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第二三章 時は緩やかに流れて…
第832話 俺も子宝に恵まれたぜ
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ある朝、不意にマロンが『ひまわり会』の本部を訪ねて来た。
こいつ、自分が女王だと言う自覚があるんだろうか。普通、大国の女王が少ない護衛でフラフラと市中を歩き回るなんてしないだろうが。
「マロンよ。わざわざ来なくても呼んでくれれば良いじゃん。
何時でも王宮まで出頭するぜ。」
女王様が自由気ままに出歩かれたんじゃ、護衛のタルトとトルテが気の毒だからな。
「良いの、良いの。おいらだって、たまには息抜きしたいもん。」
「なに言ってるんだ。息抜きだったら、毎朝トレント狩りをしてるじゃんか。
帰り道で広場に寄って、屋台で摘み食いだってしてるだろう。」
「あはは。あのタロウからお小言を聞くことになるとは思わなかったよ。
ちょっと前までは、変なことばかり言ってたのに。」
悪かったね。マロンが一児の母になるくらい年月が経っているんだ、俺だっていつまでも中二病を患ったガキじゃないぜ。
「それで今日は何の用だ? 女王陛下御自らお出ましなんてよ。」
まあ、どうせ大したようでは無いだろうが…。本当に息抜きに出てきたのかもしれないしな。
「そうそう、忘れてた。そこそこ大事な話があるんだった。」
「そこそこ大事な話だって? お前、これ以上俺に仕事を押し付けるつもりかよ。」
元々、俺はマロンのボディーガードとしてこの国にやって来たハズなんだが…。成り行きで冒険者ギルドの経営を任されたかと思ったら、スーパー銭湯モドキの複合施設の運営を任されたり、風俗街の運営を押し付けられたりと、マロンから良いように使われている気がするぜ。
まあ、二十代前半としては破格の報酬をもらっている訳だから文句は言えないけどな。おかげで嫁さん四人と押し掛け女房二人、それに多数の居候を食わしていけるんだし。
「違う、違う。新しい仕事をやってもらいたい訳じゃないって。
タロウが考案した『銀貨引換券』。アレのおかげでお金のやり取りが便利になってね。
その効果で遠隔地との交易が増えて、地方の景気が盛り上がってるんだって。
それで、宰相が言ってるんだ。タロウに爵位をあげようって。」
『銀貨引換券』、最初はトレントの森の買取所に多額の銀貨を用意するのは無用心だからって理由で思い付いたものだった。
買取所では引換券を渡して、ひまわり会本部で銀貨に引き換えてもらえば良いってくらいに考えてた。
冒険者だって、重い銀貨を持って王都の外にあるトレントの森から王都に在る自宅(定宿)まで帰るよりは便利だろうって。
まあ、実施に当たっては追加で幾つかの利便性を付与したけどな。
まず一つは、『銀貨引換券』を発行することで、ひまわり会を金庫代わりに使ってもらうこと。
俺も屋敷を手に入れるまでは困ったのだが。この世界には銀行が無いし、加えて家の防犯性も劣るので、安心して金を置いて置ける場所が無いんだ。マロンがにっぽん爺と呼んでる爺さんなんて、昔手に入れた多額の銀貨の保管に困って全て不動産に代えちまったらしいし。
そんな訳で、『銀貨引換券』を何時でも払い戻し可能って仕組みにして、冒険者達に稼いだ銀貨を安全に保管する術を与えたんだ。
ひまわり会の本部は堅固な石造りの建物だし、守衛も置いている。金庫だって外部に面していない部屋に設置された頑丈な物で、何重にも施錠されているからな。この王都でこれ以上安全な場所は王宮くらいしか無いだろうぜ。
それともう一つ、『銀貨引換券』は国内にあるひまわり会の支部ならどこでも換金できる仕組みにしたこと。冒険者って、遠方まで稼ぎに行くことが意外と多いことが分かったんでな。これで遠方で魔物狩りをして最寄りの支部で換金した稼ぎを居住地にある本・支部で受け取ることが出来るようになったし、最少限の路銀しか持たずに目的の町まで移動することが出来るようにもなった。後者の場合は目的地に着いたらそこの支部で滞在費や帰りの路銀を引き出せば良いのだから。何にせよ、余分な銀貨を持ち歩かないで良いっては旅をする者には有り難い仕組みのはずだと思ったんだ。防犯の面は勿論のこと、ただでさえ旅行荷物ってのは嵩張るし重い銀貨を余分に持ち歩く必要が無いのはメリットが大きいはず。
この仕組みが冒険者の間に浸透すると、噂を聞いた商人達がひまわり会に押し寄せて来た。冒険者以上に商人は長距離を移動するし、取引のために持ち歩く銀貨は冒険者の比じゃないからな。
従来は銀貨運搬リスクを減らすため、商品を荷馬車に積んで目的地まで行き、そこで商品を換金してお目当ての品を仕入れてたらしいが。それだとどうしてもミスマッチが生じるんだってよ。
持って行った商品が思うように売れず、お目当ての品が十分に仕入れることが出来ないとか。持参した商品は目論見通りに販売できても、品薄でお目当ての商品を仕入れられないとか。まあ、商機を逃さないために本拠地から商品を持って行くのは当然として、訪れた先で銀貨を引き出したり、銀貨を預け入れたりできれば、このミスマッチを減らせると商人達は『銀貨引換券』に目を付けたんだ。
俺としても、『銀貨引換券』を導入した時に商人にも開放しようと検討してたんだが、俺から持ち掛ける前に商人達が喰い付いて来た。
商人の利用が増えると、商人達の要望で事前に登録した特定の商人のお店では『銀貨引換券』での支払いも可能な仕組みを整えたぜ。
今じゃ、ひまわり会の『銀貨引換券』がまるで紙幣、いや、トラベラーズチェックのように国中で流通しているんだ。
導入に当たっては、ギルドにある他のお金との分別管理を徹底したし、事前監査を行い素行の悪い職員は全てクビにした。更に堅固な金庫と十分な守衛といった防犯体制も整えた。その甲斐あって、商人にも安心して利用してもらえるようになったぜ。
「爵位ね…。
正直、俺は貴族ってガラじゃねえんだよな。」
「まあ、そうだよね。
おいらが女王になった時、貴族になりたいか訊いたら断ったもんね。
気乗りしなきゃ、断ってくれても良いよ。」
「あっ、待て。
こんな大事なことは嫁さんの意見を聞かないとな。
俺の一存で返答したら怒られちまう。」
「もちろん、返事は今すぐじゃなくてもかまわないよ。
シフォン姉ちゃんやマリアさん達と良く話し合ってちょうだい。」
俺としては、貴族の地位とか爵位とか全然欲しいと思わないし、面倒なしがらみは遠慮したいところだが…。
今はちょっと事情があって、嫁さん達が爵位を欲しがるかもしれないしな。
**********
そんな訳で、その日は定時で仕事を切り上げたぜ。このところ残業続きで疲れてたし、マロンの持ち掛けは定時で帰る良い口実になったよ。
夕暮れ時、玄関扉を開けて屋敷に入ると…。
「おとうしゃん、おかえりなしゃい。」
覚束ない足取りでトテトテと出迎えてくれたドルチェが、舌足らずな言葉で出迎えてくれたよ。
ドルチェはもうすぐ二歳、俺とシフォンの間に出来た我が家の第一子だぜ。
ドルチェの手を引いてリビングルームに入ると、そこにはシフォン、カヌレ、ミヤビ、そしてマリア姐さん。四人の嫁さんが勢ぞろいだった。カヌレ、ミヤビ、マリア姐さんはそれぞれ自分の子供をあやしてたぜ。その様子をお腹を大きくしたシフォンが微笑まし気に眺めている。
マリア姐さんから、この大陸に住む人達との交配を可能にする薬を処方されてから程なくシフォンがドルチェを身籠ったんだが。毎晩搾り取られている甲斐あって、それから立て続けに他の嫁さん達も懐妊したんだ。マリア姐さんの処方した薬の効き目は抜群で直ぐに効果がでた形だぜ。
今リビングには居ないけど、裏庭の池に行けばハゥフルとシレーヌも子供と一緒に泳いでいることだろう。
あの二人、子供が出来れば一族の許に帰ると言ってたのにちゃっかり居着いちまった。
陸地に上がっていられる時間は少ないが、海の中と違って人の街は目を楽しませるものが多くて魅力的なんだと。二人の種族も耳長族同様寿命が長いので、俺が若いうちはこの屋敷に留まる心積もりらしい。なるべく多くの子供を作ると張り切ってやがった。
まあ、それはともかくとして四人の嫁の子供達の身の安全を考えると貴族になるのも悪くないんじゃないかと、今現在思案してるんだ。
この国は身分制社会で平民が貴族に危害を加えることは出来ないから、貴族になっておけば子供達を護る足しになるんじゃないかと。
それで、マロンへの返答を保留にして嫁さん達と相談することにした訳だ。
こいつ、自分が女王だと言う自覚があるんだろうか。普通、大国の女王が少ない護衛でフラフラと市中を歩き回るなんてしないだろうが。
「マロンよ。わざわざ来なくても呼んでくれれば良いじゃん。
何時でも王宮まで出頭するぜ。」
女王様が自由気ままに出歩かれたんじゃ、護衛のタルトとトルテが気の毒だからな。
「良いの、良いの。おいらだって、たまには息抜きしたいもん。」
「なに言ってるんだ。息抜きだったら、毎朝トレント狩りをしてるじゃんか。
帰り道で広場に寄って、屋台で摘み食いだってしてるだろう。」
「あはは。あのタロウからお小言を聞くことになるとは思わなかったよ。
ちょっと前までは、変なことばかり言ってたのに。」
悪かったね。マロンが一児の母になるくらい年月が経っているんだ、俺だっていつまでも中二病を患ったガキじゃないぜ。
「それで今日は何の用だ? 女王陛下御自らお出ましなんてよ。」
まあ、どうせ大したようでは無いだろうが…。本当に息抜きに出てきたのかもしれないしな。
「そうそう、忘れてた。そこそこ大事な話があるんだった。」
「そこそこ大事な話だって? お前、これ以上俺に仕事を押し付けるつもりかよ。」
元々、俺はマロンのボディーガードとしてこの国にやって来たハズなんだが…。成り行きで冒険者ギルドの経営を任されたかと思ったら、スーパー銭湯モドキの複合施設の運営を任されたり、風俗街の運営を押し付けられたりと、マロンから良いように使われている気がするぜ。
まあ、二十代前半としては破格の報酬をもらっている訳だから文句は言えないけどな。おかげで嫁さん四人と押し掛け女房二人、それに多数の居候を食わしていけるんだし。
「違う、違う。新しい仕事をやってもらいたい訳じゃないって。
タロウが考案した『銀貨引換券』。アレのおかげでお金のやり取りが便利になってね。
その効果で遠隔地との交易が増えて、地方の景気が盛り上がってるんだって。
それで、宰相が言ってるんだ。タロウに爵位をあげようって。」
『銀貨引換券』、最初はトレントの森の買取所に多額の銀貨を用意するのは無用心だからって理由で思い付いたものだった。
買取所では引換券を渡して、ひまわり会本部で銀貨に引き換えてもらえば良いってくらいに考えてた。
冒険者だって、重い銀貨を持って王都の外にあるトレントの森から王都に在る自宅(定宿)まで帰るよりは便利だろうって。
まあ、実施に当たっては追加で幾つかの利便性を付与したけどな。
まず一つは、『銀貨引換券』を発行することで、ひまわり会を金庫代わりに使ってもらうこと。
俺も屋敷を手に入れるまでは困ったのだが。この世界には銀行が無いし、加えて家の防犯性も劣るので、安心して金を置いて置ける場所が無いんだ。マロンがにっぽん爺と呼んでる爺さんなんて、昔手に入れた多額の銀貨の保管に困って全て不動産に代えちまったらしいし。
そんな訳で、『銀貨引換券』を何時でも払い戻し可能って仕組みにして、冒険者達に稼いだ銀貨を安全に保管する術を与えたんだ。
ひまわり会の本部は堅固な石造りの建物だし、守衛も置いている。金庫だって外部に面していない部屋に設置された頑丈な物で、何重にも施錠されているからな。この王都でこれ以上安全な場所は王宮くらいしか無いだろうぜ。
それともう一つ、『銀貨引換券』は国内にあるひまわり会の支部ならどこでも換金できる仕組みにしたこと。冒険者って、遠方まで稼ぎに行くことが意外と多いことが分かったんでな。これで遠方で魔物狩りをして最寄りの支部で換金した稼ぎを居住地にある本・支部で受け取ることが出来るようになったし、最少限の路銀しか持たずに目的の町まで移動することが出来るようにもなった。後者の場合は目的地に着いたらそこの支部で滞在費や帰りの路銀を引き出せば良いのだから。何にせよ、余分な銀貨を持ち歩かないで良いっては旅をする者には有り難い仕組みのはずだと思ったんだ。防犯の面は勿論のこと、ただでさえ旅行荷物ってのは嵩張るし重い銀貨を余分に持ち歩く必要が無いのはメリットが大きいはず。
この仕組みが冒険者の間に浸透すると、噂を聞いた商人達がひまわり会に押し寄せて来た。冒険者以上に商人は長距離を移動するし、取引のために持ち歩く銀貨は冒険者の比じゃないからな。
従来は銀貨運搬リスクを減らすため、商品を荷馬車に積んで目的地まで行き、そこで商品を換金してお目当ての品を仕入れてたらしいが。それだとどうしてもミスマッチが生じるんだってよ。
持って行った商品が思うように売れず、お目当ての品が十分に仕入れることが出来ないとか。持参した商品は目論見通りに販売できても、品薄でお目当ての商品を仕入れられないとか。まあ、商機を逃さないために本拠地から商品を持って行くのは当然として、訪れた先で銀貨を引き出したり、銀貨を預け入れたりできれば、このミスマッチを減らせると商人達は『銀貨引換券』に目を付けたんだ。
俺としても、『銀貨引換券』を導入した時に商人にも開放しようと検討してたんだが、俺から持ち掛ける前に商人達が喰い付いて来た。
商人の利用が増えると、商人達の要望で事前に登録した特定の商人のお店では『銀貨引換券』での支払いも可能な仕組みを整えたぜ。
今じゃ、ひまわり会の『銀貨引換券』がまるで紙幣、いや、トラベラーズチェックのように国中で流通しているんだ。
導入に当たっては、ギルドにある他のお金との分別管理を徹底したし、事前監査を行い素行の悪い職員は全てクビにした。更に堅固な金庫と十分な守衛といった防犯体制も整えた。その甲斐あって、商人にも安心して利用してもらえるようになったぜ。
「爵位ね…。
正直、俺は貴族ってガラじゃねえんだよな。」
「まあ、そうだよね。
おいらが女王になった時、貴族になりたいか訊いたら断ったもんね。
気乗りしなきゃ、断ってくれても良いよ。」
「あっ、待て。
こんな大事なことは嫁さんの意見を聞かないとな。
俺の一存で返答したら怒られちまう。」
「もちろん、返事は今すぐじゃなくてもかまわないよ。
シフォン姉ちゃんやマリアさん達と良く話し合ってちょうだい。」
俺としては、貴族の地位とか爵位とか全然欲しいと思わないし、面倒なしがらみは遠慮したいところだが…。
今はちょっと事情があって、嫁さん達が爵位を欲しがるかもしれないしな。
**********
そんな訳で、その日は定時で仕事を切り上げたぜ。このところ残業続きで疲れてたし、マロンの持ち掛けは定時で帰る良い口実になったよ。
夕暮れ時、玄関扉を開けて屋敷に入ると…。
「おとうしゃん、おかえりなしゃい。」
覚束ない足取りでトテトテと出迎えてくれたドルチェが、舌足らずな言葉で出迎えてくれたよ。
ドルチェはもうすぐ二歳、俺とシフォンの間に出来た我が家の第一子だぜ。
ドルチェの手を引いてリビングルームに入ると、そこにはシフォン、カヌレ、ミヤビ、そしてマリア姐さん。四人の嫁さんが勢ぞろいだった。カヌレ、ミヤビ、マリア姐さんはそれぞれ自分の子供をあやしてたぜ。その様子をお腹を大きくしたシフォンが微笑まし気に眺めている。
マリア姐さんから、この大陸に住む人達との交配を可能にする薬を処方されてから程なくシフォンがドルチェを身籠ったんだが。毎晩搾り取られている甲斐あって、それから立て続けに他の嫁さん達も懐妊したんだ。マリア姐さんの処方した薬の効き目は抜群で直ぐに効果がでた形だぜ。
今リビングには居ないけど、裏庭の池に行けばハゥフルとシレーヌも子供と一緒に泳いでいることだろう。
あの二人、子供が出来れば一族の許に帰ると言ってたのにちゃっかり居着いちまった。
陸地に上がっていられる時間は少ないが、海の中と違って人の街は目を楽しませるものが多くて魅力的なんだと。二人の種族も耳長族同様寿命が長いので、俺が若いうちはこの屋敷に留まる心積もりらしい。なるべく多くの子供を作ると張り切ってやがった。
まあ、それはともかくとして四人の嫁の子供達の身の安全を考えると貴族になるのも悪くないんじゃないかと、今現在思案してるんだ。
この国は身分制社会で平民が貴族に危害を加えることは出来ないから、貴族になっておけば子供達を護る足しになるんじゃないかと。
それで、マロンへの返答を保留にして嫁さん達と相談することにした訳だ。
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