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第二三章 時は緩やかに流れて…

第825話 幸せな家庭を築いているみたいだね

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 プティー姉は、ミントさんから紹介されたバジルさんとの縁談を受ける意思表示をしたんだ。

「プティー姉、良いの? そんなに簡単に決めちゃって?
 今、会ったばかりなのに…。」

「良いのですよ、マロン様。
 貴族の家に生まれたからは親の決めた相手と結婚するのが当たり前ですもの。
 結婚式の当日まで、相手の顔を知らないなんてことも普通に有ります。
 自分で旦那様を決めることが出来る分だけ、私は恵まれています。」

 王宮内での出会いは到底期待できないとプティー姉は言うんだ。
 プティー姉はおいらに随行するか、執務室に籠って事務処理をしているかで、顔をあわす男性は宰相くらいだから。
 縁談を持ってくる親族も居ないので、ミントさんからの紹介は好都合だったみたい。
 おいらと懇意にしているミントさんが変な人を紹介するはずがないとプティー姉は考えたらしいの。

 まあ、「こんなハンサムな方には今後出会えないかも。」なんて、ボソッと呟いていたけどね。

「あら、この子のこと気に入って貰えたようで嬉しいわ。
 それでバジル、どうするの?
 まさか、プティーニちゃんに恥をかかせる気じゃないでしょうね。」

 プティー姉の色好い返事に笑顔を見せたミントさんは、次の瞬間表情を引き締めてバジルさんを威圧してたよ。
 プティー姉の申し出を断ろうものなら、首を絞めそうな雰囲気を漂わせてた。

「もちろん、こんなチャンスを逃すことなんてしませんよ。
 他国へ婿入りするとなれば、大手を振って退職できるんですから。
 しかも、こんなチャーミングなお嬢さんとの結婚できるなんて夢みたいです。」

 威圧するミントさんを、どおどおと宥めながらバジルさんはプティー姉との縁談を受け入れたんだ。
 出会ってから半日も掛からずに縁談がまとまっちゃったよ。

「そうと決まればこうしちゃいられないわ。
 バジル、早速王宮へ行くわよ。退職願いを出してこなきゃね。」

 善は急げとばかりに立ち上がったミントさん、バジルさんの手を引いて王宮へ行こうとしたんだ。

「伯母上、せめて寝間着から着替えさせてくださいよ~。」

 療養中のベッドから無理やり引き摺って来られたバジルさんは、至極真っ当な言葉でミントさんに懇願してたよ。


         **********

 その日の午後、おいら達は公爵邸から目と鼻の先にある王宮へ向かうことになったよ。
 おいら達もカズヤ兄ちゃんとネーブル姉ちゃんに挨拶するために同行することにしたの。
 私的な訪問であることに加え、事前に先触れを立てたこともあってすんなりアポを取ることが出来たんだ。

 今回は私用なので、王族の居住区画に通されたの。王宮侍女に案内された部屋に入ると…。

「ネーブル様、大分お腹が目立ってきましたね。」

「そうね、あと三ヶ月もすれば産まれてくるからね。」

 そこにはソファーに腰掛けたお姉さんが二人。お腹を大きくしたネーブル姉ちゃんと小さな赤ちゃんを抱くウルシュラ姉ちゃん。
 更に、その対面には…。

「おとうしゃま、きょうはおしごとおわったの?」

「今日はこれからお客様が来るから仕事はお休み。
 夜までずっとセトカと一緒に遊べるぞ。」

「ほんとう? せとか、うれしい。」

 二歳くらいの女の子を膝の上に乗せたカズヤ兄ちゃんが座っていたよ。女の子の名前はセトカちゃんらしい。

 案内役の王宮侍女がおいら達の到着を告げると。

「マロン陛下、お久しぶり。今日は大人数だね。」

 今までこの王宮を訪ねた時は、大抵オランと二人だけがアルトの『積載庫』から降りていたからね。
 今回はキャロットを抱いたウレシノと、ソノギの手を引くカラツ、それにプティー姉が一緒だから大所帯だ。

「うん、今日はおいらの赤ちゃんを紹介しに来たからね。
 この子がおいらとオランの赤ちゃん。キャロットだよ。」

 おいらはウレシノからキャロットを受け取って、カズヤ兄ちゃん達にお披露目したよ。

「いつの間に…。ってか、マロンちゃん、今幾つだっけ?」

 ネーブル姉ちゃんは驚いた様子でおいらの年齢を尋ねて来た。小柄なおいらが赤ちゃんを抱いていると、子供が子供を抱いているように見えるんだろうね。

「嫌だな、おいら、もう十六歳になったよ。
 赤ちゃんが居てもおかしくないでしょう。」

「言われてみてば、その通りね。
 マロンちゃん、とても十六歳には見えないものだから。」

 子供みたいで悪かったね…。みんなから同じようなことを言われるからもう慣れたけど。
 すると、ネーブル姉ちゃんはカラツに手を引かれたソノギが気になった様子で。

「ところで、そちらのよちよち歩きの幼子は?
 まさか、その子もマロンちゃんの娘ってことは無いわよね。」

「まさか、おいら付きの侍女の娘だよ。
 ウレシノ、ソノギちゃんをこっちに。」

 おいらが指示すると、ウレシノはカラツと手を繋いで大人くしくしていたソノギの手をとってオランの隣に立たせたの。ウレシノ自身はソノギの背を支えるようにオランから一歩下がって立ってていたよ。

「侍女のウレシノとソノギちゃん。
 ソノギちゃんのお父さんはオランだよ。」

「「「えっ!」」」

 ソノギがオランの子と知り、その場にいた三人の大人が揃って驚きを露わにしたよ。

「あっ、誤解が無いように言っておくけど。
 オランがこっそりウレシノをお手付きにした訳じゃ無いから。」

 オランが責められないように予めおいらの公認だと伝えることにしたんだ。
 もちろん、オランがソノギの父親になった経緯も説明したよ。
 
「色々と事情があるのね。
 まあ、マロンちゃんが納得しているのなら。
 外野がとやかく言うことでも無いしね。
 うちも似たようなものだし。」

 ネーブル姉ちゃんはそう言って、隣に座るウルシュラ姉ちゃんに視線を向けてたよ。

「ということは、ウルシュラ姉ちゃんが抱いている赤ちゃんもカズヤ兄ちゃんの子かな?」

 元々、ウルシュラ姉ちゃんはカズヤ兄ちゃんの子供を産ませるためにネーブル姉ちゃんが引き抜いて来たんだもね。
 計画通りに子供が出来たのかな。

「ええ、紹介が遅くなったけど。
 カズヤさんの膝の上に居るのが、私の娘セトカよ。
 この子が、ウルシュラとカズヤさんの娘セミノール。
 それから見ての通り、私のお腹の中には二人目が居るの。」

 三月後には産まれるというお腹を摩りながら、ネーブル姉ちゃんは子供達を紹介してくれたんだ。
 計画通り、ウルシュラ姉ちゃんはネーブル姉ちゃんの側仕えのままでカズヤ兄ちゃんの妃になっていないらしい。
 とは言え、ウルシュラ姉ちゃんもセミノールちゃんも王族の居住区画に部屋を与えられて一緒に住んでいるんだって。
 カズヤ兄ちゃんの仕事が無い時間は、こうして親子五人で仲良く過ごしているみたい。
 この部屋に入った時の光景を見る限り、とても家庭円満な様子だった。幸せな家庭を築いている様子で何よりだね。

        **********

 そんな感じで、お互いの近況を報告し合っていると…。

「陛下、大変で御座います。
 何とか、御口添えをお願い申します。」

 初めて目にするオッサンが慌ただしく部屋に飛び込んできたんだ。

「ここは私のプライベートな部屋だぞ。
 財務卿、そなたにこの区画への立ち入りを許可した覚えは無いのだが。」

 カズヤ兄ちゃんは息を切らしているオッサンを一喝してたよ。
 このオッサン、財務卿だったんだ。この国ではどうか知らないけど、おいらの国で財務卿と言えば宰相に継ぐ事務方ナンバーツーだよ。

「申し訳ございません。
 しかしながら、ことは一刻を争うのです。
 執務室に居られなかった故、お叱りを覚悟でこちらに参った次第です。」

 財務卿ほどの役職にある人が血相を変えて、休暇中の国王の私室に飛び込んで来るなんていったいどんな大事が起こったんだよ。  
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