ソールさんが代表して応える。
「いえ、私達は、この六名で旅を続けてきました。
わたしたち四名が、お嬢様たちの護衛兼お世話係です。
それに、この野盗はお嬢様が、実践勉強のためお一人で捕縛された者です。
この程度の野盗では、私達が手を出す必要性も感じませんね。」
ねえ、ソールさん、何でそこで私が捕縛したという必要あるの?
別に誰が捕縛したなんて殊更に教える必要ないよね。
「まあ、そうなのですか。まだ幼いのに、お強いのですね。」
お供の女性は、そう言いながら若干引き気味だった。
「おい、私は、この魔導車に乗りたいぞ。わたしに席を譲れ。」
何かうるさいガキがいるな。本当にここに放置して行こうかしら。
「お断り申します。
先ほど、ご自分の馬車に乗るのであれば、王都まで送ると約束したはずです。
そのような事を言うのであれば、ここに置いて行きます。」
ソールさん、ナイスな返答だよ。そんなガキと一緒の車なんて御免だよ。
「何で私に逆らうのだ、私はアロガンツ家の……」
お供の女性が、ガキが何か言い終わる前に、その口を塞いだ。
「申し訳ございません。うちの若様は少々頭が足りていませんので、こちらで言って聞かせます。」
お供の女性のガキに対する評価が酷いな。
「良いですか若様、もう少し物事をよく観察する習慣を身に付けましょう。
よく見てください、こちらの一行は、あのお嬢様のために魔導車を二台もつけているんですよ。
うちには魔導車は一台しかないのです。
わが国で魔導車を二台以上所有しているのは王族だけですよ。
ということは、こちらの方々は、王族と同等の地位に居られる可能性があるのです。」
「だが、あの女は『色なし』だぞ、『色なし』の王族など聞いたことがない。」
「だから若様は、お父上から浅慮だとたしなめられるのですよ。
それは、この大陸の常識です。
こちらの一行の衣服を見てください。お一人を除いて皆さん、この国の服装とは少し違う服装をしているではありませんか。隣の大陸から来たのかもしれませんよ。
特に、あのお嬢様の衣装は、この国の王族よりも良い絹地で作られています。
最悪の場合、若様はここで無礼打ちにあっても、文句言えませんよ。
その、誰彼構わず偉ぶる態度は、そのうち火傷しますよ。」
聞こえてますよ。わたしは、王族じゃないし、無礼打ちなんかしないよ。
あ、でもそういう風に躾けるのはのは、大事だよね。
そんな風にいつでも横柄な態度をとっていたら、本当の王族にもそう接しそうだよ。
あのガキは、顔を青くして、渋々自分の馬車に乗り込んだ。
やっと出発できるよ。
**********
魔導車の中で、わたしはソールさんに聞いた。
「ソールさん、何であのガキに『浄化の光』をかけたとき、あんなに力をセーブしたの?」
「いや、あれ以上強くかけると、色素が『色なし』レベルまで薄くなって、性格まで変わってしまうので色々拙いかと思って自重したんです。」
ソールさんによると、体の中の瘴気を浄化すればするほど体の色素が薄くなるそうだ。
それだけではなく、魔獣が攻撃的なのは体内に蓄積された瘴気が原因であり、それと同じ理由で体内の瘴気が濃いほうが攻撃的な性格になるらしい。
あそこで、思い切り浄化してしまうとあのガキがひどく温厚な性格になってしまい、周囲が困惑するだろうって。その方が、周りの人にためになりそうだと考えているのはわたしだけだろうか?
ちなみに魔獣くらいの濃度で、瘴気に汚染されていなければ、浄化しても消滅することないんだって。
あ、でも、一度人間の中の瘴気を浄化しちゃうと、浄化された人が蓄積できる穢れたマナの量が減っちゃうんだって、だからあのガキは今まで通りには魔法は使えないかもって。
「ターニャちゃんは凄いね、お貴族様に対してあんな風に話せて。
私は、お貴族様は危ないから逆らちゃダメって言われてきたから、怖くて話すこと出来ないよ。」
と、ミーナちゃんが言っている。いや、わたしは、世間知らずなだけだから。
でも、わたしは相手が誰であろうと、悪意には悪意で、善意には善意で返すよ。
意味なく横柄な態度とられて、諾々と従うほど人間ができていないから。
**********
ミーナちゃんとお喋りしているうちに、王都に到着した。
シュケーさんが、門の衛兵さんのところへ行って、野盗を捕まえた旨と野盗に捕らわれていた貴族の子息を保護した旨を伝えると直ちに詰め所に通された。
二十人以上の野盗を無造作に積み上げた荷車を見た衛兵さんは、苦笑いを浮かべていた。
衛兵さんが総出で、野盗を荷車から降ろしていた。全部で二十三人いたらしい。
野盗を一人捕縛すると金貨一枚を褒賞金として貰えるらしい。金貨二十三枚の儲けだね。
凶悪犯には別途懸賞金がかかっていることもあるそうだが、今回は該当する者はいなかった。
ま、フェイさんが『時化てる』と言っていたので、小物ばかりだったんだろう。
アロガンツ家の一行は、衛兵が事情を聞くということなので、ここでお別れだ。
馬車の車両を魔導車に連結して、魔導車の速度で引っ張ったので大分揺れたらしい。
三人とも青い顔をしていた。
お供の女性がお礼がしたいので連絡先を教えて欲しいと言ったが、これ以上関わりたくないので丁重にお断りして別れた。
精霊の森を旅立って十日目の夕刻、わたし達は王都ヴィーナヴァルトの門をくぐった。
11
お気に入りに追加
2,274
あなたにおすすめの小説
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。
大前野 誠也
ファンタジー
ー
子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。
しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。
異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。
そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。
追放された森で2人がであったのは――
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる